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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第6章:富と欲望のミリオネック
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新たな騒動の幕開け

前回のあらすじ

 ルール変更が行われたバトルロイヤルだったが、見事アイリは勝利する。

しかしその後アマノテラスは表に出てきておらず、何かを企んでる可能性も否定出来ないのと、ユーリの命を狙ったという事も加味して、ダンジョンを攻略する事に決めた。

そして実際に潰してもよいか国と話し合うために、ミリオネックの首都に向かうのであった。


 ミリオネック商業連合国。

今この国の首都であるダラーで、とある裁判が行われていた。

 力なく俯いたままである被告人の男の対面側には無表情なまま罪状を述べる裁判官が居り、淡々とした口調の渋い声が、傍聴に訪れた約30人に対しては倍以上の余裕が感じられる空間に響く。

傍聴席からもその様子を(うかが)う人間獣人さまざまな人達が、裁判の行方を静かに見守っていた。


「――以上である。被告人、この内容に対して意義を唱える事を許可する。弁明出来るのであれば発言を」


「………………」


 裁判官の言葉に一瞬だけピクリと肩を震わすが、相変わらず口を閉ざし続け、顔は下を向いたままだ。


「発言をしないのであれば、罪状を認めたという事になるが……よろしいか?」


「……間違い……ありません」


 念を押すように発せられた言葉に俯いた顔を裁判官に向けると、罪状を認める旨を伝えた。

その瞬間、傍聴席がざわつき出すが、裁判官の「静粛に」という言葉で再び静けさが訪れた。


「被告人ブリスペン・ロージアを有罪とし、無期懲役の鉱夫刑(こうふけい)に処する!」


 鉱夫刑とは、鉱山で採掘する鉱夫という役割を刑期が終えるまで行わせるというもので、無期懲役となれば死ぬまで行わせるという事になり、実質死刑と変わらない。

いや、寧ろ死ぬまでコキ使われる事を考えればさっさと死刑になった方が楽かもしれない。


「おとーさぁぁぁん!」


 傍聴席から被告人の娘が泣き叫び証言台に駆け寄ろうとするも、警備員に止められ引き戻された。

そんな我が子に会わせる顔が無いと考えてか、被告人は顔を背けたまま黙って連行されていく。


「うぅ……お父さん……」


 裁判が終わり傍聴していた者達がゾロゾロと退場する中、すすり泣く被告人の娘だけがその場に取り残されるのだが、そこへ1人の中年男が近寄って行く。

娘が顔を上げると、そこにはよく知ってる相手である父のライバルとも言える男が、胡散臭いニヤケ顔で見下ろしているのだった。


「いやはや大変な事になりましたなぁ。商人ともあろう者が横領を行うなど、商人の風上にも置けませんぞ!」


 わざとらしく大袈裟に語気を強め、必要以上に被告人が凶悪であると言わんとするこの男の名前はザルカームという商人で、被告人のブリスペンと同じ商会で働く同僚である。

いや、()()()と言うのが正しいかもしれない。


「しかもですぞ、見つかったのは横領の一部でしかありません。きっと残りは何処かで使い果たしたに違いありませんなぁ」


 ブリスペン宅で見つかったのは、横領された金の一部に過ぎなかった。

だが実際ブリスペンは貧しいながらも寝る間も惜しんで働くほど真面目であり、更には気の小さい男である事から横領など行うとは考えられない……いや、事実彼は嵌められたのだ、何者かによって……。


「ですがご安心下さいレイネさん。あの男から貴女を譲り受けた以上、あの男の事は忘れ、()()()()()を歩む事に死力出来るのです」


 ブリスペンの娘レイネはキッと鋭くザルカームを睨み付けるが、男は構わず続ける。


「既に()()()との話も済んでますので、何も気にする必要はありませんぞ」


「奴隷商って!」


 確かにザルカームは奴隷商と言った。

レイネは信じられないという顔で立ち上がり、掴み掛かろうとする。

が、ザルカームはその手を払い除けると、一枚の契約書を突き付けてきた。


「あの男と交わした契約書です。あの男に代わり、貴女を引き取るという旨が記されてるのが分かりますね?」


 契約内容に対し互いのサインが記されているので、嘘ではないという事が分かる。

仮に別の者が当人を偽ってサインをすると直ぐ様ペナルティが発動し、場合によっては即死してしまうのだ。


「だったら、だったら何で奴隷商が出てくるの!? おかしいでしょ! だってあの時……お父さんが連れてかれる時にあたしの事は任せとけってザルカームさんが!」


「ハハハハ、面白い事を言う。いいですかレイネさん……」


「な、何よ……」


 ここでザルカームは、一呼吸置いてゆっくりと言い聞かせるように話す。


「口約束は約束には……入・ら・な・い・のですよ。ククククク」


「そんな! 騙したのね!?」


 ここで騙されたという事が分かり、顔を真っ赤にしたレイネが抗議の声を上げるが、既に契約が行われてる以上どうしようもなかった。


「さぁ行きますぞ。明日には奴隷商が到着するのです。せめて身綺麗にして、極力高値を付けてもらえるようにしなくてはなりませんからな。ククククク……ハーッハッハッハ!」


「嫌よ離して! おとーさぁぁぁん!」


 既に誰も居なくなった裁判所に、レイネの悲鳴が響くのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そんな裁判が行われてから10日後の朝。

アイリ達【いちご大福】の冒険者パーティは、湖底ダンジョン近くへ転移した。


 ここは以前から銀箔蝶(ぎんぱくちょう)が出現するという噂が蔓延していたが、銀箔蝶と融合したダンジョンコアをアイリが倒した事で出現しなくなるという状態に陥ったのだ。

 そのため銀箔蝶目当ての冒険者が寄り付かなくなる事を懸念した3つの国が頭を悩ましたところ、アイリの新種の銀箔蝶を作り出すという発案により人工銀箔蝶が爆誕。

それが人目に付くようになると、以前よりも多くの冒険者が訪れており、早くも経済効果が現れてるのだという。


「――ってキャメルさんから聞いたのよ」


「成る程。やはり冒険者という者はバカが多いという事がハッキリしましたね」


 やけに毒舌なアイカに同意したいとこだけど、依頼を受けざるを得なくて来ている人達もいるだろうから、少々可哀想かなと思う。


「して(しゅ)よ、ここから何処を目指すのじゃ? ミリオネックの首都は遠いのであろう?」


 出来ればさっさと首都まで行きたいとこだけど、早く着いたらそれはそれで説明するのが面倒なのよ。

それに久し振りの旅だしのんびりと楽しみたいのもあるから、まずは最寄りの街に向かおうと思う。


「最寄りの街なんだけど、今居る大草原を北東に抜けるとリノって街があるらしいから、そこへ向かいましょ」


 その後はちょっと()()()をしなきゃいけないけどね。


 それから何事もなく半日でリノに到着すると、そのまま街を出て北東の森の中へ向かう。


「お姉様、てっきりリノで泊まるものだと思ってたのですが……」


 それでもよかったんだけど、折角近くまで来たんだから寄ってかないと。


「アイカには事前に話したでしょ。ミリオネックに豪血(ごうけつ)ってダンマスが居るから、そこに寄るって」


「ああ! 湖底ダンジョンで気を失ってた獣人の女の子の!」


「それよそれ」


 確かシャイミって名前だっけ? その子を助けたらダンマスの豪血からお礼を言われて、ミリオネックに来ることがあれば是非立ち寄ってくれって言われてたのよね。


「ほら、着いわよ」


 私が指した方向には、樹木と岩で巧妙に偽装されたダンジョン入口が辛うじて見える。

既に日が落ちてる事もあって、目を凝らさないと見落とす事間違いないわね。

 念のため周囲に誰も居ないかを確認し、居ないと分かったところで中へと入って行く。

すると既にこちらの存在に気付いてたらしく、例のあの子が出迎えてくれた。


「いらっしゃいアイリさん! この前は助けていただいてありがとう御座います!」


「いいのよ。偶然見つける事が出来たから助けたんだし。どっちにしろ無事でよかったわね」


「はい!」


 そのまま雑談をしつつ奥にあるコアルームへ案内されると、中からゴツい体格の熊獣人が姿を現した。

というか、豪血その人よ。


「よく来てくれた、我が眷族(けんぞく)の恩人よ。改めて礼を言うぞ、ありがとうアイリ」


「あ~いやいや、そんなに畏まらないで。シャイミにも言ったけど、偶然見つける事が出来たから助けたのよ。だから運が良かったって事よ、うんうん」


「アイリこそ謙遜する必要は無いぞ。見つけたのがアイリ以外であったなら、見捨てられてた可能性もあるのだからな」


 あ~、それもそうかも。

あんな状況じゃ、一々助ける人は少ないかもしれない。


「何にせよ一晩泊まってくといい」


 そして泊まる部屋だけど、コアルームの隣に客間のような部屋があったのは驚いた。

ちゃんと人数分のベッドまで用意してあるところを見ると、事前に行くって伝えてたからわざわざDPを使って召喚してくれたのねきっと。

何か逆に気を使わせちゃった?


「え? いえ、そんな事はありませんよ? それにベッドはさほどDPが必要じゃなかったですし、DPは貯めればいいからってマスターが……あ」


 シャイミの口が滑ったため、わざわざ召喚した事が確定した。

いや、嬉しいんだけど、豪血はちょっと呆れてる感じね。


「はぁ……。シャイミは身体能力は有る方なのだが、中々そそっかしいところがあるのでな。ご覧の通りなのだよ……」


 うん、分かる。

つい余計な事言ったり、何もないところで(つまず)いて転けたりするタイプの人ね。


『ドジッ子タイプというやつですね。この手のタイプは保護欲をそそられたいという男性諸君に人気が出そうですよ、お姉様』


 念話使ってまでくだらない事言ってんじゃないわよ……。


『世の男共はドジな女子(おなご)を好むのかや?』


 人によるでしょそんなの……。


『良いですね、若いって……』


 セレン、キャラ変わってる! お願いだから元に戻って!


「ところでだが、アイリはミリオネックの首都に向かってるのか?」


「ええ。ちょっと知人と会わないといけなくてね」


 思いっきりミリオネックの官僚だけどね。


「ふむ……ならばここから南東から向かうか、北東から向かうかの二通りのルートが有るな。どちらから行っても魔物は少なくて安全だ」


 んん? それだと東側を避けてる感じに見えるわね? 確かそのまんま東に向かうルートもあった筈だけど……。


「ねぇ豪血、ここから東に直進するのはダメなの?」


「ダメではないが……ああそうか、アイリは知らんのだな」


 おや? 何か含みがある感じね?


「ここから東に行くと幾つかの村と街があるのだが、少々治安が悪くてな。その辺りの領主も良い噂は聞かんし、盗賊が出るらしいし、犯罪者が潜伏してるって噂もあるし、排他主義のダンマスも居るし、魔物も出るしでろくな事がないぞ?」


 何その数え役満みたいな状態は……。

それってもう殆どがグルなんじゃないだろうか? 最初に教えてもらえてなかったら、知らないまま向かうところだったわ。


「近寄りがたい場所なのね。あ、犯罪者と言えば、怪盗フルダヌキって知ってる?」


「怪盗フルダヌキ? ……もしかして怪盗アオダヌキの事か?」


「……そうとも言う」


『そうとしか言いませんよ、お姉様』


 そこ、一々突っ込まないように!


「――そ、そうか。まぁあれだ、名前は聞いた事あるってくらいだな。もし見つけたら、捕縛するなり知らせるなりしてやろう」


 豪血に怪盗アオダヌキの捕縛を協力してもらう事に成功した。


ルー「モソモソモソモソ」

ミリー「モグモグモグモグ」

アイリ「何か喋りなさいよ……」

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