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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第5章:熱き猛るダンジョンバトル
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排他主義者

前回のあらすじ

 バトル中に現れたアマノテラスという少年に薄気味悪いものを感じたアイリは、全力で叩き潰す事に決める。

まずは侵入してきたフェザードラゴンをドローンで撃墜すると、アマノテラスのダンジョンへと逆侵攻を開始。

送り込んだモフモフが見事アマノテラスのダンジョンを攻略したのだった。


 スラム街――それは、行き場を失った者達がたむろしてたり犯罪者が潜伏してる場合もあり、治安が極端に悪い場所だ。

大抵どの街にもあるそれは、当然の如くサクサロッテ共和国のガミラの街にも存在する。

街の郊外にある崩れかけの家屋もそれに当たり、月明かりが差し込まれた屋内で、怪しげな者達が密会をしていた。


「――という事だ」


 射るような鋭い視線を向ける獣人の男が一頻り説明し終えた後、壁に寄り掛かっていた灰色のローブを深く被った男が立ち上がり、外を覗きながら口を開く。


「……ふん、くだらん」


 その口調は淡々としており、心底どうでもよいと思ってるのが(うか)がえる。

 だが対する獣人はというと、そんな態度を気にも止めず話を続けた。


「悪い話じゃない筈だ。今現在ソルギムの街にはレンの勢力は無いのだからな」


「何!?」


 ここで初めて感情らしい感情を表したローブの男は、レンという言葉に反応する。


「うん? 知らなかったか? レンは拘束されて何処かへ連れてかれたらしい。誰が何処へ連れてったのかは知らんがな」


 これは嘘で、獣人の男は誰が何処へ連れてったのかを知っていた。

何故なら、彼の正体はアマノテラスの眷族である人狼(ウェアウルフ)であるため、彼のご主人様から闇ギルドを運営してたダンマスのレンが悪魔族に連行された事は伝えられてるのだ。

そんな彼はマスターであるアマノテラスの命令で、闇ギルドの構成員に接触していた。


 まさか目の前の男が人狼だとは毛ほども思ってない闇ギルドの男からは、レンが居ないという事実に興味を示してるのが伝わってくる。

 闇ギルドは通常1つの街に1つだけで、複数存在する場合は縄張り争いが発生するため、別の闇ギルドがのさばっている街をわざわざ傘下にしようとはしない。

 では闇ギルドが居ない街はどうなるのか……その答えは簡単で、別の闇ギルドが勢力を広げるために侵食してくるのである。

なのでそれを知ってる人狼の男は、ソルギムの街から10キロほどと比較的近い所にあるこのガミラの街を拠点としてる闇ギルドに話を持ち掛けたのだ。


「要するにだ、俺はあの街の近くあるダンジョンを潰せる。お前らはそのついでにソルギムの街を手にいれる。今なら以前のさばっていたレンは居ない。これほど好条件に恵まれた取引は無い」


「………………」


 人狼(見た目は獣人)の依頼を受けるかどうかを考える闇ギルドの男。

依頼とは、ソルギムの街に近い魔法少女ユーリのダンジョンに攻め入り、そこのダンマスであるユーリを拘束もしくは殺害だ。

当然これはアマノテラスによる報復で、アイリが最近までユーリのダンジョンを眷族に防衛させてたのを知ったからで、その保護対象だったユーリを人質にするか、難しければ殺してしまおうと考えたのである。


 しんと静まり返る屋内で、時折聴こえる野良犬の遠吠えが場の空気を若干和らげている中、闇ギルドの男が沈黙を破る。


「成る程な。ダンジョンはどうでもいいが、ソルギムの街を手に入れる絶好の機会だ、ついでという事でその依頼を受けよう」


「感謝する。早速だが、明日中には依頼達成を望む」


 人狼は冷淡に礼を言うと、男の目の前に金貨の入った袋をドサリと下ろし、穴の空いた屋根から飛び出していった。


「ダンジョンか……。どうでもいいとは言ったが、コアを入手出来れば金になる。……フッ、悪くない」


 残された男も口の端を吊り上げると、目の前の袋を引っ掴んでそそくさと立ち去った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 


「――よし。ここはこれで良いとして、闘技場エリアは……」


 ――うん、闘技場は人数制限しちゃえばいいかな? 1VS多だと、楽勝過ぎるのかもしれない。


「お姉様、何を熱心に行ってるのですか?」


「あ、これ? ダンジョンの改築よ。昨日のバトルロイヤルで確認出来たところを見て、変更した方が良さそうな部分は作り替えてるの」


 侵入者のお陰で改善した方が良さそうなヶ所が出てきたからね。

早速今朝から取りかかってるって訳よ。


「アイリ様、ダンジョンは後回しにして朝食にすべきと思いますぞ」


 リヴァイが苦言を呈してきた。

でもね、ほら……1度集中するとのめり込むって言うかね、区切りの良いところまで続けたくなるっていうのかな?


「いけませんぞアイリ様! 不摂生な生活は身体に悪影響を与えます。さぁ、手を止めて下さい」


「わ、ちょ、ちょっと待って!」


 過保護なリヴァイに拉致られる形で、食卓まで連行されてしまった。

なので朝食を済ませると再び改築に着手して、終わった頃には昼前になってましたっと。

 あ、そうそう、宝箱の中身についてはバーニィって獣人少年のダンマスに直接聞いてみた。

帰って来た答えは……


「回復アイテムが多いね。いや助かるけども。出来ればボスを倒した際に出現する宝箱は、武器防具とかマジックアイテムだと嬉しいかな。あと凄く美味しいパンが入ってたけど、日保ちしないと厳しいんじゃない?」


 という、ちょっと上から目線な感想をいただいたので、今度コイツのダンジョンに行って宝箱を漁ってやろうと思う。

というか宝箱ごと持って帰ってんじゃないわよ! 箱は置いてきなさい!


 でもまぁ食品を入れとくのはマズイかもね。

消費期限を過ぎたのを持ち帰ってお腹壊したりとかはダンジョンの沽券に関わる。

実際ダンジョンの中に街を作ってるんだから、悪評がつくのは避けたいところよ。


「お姉様、少々よろしいでしょうか?」


 ん? アイカが遠慮気味に言ってくるなんて、何があったんだろ?


「それだと普段のわたくしは図々しいみたいじゃないですか……」


「別にそんなんじゃ……」


 あれ? よく考えたらアイカって結構図々しいような……。

だいたい勝手にDP(ダンジョンポイント)を消費してスイーツ食べまくってる時点で議論の余地はない。

 いや、今度じっくり話し合った方がいいのかもしれない。

主にスイーツを規制する方向で。


「……コホン。それよりもお姉様、アマノテラス様から通信が来てるのですが……」


 アイツが? ……あ~成る程、私がアイツを嫌ってるからアイカが言い難そうにしてたのね。


「何の用か知らないけど繋いでちょうだい」


「了解です」


 通信を繋ぐと、ニヤニヤとした嫌らしい顔のアマノテラスがこちらを見ていた。


アマノテラス

『やぁ、はじめまして。僕はアマノテラス。まぁアマノなりテラスなりフルネームなり好きに呼んでくれていいよ』


 呼び方はどうでもいいってとこが痛いほど伝わってくるわね。

心なしか視線も冷たい気がするし。


アイリ

『はじめまして、知ってると思うけどアイリよ。で、何の用?』


アマノテラス

『ふん、つれないねぇ、まぁいいけどさ。折角外面は良いんだから、もっと愛想良くしてもいいんじゃない?』


 愛想は良いわよ、アンタ以外にはね。


アイリ

『ふん、冗談。アンタこそ、そのニヤケ面をどうにかした方がいいんじゃない? いい加減気持ち悪いんだけど?』


アマノテラス

『……チッ、可愛いげのない……。不快だよ、凄く不快だよお前』


 おっと、つい本音を溢したらあっさりと本性を表したわね。


アマノテラス

『そんな風に強がってられるのも今の内さ。もうすぐ面白いものを見せてやるよ』


 面白いもの? 何を見せるつもりか知らないけど、どうせろくなものじゃないわ。


「お姉様、もしかしたら以前ホークが言ってたドリフタ〇ズのDVDセットではないでしょうか?」


 んな訳ないでしょ……。

もしここで本当にソレを見せつけてきたら本物のアホよ。


アイリ

『で? 何を見せるって?』


アマノテラス

『ククッ、まぁ慌てないでよ。その内お前宛に通信が入るからさ』


 私宛に? 益々分かんないわね。


「お、お姉様、たった今通信が来ました」


 え? 本当に? いったい誰から……。


「それが、ユーリさんからなんですが……」


 ユーリから……。

このタイミングでって事は……


アイリ

『まさかアンタ、ユーリを襲ったの!?』


アマノテラス

『おや? ユーリって単語が出てくるって事は通信が来たって事だよね? そうなんでしょ? ほら、早く出てやんなよ、不快なお前へのプレゼントさ。ククク』


アイリ

『アンタ……もしユーリに何かしたっていうならただじゃおかないわよ!』


アマノテラス

『いやいや、僕は何もしてないよ? 調べたところ初心者同然だったし、そんなの相手にしたって時間の無駄だしね。ただねぇ……』


アイリ

『ただ何よ、ハッキリ言いなさい!』


アマノテラス

『もしも、もしもだよ? 偶然闇ギルドの連中がユーリのダンジョンに目をつけて、ダンジョンコアを奪おうと画策したらどうなるかな~ってね。ねぇ、どう思う? とっても不快なアイリさん。クククク……』


アイリ

『クッ……』


 間違いない。コイツは闇ギルドにユーリを襲撃させたんだ。

バトルロイヤルが始まる前、ユーリがもう防衛は大丈夫だからって言ってきたから派遣してたレイクを戻したのよ。

まさかそれが仇になるなんて……。

こんな事になるなら、無理矢理にでも残しとくんだった。


 兎に角ユーリの無事を祈り、アイカに命じて通信を繋いだ。

すると繋いだ先には、思わず顔を伏せたくなるような想像を絶する光景が広がっていた……。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 時は(さかのぼ)り、アマノテラスがアイリに通信を入れる前の事だ。

 依頼を受けたガミラの街を拠点とする闇ギルドの構成員総勢8名は、ユーリのダンジョンに足を踏み入れていた。


「お前ら、ここのダンジョンマスターは小者らしいが、絶対に油断はするな。特に先頭の2人は常に周囲に気を配れ。弱い奴ほど罠に頼るからな」


「「了解」」


 構成員を纏めるボスのウィンストンが注意を呼び掛ける。

だが彼等も闇ギルドとして活動してきた強者達なので、言われるまでもなく松明が備え付けられた洞窟を、1歩1歩慎重に先へと進む。


「ボス、十字路です」


 数分歩いたところで十字路に差し掛かる。

左右真ん中いずれも先が見通せないほど長く続いている。


「おい、出番だボウカー」


「了解した。――エアー!」


 ボウカーと呼ばれた小柄な男が、簡単な詠唱を行い右の通路に向けて風魔法を放つ。

放ったのはエアーという空気を送り込むだけの簡単な魔法だ。


「――ウィンドスマッシュ!」


 続いて放ったのはウィンドスマッシュ。

空気の塊を対象に叩きつける魔法だ。

 これらを使用した理由は、自らの魔力が込められたエアーを通路の先までを満たす事で、大気中の振動を感知するためである。

こうする事で、後に放ったウィンドスマッシュの振動を感知し、通路の先に何が有るかを調べているのだ。


「この先は行き止まりだ」


 右の通路は行き止まりだと分かり、今度は左側も同じように調べる。


「こちらも同じようだ」


 左も行き止まりだと分かり、最後に真ん中を同様の手順で調べたところ、左右とは別の振動を感知した。


「この先に硬い扉の反応がある。恐らくボス部屋だろう」


 僅かな振動の違いを感じ取り、正解を導き出す事に成功した。

だが彼等が浮かれる事はない。

浮き足立てばそれが油断となり、自らの足を引っ張るという事を理解してるからだ。


「どうやらここが終点のようだな。まさかボス部屋が無いとは思わなかったが……」


 ここでウィンストンが、初めて驚いた表情を見せる。

目の前にあるのはボス部屋の扉ではなく、どう見ても簡素なコアルームの扉だったからだ。

殆どのダンマスはコアルームの前にラスボスを備えたボス部屋を設置するのだが、ユーリの場合は準備を怠ったため、ボス部屋が無かったのである。

恐らくだが、世界中を探してもボス部屋の無いダンジョンなどここ以外に存在しないであろう……。

 驚きつつも貧相な扉を押し開け、中の様子を窺う。

するとコアルームには、ピンク色の髪をした少し変わった格好の少女――魔法少女ユーリが、強張った表情で構成員達を見ていた。


「あ、えっと……どちら様……ですか?」


 彼等から見て、そこに居るのはどう見ても非力な少女1人だった。

 だがそれでも彼等は慎重な姿勢を崩さない。

依頼達成までま気を緩めないというのは、彼等の共通認識だ。


「お前がダンジョンマスターか。まだ未成年のようだが悪く思うな」


 少女が何かを仕掛けてくる前にと、先頭に居た1人の構成員が素早く駆け寄る。

咄嗟の動きのため、運動神経0のユーリは当然反応出来る筈もなく接近を許す。

 構成員の男が握っているダガーがユーリの心臓目掛けて迫るが、いまだユーリは反応出来ない。

そして……






 ギィン!


 突如出現した1本のナイフが、ダガーを弾き飛ばした。


「困りますねぇ。僕のマスターに手出しされるのは」


 突然の事にさすがの構成員も驚きと共に後方へ飛び退く。

そして注意深く相手を見上げると、そこには同業者とも言える長身の男がニヒルな笑いを浮かべていた。

 そしてその男を見たウィンストンは驚愕する。


「おおお、お、お前は……ルカーネロ! 何故此処に!?」


「おや、知ってましたか。ですが不要な情報でしたね。これから死に逝く……あなた達にはね……」


 ユーリを守ったのは、以前レンが送り込んできたところをモフモフの返り討ちにあった構成員のリーダーだった。

そのリーダーであるルカーネロは、複数の闇ギルドの間では実力がトップクラスという事でその名が知れ渡っているのだ。

 因みにユーリはというと、腰を抜かしてその場にへたり込んでいる。


「ままま、待て。取り引きだ、取り引きを行おう。お前がこのダンジョンと組んでるとは知らなかったんだ!」


 ルカーネロと戦っては無事じゃすまない。

そう思いウィンストンは慌てて取り引きを持ちかけるが、それは叶わぬ夢であった。


「何を(おっしゃ)るかと思えば……。僕はマスターの眷属(けんぞく)なのですよ」


「け、眷属だとぉ!?」


「フフフ……そうです。なのでマスターに敵対した時点で僕の敵になったのです……よっ!」


 先程までのニヒルな表情はなりを潜め、嬉しそうに笑いながら手にしたナイフを走らせる。

いつの間にか先頭の構成員に接近し、その男の首を跳ねた。


「バーデン!?」


「ほらほら、余所見をしてていいんですか? もっと僕を熱くさせてくださいよ」


 更に初動が遅れた構成員2人の心臓を、寸分違わず突き刺して息の根を止めた。


「く、くそ、このままじゃ殺られる!」


 交渉は無理だと判断したウィンストンは一時的に撤退する事を選択し、出口に向かって走り出す。

しかし、ここでウィンストンは致命的なミスを犯した。


 カチッ!


「ん? 何の音だぁあ!?」


 恐怖に駆られて落とし穴の罠を踏み抜いてしまったのだ。

結果ウィンストンはルカーネロに仕留められる事はなかったものの、落下先にあった剣山に飛び込む事となった。


 一方コアルームでは、相変わらず笑いながら殺戮をし続けるルカーネロの姿があった。


「さぁ踊ってください、その命という名の薔薇をここで咲かせるのです! そして散らせてください、薔薇は散ってこそ美しいのです!」


「ひぃ、来るな! 来るギャ!」


「さぁさぁさぁさぁ!」


「く、狂ってやがる。コイツは狂ってやグギァ!」


「アーッハッハッハッ!」


 こうして朝方、ルカーネロによる舞踏会が盛大に行われたのである。


ルカーネロ「見てくださいマスター、綺麗な薔薇ですよ!」

ユーリ「ヒィィィィ!!」

アイリ「なんか混乱してるけど、ルカーネロが眷属になった経緯は次回明らかになるわ」

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