恋の始まり?
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オヤジ貴族をやり過ごしてギルドに戻ってきた。
まだ陽が高いこともあり、ギルド内は閑散としていた。
他の冒険者にとってこの時間帯は、依頼をこなしてる最中ということが多いのだろう。
私たちは受付にローニアさんの姿を見つけると、そこへ駆け寄った。
「ローニアさん、依頼完了しました!」
「お疲れ様。上手くできたみたいね」
場所が良かったのと、私のギフトとの相乗効果です……とは言えないけどね。
「お姉様に限って失敗はありません」
「アイカ、そもそも簡単な依頼を選んでもらったんだから……」
というかグリーンクラブって、街の中にも希に生えてるのよ。
はっきり言って子供の小遣い稼ぎに近い依頼よ。
きっと最初だから失敗しない依頼をローニアさんは選んだのね。
「じゃあ集めた物を確認するわね?」
「はい、どうぞ」
四つ葉のグリーンクラブは1束だけ混ぜてある。
それなりの量が見つかったので、そのまま渡すと大騒ぎになる可能性があったからね。
「あら? 四つ葉のグリーンクラブね。珍しいわ。アイリちゃん運が良いわね。この四つ葉のは上級ポーションの材料になるから、少し査定が高くなるわよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
ローニアさんは気付いたか。
ギルド職員だと目利きの人が多いのかもね。
「お待たせ。全部で1340サークになるわ。確認、お願いね」
「はい。確かに有ります」
事前にアンジェラたちに聞いてたから大丈夫だけど、1340サークは、銀貨13枚と銅貨40だ。
銅貨100枚で銀貨1枚で、銀貨100枚で金貨1枚になり、さらに金貨100枚で白金貨1
枚になる。
「アイリよ、はよぅ昼飯にしようぞ」
「わかってるわよ。それじゃお昼を食べたら午後からも依頼を受けるから行きましょ」
今度は討伐依頼にしようかな。
できるだけ早く冒険者ランク上げたいし。
「昨日の情報収集で~、美味しいお店も確認済みです~♪」
それはちょっと楽しみね。
いつもはDPで召喚した物だけど、評判がいいお店ならハズレはなさそうだし。
「ささ、早く行きましょうお姉様!」
「わかったから、そんなに慌てな『ドンッ!』
な、何何!? ほんの少し脇見をした瞬間に何かが正面からぶつかってきたんだけど!?
「イッタタタ……」
ん? 誰かが目の前で尻餅ついてる。
見た目は私と同じくらいの男の子みたいね。
私にぶつかってきたけど、私の体力値が高いせいで、ぶつかってきた子の方が痛そうにしてる。
「大丈夫ですかお姉様!?」
「あ、うん。私は大丈夫だけど……」
私よりも、この男の子が心配よ。
あ、よく見たらこの子、獣人ね。
耳が犬や猫の耳みたいになってて、尻尾もあるみたい。
「おい、レックス大丈夫か?」
「まったく、君が慌てて走るからだよ」
「……うん、レックスが悪い」
そして後からこの子のパーティメンバーと思われる面々があらわれた。
会話から察するに、普段からそそっかしいみたいね、この子。
「いつつ……くっそー、危ねぇじゃねぇかよ!いったいどこ見て歩いて……る…………」
最初は怒ってたのに、私の顔見た瞬間、急に固まって顔をほんのり赤くしてるんだけど、どうしたのかしらね?
……まぁ、それはともかく。
「ぶつかってきたのはアンタの方じゃない。だからこの場合、アンタが私に謝るのが筋ってもんじゃない?」
「あ……う、うん……そう……だな……」
なんか急に大人しくなって視線を逸らしてるんだけど、具合でも悪いのかな?
「そ……その……ごめん……」
「レ、レックスが謝った!?」
「これは珍しいこともあるものだね」
「……激レア」
いや、謝るのが普通じゃないの?
彼の仲間はなんで驚いてるんだろ?
まぁ謝ったのはいいけど、さっきから目を合わせようとしないのよね。
やっぱり人と話す時は、ちゃんと目をみて話さないとだめよ。
「ねぇとりあえずさ、話すなら私の目をみて話してくれない?」
「え!? そ、そんな……私だけを見てって……」
ちょ、台詞が違ってるわよ!?
なんでそんな恥ずかしい台詞を捏造してるのよ!
「いや、違うからね? 人と話す時は、目をみて話しなさいってことを言いたいのよ」
「ち、違うのか……」
って、なんで今度はガッカリしてるのよ!?
なんだか話が通じない感じね……。
「まさか、お姉様にも春が!?」
「ほうほう……なるほどのぅ」
「あ~た~らし~い、は~るが来た♪」
って、コラーッ!
け他人事だと思って茶化すな!
「え? まさかレックスが一目惚れ!?」
「驚くのはわかるけど、お相手はかなりの美少女だよ? 気持ちはよくわかるよ」
「……言われてみれば、珍しい黒目黒髪でさらに美少女って感じだな」
「それに彼女の仲間も見たまえ。揃いも揃って美女美少女だよ」
「……確かに。しかもあっちの青い髪の子、あのぶつかった子と双子かも」
「……プレミア」
あっちのパーティメンバーも盛り上がってるし……。
「私たちは~、これから昼食なんですけど~、良ければ~、御一緒しませんか~?」
こらこらセレン、何を勝手に……。
「おお、それは願ったりです。是非とも御一緒させていただきましょう」
あっちも了承してるし……。
「うむ、これも何かの縁というやつじゃな」
「……大勢での食事、楽しい」
「何でもいいので、早くいきましょう!」
アイカはブレないわね……。
いつの間に食いしん坊キャラになったのやら。
「でも依頼はどうすんだ?」
「レックスを見たまえ。あの状態では戦闘に支障をきたすと見るべきだろう」
レックスと呼ばれてる少年の仲間が、レックスに視線を促す。
視線の先では、いまだに固まったままのレックス少年がいた。
確かに彼の言う通り、戦闘に参加させるには不安になる状態だ。
「アイリよ、レックスとやらがそのままでは移動できん。手を繋いでやると良いじゃろう」
え? いやいやなんで?
何故に出会って数分の男と、手を繋らにゃならねーのよ?
「これは羨ましい。レックス、固まってる場合じゃなさそうだよ?」
って、まだレックスは固まったままなのね……。
もう埒が明かないから手を繋いでやるわ!
少々乱暴気味に手を握って引っ張ってやる。
「は!? え? え!?」
あ、気付いたみたい。
「ほら、お昼御飯に行くから、早く行きましょ」
「あ、ああ……」
……やっぱりまだ顔が赤いわね。
もしかして、風邪とかじゃないわよね?
ほら! 今なんか前から来る人に当たりそうになったし!
ああ、もう、仕方ないわね!
「ほら、早く、こっちよ」
危なっかしいので、しっかりと手を握り、進行方向へと引っぱる。
周りの大人たちから、微笑ましいものを見る視線を感じるけど、気にしてられない。
アンジェラたちに離されないように、レックスを引っ張る。
結局私は、昼食の前に大幅に神経を磨り減らしてしまった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
何故だか一緒に食事をすることになってしまい、人気の料理屋へ向かう。
勿論レックスという少年の手を繋いだままである。
そして歩くこと15分、外装は他のお店とさほど変わらないが、中は小洒落た感じの若者向け?なお店だった。
お昼時ってこともあり、店内は多くの客で賑わっており、もしかして座れないんじゃ……なんて思ったけど、丁度よく10人ほどが座れる場所だけが空いていた。
そしてお互い軽く自己紹介を済ませ、食べながら雑談を交わしてるんだけど……。
「へぇー、昨日冒険者登録したばかりだったのか」
「そうなんです。先程採取依頼を完了したので、昼食後は討伐依頼をする予定なのです。ですよねアイリお姉様?」
「そうねぇ、一応はその予定ね」
レックスのパーティメンバーのアルバとの話の流れから、アイカが私に水を向けてくる。
……なんか凄く馴染んでるわね。
冒険者ってこういうものなのかしら?
まぁ他人とパーティを組んだりするわけだから、物怖じする性格だと冒険者は務まらないのかもね。
「それでルークたちはどうする予定だったのじゃ?」
「僕たちも依頼を受けに冒険者ギルドに向かったところだったんだよ」
凄く丁寧な話し方をしてるルークは、なんと驚くことに魔族なのだそうだ。
魔族というのは、魔獣や魔人で理性の有る者のことで、理性の無い魔物とは根本的に違うのだとか。
でも魔族って人間と敵対してるってイメージなんだけど、そんな種族間の対立はなく、魔族が国のトップに立つことで魔王と呼ばれるらしい。
「どんな~、依頼を受けるんですか~?」
「……まだ不明。いつもはレックスがその場の勢いで決める」
この割と口下手な雰囲気を醸し出してる子がユユ。
彼女はエルフで、閉鎖的な里の生活が嫌で飛び出してきたのだとか。
両親に里の外に遊びに出たいと言ったら猛反対され、夜中にこっそり抜け出してきたらしい。
反対された理由は、エルフなどの美形は人拐いに狙われやすいから。
それって両親心配してるわよ?
個人の自由だから、私からは説教はしないけども。
「しっかしいつまで緊張してるんだ、レックスはよ」
「き、緊張してるわけじゃねぇし……」
レックスの背中をバンバンと叩きながら、緊張を解そうとしてるのが人族のアルバ。
この少年は、パーティのムードメーカー的な存在なんだろうと思われる。
そして最後に獣人のレックス。
パーティのリーダーをしてる少年だ。
歳も私と同じくらい……正確にはレックスが1つ上だった。
彼らがパーティを組んでるのも、全員が近い年齢だかららしい。
うん、もっともな理由ね。
ちなみにだが、私たちはグロスエレムに近い辺境で、名も無き村に住んでいたことにした。
「グロスエレム教国なぁ。もうあの国には近付きたくないぜ……」
いきなり酷評されてるけど、いったいその国は何をやらかしたのやら……。
「まったくです。あの時はアルバのおかげで助かりましたよ」
「グロスエレムで何かあったの?」
「ああ、実はですね……」
ルークの話によると、以前冒険者パーティとしてグロスエレム教国に入ろうとしたら、いきなり捕まりそうになったんだとか。
その時は人間至上主義の国だとは知らなかったらしいけど、それを機に彼らの頭の中には、グロスエレム教国の実態が深く刻まれたのだという。
「つまり、アルバが人間だったから、上手くはぐらかして逃げてきたってところね?」
「よく分かりましたねぇ。まさにその通りですよ」
うん、なんとなくアルバは口が上手そうに見えるから、そんな気がしたのよね。
それにしても人間以外の生存を一切認めないとか狂気を感じるわ。
「ところで、レックスはさっきから黙ったままだけど、具合でも悪いの?」
「え! いや……別に……」
そう言ってレックスは俯いてしまった。
それにまだ顔が赤いし、本当に大丈夫なんだろうか?
「アイリさん、レックスなら大丈夫ですよ。ちょっとした流行り病に掛かってるだけだからね」
流行り病!?
「ちょ、ルーク、それって大丈夫なの!?」
まさか伝染したりしないわよね!?
せっかく転生したのに、また若いうちに死ぬなんて嫌だからね!?
「落ち着いてくださいお姉様、他人に伝染する病ではありませんので」
そ、それならいいわ。
って、アイカも知ってる病気なの?
「ああ、アイリさんはまだ気付いてなかったか」
「え? どういうことアルバ?」
「要するに、レックスはアイリさんのことが……」
「ええーーーーーっ!?」
なんとなんと、レックスが私に一目惚れしたらしいことが発覚!
しかも私以外は気付いてたというオマケつき。
というか、一目惚れって簡単にするものなの?
肝心のレックスは顔を真っ赤にして否定してるし、やっぱり一目惚れとは違うんじゃないだろうか?
それにしてもこうして話してると、仲間というより友達って雰囲気を感じさせられる。
そう友達……。
まともに学校に通えなかった私には、友達はいなかったのよね……。
「せっかくだし、一緒に討伐依頼受けてみる?」
「えっ!?」
何気無い私の一言にレックスが過敏に反応する。
「だから、もし討伐依頼を受けるなら、合同でやってみないかってこと。さっきセレンも言ってたけど、これも縁てやつよ」
「ふむ、まさかアイリから誘いをかけるとは思わなかったが、良いのd「やるやる! 一緒に依頼受けようぜ!!」
急に元気になったレックスが、アンジェラに被せてくる。
落ち込んだり元気になったり忙しない奴ね。
こうして午後からは、彼ら冒険者パーティ「夢の翼」と合同で討伐依頼を受けることになった。
アイリ「そういえば昼食の味を思い出せないわ」
アイカ「レックスもそうだと思いますよ」




