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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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壊れたダンジョンマスター

前回のあらすじ

 ファウスト、ベタンゴートから神話を聞かされたアイリ達だが、彼等のやってる事は神話と殆ど無関係な事であった。

話を聞き終えた後、ベタンゴートの邸に居たアイリとレイネはその場で拘束されそうになるが、そこへアマノテラスの眷族が襲撃を仕掛けてきたため、事態は混迷を極めた。


「――つまり、恐怖により発揮される力はステータスを上回る可能性を秘めており、私はそれを求めているのだ!」


 一頻り話し終えたファウストは得意気な顔をアイカ達に向けるのだが、アイカは内心冷めていた。

話してた内容は壮大な神話であっても、ファウスト本人がやってる事は下らない研究だ。

恐怖だの何だの言って起きながら、他人の命を(もてあそ)んだ事に変わりはない。

恐らくは相当な数の生命が研究と証して散らしていったに違いない。


「話は終わりですか?」


「ああ終わったとも。いくら研究しても辿り着けないのであれば、後は私自信がその恐怖を体感し、理解するしかないのだ。――力を手にするためにな」


 言葉を1度区切ると、大袈裟に両手を広げて叫び出した。


「――さぁ叶えてくれ、諸君らの持つ最大限の力で最大限の恐怖を私に与えてくれ!」


 気が狂ってるとしか言いようがなかった。

最早ただの盲信者と成り下がったファウストを前に、アイカは一呼吸つくと他の2人に命じる。


「アンジェラ、セレン、ここはわたくしが()()しますので、お2人はお姉様の元へお願いします」


「うむ、承知した」


 アンジェラはセレンを担ぐとボス部屋から退散していく。

プロトガーディアンは既に送還された後なので、その場に残されたのはアイカとファウストのみとなると、アイカは静かに語り出す。


「――ファウスト、他人の命を粗末に扱うあなたには分からないのでしょうね、命の重みというものが」


 この時、アイカの脳裏には、涙で顔を歪ませた子供達が浮かんでいた。


「そんなに力が欲しいのならば、あなた1人でやってなさい。永遠と実らない成果を求めて、1人でさまよい朽ち果てなさい」


「説教かね? だが人間や獣人など掃いて捨てるほど居るではないか。その一部が犠牲になったところで何だというのだ? 多少減ったところで放って置けば直ぐにでも増えるのだ。何の問題も無いではないか!?」


 最早何を言っても無駄。

そう思ったアイカの決断は早かった。


「アイシクルジャベリン!」


 複数の氷の槍がファウスト目掛けて飛んでいき、両手両足を壁に縫い付ける。


「グウォォォ!? 何という強烈な痛み! 苦痛だ、私は今苦痛を味わっているのだ!」


 血を流しながら痛みに対して高揚する姿は、誰が見ても重度の変人かマゾヒストにしか見えない。

そんなファウストに無表情で近付くアイカは、途中で足元に眼鏡が落ちてるのを発見する。

それを拾い上げファウストに掛けると、アイシクルランス――ジャベリンよりも太い槍を至近距離から腹部へと放った。


「ガハァッ! 激痛だ、激痛が走る! これが死への恐怖かぁぁぁ!」


 血を吐きながらも言葉を発する姿にやや感心しつつも、アイカは別れの言葉を口にした。


「せめて自分の死に逝く姿を、その目を通して焼き付けなさい。そのためにじわじわと苦痛を受けるように処置したのですから。では永遠にさようなら」


 その言葉を最後に、アイカもボス部屋を後にする。

残されたファウストは即死する事はなく、死ぬまでの間で十二分に激痛を味わうと……


「さぁ……いよいよだ。わ、私は……力を手にするのだ……。力を……力を……ちか……ら……」


 妄想に取りつかれた哀れなダンジョンマスターの最後であった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 一方のこちらはアイリとレイネ。

突如として現れたアマノテラスの眷族(けんぞく)により、事態は混迷を極めつつあった。


「滅びよ! 竜魔流砲(ドラゴニックストーム)!」


 くっ、また放ってきた!


「レイネ、しっかり掴まってて!」

「わわわわ分かったぁ!」


 フェザードラゴンのブレスが着弾する前にレイネを抱えて崩れた建物から飛び出す。

その直後にブレスが着弾すると、半壊した建物が全壊した。


『アイカ、あのフェザードラゴンを銃撃出来ない?』


『現状は無理です。バリアでベタンゴートを守らないと勝手に死んでしまいそうですし、あの高度では銃撃しても回避される可能性が高いです』


 今ドローンはベタンゴートの頭上でバリアを張ってるみたい。

コイツは生け捕りにする必要があるから死なれては困るのよ。


「ええぃ何をしておる! さっさと奴を撃ち落とせ!」


 ベタンゴートが地団駄を踏みながらガーディアン達に激を飛ばす。

すると彼等は何処からか持ってきたボーガンを構えて、一斉に上空へと放った。


「フハハハハハ! ぬるいわ!」


 けれどフェザードラゴンには優々と避けられる。

やはり高度が高いだけに命中には到らない。


(どうしよう。レイネを抱えたままだと戦えないし、かといってレイネを放置するのも無理だとすれば……)


「諦めろ。貴様はここで終わりだ! 我がマスターの雪辱、貴様を仕留める事で晴らしてくれよう! 竜魔流砲ドラゴニックストーム!」


「くっ、上空に居るのが面倒ね。何とか落とせれば……ひゃっ!?」


 ブレスを避けようとしたら、足場が傾いてバランスを崩した。

更に傾いた勢いで、抱えてたレイネがスローモーションのように手から離れていく。


「マズい!」


 私は大丈夫にしても、レイネがアレを受ければ即死は免れない!

そこへ上空からブレスが叩き込まれ……






 ズウゥゥゥゥゥゥン!


「フン、この程度のブレスなんぞ、片手で充分じゃ!」


 着弾直前に横から現れたアンジェラが文字通りに片手で受け止める事に成功する。

すると今度は受け止めたソレを放った本人(竜)に向かって投げ返した。


「ぬぅお!? ――と、まさかブレスを投げ返す者がいるとはな……」


 惜しくもブレスはフェザードラゴンを掠めて飛んでいき星の仲間入りを果たしたけれど、一時的に相手を怯ますには充分だった。


「ありがとうアンジェラ! もう少しでレイネが死ぬところだったわ」


「フフ、眷族として当然の事をしたまでじゃ」


 ただ肝心のレイネは白目を向いて気絶しちゃったけれども……。


「フン、面白い。まずは貴様から葬ってくれよう!」


 フェザードラゴンの標的がアンジェラになったところで、一旦その場から遠くへ離れる。

近くに居るとレイネが危ないしね。

そして移動した先は森を大きく切り開いた場所のようだから、魔物の襲撃も無さそう。

とりあえずここなら安全だと思うわ。


「アイリ様~、ご無事で良かったです~♪」


「あ、セレン、いいところに」


 遠くからセレンが走ってきた。

上手くセレンとも合流したので、レイネを任せてアンジェラの元へ舞い戻る。

理由は当然、あのクソッタレ(フェザードラゴン)を一発ぶん殴るのと、ベタンゴートを拘束するためよ。

 現場では相変わらずベタンゴートが上空を眺めて地団駄を踏んでたので、颯爽(さっそう)と近付くと腹に一撃当てる。


「とりあえずアンタは寝てなさい!」


 ドスッ!


「ぐお!?」


 まずはベタンゴートを気絶させてドローンに任せると、アンジェラ達が戦っている上空を見上げた。

すると丁度いいタイミングでフェザードラゴンを地上に叩き落としたところだった。

 というかアンジェラ、人化しててもAランクのモンスターと戦えるのね。

もしかしてSランクの相手も人化のままいけちゃう感じ?


 ズズゥゥゥン!


「グハァ! ば、バカな……ただの人間ごときがこの俺に勝てる訳がぁ!」


 どうやらアンジェラを人間と勘違いしてるらしいけど、既にその時点でコイツの負けよ。

Aランクのコイツに出来るのは、SSS(トリプル)ランクのアンジェラから逃げる事だけなんだし。


「ふざけるなぁ! この俺が負ける筈がねぇんだ、こんなりゃ最後の手段だ!」


 いかにも最後の手段というようにフェザードラゴンの全身が燃え上がる。

アンジェラに向けて大きく口を開くと、燃え盛る巨大なブレスを吐き出した。


「これで終りだ! 羽竜の幕引き(ドラゴニアレクイエム)!」


 一直線に延びるそれを正面に見据えたアンジェラは、余裕の笑みを浮かべる。

アレを受け止めてフェザードラゴンの心をへし折るつもりね。


「フン、つまらん技じゃ」


 そしていよいよアンジェラの元に届いたそのブレスを!






 ヒョイ!


「アレ?」


 アンジェラったら受け止めずに横に避けちゃったので、思わず念話で突っ込む。


『ちょっとちょっと、そこは受け止めた後にドヤ顔を決めて、バカナァァァ! って悔しがらせる場面じゃねいの?』


『何故に(しゅ)はそのような演出に拘るんじゃ? そもそもそんな事をしたら服が溶けてしまうわい。それでも妾は構わんが、(しゅ)としてそれはダメだと言うとったではないか』


 そういえばそんな事を言った覚えがある。

アンジェラのような美人が人前で裸になるのは絶対に禁止よ。

いや、アンジェラでなくてもダメなんだろうけど、特に女の人はね?


「グオォォォ! おのれぇ、ちょこまかと猪口才(ちょこざい)な動きをしおってぇ!」


 さて、そろそろ喧しいコイツに止めを刺してやろう。

の、前に……


「よくもいきなりブレスをかましてくれたわね? このぉ!」


 ゲシッ!


「グワァァァ!」


 これでよし。

顔面を思いっきり蹴ったらスカッとした。


「アンジェラ、止めを刺しちゃって!」


「承知じゃ」


 頷くと、上空からフェザードラゴン目掛けて一気に急降下してくる。


「セェイ!」


「ギャァァァァァァ!!」


 そのまま土手っ腹を踏み抜くと【グチャ!】っというようなグロテクスな音と共に、開いた穴から大量の血液が流れ出す。

これが本当の竜血……って下らない事は言うつもりはない……コホン。


「ホレホレ、悔しかったら反撃してみよ」


「アガガガガガガガァァァァ!!」


 最早殴られる一方となり、徐々に動きが鈍くなっていくのが分かる。


「さぁて、止めと行こうか。フンヌ!」


 ズドォォォン!


 最後に心臓目掛けてアンジェラの拳が巨体にめり込むと、1度ビクンと跳ね起きるのを最後に……


「グゥゥゥ……アマノテラス様ぁ……申し訳……ありませぬ……グハァ!」


 とうとうフェザードラゴンは力尽きた。


 ふぅ、敵は掃討したわね。

いつの間にかプロトガーディアンも消えてるし、恐らくはファウストも死んだんでしょ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そして夜が明けた……って、そんな単純な朝を迎えた訳じゃないわ、もう報告しなきゃならない事が多すぎるのよ。


 まずは自主的に盗賊やその他の犯罪に手を染めたケオル村でしょ、そして悪趣味な人体実験やらを行ってたファウストでしょ、そのファウストと組んで恐怖体制を行ってたベタンゴートでしょ、最後にアマノテラスからの襲撃よ。

これら全部をダンジョン通信で流したのよ。

伝えた相手はキャメルさんと、ミリオネックの集いにいるダンマスね。

特にミリオネックの集いは蜂の巣をつついた大騒ぎになってるわ、現在進行形で。


 これに関して近隣の領主がすぐに駆け付けてくれて、ロータルの街でベタンゴートを引き渡した。

ロータルの街の住人はもれなく恐怖支配を受けてたので、その証言を元にベタンゴートは仮の有罪が確定し、そのまま首都に連行されてった。


 って、私ら取り残されるみたいなんだけどどうしたらいいのかって聞いたら、もうすぐ辺境伯が来るからここでの事を話してくれって言われた。

どうやらもう数日間は移動出来そうにないらしい……。


レイネ「あのぉ、私はどうなったの?」

アイリ「ちゃんと生きてるから大丈夫よ」

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