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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第5章:熱き猛るダンジョンバトル
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閑話:眷族の秘密4

 幾度となく時は遡り(さかのぼり)、アイリが眷族(けんぞく)達から生前の話を聞いていた時の話だ。

ザード、ホーク、クロ、ルーの話を聞き終えたアイリは、最後に残ったセレンに水を向けた。


「セレンが最後みたいね。でもセレンは少ししか覚えてないんだっけ?」


「そこそこ~、覚えてはいますが~、やはり~、多くの事は~、覚えてませんね~」


 それでも何も思い出せないよりはずっと良いわ。


「それじゃさっそくだけど聞かせてちょうだい、セレンの過去の話を」


「は~い~♪」






 私が生活してたのは、どこかの孤島でしたね。

名も無き孤島……そこに居住してました。

セイレーン以外は誰も住み着いてない、とても素敵で平和なところでした。

私はどのようにして生活してたのかと言うと、孤島の真ん中で歌を歌ってたのです。

孤島から流れ出す素敵なメロディは、周りの動物達や魚達には大好評でしたねぇ。


 私以外にも仲間はいました。

その仲間達からは、私は常に崇められて居りまして、話題の中心はいつも私でした。


「とても素敵な歌声ですわ()()()様!」


「そうですか~?」


「勿論です! このように素敵な歌声を出せるのは()()()様以外は居りません!」


「そうかしら~♪」


「そうそう、誰にも真似は出来ないですよ! さすがは()()()様です!」


「「「()()()様サイコーゥ!」」」


「あらあら~♪」


「「「セ・レ・ン!」」」


「「「セ・レ・ン!」」」


「「「セ・レ・ン!」」」


 とまあこんな感じに持ち上げられてたんですよねぇ。

そうなると私としても、皆の手本と成るべく道を示さないといけない訳じゃないですか?

なので彼女達を導くために、更なる力を身につけなければならないと考えました。


「皆さん、今日も修行を行うために()()()()に行きますよ!」


「「「はい!」」」


 そして私の生活の中で既に()()になっていた()()()()に身を投じた訳です。

これにより、私を含めセイレーン全体の歌唱力は大幅にアップしました。

その歌唱力を武器にして孤島を外敵から守り続けたのです……終わり。






「…………」


「如何でしたか~?」


「…………」


「あの~、もしもし~?」


「あ、ああ、うん。聴こえてるわよ」


 おかしい……。

とても良い話として纏められてるけど、アチコチに違和感が有りすぎる。

 

『ちょっとアイカ、今の話を聞いてどう思った?』

『はいお姉様、とても平和にすごしてたのだなという事は伝わってきたのですが、盛大に盛られた話のようです』

『やっぱりそうよね? セレンの住んでた所にカラオケが存在するのがおかしいもんね?』

『それも有りますが、生前に呼ばれてた名前がセレンというのも有り得ない事かと』

『説明口調もいつもと違うのも気になるわね』


「あの~、どうされたのでしょう~?」


「……コホン、ねぇセレン、落ち着いて聞いてほしいんだけど、何でそんな分かりやすい嘘をつくの?」


「は? なんの事でしょう?」


 ヒェ!? な、なんかセレンが怖いんだけど!? しかも口調が違い過ぎる!


「えーと、だからね、私としては本当の事を知りた「お言葉ですがアイリ様、今話した事は()()()()()真実なので御座います」そそそ、そう……なの?」


「はい。ですので、これ以上の詮索は無用で御座います」


 ちょ、ちょっと顔が近いんだけど!


「そ、そうなのね。じ、じゃあ最後の質問だけど、セレンは何歳の時にお亡くなりになられたの?」


 ズイッ!


「17歳です」

 

 ちょ、顔近い!

それに視線が鋭くて、視線だけで闘えそうな雰囲気を持ってる!


「うん、分かった。だから顔を近付けなくてもいいからね?」


 ズズイッ!


「17歳です!」


「だから顔近いってば! 兎に角落ち着いて」


 それに2度も言わなくていいから!

でも困ったわねぇ……。


名前:セレン 種族:セイレーン 

性別:女   職種:アイリの眷族

年齢:105 趣味:カラオケ  


 私の鑑定ではこのように出るんだけど……。

何故17歳でお亡くなりになったセレンが105歳になってるのか。

眷族として生き返った時からいきなり年数が経過してるのはおかしい。

つまりサバを読んでるって事になる。


「ねぇ、セレン。今の貴女の年齢は?」


「……黙秘します」


 黙秘ってアンタ……。

この期に及んで何を守ろうとしてるのよ……。


「知ってると思うけど、私は鑑定スキルがあるんだからね?」


「……永遠の17歳です」


 強情ね……。

あんまり命令はしたくないんだけど、こうなったら仕方ないわね。


「セレン、嘘は禁止よ?」


「……17歳……と1056ヶ月です」


 あ~うん、これなら嘘は言ってないわね。

嘘ではないんだけど……17歳教だったという訳ね。

 まぁ兎に角、これで全員の事を聞き終わった訳なんだけど。


「姉御、いいんですかい? セレンの奴、明らかに誤魔化し「ぁあ!?」いや、なんでもねぇ……」


 普段静かなセレンがモフモフを怯ませるほどの殺気を放ったんだけど!

これはアレね、パンドラの箱は開けてはならないって感じよね。


 という訳で、セレンの過去に触れてはいけないという事がセレン以外の共通認識となったところで、眷族達の生前の話は終了となったわ。







 それから数日後。

王都から帰還したセレンに悲劇が訪れる。

なんと、カラオケボックスが某女神によって粉々に吹き飛んでしまったと言われたのだ。


「希望を……失ってしまった……」


 ガックリと肩を落とすセレン。

それもその筈、カラオケボックスの一番の利用者はセレンであり、セレンのために作られたと言っても過言ではない。


「そうだ! 無いなら作ってもらうまで!」


 最早おっとりとした口調は見る影も無くなったセレンだが、カラオケにかける情熱までは失っていなかった。

 そこでセレンは、定期的に開かれる眷族会議で提言する事にしたのであった。


 眷族会議の様子を語る前に、そもそも眷族会議というものを説明せねばなるまい。

眷族会議とは、日々の生活で必要だと感じた物や、ダンジョンに関する提案、眷族同士のトラブル等を話し合う場である。


 とは言ってもダンジョンは既に完成しており、眷族同士のトラブルも無いため、会議の内容の殆どが、欲しい物を何にするか話し合う場となっていた。

 では会議の内容をご覧いただこう。






「それでは恒例の眷族会議を始めるとするかのぅ」


 今回の司会進行はアンジェラが担当するようだ。


「妾が今回要望するのは日本庭園にしようと思うのだが、どうかのう?」


 さっそく司会進行役を利用した発言である。

他に何も上がらなければ、このまま日本庭園をアイリに要望する事になる。


「ふむ、日本庭園か。悪くないな」


「そうであろう! そうであろう!」


 ザードがアンジェラに賛同の意を示した。

この現状を覆す(くつがえす)には、発案者以外にもう1人の賛同者が必要になる。


「私とルーは新参者ゆえ、今回は譲りますぞ」


 リヴァイとルーは眷族になったばかりで特に欲しい物は思い浮かばないため、今回は皆に合わせるようだ。


「オラは安眠枕がいいど~」


 食う事と寝る事にしか興味を示さないレイクが提案したのは安眠枕だ。

ただし、ファイアドレイクの巨体に合うサイズの物を特注で召喚しなければならないが。


「レイクはん、安眠枕が無くても普通に寝てらっしゃるやろ。それよりもワイが提案するのは凄いで! なんとなんと、【8時だ〇全員集合】のDVDセットやで! 未公開のお宝映像が満載や!」


 力説するホークだが、誰も耳を傾ける者はいなかった。

これにより、今現在の有力候補は日本庭園という事になる。


「俺はマッサージチェアがいいッス。疲れがとれて快適な生活を送れるッスよ」


「そりゃいいぜクロ、抱き枕にされると疲れるからなぁ」


 クロがマッサージチェアを提案し、それに乗っかったモフモフ。

ここに来て、日本庭園にならぶ提案としてマッサージチェアが上がってきた。


「む、ライバル出現か……。ギンよ、もしそなたが人化すれば、和服が似合うと思うのだがどうじゃ?」


「左様で御座いますか? でしたらわたくしも日本庭園に賛成致しますわ」


 アンジェラはギンを引き込むため人化を想定した理想を語り、それに乗せられる形でギンは了承した。


「さてルーよ、お菓子が好きならば当然和菓子も好きであろう? 日本庭園を眺めながら食する和菓子は絶品だと思わぬか?」


 アンジェラの(ささや)きが悪魔の囁きの如くルーを取り込もうとする。


「日本庭園、和菓子、和菓子庭園! ベリーイェス、アンジェラ! ルーも日本庭園にする!」


 ルーの頭の中でどのような計算が行われたのか不明だが、アンジェラの提案に乗って日本庭園にすると言い出した。


 これにより日本庭園が4票で単独でトップに立ち、他の候補を大きく引き離したため覆せなくなった。

これで今度の提案は日本庭園に決まるのかと思われたが……。


「私は~、カラオケボックスを~、作り直して~、ほしいです~♪」


 待ったをかけたのはセレン。

そのセレンの希望はただ1つ!

カラオケボックスをもう一度!!


「しかしのぅ、カラオケボックスは1度作られておるじゃろ?」


「そのようですな。セレンよ、公平さを保つたもにも今回は見送っては如何かな?」


「そうだぜセレン。そんなに歌いたきゃ外で歌えばいいじゃねぇか?」


「せやな。それよりもここは1つ、DVDセットをやな……」


「貴女も淑女なら弁えては如何かしら?」


 アンジェラやモフモフ、ホークにギンと、多数の眷族からNOを突き付けられてしまう。

しかし、セレンは諦めなかった。


「ザードさんの歌う~、犬のおまわりさんは~、とても(無)様に成ってましたよ~? 是非もう一度~、拝見したいです~♪」


「む? そうか。ならば今一度、マイクを手に取ろうではないか」


 セレンはさっそく票の取り込みに動いた。

普段おっとりしてるせいか、とても滑舌に見えてしまう。


「ホークさんの~、トレ〇ントレインも~、とても魅力的でした~♪」


「……せやろか?」


「せやせや~♪」


「さいでっか! ほな期待に答えるしかないやないかい!」


 なんという事か、日本庭園票のザードを取り込み、ボッチのホークをも取り込んで、日本庭園に並んでしまったではないか。


「むむむ……セレンめ、中々やりおるわ!」


「まずいッス兄貴、ここは1つ俺らも獲得に動くッスよ!」


「お前だけでやれよ、面倒くせぇ……」


 アンジェラやクロが焦る中、セレンが動きを止める気配はなかった。


「レイクさん~、宜しければ~、私が子守唄を~、歌って~、差し上げます~♪」


「そんだら良く眠れそうだでぇ、カラオゲボッグッスにするだぁ」


 ついに日本庭園票を上回り、単独トップに立ったカラオケボックス票。

しかし、アンジェラ達も黙ってはいなかった。


「クロにモフモフよ、マッサージチェアは諦め日本庭園にするのじゃ。疲れを癒すなら、良い景色を眺めるのが一番じゃぞ?」


「おう、なら日本庭園にするぜ!」


「仕方ないッス。今回は日本庭園に譲るッス」


 いよいよ分からなくなってきたが、日本庭園が5票でカラオケボックスが4票というところだ。

一応日本庭園がトップだが、まだ分からない雰囲気だ。

そしてやはり、セレンは動くのを止めなかった。


「リヴァイさん。先程公平という言葉が出ましたが、私としてはカラオケボックスの消滅に女神が関わってる時点で既に不公平であると考えますが、如何でしょう?」


 それを聞いてフム……と、顎に手を当て思考する。

思考の末、セレンの言うことももっとだろうという結論に至った。

だかそれでもセレンは止まらない。


「ギンさん~、貴女には~、素質が有ります~、是非カラオケで~、頂点を~、目指してみては~?」


「よく分からないのですが、わたくしに素質がありますの?」


「そうです~、万人に1人の~、逸材です~♪」


「万人に1人……そ、そこまで言われてはやってみたくなりましたわ。ならばわたくしもカラオケボックスに賛成しましょう」


 まるでボジョレー・ヌーボーのような評価を下し、ギンを取り込んでしまった。

これで日本庭園とカラオケボックスの票は逆転するが、セレンの攻勢は止まらない。


「ルーさんは~、歌わなくてもいいので~、チョコレートパフェでも~、食べてて下さい~♪」


「いやっふぅー♪ チョコレートパフェさいこーぅ♪ ルーもカラオケボックスにする!」


 最早カラオケボックスとは関係無い餌で釣りだしたが、それでも釣れるのだから何も言えない……。


「さてさて~、残るのは貴方達だけです~、が!!」


(((ビクッ!)))


「何か言い残す事は?」


「い、いや、セレンよ、ちと言い方が物騒に感じるのだが……」


 口調が変わり物騒な発言をするセレンに、アンジェラは冷や汗を流す。


「あーうん、そうだな、俺もカラオケボックスが良さそうな気がしてきたぜ!」


「大変良い~、心掛けです~♪」


 微弱ではあるがセレンの殺気を敏感に感じ取ったモフモフは、危険を回避するためセレン側に回った。


「う、お、俺もカラオケボックスでいいッスかね?」


「いいですよ~♪」


「た、助かったッス……」


 そしてついに、アンジェラが孤立する事になってしまった。


「さて~、アンジェラさん~?」


「ななな……何じゃ?」


「カラオケボックスの邪魔をする者は容赦しません。覚悟は宜しいですかぁ?」


「待て待て待て! 妾が、妾が悪かった! だから許してたもぅ!」


 ついにアンジェラはセレンの威圧に耐えきれなくなり、土下座をしてしまう。

こうして今回の眷族会議は、全壊一致(全会一致)でカラオケボックスに決定した。

 そして後日カラオケボックスには、セレンが生き生きとして熱唱してる姿が確認される事となる。

だが眷族達の間では、セレン3ヶ条という決して破ってはいけない条約が交わされた。


1、年齢の話を振らない事。

2、カラオケボックスは絶対に壊さない事。

3、セレンが怒ったら素直に謝る事。


 これらは絶対に死守されるべきとして、眷族達の共通認識となったのである。



セレン「何故皆さんは私から距離を取るのでしょう?」

アイリ「アンタが怖いからよ」

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