血塗られた人狼村③
前回のあらすじ
集落に着いて早々、アイリ達は殺人事件に巻き込まれてしまう。
だが実際は人狼により食い殺されたという事実が明るみとなり、他人に化ける人狼相手に疑心暗鬼となる。
そこで唯一の希望として、一時的に人狼のスキルがが弱まる時間帯を利用し、怪しい人物に鑑定をかける事にしたのであった。
次の日、目を覚ました私とレイネは下の酒場へ下りると、既に全員が揃っていた。
――いや、正確には1人足りない?
「おはよう、お嬢さん方。君らで最後のようだの」
「おはよう御座います村長さん。まだ1人来てないみたいですけど?」
それを言うと、近くに居た青年2人は揃って顔を伏せてしまった。
そういえばもう1人青年が居た筈よね?
「それなんだがな。実は今朝方新たな被害者が出てしまってな……」
新たな被害者……それってつまり……
「ルインが自宅で食われてるのが発見されたのだ。いつもは早起きのルインが起きて来ない事を不審に思ったカルロスは、様子を見に行ったのだが……」
人狼に食われてたって事ね。
「ちきしょう! シルベスタに続いてルインまで……」
拳を床にガンと叩き付けるカルロスさん。
まさか2人目の犠牲者まで自分が発見する事になるとは思わなかったでしょうね。
「はっ、茶番もいいとこだな。いい加減飽きてきたぜ……なぁおい?」
あの粗暴そうなガスリーがカルロスさんに近付くと、肩に手を置いて振り向かせる。
コイツ、今度はカルロスさんに絡む気ね。
「……どういう意味だ?」
「今更しらばっくれるつもりかよ。お前がやったんだろ? 昨日も……今日も……なぁ?」
「な!? ち、違う! 俺は人狼なんかじゃない! 偶然俺が発見し「惚けんじゃねぇ!」
コイツ! カルロスさんの胸ぐらを掴んでそのまま突き飛ばした!
「なぁ? さっさと認めちまえよ、俺が殺りましたってなぁ! どうなんだおい!?」
止めないとマズイ! 今にもカルロスさんに斬りかかりそうな雰囲気よ!
「……やめろ」
私が止めようかと思ったけど、その前にデネッシィさんが止めてくれた。
「おいテメェ、人狼を庇うつもりか? もしそうならテメェも人狼だって事になるぜ?」
「カルロスが人狼だという証拠が無い。寧ろ人狼だと決めつけるお前の方が怪しいと俺は思うが?」
「んだと!? テメェこそ俺を「いい加減にしなさいよアンタ!」
思わず声を上げちゃった私に全員の視線が集中する。
「昨日から見てればいろんな人に絡んでるじゃないの? 場の雰囲気を悪くするのは狡猾な人狼のやりそうな事よね?」
「……ケッ、ガキはすっこんでろ!」
さすがに未成年の女である私を威圧するのは避けたかったのか、再びデネッシィさんに向き直った。
でもすっこんでる訳にはいかないのよ、このままじゃ8時を過ぎちゃうんだから!
「もう一度言うわ、止めなさい」
「「「「「「っ!!」」」」」」
口調は静かで丁寧だけど、それなりに殺気を込めてガスリーにぶつけてやった。
手狭な酒場だから周囲にも散らばっちゃったけど、牽制になると思えばいいわね。
ついでに言うと、ガスリーを含む6人が殺気に反応を示した。
面子は、ガスリー、ブルース、デネッシィさん、カシアンさん、マスターに村長。
この結果は後で役に立ちそうね。
「う、わ、分かった……」
殺気に押されたガスリーが矛を収めて後退る。
暫くの間、そのまま大人しくしてなさい。
「それよりもクイナさん、そろそろ8時になりますよ?」
「んん? おお、そうじゃそうじゃ、忘れるとこだったわい。では占うとするかの」
そう言ってクイナさんが顔を向けたのはカルロスさん。
多分カルロスさんを人狼疑惑から解放したいんでしょうね。
でもって、私も鑑定する相手に向き直る。
実は昨日寝る前に考えたんだけど、1人だけ鑑定するならコイツしか居ないって思ったのよ。
怪しい理由なんて、少年が1人旅ってだけで充分だわ。
「何々? もしかしてオイラに気が有ったりしちゃう?」
鑑定相手はブルース。
今も現在進行形で勘違いしてるけど、鑑定し終わるまでスルーしよう。
名前:トゥラビス レベル:38
性別:男 種族:獣人
職種:自称義賊(怪盗)
HP:563 MP:420
力:389 体力:422
知力:482 精神:521
敏速:578 運:30
【スキル】剣Lv4 短剣Lv4 格闘Lv2 隠密Lv3 気配察知 変身
【魔法】風魔法Lv3
【ギフト】
【補足】大国を股にかけて活動している怪盗で、主に金の有る人物から奪っては貧しい家庭にバラまくという行為を繰り返している。盗んだ所にはご丁寧に「怪盗アオダヌキ参上!」と書かれた札を置いてくという行動により、徐々に知名度が上がっていった。
因みに今現在名乗ってるブルースという名前も偽名である。
思った以上に大物だった!
それこそ頭の中で「コングラッチュレーション♪」て響き渡るくらいに。
コイツが怪盗アオダヌキだったとはね。
とりあえずコイツを捕まえるのは確定として、今は人狼の方をなんとかしないといけない。
「うむ、終わったぞ。カルロスは人狼ではないぞい」
クイナさんの占いも終わったみたい。
これでカルロスさんは人狼ではないって事になる。
クイナさんが人狼でなければの話だけど。
「けどよ、それだけじゃ証明にはならねぇぜ? アンタが人狼じゃねぇって証明が出来なきゃな!」
そ~らきた……毎度のガスリーよ。
言ってる事はもっともだけど、コイツが発言するだけで不快感が増してくる。
ほんっと不快よ。
……なんかアマノテラスの口癖みたいで嫌になってきた。
あまり考えないようにしよう。
「これよさぬかガスリー殿。まずは朝食を取りながら皆で話し合おうではないか」
上手く村長さんがその場を収めて朝食となる。
けれど当然「お前が人狼だ」「いや俺じゃない」という予想通りのやり取り――メインはガスリーだけど――の中で朝食を終える事となった。
その後、各々が散開する中で、私はブルースを呼び止めると自室へ誘い込んだ。
「あ、やっぱオイラに気が有るって事? いいよいいよ、何処でも行っちゃうよ~!」
……訂正、自室へと連行した。
「いやぁモテるって最高だよね! 君らのような美少女に誘われちゃうなんてさ! なんか「モテる男は辛いぜ」って台詞が有るみたいだけど、正直なとこモテて辛い男なんて居ないと思うんだよね!」
現状は勘違いされた私達の方が辛いんだけどね。
レイネなんて顔を耳まで真っ赤にして俯いちゃったし。
さて、そろそろウザくなってきた事だし、この勘違い野郎に現実を突き付けてやろう。
「とりあえず話を聞いてくれない?」
「いいよいいよ、何でも聞いちゃうよ~!」
調子に乗ってるトゥラビスにゆっくりと近付き、思わせ振りに耳元まで顔をよせて……
「ト・ゥ・ラ・ビ・ス君?」
耳元で囁いてやると、石化したように固まってしまった。
効果は抜群だったらしい。
直後何とか石化を解除すると、錆び付いた首のようにギギギっとこちらに向けてくる。
「な、な、な、なんの事かなぁ~?」
今更誤魔化そうとしても手遅れよ。
いや、私に鑑定された時点で手遅れね。
「アンタが噂の怪盗アオダヌキだって事よ」
「え、えっと~、何かの間違いじゃないかなぁ~、あはははは……」
誤魔化すのが下手ね。
そして残念ながら間違いではない。
「時間が勿体無いから話を進めるわよ。何だって怪盗なんかやってるの?」
「……そりゃ世のため人のためさ。世の中ってのは一見公平に見えるだけで、生まれた環境と種族によって殆どが決まっちまうほど不公平だからな。それを均等にするのがオイラの役目さ。ま、そのついでに手間賃として盗んだ一部を頂いてるんだけどな」
「でも実力で成り上がった人だっているでしょ? そんな人達からも金品を奪う訳?」
「そんな事するもんか! オイラにだってポリシーがあるんだからさ。盗んだ相手は漏れなく不正を働いてる奴等だよ。善良な民からは奪ったりしないさ」
義賊らしいと言えばらしいわね。
だけどやり方がマズいわ。
不正を犯してるなら犯罪者として処罰してやらないと、同じ事を繰り返すだけよ。
下手すると更に巧妙になるわ。
「このミリオネックは特に格差が酷いからね。この前も真面目に働いてた善良な市民に恵んであげたよ。確か1ヶ月くらい前だったかな? 男手1つで娘さんを育ててる真面目な人が貧しい生活を送ってたからさ、悪どい同僚が商会の金を横領してるのを掴んだからその一部を恵んであげたんだよ。今頃は食生活も多少は改善されてるんじゃないかな?」
んん? この話って何処かで聴いたような気がするんだけど……何処だっけ?
「ねぇ、その人の名前は? 貴方が助けたっていう男の人の名前を言って」
「ん? え~とレイネちゃんだっけ? そんなに怖い顔してどうしたの?」
「いいから答えて!」
レイネがトゥラビスに詰め寄って……って思い出した! これってレイネから聞いた話に類似してるじゃない!
「ええ~とちょっとまってね……ああ、思い出した! 確かブリスペンって人だよ。出来ればオイラが恵んだ事を知らせたかったけど、残念ながら恵んだ相手には知らせないルールなんだよね。まぁ自分で作ったルールなんだけど」
このトゥラビスって奴は大変な事を仕出かしたわね。
恵んだ相手が罪を被る可能性までは考えて無かったらしい。
「ア……アンタが……」
「レイネ……ちゃん?」
パシーーーンッ!
「アンタのせいよ! アンタのせいでお父さんが、お父さんが……うわぁぁぁん!」
トゥラビスをビンタすると、その場で泣き出してしまった。
無理もないわ、トゥラビスが勝手に絡んだせいで犯罪者に祭り上げられてしまったんだもの。
一方のトゥラビスは何故ビンタをされたのか分かってないらしく、ただ唖然とレイネを見下ろしている。
「トゥラビス、レイネはブリスペンって人の娘さんよ」
「ええっ! そ、そうだったの!? でもなんで泣き出しちゃったんだ? 今頃は楽な生活を送ってる筈だよ?」
コイツはまるで分かってない。
ただの自己満足で、相手の事なんか全く理解してないわ。
これじゃただの偽善者よ。
「いい? よく聞いてトゥラビス。アンタは良かれと思ってブリスペンさん宅に金品を置いてった。でもそれは同僚が横領したもので、ブリスペンさんとは関係が無い。ここまではいいわね?」
「う、うん……」
「けれどそれが第3者に発覚した場合、ブリスペンさんはどうなると思う? 自分とは関係が無い筈のものが何故か自分の家にある。この理由は何て答えればいい?」
「それは……答えようがない……と思う」
「その通りよ。で、ここまで説明したけどまだ分からないの? ブリスペンさんは今どうなってると思う!? 本当に楽な生活を送ってると思う!? 娘のレイネが何故泣いてるのか分かんないの!?」
レイネを思ってつい声を荒らげてしまった。
ちょっと落ち着こう、冷静に冷静に。
「で、どうなの?」
私の言ってる事が漸く理解出来たのか、トゥラビスはドンドン顔を青くしていく。
「ま、まさか……その、ブリスペンさんはいったいどうなったの?」
「無期懲役の鉱夫刑よ。今頃は鉱山で強制労働をさせられてるわ」
「ええっ!? そ、そんな! どうし「どうして、何て言ったらダメよ? これはアンタが行った事に対する結果なんだから、自分のやった事に責任を持ちなさい。そして考えなさい。アンタはこれからどうすべきなのか、よく考えて行動しなさい」
「………………」
大分ショックを受けてるわね。
でもレイネの方が何倍もショックだったんだから、このくらいは耐えてほしいわ。
「ほら、まず最初にやることが有るでしょ?」
頭の回転が早いからか、私が言った言葉の意味をすぐに理解すると、へたり込んでたレイネの前で土下座をした。
「ごめん! 本当にごめん! オイラが何にも考え無しに行動したせいだ!」
「トゥラビス、謝るって事は当然責任は取るのよね?」
「勿論だ! このままにするつもりはない。ブリスペンさんは必ず助け出す! そして横領してた真犯人を公の場に引きずり出してやるさ! だからレイネち……レイネさん、許してくれとは言わない。俺が命に代えても解決してみせる。それまでもう少し時間をくれ」
いつの間にか泣き止んでたレイネは、トゥラビスの謝罪を聞いてコクリと頷いた。
これで一応は収まったわね。
後は人狼を何とかしなきゃだけど……。
「人狼を全て倒さなきゃならないから、アンタも協力してよね」
「ああ、勿論だ!」
さぁて、覚悟しなさいよ人狼共!
アイリ「という訳で読者様の投票通り鑑定を行った結果、謎の人物である怪盗アオダヌキを見事鑑定したので一発クリアーです。御協力ありがとう御座いました」
アイカ「本当に御協力ありがとう御座います。もう少しで投票数0という危機にさらされて、作者が発狂するところでした」
アイリ「いや、あのアホ作者は執筆で忙しいから発狂する余裕は無いと思うわ」




