閑話:5人の魔法少女
ちらほらと老若男女のダンマス達が行き来しているアイリーンの中央広場。
その一角に有る、お洒落なパラソルが疑似太陽の光を受け止めているカフェテラスにて、5人の少女達が集結していた。
切っ掛けはついこの間行われたバトルロイヤルで、早々と敗北――もしくは参戦を諦めてたダンマス達に混じってアイリーンにやって来たのが始まりだ。
ここで会ったが100年目! ……ではなく、ばったりと遭遇した瞬間、互いに同じ趣味を持ち合わせてると感じとったのだ。
「あ~そうそう、確かに「ティン」ときた感じがしたね」
顎に手を添えながらウンウンと頷きつつ当時を思い出してるのは、緑の髪をショートカットにしたボーイッシュな少女シーラである。
「はぐはぐ……んっく。そうだけどよ、あの大勢のダンマスでごった返してる中だろ? そこで5人同時に遭遇するとか相当凄い確率じゃねぇかマジで……はぐはぐ」
黒ごま餡まんを頬張りながらシーラに同意したのは、青くて長い髪をストレートにした少女ヒカリだ。
「そうなのです。凄いのです。まさにマジカルの神髄なのです」
更に2人に同意したのは、時折クリームソーダをチューチュー吸ってる金髪のセミロングな髪の少女メイプルであった。
「はいはい、お喋りはそこまで。みんな揃ったみたいだし、改めて自己紹介するわよ」
そんな彼女達の纏め役に成りつつあるのが、赤い髪をツインテールにした少女のリゼット。
何かと偉そうな態度をとるが、5人の中で一番背が低かったりする。
「そんな事より見てください。新しいポーズを閃きましたよ! それはもう、あたしたち魔法少女に革命を――」
「後にしてちょうだい」
「恥ずかしいのは嫌だなぁ」
「クリームソーダ美味しいですぅ」
「黙れ淫乱ピンク」
最後にみんなから一斉に突っ込みを受けてるのが、ピンクの髪を短く切り揃え、ピンクのヘアバンドという何のアクセントにもならないヘアスタイルの淫乱ピン――失礼。魔法少女ユーリである。
「ちょっと、誰ですか今淫乱ピンクって言ったのは!? あたしは乙女なんですから間違えないでください!」
「はいはい、そんなどうでもいい事より自己紹介を始めましょ」
「どうでもいい事!?」
残念ながら、両手で頬を押さえつつショックを受けてるユーリの事はスルーされ、魔法少女流の自己紹介が始まった。
「まずは私からね。私の名前は魔法少女リゼット。愛と正義と勇気の名の元に、この世の悪を打ち砕くわ!」
ステッキを剣のように持ち、敵が前方に居るのを前提としたポーズを決めた。
さて、皆の採点は?
「5点」
「8点」
「7点なのです」
「3点」
これに自己採点の10点を加えると、合計33点となった。
「ちょっと、5点と3点入れたの誰?」
予想より低い得点に納得がいかないリゼットは、両手を腰に当てて4人を睨む。
「5点はあたいだな。なんか普通過ぎてふ~んて感じ?」
「3点はあたしです。腰の回転が甘いのと、ステッキを突き付ける方向と視線が合ってません。それから最後の決め台詞を言うまでに隙が有りますので、言い終わる前に攻撃されちゃいますよ?」
以上、平凡な評価を下したヒカリと、やたらと細かいユーリの評価である。
「ユーリ、あんたちょっと厳し過ぎない? 隙がどうのとか言ってたら、決め台詞言えないじゃない」
「んなもん喋りながら殴りゃいいだろうが。つーか次あたいだからさっさと交代な」
「あ、ちょっと!」
今度はヒカリの番となり、リゼットを押し退けて前に出た。
「――コホン。私は負けない、悪を討つまで。わたしは諦めない、悪を絶つまで。みんなの希望をわたしに、この力でみつを切り開――」
「プッ」
「――いてみ……っておい、誰だ今笑った奴は!?」
途中で噛んでしまったヒカリが、ギロリと4人を睨みつける。
「だ、だって……ププ……アッハッハッハ!」
「リゼット、てめぇ……」
笑ったのはリゼット。
ヒカリが噛んだ瞬間から笑うのを耐えてたのだが、限界を迎えたようだ。
「ククク、リゼット、笑わせないで、僕までおかしく……アッハハハハハハ!」
「な!? シーラ、お前まで!」
リゼットにつられる形で、シーラまで笑い出してしまう。
「ハァ、ハァ、だ、だって、みつを切り開くって……プッククククク!」
「ヒィ、ヒィ、お腹痛い、だ、だからダメだって……プッハハハハハハ!」
「凄い効果なのです! これなら敵も一網打尽なのです!」
「え~と……これで敵を倒す訳じゃないと思うんですけど?」
当然である。このような精神攻撃が通用するのは、どこぞの鳥頭くらいだろう。
「だぁ~っ! 笑うんじゃねぇ! もう一度だ、もう一度やってやる!」
汚名返上とばかりに一度拳を突き上げると、頬を両手でパンッと叩いて気合いを入れ直した。
「アーアー……コホン。わたしは負けない、悪を討つまで。わたしは諦――」
「みつを」
「――めない、っておい!?」
横槍を――というか邪魔をしたのはリゼットで、あたかもヒカリが同じ失敗を繰り返したかのように仕組んだのだ。
「ププププ、ちょ、今のは反則ですって! 何やってるんですかリゼットさん! プックククククク!」
「ヒィ、ヒィ、そうだよ、僕もう笑い過ぎて死にそうだよ! ウッヒヒヒヒヒ!」
「クククク、ごめんごめん。何となくやりたくなってきて……みつを切り開く! ブァッハハハハハ!」
「凄いのです! 劇的効果なのです! 魔法少女の真骨頂なのです!」
「てめぇら……」
ゴツン! ゴツン! ゴツン! ゴツン!
「いっっったぁぁぁい!」
「僕が悪かったけどさ、何も思いっきり殴る事なくない?」
「ちょ、暴力反対です! あたしの頭が禿げたらどうしてくれるんですか!?」
「ヒカリ、恐いのです。怒らせるのは危険なのです」
「じゃかぁしぃ! 人が真剣にやってりゃ笑いこけやがって! こうなりゃもう一度だ!」
3度目の正直という事で、更に気合いを入れたヒカリがステッキを手にし、モーションに移った。
「わたしは負けない、悪を討つまで。わたしは諦めない、悪を絶つまで。みんなの希望をわたしに、この力で道を切り開いて見せる! 魔法少女ヒカリ――参上!」
最後にビシッとステッキを天に掲げ、普段は絶対にしないであろうスマイルを決めた。
さて、皆の採点は?
「6点」
「8点」
「7点なのです」
「4点」
これに自己採点の10点を加えると、合計35点となった。
「おい、ユーリてめぇ、やけに低い採点しやがって、何処がダメだっつんだよ!?」
やはりリゼットと同じように納得がいかないらしく、ユーリに掴みかかるのだが、逆にユーリは涼しい顔をして言い放った。
「まずは最初のモーションですが、まだまだ動きがぎこちないです。もっと流れるような動作を心掛けましょう」
「お、おう……」
「次に台詞ですが、最初から劣勢を前提とするような台詞は、敵が強いと認識されてしまいがちです。せめて対等以上に戦える雰囲気を感じさせましょう」
「あ、ああ……」
「更に決めポーズをするところですが、もっとこう……しょっと、こんな感じに膝を曲げて足を上げるようにすると、見栄えはさらに良くなります」
「う、うん……」
「最後ですが……あたしは気付きました。何よりも見栄えを衰えさせる原因となってるものが有る事を」
「う、うん……うん」
「それはズバリ、スカート丈です! 今のヒカリさんの丈は規定より長いんです!」
「う、うん?」
「はっきり言いますが、ヒカリさん。スカート……もっと短くしましょう?」
「は……
ハァァアアアア!?」
ユーリの発言があまりにも予想外だったらしく、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「何を驚いてるんです? 魔法少女と言えばミニスカは基本です。ミニスカを怠る者はミニスカに泣くんですよ? 他のメンバーを見て下さい」
見ればユーリを含む他の4人は、漏れなくヒカリよりも短いスカートであった。
「知らねぇよ、んな事! だいたいミニスカに泣くってどういう意味だ! 兎に角、あたいは短くなんかしないからな!?」
スカートを押さえて断固として拒否する姿勢を見せたヒカリに、不適な笑みを浮かべたユーリが近付く。
「フッフッフッ、勿体無いですよヒカリさん。素材は良いんですから、もっと見た目に気を使わないと……」
「ちょ、な、何だよ、何で手をワキワキしながら近付いてくんだ! おい!?」
「皆さん、やっておしまいなさい!」
ヒカリの抵抗が激しいと予想したユーリは、他のメンバーに呼び掛ける。
それを見た他3人は、しょうがないなぁという顔を見せながら渋々ヒカリを押さえつけるのであった。
「ダァァァァ! ヤメロォォォォッ!」
「大丈夫です。先っちょだけ、先っちょだけだから」
「だから止めろっつってんだろ! 見える、見える、マジで見えちまうって!」
「かわいいのです。ヒカリさんのパンツはかわいいキャラクターが入ってるのです!」
「コラッ! どさくさに紛れて捲るんじゃねぇ!」
「そんなに嫌がるような事? 僕には分かんないんだけど」
「るせぇ! てめぇの考えなんかどうでもいいっつーの!」
「あんたが大人しくしないとユーリが暴走するんだから観念しなさいよ」
「知らねぇっつーの! 寧ろリゼット、てめぇは止めるべきだろうが!」
それから数分後……
「はい、出来ました。――うん、これなら見応えばっちりです!」
「うぅ……やっぱ恥いって。それにさ、やっぱ見えそうで恐い……」
「何言ってるんですか。魔法少女なんですから、見せパンは基本です。そんなんじゃ視聴率は稼げませんよ?」
「視聴率……いや、もういい。さっさと次行ってくれ……」
「じゃあ次は僕の番だね」
悟りを開いたらしいヒカリの後に出てきたのは、5人の中で一番元気の良いシーラだ。
「皆さーん! こーんにーちはーーーっ!」
出てきて早々シャウトをかますと近くのダンマス達が何事かと振り向いたため、一時的に注目が集まってしまう。
だがアイリーンに夢中になってる彼等からすれば、魔法少女達はどうでもいいと結論付けられ直ぐに散開していく。
「シーラ、シャウトはいいから早く進めて」
「ぇえ~、ダメなの? まぁいいや。じゃあ改めていくよ。――この世に蔓延る悪を討ち、大地を照らす光とならん。僕は戦い続ける、闇を光で覆うまで! 希望の戦士、魔法少女シーラ! ――けんざぁぁぁん!」
ステッキをクルクル回して頭上に掲げ、足をクロスさせての決めポーズ。
しかも態々パラソルの上から飛び降りる演出まで加えるというオマケ付きだ。
さて、皆の採点は?
「8点」
「6点」
「8点なのです」
「2点」
これに自己採点の10点を加えると、合計34点となった。
「ちょっとちょっと、なんでユーリの採点はそんなに低いのさ?」
やはり先程の2人と同様に抗議の声を上げると、ユーリはビシッと指を突き付け問題点を指摘した。
「はっきり言って、決めポーズ等は上出来です。演出効果も有り、最後の最後に決めてやった感が半端ないです。素晴らしい!」
「だったら何で!?」
「だ・か・らです」
「へ?」
間の抜けた声を出したシーラの鼻にグイッと指を押し付け言葉を続ける。
「貴女は魔法少女でありながら、【希望の戦士】という妄想に囚われてしまった!」
「いや、妄想って……」
「それが全てを台無しにしてるのに気付かないんですか!?」
断っておくが、普通は気付かない。
だがそんな事はお構いなしにシーラの肩に手を添えると、優しく微笑みかけた。
「いいですかシーラさん。貴女は魔法少女なのであって、戦士ではないのです。そこんとこ、宜しくお願いします」
と、このまま終わればイイハナシダナァで済むのだが、そうは行くまいとシーラを含む他のメンバーからブーイングが巻き起こる
「僕、やっぱり納得いかない。ユーリは細かすぎるんだよ!」
「そうよね。ユーリったら、さっきからダメ出しばかりじゃないの」
「そうだそうだ。そこまでケチ付けるんならお前がやって見せろよ」
「あ、店員さん、クリームソーダのお代わりお願いするです」
だがユーリは自信満々に鼻を鳴らすと、皆の前に躍り出た。
「では見てて下さい。あたしが手本をお見せします」
目を瞑り、全神経を集中させると、カッと目を開きパラソルの上に飛び乗る……事は出来なかったので、椅子とテーブルを使ってよじ登った。
まさに運動神経ゼロの魔法少女、ここに極まれりである。
「愛と正義と勇気を胸に、この世に蔓延る悪を討ち、希望をもたらす光とならん。皆に貰った力を元に、光の道を切り開く! 魔法少女、マジカルユーリ、ここに見参!」
散々ヒカリのスカート丈にケチをつけながら、パラソルを飛び降りる際に捲れるのをキッチリと利き手でガードしたユーリが、ステッキ前へと突き出しスマイルと共にポーズを決めた。
さて、皆の採点は?
「5点」
「5点」
「5点なのです」
「5点」
これに自己採点の10点を加えると、合計30点となった。
因みに現在ワーストである。
「ちょっと皆さん、真面目に採点して下さい。そんなに低い訳ないですよ!?」
予想通り抗議の声を上げると、やや白けたような雰囲気を出した他メンバーが当然の感想を口にした。
「だって……ねぇ?」
「だよなぁ。あんだけ自信満々だったのにコレだもんなぁ……」
「寧ろ同情票みたいな採点だよ?」
「ある意味凄いのです。パクリ天国です!」
「な!?」
最後にメイプルからパクリだと言われてムッとなったユーリは反論を開始する。
「こ、これはパクリなんてチンケなものじゃありません。リスペクトですリスペクト! いいですか? RESECTですよ? 間違ってもパクリと一緒にしてはダメですからね!?」
だが必死こいて抗議するユーリをスルーして、最後の1人であるメイプルに視線が集まる。
「はぁ……白けちゃったし最後にメイプルでシメにしましょ」
「ようやく出番なのです? なら張り切っていくです!」
いまだ両手を振り回して抗議中だったユーリを椅子に座らすと、静かにステッキを天に掲げた。
「父なる太陽よ、母なる海よ、大地に宿した我に力を!」
一旦言葉を切りパラソルに飛び上がると、ステッキを回転させ虹色のエフェクトを出しながら着地し、正面を見据えてステッキを突き出す。
「魔法少女、エクストラメイプル、ここに見参! あなたに宿る邪念、消し去ってあげるわ。ンフ♪」
言い終わるのと同時にウインクしつつ投げキッスという特典付きだ。
ただ一言いわせてもらうならば、一連の動作はとても少女とは思えないという点につきる。
さて、皆の採点は?
「8点」
「9点」
「9点」
「う~ん、7点」
これに自己採点の10点を加えると、合計43点となった。
これにて魔法少女メイプルの優勝?が決まったのである。
「何というか、凄いわね……」
「ああ。正に圧巻だったなぁ」
「というか僕、メイプルが少女っていう部分が違和感を感じるんだけど」
「むむむむ、悔しいですが完敗です」
「わ~い、嬉しいですぅ!」
ところで、
「「「「メイプルって本当は何歳?」」」」
「……ノーコメント……です」
少々謎が深まったようだ。
リゼット「てっきり生前の最年長はユーリだと思ってたんだけどね」
ユーリ「あたしより上なんですか?」
メイプル「だからノーコメントだっつうの」
リゼット・ユーリ「!?」
メイプル「……ノーコメントなのです♪」




