血塗られた人狼村②
前回のあらすじ
道中でアイカ達とはぐれたアイリとレイネは、寂れた村へとたどり着くが、そこで事件は起こってしまう。
「兎に角来てくれ!」
ダッドという青年が叫ぶ。
これって行った方がいいんだろうか? 正直なところ殺人現場にレイネを連れてくのは避けたいけど、かといって我関せずって訳にはいかないし……。
ダッドさんとその友人達が酒場を飛び出ようとしたその時、威圧的な喋り方で呼び止める人物がいた。
「待ちな! 行くなら全員だ。ここにいる全員が容疑者なんだから当然だろ?」
冒険者風の男が提言する。
確かにその通りね。
この状況での単独行動は危険な上に不要な疑いを持たれてしまう。
結局男の提言を受け入れ、全員でシルベスタという青年の家に向かった。
「こいつぁ酷ぇ。見事に頭以外が無くなってやがる……」
そう溢したのは冒険者風の男。
相方だと思われる女の人も、隣で相づちを打つ。
「こりゃ魔物の仕業じゃな。人間の仕業じゃないよ」
しゃがれた声でそう言ったのは、白いローブを羽織った老婆。
そう言われると、胴体が何処にいったのか分かんない上に、大量の血が飛び散っているのを見て人間の仕業だとは考えたくないかも。
「ありゃカルロスかい!? なんとまぁ変わり果てた姿に……」
「いやいや、ラロッカ婆さん。カルロスは俺だよ。そっちは……シルベスタだ」
驚いた表情を見せた直後、両手で顔を覆った老夫婦の妻ラロッカさん。
でもって間違われたカルロスって人は、シルベスタという被害者の第一発見者。
更にその傍らでは、被害者の友人と思われる青年達がすすり泣いている。
給仕の女性とレイネは顔を背けて死体を見ないようにしてる横で、目付きの鋭い男はただじっと現場を凝視していた。
「こういう場合ってどうするんだ? 誰かが街に行って騎士団に伝えるとかするのか?」
そう尋ねた羽帽子の少年に村長が頷く。
「そうだの。だがもう日は落ちる頃だろうし、伝えるにしても明日の朝じゃな」
これはもう最後の手段――ダンジョンへの帰還――は出来ないわね。
それをやったら私とレイネが容疑者と断定されちゃうし、最悪人狼達によって私達が指名手配されるという最悪な展開に成りかねない。
「だがこれからどうするんだ? その男が言うには全員が容疑者らしいじゃないか。まさか四六時中互いを監視し合うってのかい?」
落ち着いてはいるけど、突き刺さるような視線を冒険者風――もう冒険者でいいや。その冒険者の男に向ける老夫婦の夫。
容疑者って言われれば気を悪くするのは当然かもね。
「まぁまぁ落ち着いて。兎に角明日だ。明日の朝に「人狼だ」……なんじゃと?」
「これは人狼の仕業だ! アレを見てみろ!」
村長の話に割って入った酒場のマスターは、外を指して叫ぶ。
そこに見えるのは、私とレイネがアイカ達とはぐれる原因となったあの霧だ。
「この霧は捕獲霧という人狼のスキルで、これに囲われるとスキルや魔法が一切発動出来なくなるんだ」
そういう事か。
だから念話が通じないのね。
あ、という事は鑑定スキルも使えない!?
試しに近くの青年を鑑定してみたら、やっぱり発動しない。
面倒くさい事になったわね……。
「おいマスター、やけに人狼に詳しいな? 俺も冒険者としちゃあそれなりに長いんだが、こんな霧のことなんざ知らなかったぜ?」
「……色々とあってな……まぁ歳を重ねれば知識は身に付くだろうよ」
「色々とねぇ……」
冒険者の男がマスターに絡んでいった。
自分の知らない知識を持ってたから気に食わないんでしょうね。
会話が終わった今も睨むように見てるし。
「つまりシルベスタを殺したのは人狼という事でいいのだね? それなら我々は無実なのだから自由に動いても……」
「いや、そういう訳にもいかん」
皆が安堵してるのも束の間。
今度は目付きの鋭い無精髭の――うん、このオッサンは無精髭の男と呼ぼう。無精髭の男が老夫婦の夫の言葉を否定した。
「おいおい、お前さん話を聞いてたのか? たった今人狼の仕業だって分かったとこじゃねぇか。いったい何が問題だってんだ?」
また冒険者の男が絡んでいく。
まぁ今回はこの男に同意するけども。
「大いに問題だ。人狼とは食らった心臓の持ち主に化ける事が出来るんだ。つまり……
この中に人狼が紛れてる可能性が有るって事だ!」
その言葉を聴いて、全員が硬直する。
だってそうでしょ? 知り合いだと思った相手が、いつの間にか入れ替わってるかもしれないんだから、誰も信用出来なくなる。
「そ、それは本当かね? だとしたら、だとしたら……ああなんて事だ……」
老夫婦の夫は頭を抱えて取り乱し、その場にへたり込む。
「そういやマスター、あんた人狼に詳しいんだろ? ならこの中に人狼が居るかどうかくらい分かるんじゃねぇか?」
「残念だが人狼かどうかの選別は出来ん。だが……」
「だが……なんだね!?」
冒険者の男に便乗する形で、老夫婦の夫が詰め寄る。
けれど次に発せられる言葉を聞いて、再び肩を落とす事になった。
「あの霧が残ってる以上、人狼は生きているという証拠だ」
再び外に視線が集まる。
つまり、全ての人狼を倒せば霧が晴れるし、ここから脱出も可能って事ね。
「付け加えるなら奴等のターゲットとなったこの集落は、全ての命が刈り取られるまで続くだろうな」
マスターの台詞の後、暫しの沈黙の後に村長が思い出したように我に返った。
「――オッホン。一旦酒場に戻らんかね? そこで今後の事を考えるとよいだろう」
村長の言葉を黙って聞き入れた私達は酒場へと戻り、軽く自己紹介を行う事となった。
その途中辺りを見渡すと、やはりというか、集落全体が捕獲霧で覆われてるのが分かる。
家屋が8つしかないから覆うのは簡単って感じに。
今も各家の入口に備え付けられたランプが寂しげに灯ってるけど、思えばこのランプのお陰でここに来れたのよね。
確かあの時も6つか7つくらいの光を頼りに歩いたのよ。
「あ、さっきは急にごめんね?」
「い、いえ、大丈夫ですから」
ん? 給仕の女の人がレイネに謝ってる。
何かあったのかな? 後で聞いてみよう。
「では儂からだな。名前はバストー。この村――すっかり寂れて集落になってしまったが、この村の村長をしておるよ」
白髪混じりの髪に細身の身体の村長さんね。
「既にマスターと呼ばれてるが、酒場を営んでるモルドフだ。仕入れの関係で週一で店を空けるが、それ以外は殆ど店の中に居るな」
体格が良くて髭の濃いオジサンな酒場のマスターよ。
「父の酒場で給仕をしているシンシアです」
給仕をしてたのはマスターの娘さんだったらしい。
「俺はカルロス・ダッド。シルベスタとは腐れ縁みたいな……まぁ親友だったかな……」
被害者の第一発見者であるカルロスさんで、今にも泣き出したいのを堪えてる感じがする。
「僕はルイン。そこのカルロスとは幼馴染みだ」
カルロスさんの幼馴染みであるルインさん。
思えばこの人が最初に被害者が来ないって言い出したのよ。
「俺はデイビス。ルインとダッドには世話になってる」
ちょっとだけ目付きがキツい感じのするデイビスさん。
「わたしゃクイナという者じゃ。占い師をやっておる」
占い師の老婆のクイナさんね。
「私はドールス。首都からここに移り住んでかれこれ20年以上はなるかな。そしてこっちが妻のラロッカだが、その……少々ボケが進行してるらしくてね、皆には迷惑をかける」
「あら、もぅいやですよ貴方、こんなところで///」
「私は何もしとらん……」
老夫婦の夫であるドールスさんと、妻のラロッカさん。
特にラロッカさんはボケが進行してるらしい。
「オイラはブルース。旅の途中でこの村に立ち寄ったんだ。まさか人狼が出るとは思わなかったけどね」
羽帽子をクイッと持ち上げて会釈するブルースという少年。
やけにこちらを――というか私とレイネをチラチラと見てるようだ。
目が会うとウインクしてくるって事は、旅先で女を引っ掛ける気なのかもね。
「俺は冒険者のガスリーだ。これでもBランクだぜ?」
「あたしはカシアン。ガスリーの相棒さ。ここに来たのは昨日だね」
冒険者コンビの2人ね。
特にガスリーって奴には絡まれないように注意しよう。
それにしてもこの2人も昨日来たばかりだったのね。
「……デネッシィだ」
目付きの鋭い無精髭の男ね。
口数も少なく、どことなく近寄りがたい雰囲気が感じられる。
最後に私とレイネがそれぞれ自己紹介をして終了。
「そういや気付いたんだが、今この場で人狼と戦える奴はどれだけ居るんだ? 出来ればいざって時のために知っておきたいんだが……」
「おいオッサン、他人を詮索するのは良くないぜ? 自分の手の内をさらけ出すバカは早死にするのが鉄則さ」
「あ? 誰がオッサンだ! 俺ぁまだ20代だ、口の聞き方には気を付けろクソガキ!」
「おや? まさかやるってぇの? オイラは構わないけどさ?」
「てめぇ……」
なんかブルースとガスリーが険悪になってるけど、この場合はオッサン呼ばわりしたブルースが悪いわね。
「まぁまぁ落ち着いて。それで一先ず今日の事だが、外から来た方々は酒場の空いてる客室を使ってもらい、他は自宅に戻るという事でよいかの?」
これには殆どの人が了承したんだけど、1人だけ拒んだ者が居た。
「私も酒場で寝泊まりさせてくれ。いや、妻も一緒にだ。私達2人では人狼に襲われてはどうにもならないのだから、人が多い方が安全だ」
というドールスさんだけど、それを言い出したら切りがないような……。
「いや、しかしかえって旅の方々を不安にさせてしまうのでは……」
「村長さん、アンタは分かってるのかこの状況が! いつ人狼に襲われてもおかしくないのだぞ!?」
「いや、しかし……」
「それとも何か? 我々に死ねと言ってるのか? 見損なったぞ村長さん! それに一言いわせていただくが、人狼が化けてるのは外からやって来た者達の可能性が高いのではないか? コイツらの方がよっぽど信用出来ないじゃないか!」
その信用出来ない者達と、1つ屋根の下に集おうとしてるんですけどね貴方は。
ちょっと支離滅裂な感じがする。
それとも混乱してるだけ?
「ドールスさん落ち着いて。村長、うちの部屋は余ってるんだし構わないだろう?」
「まぁ……そうじゃの」
村長の了承の元、老夫婦は私達と同じ酒場で寝泊まりする事になった。
「村長さん、わたしからもいいかい? 皆に知らせておきたい事があるのでな」
「クイナさん、何か気付いた事でもあったのかの?」
「気付いたというか、予備知識のようなものじゃがな」
今度はクイナさんという占い師が何やら話があるらしい。
「今現在、スキルと魔法は一切使えないという劣勢な状況じゃが、人狼側にも制約が有ってな、捕獲霧の発動中は1日に1体しか獲物を刈ることが出来ぬのじゃよ」
成る程、つまり一斉に襲われる事は無いって思えばいいのね。
「それから捕獲霧は毎朝8時から数秒間弱まるという特性があってな、その間にわたしが簡易的に誰かを占えば、その対象が人狼か否かが分かるぞぃ。ただし占えるのは精々1日に1人だろうがな」
8時から数秒間、その時に怪しいと思う相手を鑑定すれば……看破出来る!
それでも精々1人が限界だけどね。
「成る程のう。ならば明日はクイナさんが怪しいと思う人物をうら「ちょっと待ちな村長さんよ、なんであんたが仕切ってんだ? まるで自分は人狼ではないとでも言いたいみたいだがよぉ?」
ま~た始まった……。
このガスリーって奴は誰にでも絡んでくのね。
「そう言われてみれば……村長さん、アンタまさか!」
そしてドールスさんも便乗するから尚更雰囲気が悪くなる。
「い、いや、決してそういうつもりでは……」
「……ふん、まぁいいさ。精々食われないように気をつけな」
1度村長を睨み付けると、2階へと上がって行った。
「ま、まぁ、疑心暗鬼で気が落ち着かないだろうが、今日のところは食事を済ませて明日に備えようではないか」
これで一旦は収まり、晩御飯の後にレイネと同じ部屋で泊まる事になったので、分かってる情報を纏めてみた。
・バストー
集落の村長。
ランプを灯すのに普段より時間がかかったのは怪しい?
・モルドフ
酒場のマスター。
やけに人狼に詳しいのは怪しい?
・シンシア
モルドフの娘で給仕をしている若い女性。
被害者を見た時、思わずレイネに抱きついてクンクンと匂いを嗅いでたらしい。
後でレイネに謝ってたけど、匂いを嗅ぐのは癖なのだとか……違う意味で怪しい?
・ドールス
老夫婦の夫。
やけに取り乱したり支離滅裂な発言をするのは怪しい?
・ラロッカ
老夫婦の妻
ボケが進行してるらしいけど、本当かどうか怪しい?
・クイナ
占い師の老婆
密かにモルドフと同様に人狼に詳しいのと、被害者は魔物に殺されたと断定したのは怪しい?
・ブルース
本人曰くさすらいの旅人。
少年が一人旅をしてるのと、このタイミングで集落に訪れたのは怪しい?
・ガスリー
若い冒険者の男。
やたらと他人に難癖つけるのは怪しい?
・カシアン
若い冒険者の女。
ガスリーとは反対に終始落ち着いてはいるが、沈黙を保ってるのは逆に怪しい?
・デネッシィ
目付きの鋭い無精髭を生やした男。
目立たないが、人狼が相手の心臓を食らう事で、その相手に化ける事が出来るというのを知っていたのは怪しい?
・カルロス・ダッド
第一発見者で、被害者とは親友。
被害者と酒場の距離は目と鼻の先であり、第一発見者でもある事からやはり怪しい?
・ルイン
被害者やカルロスの友人。
特に怪しいところは無い。
・デイビス
カルロスの事をダッドと呼んでたくらいで、特に怪しいところは無い。
とまあこんなところね。
これに私達2人を入れた15人で全員。
ただし、私とレイネは村に来てからもずっと一緒に居るから同じ状況を共有してるので、レイネが人狼だという事は有り得ない。
「そういえば思い出した事があるの」
「思い出した事?」
「うん。シルベスタという人の家で、その人の友人の1人でデイビスって人。その人が泣いてる時に口の端がつり上がってるように見えたんだけど……」
レイネが言うには、デイビスって青年は被害者の死をほくそ笑んでたように見えると。
・デイビス
シルベスタが死んで喜んでるのは怪しい!
こんな感じになった。
さて、明日は誰を鑑定してやろうか……。
アイリ「ではルールの説明です。私が鑑定する相手を13人の中から1人だけ選んで下さい。その際に理由や台詞などもつけて頂けると、それに沿って行動します(常識の範囲内で)」
レイネ「ただし1人1票だから欲張らないでね。同数の場合はランダム(作者の都合のいい方)を選択されます」
アイリ「チャンスは最大4回です。2回以上当てればクリアーとなり、3回間違うと、私が謎の意思に乗っ取られて話の尺を余計に使う羽目になるので、頑張って当てて下さい。因みに間違って鑑定した場合、その対象が次回の被害者となります」
レイネ「潜んでる人狼は3体で、狂人も1人紛れてます。今回は狂人も人狼側としてカウントされますので、狂人を鑑定してもOKです。更に人狼と狂人以外にも予想外の人物が紛れてますので、それを鑑定したら1発クリアーとなります」
アイリ「投票は、活動報告に対象人物を書き込んで頂ければ完了となります。もし誰からも投票されなくてもキチンと投稿しますので、面倒だなぁという人は気にしなくても大丈夫です」
期限は10月29日の23:59までです。




