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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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血塗られた人狼村①

前回のあらすじ

 ロータルの街で辺境伯に事情説明を行ったアイリ達は、そこで初めてレイネが奴隷落ちしてる事を知る。

このままでは奴隷として購入者の手に渡ってしまという事で、アイリは購入者であるロドリゲスと交渉を行い、見事レイネを解放する事に成功した。


 ロータルを発って3日。

アイリ達の旅は順調で、今日も晴天の青空の下、のどかな平原をミリオネックの首都ダラーを目指し歩いていた。


「良い天気ね。数日前の大雨が嘘みたい」


 私達がケオル村に向かう時は普通に晴れてたんだけど、レイネが言うにはこっちの方は大雨だったらしく、いまだ地面が所々ぬかるんでる感じよ。


「そんなに凄い雨だったんだ?」


「うん。お陰でむさ苦しい男達と馬車の中で過ごしたの。最悪だったよ~……」


 それはご愁傷様ね……。

でもレイネのお父さんの事を考えると、まだマシって感じだったのかもしれない。

聞くところによればレイネのお父さんは冤罪(多分)で、無期懲役の鉱山送りになったそうよ。

もし本当に冤罪なら力になってあげたい。

でもそのためには首都に行って色々と確かめないとね。

 あ、因みにだけど、レイネは奴隷の身分から解放したわ。

私としても奴隷として扱いたくなかったしね。

でも解放したのがロータルの街中だったもんだから、人目を気にせずレイネが抱きついてきて少し恥ずかしかったけども。

何というかスキンシップが激しいと言えばいいのかな?


「お姉様、そろそろお昼の時間です」


 そろそろっていうか12時ピッタリよね。

そんなアイカの食欲に押されつつも昼食を挟んで歩き続けてると、不意にアイカが立ち止まった。


「お姉様、前方に立て札がありますよ」


「本当だ。何て書いてるんだろ」


 近付くと道の真ん中にある立て札を境に、そのまま北東に延びてる道と、北西に折れる道とに別れてるのが分かる。

そして立て札に書かれてる内容だけど、この辺りで人狼(ウェアウルフ)が目撃されたから、矢印に従って進めって書いてあるわね。


「人狼とな。そのような輩に遅れをとる我々では無かろう」


「そうだけど、なるべくなら面倒事を抱えないに越したことないじゃない?」


 もし討伐した場合、誰が討伐したのかって話になる可能性は高いと思うし。

 

「というか、なんか斜めってて読みにくいんだけど、なんで斜めに刺してあるんだろ? ――まぁいいか」


 立て札の上にくっついてる矢印が指してるのは、北西の森の中ね。


「ねぇアイリ、なんか立て札の辺りが窪んでる気がするんだけど、なんでだろうね?」


「どれどれ……」


 言われてみると確かに窪んでるんだけど、かと言って何か起こる訳でもない。

気にする必要はなさそうね。


「どうせ誰かが転んだんでしょ。大雨の後みたいだし」


 私達は特に気にする訳でもなく、そのまま北西に向かって進んだ。




 アイリ達一行が離れてから10分後。

近くの村人が通りかかると、立て札の前で立ち止まる。

 すると……


「こりゃエライこっちゃでぇ! 矢印の向きさ逆だぎゃ。――でもま、滅多に人さ通らんけぇでぇじょうぶだろ」


 どうやら矢印が逆向きなってたらしく、正しい向きに直すと、そそくさとその場から離れてくのであった。






「な~んか獣道を進んでる感じがしない?」


「はい、お姉様の(おっしゃ)る通り、道が悪い上に通行人が全く居ませんので、道を間違えたとしか……」


 さっきまで歩いてた道も農作業後の村人しか居なかったから、実質旅人と言える人には会ってないんだけどね。

それに一本道だから間違える筈がないし、もうしばらくしたら森を抜けるでしょ。


「でも薄気味悪い森よね。私、街の外に出る事って殆どないから、そう感じるのかもしれないけど……」


 確かに木の葉が生い茂ってて太陽が差し込んでこないから薄気味悪さが増してるわね。

レイネは少々怖がってるけど今のところ魔物にも遭遇しないし何も問題は無い。


「あ、あのぅ……アイリ? 出来れば手を握っててほしいんだけど……」


 う~ん、手を握ってるといざ魔物が出現した際に離さないといけなくなるけど……ま、このメンバーなら大丈夫か。

 そのままレイネの手を引いて歩き続ける事2時間くらい、徐々に視界が悪くなってきて――というより霧が出てきて、木々の隙間から伺えた青空も曇り始めていた。


「アイリ……」


 そうなると余計にレイネも不安がり、握る手に力が籠ってるのも分かる。


「大丈夫だから。しっかり握ってて」


 何か冗談の1つ言って場を和ませようかなぁと考えてると、益々霧が濃くなってきた。

いつの間にか前に居る筈のアイカですら見えなくなってて、私まで不安に駆られる。

 そんな私達に追い打ちをかけるように、今度はポツポツと雨が降り始めてきた。


「アイカ、ちょっとストップね。傘を出すから……しょっと。レイネも中に入って。これなら濡れないから」


「うん、ありがとうアイリ。ところで、アイカちゃん達が居ないような気がするんだけど、気のせいかな?」


「え?」


 そんな訳は無いと思いつつ、アイカに呼び掛けてみると……


「アイカ、アイカったら……ねぇちょっと冗談は止めてよアイカ。……アイカ?」


 まさか本当に居ない!?


「大変よアンジェラ! アイカが居ないみたいなの! ……アンジェラ?」


 嘘……アンジェラまで居なくなってるっていうの!?


「ねぇセレン、……セレンってば!」


 セレンにも呼び掛けたけど、結果は変わらず……。

 こうなったら念話で!


『アイカ、アンジェラ、セレン聴こえる!?』


 でも結果は無情にも、誰とも繋がらないという事態に陥ってるようだった。


「アイリ……」


 ダメね、私がしっかりしないとレイネの不安は解消されない。

兎に角今は落ち着かないと、冷静に冷静に。


「大丈夫よレイネ。きっと私達が立ち止まってる間に先へ進んじゃったんでしょ」


「そ、そうよね、取り残された訳じゃないわよね」


 と、本心では思いたいとこなんだけど、念話が繋がらない時点で残念ながら有り得ない。

けれど今は森を抜けるのが先だと考え早歩きで進んでると、漸く森を抜ける事が出来た。

いつの間にか霧も無くなり、前方に点々とした光が雨の中に灯ってるのが見えた。


「あの光は……」


 そのまま近付くと、木造の家屋に灯されたランプだという事が分かり、どうやらそこは村――と言うには規模が小さく見えるから、集落のようだった。

 雨足も強くなってきたので、とりあえず一番大きめの建物――何となく酒場にみえる家屋に入ってみる事にした。


「おや、旅の人かい? こんな寂れた集落に珍しいねぇ」


 中は想像通りの酒場だったらしく、カウンターの奥からマスターと思われる白髪のお爺さんが、グラスを拭きながら顔を覗かせた。


「すみません、急に雨が強くなってきたんで、ここで休ませて下さい」


「それは難儀なさったな。さ、遠慮せずに座りなさい。今何か温かい飲み物を用意しよう」


「すみません」


 マスターのお言葉に甘えてカウンター席に座ると、それに続いてレイネも会釈しながら隣に腰を下ろした。

 そこで改めて中を見渡すと私達の他にも先客がいるようで、固まって談笑してる青年3人組に、同じく談笑してる老夫婦っぽい2人、白いローブを羽織り水晶を磨いてる老婆と、私よりも年上に見える羽の付いた帽子を被ってる少年に、冒険者風の若い男女、カウンター席の奥に座ってる目付きの鋭い無精髭の男に、給仕の若い女性、これにマスターと私達を足すと、計14人が酒場に居る事になる。

手狭な酒場なのに凄い人口密度ね。


「はい、お待ちどう。若いお嬢さんに出せるのはホットミルクくらいしか無いが、勘弁しておくれよ」


「「ありがとう御座います!」」


 何だかんだでこの世界のホットミルクに遭遇するのは初めてなんだけど、躊躇(ちゅうちょ)するのも変に見られるし、ポーカーフェイスを装って口にしてみる。

レイネも普通に飲んでるしね。

 ――うん、ちょっと臭いの強い牛乳って感じで、味は日本のと変わらない気がする。


「ところでお嬢さん達は2人で旅をしてるのかい?」


「いえ、途中まで仲間と一緒だったんですけどはぐれてしまったみたいでして」


「なんとまぁ、そうだったのかい。そいつは重ね重ね難儀な事だ」


 そうだ、一応アイカ達が来てないか聞いてみたほうがいいわね。

もしかしたらって事もあるし。


「マスター、はぐれた仲間を探してたらここに着いたんですけど、3人組の若い女の子達を見ませんでしたか?」


「いやぁ見てないなぁ。今日ここに訪れたのは、お嬢さん達とあそこに居る帽子被った少年くらいだよ」


 マスターが送る視線の先に居たのは、羽付きの帽子を被って武器の手入れを行ってる少年だった。


「こんな場所だからね、見慣れない者が訪れたらすぐに気付くよ」


「そうでしたか……」


 こんな小さなところじゃ気付かないって事は無だろうし、やっぱりアイカ達は来てないのは間違いなさそうね。


 ギィィィ


「ふぅ……。漸くランプを灯すのが終わったわい」


 入口が開くと、1人の老人が濡れた服を絞りながら近くのカウンター席に座った。

まだ夕方の筈なのに雨雲のせいで暗く成りつつあるから、早めに灯したんでしょうね。


「おや村長さん。随分と時間が掛かったみたいだが、何かあったのかね?」


「家を出た時よりも雨が強くなってのう。お陰でこの有り様じゃわい」


 ちょうど私達がこの集落に着いたあたりね。

幸い私達は傘をさしてたから殆ど濡れてないけども。


「ちょいと待ってなよ、今いつものやつを持ってくるから」


「すまんの。――ところでお嬢さん達は見ない顔じゃな。旅の途中かね?」


「ええ。まぁ……」


 あらら……、レイネったら人見知りが激しいのかしらね。

いきなり話し掛けられて目が泳いじゃってる。

ここは私がフォローしてあげないと。


「あのぉ、村長さんは先程まで外に居たんですよね?」


「うむ。そうじゃが?」


「実は途中ではぐれた仲間を捜してるんですが見てませんか? 3人の女性達なんですが」


「う~む……いや、見とらんなぁ。もしはぐれてここに着いたのなら、誰かが気付くだろうしのう」


「……ですよね」


 困ったわね……、念話が使えない、居場所も分からない、ついでに現在地も分からないんじゃどうしようもないわ。

最悪の場合、1度ダンジョンに戻るしかないか。


「はいよ、村長、いつものだ。あんま飲み過ぎないようにな」


「分かっとるわい」


「お嬢さん達のグラスは空のようだがどうする? もう一杯いるかい?」


 あ、気付けば飲み干してた。

最初は臭いが気になったけど、慣れればどうって事ないのね。

レイネはお代わりを頼んだようだから、私も頼んじゃおう。

ついでに情報収集もしながらね。


「マスター、この近くで人狼が出たって本当なの?」


 その瞬間、和やかだった酒場の雰囲気が一変し、沈黙と共に全員の視線が私に集中した。


「お、お、お嬢さん。どこでその話を?」


「え、えっと……ここから南東にある分かれ道に立て札が有って、それに書いてあっんです。私達は人狼を避けるために矢印の通りに進んで来たんですけど……」


 その発言後、酒場が徐々にざわつき始める。

いや、元に戻ったと言ったほうが正しいかもしれない。


「お嬢さん、老い先短い儂を脅かさんでくれ。つまり、ここは人狼が出たという場所とは違うという事じゃろ?」


 村長さんはホッと胸を撫で下ろすと、若干抗議するような視線を向けてきた。


「ええ、まぁその通りなんですけど……」


 どうやら私の不注意でここの人達を不安がらせてしまったらしい。

以後気を付けよう……。


「そういやシルベスタの奴遅いなぁ」

「そうだな。そろそろ来てもいい頃だよな?」

「どうせ寝てんだろ。どら、ちょっくら間抜け面を拝んで来ますかね」


 青年の1人が酒場を出て行った。

この雨の中、友人の様子を見に行ったらしい。

見れば外はすっかり真っ暗になってるし、この集落で1泊するしかないか。

 と、考えてると、先程出て行った青年が血相変えて戻って来た。


「たたたたた大変だ! シルベスタが殺されてやがる!」


 え……殺された!?


「おいダッド、冗談はよ「冗談なんかじゃない!」


 ダッドという青年の凄い剣幕に、冗談ではない事がはっきりと分かる。


「兎に角、来てくれ!」


 大変な事になった。

殺されたというフレーズを聴いて、レイネは顔が青ざめてるし、こんな集落で殺人事件に巻き込まれるなんて……。


アイリ「という訳で、次回から人狼ゲームが始まります。詳しくは次回お知らせしますが、1日(1話)につき1回、私が鑑定する相手を多数決で選択する事になりますのでお楽しみに」

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