貴族ロドリゲス
「領主様の長男であられるロドリゲス様より、アイリという冒険者を連れてくるようにとの命を受けた。本人は何処か?」
ロドリゲスねぇ。
確かチンピラ共が専属護衛を受けてる人物だっけ。
これは間違いなくチンピラ共が何か言ったのね。
「少し前に依頼の完了を確認したわね。でもその後、何をしてるのかはわからないわ。冒険者ギルド以外だと、どこに居るか不明ね」
ローニアさんが上手くはぐらかした。
あんなポーカーフェイスで言われたら、信じるわよね。
でも嘘は言ってない。
もし私が冒険者ギルド以外に居たら、知らないってことだもんね。
ただし、その屁理屈が貴族に通用するかと言われれば、正直微妙だけど。
「……そうか。ではここに本人が来たら、領主様の邸へ来るように伝えてもらいたい」
「わかったわ」
衛兵たちは、私を領主の所へ行くようにとローニアさんに伝え、ギルドを出ていった。
衛兵たちが去った後、ギルド内がざわめきだす。
(ロドリゲスって確か……)
(ああ。気に入った女は皆、自分のものにするってな!)
(おい声が大きいぞ!衛兵に聴こえちまう)
(あのゲス野郎……)
どうやらロドリゲスの悪評は有名みたいね。
まったく、面倒くさい奴に目を付けられたもんだわ……。
まあ兎に角、ローニアさんに話を聞いてみなきゃね。
「ローニアさん、さっきはありがとうございます」
「いいのよ。嘘は言ってないし」
「でも貴族相手に屁理屈は危険ですよ? 私は大丈夫ですから、次に聞かれたら別に話してもいいんですからね?」
「ふふ、ありがとう」
さすがに私のせいで、被害を受ける対象になってほしくないからね。
さて、それはそれとして、ロドリゲスとかいう奴への対応だけど、やっぱり無視するのは不味いわね。
向こうの用件がわからないけど、こっちから先に仕掛けるのは特に危険よね。
「一度会ってみて、危害を加えるようなことをしてくるなら……」
「「「してくるなら?(~?)」」」
「……ブチのめすまでよ!」
ってことで、ローニアさんに領主様の屋敷の場所を教えてもらい、そこへ赴いた。
面倒なことは早めに終わらすに限るわ。
「止まれ。この先は、この街の領主であられるラドリゲス様の邸である。用件を聴こう」
用件を伺いたいのはこっちのほうなんだけどね。
「ロドリゲス様に呼ばれて来たのよ。ロドリゲス様の使いが冒険者ギルドに来て、邸にくるようにってギルド職員に伝えたらしいわ」
「確認をしてくる。暫し待て」
あ、ちゃんと確認するのね。
2人居た門番のうちの1人が、屋敷の方へ向かっていった。
追い返されるなら黙って帰ろうと思ったんだけど、そうはいかなかった。
「………………」
「………………」
現在私と門番の二人きりなんだけど、すごーーーーーく場の空気が重いわ!
こういう時、どうしたら良いかわかんないんだけど、話しかけたほうがいいのかしら?
でも仕事の邪魔をするのはダメよね?
「………………」
「………………」
今まで気にしたことなかったけど、門番の仕事って大変よね?
勤務中はそこから動いちゃいけないとか、気が狂いそうにならないのかしら。
「………………」
「………………」
まるで睨めっこしてるみたいなんだけど、無性に変顔をやりたくなってきたわ。
やったらどうなるかしら?
怒るわよね、普通……。
「………………」
「………………」
時間が経つのが物凄く遅い!
こんなことならアイカたちも連れてくるんだった。
何で宿で待っててなんて言ってしまったのかしら……。
「………………」
「………………」
なんというか、この世界に来てから一番の苦痛を味わってる気がするわ。
ダンジョンでレベリングしてる時ですら、ここまで辛くはなかったような……「……ズグゥ……」…………ん?
今何か聴こえたような……。
「……ズグゥゥ……」
「………………」
もしかして……、
「……ズグゥォォォ……」
「何で目を開けて寝てるのよ!!」
「うおっ!?」
あ、起きたわね。
「勤務中に寝るのは良くないわよ」
「むぅ、また寝てしまったのか。だが仕方のないことだ。門番なんぞ退屈以外の何物でもない」
じゃあなんで門番やってるのよ……。
なんてことをやってるうちに、確認に行った門番が戻ってきたわね。
「おい、確認が終わったぞ。ロドリゲス様がお会いになるそうだ、ついてこい。」
退屈な時間から解放され、ロドリゲスが待ってるであろう屋敷へ案内された。
遠目でもわかる大きい屋敷に入った。
外装もさることながら、内装も十分過ぎるほどに
豪勢な造りだった。
中に通されて、恐らく客室と思われる部屋に案内される。
客室に入って間もなく、ロドリゲスと思わしき人物と、例のチンピラ共が部屋に入ってきた。
ロドリゲスの表情は硬い感じだが、チンピラ共はニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべている。
私はさっさと帰りたいので、最初から本題を切り出す。
「用件を伺っても宜しいでしょうか?」
さっさと終わらせたいし、早く話を進めましょうか。
「……その前に、確認したいのだが、お前がアイリという者で間違いないのだな?」
「はい」
自己紹介もせずに話を進めようとしたからか、少々不機嫌そうにしながらも問い返してきた。
「ふむ、では改めて。私はこのラムシートの街の領主であるラドリゲス男爵の嫡男でロドリゲスという。以後見知りおけ」
「はい」
長々とした自己紹介に対し、私は言葉少なく返す。
雑談をするつもりは無いっていう意思表示だけど、どこまで通じるかは不明だ。
「さっそくだが、お前にはある容疑がかかっている」
「容疑……ですか?」
「そこの4人を知っているであろう?」
ロドリゲスが顎で示した先には、例のチンピラ共が居た。
「知ってる……というか、会ったのは昨日が初めてですが、それが何か?」
「そこの4人は私の専属護衛をしてる者たちだ。そしてその者たちを戦闘不能に追い込んだのがお前だ。暫しの間、私に護衛がいない状況があったわけだが……この意味がわかるか?」
……はぁ、なるほど、そうきたか。
つまりコイツが言いたいのはこうだ。
自分の護衛を傷つけたのは、ロドリゲスの身を危険に晒す行為であると。
そうすると、私がロドリゲスへの害意があるものと思われると。
けど私には当然害意は無い。
あるのはチンピラ共への憤りだけだ。
「私はアナタへの害意はありません。そもそも、顔も知らない他人へ害意を持つ意味がわかりません」
「お前はそうかもしれんが、お前が何者かに依頼された……となれば話は違ってくるわけだが?」
「成る程……ですがそれは無理がありますね」
「ほぅ、何故かな?」
本来ならここで、お前のような小者を陥れる価値なんぞ無い! と、言ってやりたいけど我慢しよう。
「私は冒険者ギルドに昨日登録したばかりです。そんな初心者に依頼する者など居るでしょうか?」
「な! そ、それは本当か?」
あら? 何で知らないの?
「は、はいそうですよ? 何でしたら冒険者ギルドに確認してもらってもかまいません」
相手が私が登録したばかりだと知らなかったことに、逆に私が動揺してしまったわ。
てっきりこのチンピラ共から聞いてるものだとばかり思ってたけど。
ん? ってことは、このチンピラ共も私が冒険者登録をしたばかりだって知らないってことなの? いや、そういうことよね?
だとしたらコイツら、私の名前だけしか調べないとか、お粗末にも程があるわ……。
そしてロドリゲスに睨まれてオロオロするチンピラ共。
まぁちょっと面白いから突っ込んでやりましょうか! にししし♪
「私は思うのですが、貴族様の護衛を任されておきながら、1人の初心者にボコボコにされるのはいかがなものかと。これでは護衛など務まらないのではありませんか? この場合、むしろコイツらがアナタを陥れようと、ランクを偽って依頼を引き受けた可能性も出てきます」
「……た、確かにそうだ」
「そうなると、コイツらこそ何者かの回し者の可能性があるのでは?」
「うぅむ……そ、それも、あり得る」
ククク♪ だいぶ焦ってるわねチンピラ共。
さーてどうなるかなー?
「ま、待てよ! 偽ってるのはお前の方だろうが!」
「そうだ!お前みたいな馬鹿力な小娘がいるかよ!」
「どうせ人に化けてる魔物か何かだろ!」
「そうだそうだ! お前こそロドリゲス様を騙そうとしてるだろ!」
おっと、そう来ましたか。
まぁ騙そうとしてるのは間違いないけどね。
「ほぅ……つまり、私を騙そうと企んでいた……ということだな?」
お? 何とか持ち直しましたか?
もうちょっと遊びたかったけど、そろそろ頃合いね。
「……そんな……訳……は……」
「フッ、ようやく効いてきたな」
「……これ……は……何の……真似……」
「かなりの腕利きだと聞いたのでな。先程出した茶の中に混ぜておいたのだよ」
得意気に話すロドリゲスだが、意識が朦朧としてきて耳に入らない。
「………………」
「ふん、もういいだろう。おい、お前たち」
「へい。いつもの地下牢ですね?」
「そうだ」
そしてアイリはチンピラ共に運び出されてしまい、部屋にはロドリゲスただ一人。
「フッ、強者と言えど、呆気ないものだな」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「とりあえず、目が覚めた時のために縛っておくぞ」
「おう」
「しかし呆気ないな。まさか何の疑いもなく手をつけるとはな」
「ま、所詮は小娘よ。後でたっぷりと昨日の礼をしてやるぜ!」
チンピラ共が去った後、縛られて横たわるアイリのみが残されるのであった。
「なーんてね。当然、睡眠薬が入ってることくらい分かってたわよ……っと!」
ブチブチブチッ! っと縄を強引に引きちぎって、身体を自由にする。
鑑定スキルで出された紅茶を鑑定したら、見事に睡眠薬入りと出たわ。
でもミルドの加護のおかげで状態異常はほとんど無効化されてるっぽい。
だから改めてあの変態に感謝しとこう。
さて、ここからは侵入ミッションとなるんだけど、そもそも何故こんなことをするのかというと、ロドリゲスって奴は街の人や冒険者などを罠にかけて、借金を背負わせてるらしいって聞いたからなのよ。
だから私が証拠を見付けてロドリゲスを懲らしめてやろうと思ってね。
ついでにあのチンピラ共も。
「とりあえず、ここから出ないことには始まらないわね」
今現在、地下牢と思われる場所に居るようなので、ここから出て周辺を探ってみよう。
「と、いうわけで……ファイア」
ファイアは火属性の初歩的な魔法で、掌に炎を作り出す魔法よ。
これを用いて鍵穴を溶かしてやると……、
ガチャ
「ほい、成功」
さーてと、辺りを探索してみますかね。
左側から連れてこられたから、右側が更に奥に続いてるってことね。
隣の牢屋は……誰も居ない。
もう1つ隣の牢屋も空っと。
更にもう1つ隣の……ん? 誰か居るみたいだけど……。
男の人が倒れてるのが見える。
「すみませーん、起きてますかーっ?」
「………………」
まだ昼間だから昼寝してる……わけはないか。
ちょっと鑑定してみよう。
名前:ビル 種族:人間
性別:男 職種:Dランク冒険者
年齢:23
補足:極度の衰弱状態。早く処置をしないと危険
衰弱ってことは、碌に食事を与えられてないってことだわ!
補足に危険という文字が出てたので、急いで必要な物を召喚した。
そして鉄格子を強引にひん曲げて中へと入る。
「ほら、口を開けて!」
この男性は意識が朦朧としてたけど、私の言葉が聴こえてるのか、ゆっくりと口を開けた。
そこへ少しずつスポーツドリンクを流し込む。
スポーツドリンクは普通の水より水分補給には最適のはずよ。
「……う、うぅ……」
あれ? 意外と早く意識が戻ってきたっぽいわね。
男性の目の焦点が徐々に定まってきて、やがてしっかりと意識が戻ってきたようだ。
「こ……ここは?」
「地下牢の中よ。貴方、ロドリゲスに捕まったんでしょ?」
「地下牢……ロドリゲス……そ、そうだ、プリム……プリムはどこだ!?」
だぁ! いきなり抱きつかれた!
これは一旦落ち着かせないと。
「てぃ!」
ポスンッ!
「あだ!?」
男性の頭にチョップしてやった。
軽くだから怪我はしないはず。
「まずは落ち着いて聞いて。私はアイリ。ロドリゲスって奴に睡眠薬を盛られて捕まったんだけど、貴方がここに居る理由は?」
「そ、そうか、キミも被害者だったんだな。僕の名前は『ぐうぅぅぅ…………』
うん、まずは腹ごしらえが必要みたいね。
「…………というわけさ」
とりあえず、このビルって青年にパンと水を召喚してあげた。
目の前で召喚したから私がダンジョンマスターだってばれたけど、周囲にバラさないように口止めしといた。
「勿論言わないよ。命の恩人を売るような真似は絶対にしない」
まぁ最悪バレてもいいんだけど、そうなると面倒事が増えそうだから嫌なのよね。
あ、そうそう、ビルがここに居る理由だけど、どうやらパーティメンバーの1人がロドリゲスの目に留まって、邸に連れてかれたらしい。その際にビルが抵抗したってことでここに放り込まれることになったと。
既に分かってることだけど、ロドリゲスは本当にやりたい放題なのね。
「ふぅ、ありがとうアイリ君。おかげで命拾いをしたよ」
間に合って良かったわね。
私がここに連れてこられなければ、ビルはそのまま死んでた可能性が高い。
でも喜ぶのはまだ先ね。
なんとかロドリゲスの悪事を公表して、社会的に抹殺してやらないと気がすまないわ。
そのためには……。
「ヘッヘッヘッ、ようやく許可が下りたぜ!」
「ああ、これで昨日の礼をたっぷりとしてやらぁ!」
チッ! チンピラ共が戻ってきたか。
「ビル、私がアイツらを叩きのめしてくるから、ここで待っててちょうだい」
「え? 1人で大丈夫なのか!?」
「大丈夫よ。まぁ任せといて」
ロドリゲスの前に、チンピラ共を叩きのめしておこう。
アイカ「お姉様が戻るまで、おやつタイムとしましょう」
セレン「さんせ~♪」
アンジェラ「妾は串焼きが良いのぅ」




