天魔戦争
前回のあらすじ
1階層を突破したアイカ達3人は、2階層のボス部屋でも質の悪い仕掛けを目の当たりにする。
憤りを募らせつつ3階層のボス部屋までたどり着くと、そこには白いマントを身に付けた細身の男、ファウストが待ち構えていた。
一方のアイリも、念話を通したアイカによる援護のもと、ベタンゴートの部屋へとたどり着くのであった。
天使族……それは神の手足として働く存在で、時には地上に降り立つ事もあった。
そんな彼等の掟として、地上に生きる者との強い結び付きは禁止されていたのだが、ある時1人の女性天使が地上に居る魔族と結ばれ、天界は大いに揺れる。
当然その天使は天界に戻る事を許されず永久追放となったのだが、事態はそれだけでは収まらなかった。
それを切っ掛けに地上の者と添い遂げる天使族が続出したのだ。
その結果天使族の間でも意見が割れ、地上の者と結ばれるのに理解を示す者と示さない者とで二分される事になり、理解を示す者は天界を去っていく。
その時を境に、天界の天使族と地上の悪魔族との抗争が始まるようになり、両者の溝は益々広がっていく。
それでもその時はまだマシな状態であった。
両者の悪感情は有りつつも、天使族と悪魔族との度々起こる抗争に地上の者達――ひいては地上の国々が頭を悩ませる程度で済んでいたのだから。
だがそんなある時、一組の女性天使と人間の男の夫婦の元に1人の天使族の男が訪れた。
その天使族を見た女性天使は表情を曇らせるのだが、その理由は訪れた天使族が実の兄だったからである。
妹夫婦の前で仁王立ちする兄の目的は、妹を天界に連れ帰る事。
勿論掟により妹は追放を受けた身であるのだが、兄としては天界に連れて帰った後に神々に対して悲願するつもりでいたのだ。
しかし妹の方は天界に戻る意思は無く兄に対して背を向けるのだが、兄としては断じて受け入れる事は出来なかった。
尚も粘り強く説得を試みる兄であったが、妹の意思は固く頑として首を縦には振らない。
そこで兄は最終手段として力ずくで連れ帰る事を選択する。
当然の如く抵抗する妹に夫である人間の男が加勢するが、力の差は歴然でまさに焼石に水であった。
だが人間の男は怯まない。
愛する妻を守るため、絶対に勝てない相手に対して必死で戦った。
兄の方も仕方なしに戦うが当然本気を出す訳にはいかず、手加減して戦っていた。
そうしなければ戦闘経験の無い人間など一溜まりもない。
どれだけの時間が経っただろうか。
最初は3人しかその場に居なかったのが、いつの間にか大勢の人間や魔族、エルフにドワーフ、更には天使族と悪魔族も、事の行方を見守っていた。
そんな中、とうとう事態は動き出す。
天使族の兄が手加減を誤り、人間の男を殺してしまったのだ。
それを目の前で見ていた妹は激怒し、兄に襲い掛かる。
必死に宥めようとする兄だが、憎しみにまみれた妹は聞き入れようとしない。
妹を殺したくない兄は最後まで全力で戦う事せず、ついに妹の剣によりその身を切り刻まれてしまう。
その直後放心状態にあった妹は直ぐに我を取り戻し、何かをポツリと呟いた後、自身の剣でその命を絶つのであった。
そしてこの事件は世界を激震させる引き金となり、これまで行われてた抗争が戦争へと発展する事に。
これが天魔戦争の始まりである。
「とまあこんなところだな。因みに妹天使が最後に呟いた内容は不明で、兄に対しての怨みか、夫に対しての謝罪かは一切分かっていないようだ。ここまでで何か質問はあるかね?」
一旦話を区切ると、眼鏡の位置を正し真っ直ぐアイカを見据えてくる。
そんなファウストを直視し、思った疑問をぶつけた。
「やけに詳しいですね? 神話としてそこまでの記述は無かった筈ですが、何処でその話を知り得たのです?」
アイカの言うように、神話として地上に広まってるのは大昔に天使族と悪魔族が戦ったという事実だけで、詳細には触れられていない。
今では悪魔族と天使族くらいしか知る者は居ない筈なのだ。
「言ったであろう? 私の転生前は魔族であったと。その時の記憶は残ってるのだよ」
(そういえば天使族と戦ったと言ってましたか。つまり天魔戦争の時代に生存していたという事ですね)
「まさに天変地異の始まり――とでも例えられる規模の戦争だった。それこそ世界中の国々が悪魔族と共に戦争を始めたのだ。天使族を相手にな」
目を閉じて回想にふけるファウストに、今度はアンジェラから質問が飛び出した。
「まるで神への反逆じゃな。天使族とは神の遣いであろう? そのような事をして只ですむとは思えんが、その辺はどうなのじゃ?」
「その通り。当然天界も黙って見てはいなかった。一丸となって天使族に向かってくる者達に対処するため、新たな敵を作り出したのだ」
「「「新たな敵?(ですか~?)」」」
「そうだ。神々が目を付けたのは、人里離れた場所で慎ましく生活していた生命体……」
やや勿体つけたように一時中断し、眼鏡を拭いて掛け直す。
「――動物達だよ」
(動物達? つまり魔物……いや、魔物は神々が作り出したものではない筈です。悪魔族と天使族の仕事の一部が、増えすぎた魔物の処理だとされています。ならば魔物ではない何かという事に……あっ!)
「ま、まさか!?」
「そう。獣人が誕生した瞬間だ!」
獣人……動物と人が雑ざった亜人の事だ。
だが一言で獣人といっても、猫獣人や虎獣人といった様々な種族が存在する。
「このまま放置すれば天使族が死滅してしまう可能性があったため、神々は厳選した動物達に力を与え、天使族を助けるよう命じたのだ」
つまり天魔戦争は、人間、魔族、エルフ、ドワーフが加勢した悪魔族と、獣人が加勢した天使族とで行われたのである。
「待ってください。天魔戦争については分かりました。が、それとあなたの行った下らない研究とどう繋がるのです? 全く関係ないじゃありませんか!」
語気を強め、詰め寄ろうとするアイカをアンジェラが押し止める。
それを見たファウストは溜め息をつくと、ヤレヤレといった感じに肩をすくめた。
「せっかちだねぇ君は。当然関係はあるから黙って聞きたまえ」
その戦争は何年も続き、激化する一方であった。
地上の者達は獣人との戦争に明け暮れ、悪魔族と天使族の戦争も一向に終わりを見せない。
この事態に神々は焦りを見せ始める。
只でさえ神が拵えた獣人との戦争が行われてる上、戦の爪痕により戦争孤児が続出したため、地上の者達による信仰心は激減したのだ。
これは一方の獣人達も同じで、能力を与えられた当初は信仰心が高かったのだが、何故犠牲を出し続けてまで戦わなければならないのかという不満が噴出し、次第に信仰心が失われていくのであった。
神々が恐れたのは信仰心が完全に失われる事にあった。
何故なら、神々が一柱の神として存在するには信仰心が必要不可欠であったからだ。
もしも信仰心が完全に失われるとどうなるか……その答えは、世界そのものの消滅。
つまり、イグリーシア自体が消えて無くなってしまうのである。
故に、焦る神々が取った行動は、信託を下して戦争を中断させるという方法で、最悪の事態は免れたのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「――とまあ、こんなところだな」
凄く物知りな爺さんね、この禿デブ爺。
でもお陰で色々と分かったわ。
悪魔族の国に行った時、ディスパイルとの食事中に途中で止められたのは、天魔戦争の引き金となる話で物悲しくなるからだったのね……。
「何でそんなに詳しいの? アンタもファウストと同じで転生者な訳?」
「うむ、ズバリその通りだ。儂の転生前は獣人で、天使族の兵隊のようなものだったな」
やっぱり転生者か。
ファウストもベタンゴートも、前世は遠い昔のイグリーシアで生きてたって訳ね。
因みにファウストの事は、アイカから念話で教えてもらった。
「でもそれだと、理想郷とやらの話とは繋がらないみたいだけど?」
ソファーでふんぞり返ってるのを見るとムカついてくるから、さっさと続きを話してほしいわ。
「なぁに、ここからが本番だよ。――休戦したとはいえ戦いの傷痕は深すぎた。荒れ果てた大地を甦らせるのにどれ程の時が必要かも想像出来ないくらいにな。だがそんな弱りきったイグリーシアに本当の危機が訪れた」
「本当の危機?」
「異世界からの侵略を受けたのだ。このイグリーシアがな」
異世界って……まさか地球って事はないだろうし、それ以外の世界が存在するって事なの? いや、イグリーシアがあるんだから有ってもおかしくないか……。
「当然これによりイグリーシアは天魔戦争どころではなくなった。見たことも無い謎の生命体が多数現れ、地上に生きる者達は次々とその命を刈り取られていく。これにより地上の者達は大いに恐怖し、神々へ祈った。それはもう必死な思いだった。悪魔族も天使族も次々と討ち取られていくのだから、出来る事と言えば神に祈る事だけだ」
天使族や悪魔族が次々と……その異世界生命体とやらは相等ヤバい奴等のようね。
「だが地上の者達にも希望が見えた。皮肉にも異世界の生命体により信仰心を取り戻した神々は、満を持して地上へと降臨。異世界勢を次々と駆逐していき、ついにある場所に追い詰めると、そこへ封印したのだ」
めでたしめでたし――と言いたいところだけど、肝心の理想郷とやらが不明のままなんだけども……。
まさか忘れてる訳じゃないでしょうね?
「そこでだ。儂は思い出したのだよ、異世界からの侵略者に対し恐怖した地上の者達だが、彼等の中には死ぬ間際にとてつもない力を発揮した者達が居たことをな」
それって火事場のばか力みたいなものなんじゃないだろうか?
いや、正確には分かんないけど。
「そこで儂は志を同じくしたファウストと協力し、恐怖による支配体制を目指す事にした。これこそが儂の画いた屈強なる国――未来像なのだ!」
何だか精神論が混ざったような中途半端な未来像にしか見えないわね。
それに恐怖体制とか独裁政権じゃあるまいし、時代を逆行してるようにしか見えない。
「だが残念な事に貴様らは知り過ぎた」
勝手に喋っておきながらそれを言うんですか……って思ってる間に、扉からプロトガーディアンが数体入って来た。
「ガーディアンよ、その2人を『上空から強大なエネルギー反応! お姉様、伏せてください!』
急なアイカの念話により、レイネと共に部屋の隅へと伏せる。
その直後!
ドゴォォォォォォン!!
激しい爆音と共に土埃やら砂埃やらが舞い上がり、視界がほぼゼロになる。
『今視界を良好にします』
ドローンの風魔法エアーを放つことで埃を吹き飛ばすと、半壊した部屋の天井が綺麗サッパリ無くなっていた。
あ、レイネは!?
「レイネ、大丈夫!?」
「ケホッ、ケホッ。う、うん、何とか大丈夫みたい」
良かった! 巻き込んじゃった上に怪我でもさせたら洒落になら無い。
「ウッ、ゴホッゴホッ! ええぃ、いったい何事だ!?」
その場の全員が夜空を見上げる。
するとそこには1体の巨大な飛竜……ってコイツまさか!
「見付けたぞ、憎きダンジョンマスターアイリ。我がマスターの命により、貴様を抹殺する。覚悟するがいい!」
やっぱり見た事があると思ったら、コイツはアマノテラスの眷族よ!
ファウスト「おお! 期待のルーキーともてはやされてるアイリが我がダンジョンに! 早速ダンジョン通信で自慢しよう!」
アマノテラス「よっしゃ! 居場所特定!」




