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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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理想郷

前回のあらすじ

 呪いにより村の子供達が犠牲になるのを目の当たりにしたアイカは、それを施したファウストに対して激しい怒りを覚えつつ2階層へと進む。

一方のアイリもレイネの空腹を満たした後、牢を脱出するのであった。

 1階層のボス部屋を突破し2階層を突き進むアイカ達だが、彼女達――特にアイカは重苦しい空気を漂わせていた。


「アイカよ、あまり思い詰めるでない。子供達が犠牲になったのはファウストというふざけたダンジョンマスターのせいじゃ。断じてお主のせいではない」


「分かってますよ、そのくらい」

(分かってはいるんです。ですがどうしても納得がいかないのです。呪いに気付けなかったのもそうですが、もっと別のやり方ならば、あの子達は犠牲にはならなかったのではないかと思えて仕方がないのです)


 だが結局のところ、どうすればよかったのかと言われれば答えようがない。

他に方法が無い以上、あのような結果になるのは必然であるというジレンマに襲われていた。


「ファウスト……楽には死なせません。絶対に……絶対に後悔させてやります! ファイヤーストーム!」


 ジレンマを振り払うかのように砂岩で出来た遺跡エリアの通路をひた走り、横道から現れたプロトガーディアンを焼却する。

 そんなアイカを他2人が心配そうに背後から見守っていた。


「アイカよ、気持ちは分かるが少し落ち着け。冷静さを失えばファウストの思う壺だぞ?」


「そうですよ~? あのような外道など~、まともに相手してはいけません~」


「………………」

(確かにそうかも知れませんね。お姉様のように冷静に冷静に……おや? よくよく考えてみれば、お姉様は冷静さを失って感情的になる事が多いような……まぁ気のせいかもしれませんし、この件は保留にしましょう)


 奇しくもアイリの普段の行いにより、アイカの感情は若干やわらいだようだ。


「む? このルートは行き止まりですね、他へ進みましょう」


 行き止まりに出たため引き返そうとするアイカを、セレンが呼び止めた。


「アイカさん~、この先から~、水流が感じられます~♪」


「水流ですか? しかしここは現に行き止まりで進めませんが……。それに水流が有るからといって、そこがボス部屋かどうかは分かりませんよ?」


「でも~、何となく~、気になるんです~」


 アイカの言うように、水流とボス部屋が結び付くとは限らない。

それにその水流が罠の可能性もあり、盲信するのは危険だ。

だがセレンは中々考えを曲げる事はせず、水流に拘っていた。


「そこまで言うのなら試してみましょう。アンジェラ、この壁を思いっきり殴ってみてくれませんか?」


「この壁をか?」


 本来ならダンジョンの壁は不壊となってるので破壊するのは不可能の筈。

なのでもし隠し通路があるのなら、破壊する事が出来るのだが……


「ではいくぞ――ハッ!」


 ドゴォォォ!


 遠慮無しのアンジェラによる一撃を行き止まりの壁に叩き込む――のだが……


「むぅ……どうやら破壊は無理のようじゃな」


 やはり破壊は出来ず、ダンジョン本来の壁としての役目を果たしていた。


「おかしいですね~」


 だが納得がいかないセレンは、壁をペタペタと隈無く調べ回す。

正面の行き止まりのみならず左右の壁も調べた結果、セレンはあるものを発見した。


「あ! ありました~、鍵穴です~♪」


「鍵穴ですか? どれどれ拝見させていただきます……深さ10㎝といったところですね」


 だが鍵穴が有っても肝心の鍵が無ければ意味がない。

ダンジョンの何処かに有ると思われるが、探し出すのは骨が折れそうだ。


「こういう時に座標感知(ゲットスキャン)のようなスキルがあれば見つけるのは容易いのですが、生憎スキルを保持したドローンはお姉様の元へ向かわせましたし、何か別の方法で……ん?」


「侵入者を発見、直ちに排除する!」


 打開策を模索していると1体のプロトガーディアンに発見されてしまったため、空かさずアンジェラが叩き壊し消滅させた。

 それを見たアイカは「これだ!」と言わんばかりに手をポンと叩き、モンスターの召喚を始める。


「汝に告げる、我が飛報に応じ、忠実なる我が下僕となりて、その才を(とどろ)かせよ! 迷宮魔召喚(サモンモンスター)!」


 ――等と割とカッコいい台詞を並べてるが、アイカは一連の流れをスマホをポチポチと操作しながら行ってるので、非常にアンバランスに見える。

 が、それとは別に召喚自体は成功し、アイカ達の前には1体のプロトガーディアンが召喚されていた。


「ふむ、プロトガーディアンか。だが1体だけ召喚しても焼石に水ではないか?」


「何を(おっしゃ)いますか。このプロトガーディアンには座標感知(ゲットスキャン)が備わってるのです。このスキルを使用すれば、探し物はあっという間ですよ」


 アイカは以前ダンジョンバトルで魔法少女シーラと対戦した際に、プロトガーディアンが座標感知(ゲットスキャン)を使用してたのを思い出したのである。


「さぁプロト君、この鍵穴に合うサイズの鍵を見つけるのです」


「了解。――スキャン完了。探し物は地上にある建物の中です」


 安直にプロト君と名付けられたプロトガーディアンが発見したのは、地上の建物の中――つまり……


「あの豪邸の中じゃな。よし、ならば妾が行って来よう。アイカ達はここで待っておれ」


 直ぐに地上へと向かったアンジェラであったが、困り顔を作りながら1分も経たない内に戻って来た。






「詳しい場所が分からぬ……」


「……プロトを連れてってください」


 思わぬアクシデントに見舞われたが、その10分後という超スピードで見事鍵を持って現れたアンジェラを迎える事になり、早速鍵を差し込んでみた。

 するとゆっくりと正面の壁がスライドし、水路が脇にある隠し通路が姿を表したのだった。


「行きましょう」


 アイカを先頭に足を踏み入れると、あのすかしたダンマス――ファウストが再び語りだした。


『時に水というものは生命の水とも呼ばれ、それ無しには生きて行く事は出来ない。諸君らの傍らに同行するプロトガーディアンのようなゴーレム型の魔物は別だか。その脇に流れている水を血液と準えるとどうだろう? その水を塞き止める事はすなわち、血流を止めると言い換える事も出来るのではないか? さぁボス部屋はすぐそこだ、心して挑みたまえ』


 ファウストの言う通りボス部屋はすぐ近くにあったようで、難なくたどり着く。

ゆっくりと扉を開けると、中には天井から鎖で繋がれた成人男性と成人女性が目を閉じた状態で拘束されていた。


「アイカよ、彼等の下を見てみよ」


 アンジェラは下に流れている水路を発見する。

それは管を通して彼等に水を供給してるように見えた。


「とことん悪趣味ですね。この水を止めて彼等を殺せば先に進めるという事なのでしょう」


「それだけでは~、ないようですよ~?」


 更にセレンが発見したのは、入口の横に設置されたガラスの容器だ。

中身は毒々しい紫色をした液体が溜められており、横に傾ける事により、それが水路に流れ落ちるようになっている。

それを見たアイカは、よりいっそうファウストへの憤りを募らせた。


「毒……ですね。わたくしはこれ以上ファウストの趣味に付き合うつもりはありません。――アンジェラ!」


「承知した!」


 アイカの意図を理解したアンジェラは拘束された2人の鎖を引き千切り、彼等を抱えて着地した。

だがアイカの予想を裏切る事実が判明する。


「アイカよ、この2人は既に事切れておる。ファウストというダンマス……とことん悪趣味な奴じゃな……」


「どっちにしろ同じだったという事ですか……」


『ふむ――予定とは少し違うが、クリアーおめでとうと言っておこうか。さぁ次の階層で最後だ、お会いするのを楽しみにしているよ』


「くっ……ファウスト!」


 唇を噛み、黙ってボス部屋を抜ける。

抜けた先の階段を下りるとそこは廃墟ステージとなっており、崩れかけた家屋がそこらじゅうに放置されている。

気にせず進もうとするアイカだったが、家屋からゾンビがわらわらと沸き出てきた。


「相手をせずに先へ進みましょう」


 1度立ち止まったが、ゾンビを無視して進む事を選択した。

そこへまたしてもファウストの声が届く。


『彼等は不運にもこのようなおぞましい姿に変貌してしまった哀れな村人――いや、元村人――といったところかな。まぁ相手をしないというのが正しい選択だろうな。諸君らが進む先に教会が見えてくるので、そこへ行きたまえ。その教会こそがボス部屋となっているのでな』


 暫く走ってると、ファウストの言う通り屋根に十字架を掲げられた教会が見えてきたので、扉を開けて中に入り込む。

 すると部屋の中央に、白いマントを身に付けた細身の男が待ち受けており、掛けていた眼鏡をかけ直し名乗り出した。


「対話するのは初めてではないが、一応名乗らせていただこう。私はファウスト、今は人間のダンジョンマスターとして生存しているが、転生前は魔族として天使族と戦っていたのだよ」


「転生前……つまりあなたは転生者だというのですか? それに天使族と戦っていたというのはいったい……」


 ファウストは自身を転生者だとカミングアウトしたが、それよりもアイカは天使族と戦っていたという内容が気になっていた。


「おや、ご存知ないかね? かれこれ1000年以上も前の話になるが、1人の天使族の女性が地上に降臨した際に魔族の男と恋仲になるという話を」


 これは以前、悪魔族のディスパイルがアイリとのデート中に話した内容と被る。

だがアイカを含む3人は詳しくは知らないため、首を横に振った。


「ならば話そうではないか。1000年以上前に何が起こったのか。そして何故私が恐怖というものを研究しているのかを……」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 牢を脱出したアイリとレイネは、出たまでは良かったものの地上への出口が分からず、洞窟内部をさ迷っていた。


「ねぇアイリ、出口がどこか分からないのよね? 大丈夫かな……」


 握られた手からレイネが無意識に力を込めてるのが分かる。

脱出するまでは不安を拭えないわよね。


「大丈夫。きっと脱出出来るから」


 とはいえ、レイネを連れた状態で闇雲に移動するのは危険だし、罠があるかもしれないから慎重に移動せざるを得ない。


『お姉様、この先のT字路は右側にプロトガーディアンが居ます。物陰を利用してやり過ごしつつ、その先へ進んでください』


 アイカからの念話!?


『アイカ、近くに居るの?』


『はい。――と言っても居るのはドローンですけどね。今は先程話したT字路に居ます』


 ドローン? そんなのどこにも……あ、そっか、特殊迷彩(ステルス)を使用中なのね!


 それからアイカに先導される形で進んでると、大きめの扉の前に出た。

どうやらここが出口のようね。


『いえ、そこは出口ではありません。ベタンゴート侯爵の居る部屋です』


『ちょっと待って。何でそいつの居る部屋に誘導させられたの?』


『今わたくしはファウストというダンジョンマスターと対話中なのですが、ベタンゴートの居る邸の地下はダンジョンの一部らしいのです。なので我々がダンマスを倒すとお姉様の居る邸が崩壊する可能性がありますので、その前に身柄を拘束してほしいのですよ』


 そういう事か。

ならしょうがないわね、さっさと拘束する事にしよう。


 バァァァン!


 手で開けるのも煩わしいので、足で蹴り破って中に入った。

勿論レイネも一緒にね。


「な、何者だお前達は! この儂がベタンゴート侯爵と知っての狼藉(ろうぜき)か!?」


 貴族にしては八畳程度という手狭なスペースに備えられた光沢のあるテーブルの横に、豪勢なソファーに身を任せてるデブった禿爺がそこにいた。


「ええ知ってるわよ。アンタのふざけた企みを潰しに来たんだもの」


 ただし、こんな醜い姿――如何にも贅沢してますって爺だとは思わなかったけども。


「ふざけおって。何者かは知らんが、儂の作り上げる理想郷の邪魔をする者は生かしては帰さんぞ!?」


 その理想郷の一部があの盗賊村だとしたら笑えないわね。


「え、え、ええ!? ね、ねぇアイリ、どういう事? 何でベタンゴートの部屋に来ちゃったの? それに企みって何!?」


 ああ、そっか、レイネには関係無いのに巻き込んじゃったわね。

後で説明してあげないと……と思ったら、企みというフレーズにベタンゴートが反応した。


「フフフフ、知りたいかね? いいだろう。冥土の土産として教えてやろうではないか」


 何か汚ない顔を更にグチャグチャにしながら自慢気になってるけど、教えてくれるっていうなら教えてもらおう。


「遥か昔の事だが、天使族の女が魔族の男と結ばれた話は知っておるか?」


「ええ、知ってるわ。その天使族の女性が最初に悪魔族と言われたのよね? その後の話は知らないけども」


「ならば話してやろう。その先にあった出来事を……」


アイカ「天使族と悪魔族の話は、第89話の絵画と花瓶と水差しとでディスパイルさんが語っている話の事ですよ」

アイリ「そんな話は覚えてないって人は89話をチェックね」

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