説明説明&回収
前回のあらすじ
狂気に取り付かれたファウストは、アイカの施した処置により恐怖と激痛の最中に落命した。
一方のベタンゴートは、アマノテラスの眷族であるフェザードラゴンの襲撃に巻き込まれるが、ドローンにより生け捕りにする事に成功。
その上でフェザードラゴンはアンジェラによって撃破するのであった。
「はぁ……成る程な。ベタンゴートとファウストとかいうダンマスは相当イカれてやがんな」
と、私達の目の前でため息をついてるのは、ミリオネックの東側――要はプラーガ帝国に睨みを利かせてるトウヤ辺境伯。
何をしてるかと言えば、ロータルの街にある代官の邸で事情説明を行ってる最中な訳よ。
事が大事なだけに辺境伯じゃないと対応出来ないと考えてか、わざわざ護衛を伴って遠路はるばるやって来たらしい。
「ファウストは恐怖によるステータスが上昇する研究をしていき、ベタンゴートはそれを利用しての支配体制を作った。――纏めるとこんな感じか」
「特にファウストは相当おかしくなってましたがね。あのような愚か者は世に放たれてはいけない存在です!」
「お、おう……」
アイカったら随分感情的になってるわね。
その迫力に辺境伯と護衛が若干引いてる感じだけど、子供達を救えなかったのが相当堪えたのかもしれない。
「でまぁベタンゴートは拘束したからいいとして、ファウストってダンマスの方なんだけどな……」
言葉を濁したわね。
無断で討伐しちゃったらマズかったのかもしれない。
ファウストが死んだからダンジョンが廃墟になってるだろうし、事実確認が出来ないのよね。
「ですがダンジョンコアは回収しましたよ? これで何とかなりませんか?」
アイカはアイテムボックスからそれを取り出すと、辺境伯の前に置いた。
見た目の色は濃い紫色をしてるから、アイカ本体とは違う色ね。
もしかしたらダンジョンコアの色も色々あるのかもね……色だけに……失礼。
「ダンジョンコアか……。確かにファウストが存在したという証拠にはなるだろうが、こいつはこっちが回収してもいいのか? 黙って裏オークションにでも流せば相当な金になりそうだが」
いやいや、あなた辺境伯なんだから、それ言っちゃダメでしょ!
「トウヤ様、そのように他者を唆す発言は控えてください。フォルネ様に言いつけますよ?」
私の代わりに護衛の女の人が突っ込んでる。
「いや、昔の癖でつい「やはりフォルネさ」まてまてまて、落ち着けロゼ! 分かった、分かったからそれだけは止めてくれ!」
よく分かんないけど、フォルネという人に頭が上がらないらしい。
名前からして女性っぽいし、奥さんか恋人なのかもね。
「――コホン。問題なさそうだからこちらで回収しとく。で、ファウスト本人なんだが……」
「すみません。やっぱりファウストも生け捕りにした方が良かったですか?」
「まぁそう言われちゃそうだとしか言いようがないんだが、お前さんらは気にしなくていいぞ。こっちの都合だからな」
やっぱりマズかったみたい……。
「それによ、生け捕りにしたい理由も法で裁かなけりゃならねぇってだけだしな。でもってこれが面倒くさいのなんのってな、証拠は有るのか~とか証人は信用出来るのか~とかよ、あ~でもないこ~でもないってやる訳よ」
聞くだけで疲れる感じがするわ……。
まるで日本と同じ裁判を想像させられる。
あ、もしかして証人として出廷しなきゃならないんだろうか? だとしたらさすがに面倒よ。
「いや、今回はこの街の殆どの住人が原告側なんでな、さすがに大勢で訴えたら有罪は免れねぇ。そういった訳で仮の有罪ってやつさ」
そうなんだ。
なら私達は気にしなくても大丈夫そうね。
「すみません。わたくしから一つ質問があるのですがよろしいでしょうか?」
何やらアイカは知りたい事があるらしい。
「おう、かまわねぇぞ。答えれる範囲で答えてやる」
「トウヤ辺境伯様はプラーガ帝国寄りの領地を治めてると聞きましたが、どのようにしてそこから来られたのでしょう? 僅か1日で移動出来る距離ではないと思われますが?」
言われてみればそうよ、アイカが言い出すまで気付かなかったけど、昨日の今日で来れるなんておかしいわ。
そんな疑惑の目を辺境伯に向けると、頬をポリポリと掻きながら教えてくれた。
「ああ、それな。自慢じゃねぇが、俺のスキルに飛翔転移があるからよ、それ使って来たのさ。こんなスキルを持ってる奴は俺くらいしか居ねぇってんで、白羽の矢が立っちまったのさ」
ポータルジャンプ……要は私の座標転移に似たようなスキルね。
違いを上げるとすれば、見たこともない場所にジャンプ出来るけど、扉を隔てた屋内から屋外へのジャンプは出来ないってところよ。
「成る程、便利なスキルをお持ちで」
「ん、まぁ……な。色々大変だったけど、何とか生きてるって感じだぜ」
急に遠い目をして宙を眺めてるんだけど、過去に何かあったらしい。
まぁ、それはいいとして……
「私達はもう自由にして大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ないぞ」
よし、なら早いとこ首都に向けて出立しよう。
「そっちの娘さん以外はな」
辺境伯はレイネを指して言ったため、彼女はビクッとなって縮こまった。
なんでレイネだけダメなんだろ?
「そっちの……レイネだったか? 君は奴隷としての身分が確立されちまってるからな、残念だがこのまま解放――って訳にはいかねぇのさ」
よく見ると、レイネの首には奴隷の首輪が付けられていた。
思い返せばレイネが捕まる前の事は聞いてなかったわね。
そんなレイネだけど、徐に席を立ったかと思うと辺境伯の前で土下座をし出した。
「聞いてください、トウヤ辺境伯様。私の父ブリスペン・ロージアは、何者かの罠に掛かり横領という濡れ衣を着せられたのです。父は決して横領などという大それた事は行いませんが、裁判では認めざるを得ない状況に陥った父は罪を認めてしまいました。そのため私の身柄は父の同僚の男に引き渡されたのですが、その男は私を奴隷商に売り払ってしまいました。このままではアレクシス王国に居る女好きのロドリゲスという貴族の元へと送られてしまいます。どうかお助けください!」
うわぁ、中々悲惨な体験をしたのね……。
しかも全然関係ない事に巻き込まれてるし、運が悪いというか何と言うか……。
『お姉様、このレイネという少女は、アレだけの長い台詞を噛まずに言い切りましたよ。中々の快挙だと思われます』
見るべき点はそこじゃない!
それよりも辺境伯がどう対応するかよ。
「あ~、なんか訳ありっぽいな……。けどよ、奴隷落ちしてるって事は契約が成されてるって事だろ? そうなりゃ新たな契約でもってそれを回避するしかないぞ?」
新たな契約……、要は新しいご主人に、奴隷の身分から解放してもらうように頼むしかないって事ね。
でもそれを聞いてくれる人が居るとは思えないわ。
折角手に入った奴隷を解放するなら最初から買わないだろうし。
「そう……ですよね……」
レイネが凄いガックリときてるみたい。
出来る事なら手を貸してあげたいけど……。
『ところでお姉様。ロドリゲスと言えば、あのゲス野郎の事を思い出しますね』
なるべくなら思い出したくないんだけど、あのロドリゲス……あれ? そういえばさっきアレクシス王国のって言わなかったっけ?
「レイネ、そのロドリゲスってラムシートの領主の息子じゃない?」
「うん。護衛達もラムシートの街って言ってたわ」
どうやらあのゲス野郎で間違いないみたい。
本っ当に懲りない奴ね! これはもう一度灸を据える必要があるわ。
「辺境伯様に聞きたいんですけど、もしもレイネを購入した相手が契約を無かった事にしたいって申し出れば解放されますか?」
「いや、それだけだと難しいな。破棄したところで所有権が奴隷商に戻るだけだ」
そっか……奴隷商がレイネを買って、ロドリゲスが奴隷商から買ったんだものね。
「ならその購入者から私が譲り受けたら解放しても問題ないですよね?」
「――理論上は問題ないが、購入者が譲るなんて事ぁ聴いたことねぇぞ?」
そうよね普通は。
けどその前例を今から作ってくるわ、ラムシートに行ってね。
「これがレイネの契約書です」
時間にして僅か30分。
ラムシートに転移してロドリゲス本人から譲渡してもらった。
その上でロドリゲスから私に所有権が移ったという新たな契約を結んだので、今現在レイネは私の奴隷という事になる。
「――ん。確かに間違いないな。しかしどうやって了承させたんだ? 何か弱味でも握ったのか?」
「そのロドリゲスって奴は、不当なやり方で奴隷を集めた前科があるんですよ。だからキチンとお話ししたら譲ってくれましたよ?」
久々にラムシートに――いや、時間が惜しかったから直接ロドリゲスの書斎に転移したら、有り難い事にちょうど本人が居たのよね。
久しぶりの対面に顔を青くして喜んでくれたので、じゃあ色々とお話ししましょ♪ って感じに上手く話が進んでいった訳よ。
ただし帰り際にロドリゲスを見たら、頬が倍以上に腫れ上がってたけども。
虫にでも刺されたのねきっと。
「お、おう……。よく分かんねぇが、丸く収まった事にしとくぜ。――これで事情聴取は終……っと、忘れるとこだった。最後にアマノテラスって奴に関してだが……」
そうそう、それも大事な事よ。
そもそもミリオネックに来たのはアマノテラスの件が有ったからなんだし。
「すぐに討伐令が出る事は無いと予想するぜ。出るとすれば軍備が整ってからだな。それか黙認してやり過ごすかのどちらかだろう。なんで、もしかしたらお前さんにも協力を依頼するかもしれんが、そん時は宜しく頼む」
「そういう事なら協力します。その了解を得るために首都に向かってたんで」
アマノテラスのダンジョンを攻略出来るなら願ってもない事よ。
「そいつぁ助かる。――よし、今度こそ事情聴取は終わりだ。協力感謝するぜ」
「はい、ありがとう御座います」
これで一応は収まったんだけど、今度はレイネが感極まって私に抱き付いてきたのよ。
涙を流しながら何度も何度もありがとうって言われて、ちょっと照れくさかった。
それを見た辺境伯が「お前さんが男だったら良い絵になるんだがなぁ」って言ったけど、余計なお世話です。
邸を後にすると昼下がりの時間帯になってたので、今日のところは宿屋で1泊して明日の朝に出立する事にした。
事情聴取で疲れたのも有るしね。
「それにしてもアイリがダンジョンマスターだなんて思わなかったわ。しかも凄く強いんでしょ?」
「もっちろん! あらゆる危険に対処するためには私自身も強くないといけないし、頑張って強くなったのよ」
ダンジョンでレベリングしてた頃を思い出すわね。
まだ1年も経ってない筈なのに、遥か昔に感じるというね。
「レイネさん、あまりお姉様を持ち上げないでください。すぐに調子に乗ってしまう上に、ファンクラブまで作ってチヤホヤされてイダダダダ! 止めてくださいお姉様! 訴えますよ!?」
「アイカこそ、微妙に嘘を混ぜて私の悪評をバラまくのは止めなさい! 訴えるわよ!?」
そんな2人のやり取りを見て、レイネからクスリと笑い声が溢れる。
「フフフフ、仲が良いのね」
「ちょくちょく喧嘩してるがのぅ」
「喧嘩するほど~、というやつですね~♪」
そんな訳で、明日からレイネを連れて首都ダラーに向かう事になったのである。
トウヤ「今回はポータルジャンプの説明だ。こいつは知らない場所にでも瞬時に移動出来る優れものだが、欠点として隔離された場所には転移出来ねぇんだ。例を上げると、自宅から外に転移する場合、扉が開いてれば転移出来るが、閉まってれば転移出来ないって事だ。それでも便利な事にはかわりないがな」




