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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第5章:熱き猛るダンジョンバトル
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明日へのヒカリ

前回のあらすじ

 アメフラシによる豪雨とホークの仕掛けた罠により、ヒカリの放ったモンスターを全滅させる事に成功した。

今度はこちらの番と言わんばかりにクロを偵察に差し向けるのだが、レッサーワイバーンに襲われ逃げ帰って来た。

だがクロを追ってきた2体のレッサーワイバーンも直後に現れたため、それらを撃破する必要に迫られた。

「レッサーワイバーンか……」


 敵は上空に居るため、飛べないクロでは部が悪いって事で、クロには一旦下がってもらう。


「お姉様、敵のレッサーワイバーンは上空からボス部屋を捜索してるようです。妨害したいところですが豪雨を受けても然程効果はないと思われますので、このまま放置するしかありません」


 アイカはそう言うけど、いくらなんでもそれはダメよ。

あのワイバーンを放置してたら、すぐにボス部屋を発見されちゃうじゃない。


「ホーク、何とかならないの?」


 我が物顔で飛び回るレッサーワイバーンをスクリーンごしに眺めつつ、ホークの仕掛けた罠に期待する。

 しかし、ホークの返答は残念なものだった。


「あかんなぁ、せめて海中に入り込んでくれたら可能性はあるんやがなぁ……」


 どうやらこの男、海中に罠を仕掛けたらしい。

レッサーワイバーンは空、罠は海、ボス部屋は陸と見事に別れてしまってるようで、あの2体が陸地にあるボス部屋に行く事はあっても、罠しかない海中に入る事はないわ。

 残念ながら、これで罠が役に立たないと分かった瞬間だった――悲しい……。


「こうなったらアメフラシの豪雨で、視界を悪くしてやるくらいしか……」


「せやなぁ、そんくらいしかやること無いかもなぁ。全く、もう罠を仕掛けるんは()~り()~りやで。なんて事は言わんけどな」


 ん? こおり? こおり……これは!


「いい事思い付いた!」


 我ながらナイスアイデアだわ! って大声出したら、皆ビクッとなって一斉に私に向き直った。


「ビ、ビックリしたでぇ!」

「お姉様、ど、とうしたのですか急に!?」

(しゅ)よ、少し落ち着かんか」


 ちょっと驚かせ過ぎたみたい――いや、驚かせるつもりはなかったんだけども。


「ゴメンゴメン、でもナイスな作戦を考えたわ」


「ナイスな作戦……ですか?」


 首を横に傾けつつ聞き返すアイカに、私は目を輝かせて力説する。


「ええ。これは絶対上手くいくって自信があるの! 今から詳細を説明するわね!」


 見てなさいレッサーワイバーン。

我が物顔で飛んでられるのも今のうちよ!



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 アイリがレッサーワイバーンを倒す作戦を決行しようとしてた頃、ヒカリの方はボス部屋の発見を今か今かと待ちわびていた。


「なぁ、まだ見つかんねぇのかよ……」


 ヒカリはスカイブルー()ダークブルー()に見飽きたらしく、スクリーンからそっぽを向いて肘を着くと、貧乏揺すりをし始めた。


「落ち着いて下さいマスター。捜索は順調ですので、ここまま吉報を待ちましょう」


 当たり障りのない返答をしたダンジョンコアだったが、気の短いヒカリは納得いかないらしく、ダンジョンコアをジロリと睨み、食って掛かる。


「んならせめて茶の1杯でも煎れろよ。あたいを待たせるんだから常識だぞ?」


「……DP(ダンジョンポイント)を1ポイント消費で召喚出来ます」


「はぁ? ふざけんなテメェ! 何でんなもんにポイント使わなきゃならねぇんだよ!?」


「物を用意するのはタダではありません。マスターの世界ではどうだったのか不明ですが、この世界では常識です」


「こんにゃろう……」


 この世界だけではなくどの世界でも常識なのだが、それでも1ポイントでお茶を召喚出来るのは充分安いだろう。

まさにダンジョンマスターの特権とも言える。


「じゃあそれでいいから召喚しろ」


「了解しました」

 DP150→DP146


「っておい! そっから差っ引くのかよ!? あたい等の持ってる本来のDPを使えばいいじゃねぇか!」


「ダンジョンバトル中は、借り受けたDPの方しか使用出来ません」


 これはどのダンマスも同じで、ダンジョンバトル中は内部に居る侵入者を強制的に外へ排出する代わりに、本来持っているDPは凍結されてしまうのである。


「まぁいい、それはいいだろう。けどな、なんで消費ポイントが4ポイントなんだよ! さっき1ポイントつったよな? まさかテメェまで飲むつもりか!?」


「いいえマスター。お茶のついでに茶菓子を召喚しましたのでどうぞ」


「……おぅ、気が利くじゃねぇか」


 気が利く男のようにソッと茶菓子を差し出したダンジョンコアに、ヒカリの怒は何処かにすっ飛んでしまったようだ。

 因みに、差し出したと言ってもダンジョンコアに手足が有る訳ではないので、ヒカリの目の前に召喚しただけである。


 ズズ……


「はぁ……で、まだ見つかんねぇのか?」


 しかしダンジョンコアの苦労も虚しく、茶をすするヒカリの口から、再び同じ台詞が飛び出す。

思わずため息をつきたくなったダンジョンコアだが、それよりもバトルの方に変化が起こりつつあるのに気が付いた。


「マスター、またもや豪雨のようです」


 どうやらクールタイムが終了したアメフラシが再びアマゴイを行ったようで、青空が徐々に少なくなりつつあった。


「ほっとけ。どうせレッサーワイバーンにゃ効かねぇよ」


 ヒカリの言う通り豪雨に打たれた程度では、レッサーワイバーンは平気であろう。

 しかし、この考えは甘かったという事を直後に痛感する事となる。


「マスター、大変です! レッサーワイバーンが……」


「あん? ――な、なんだありゃ!?」


 ヒカリが視線を向けるスクリーンの中では、無数に降り注ぐ氷の刃をレッサーワイバーンが受けていた。

その様子に一瞬唖然となるも、すぐに我に返るとダンジョンコアを問いただす。


「どうなってんだおい! アメフラシとやらは雨を降らせるだけじゃねぇのかよ!?」


「その筈です。アメフラシに豪雨以外のものを降らせる能力はありません。これは人為的に行われてるものと推測します」


「人為的……だと?」


 ダンジョンコアの推測通り、これはアイリに召喚されたホワイトウルフが、レッサーワイバーンのいる上空に向かってフリーズを放った為に起こった現象で、アメフラシ単独で行われた事ではない。

 つまり、フリーズにより冷却された豪雨が凍りついて氷の刃となり、レッサーワイバーンに牙を剥いたのである。


「何とかならねぇのか!? このままじゃ殺られちまうぞ!」


「ダメですマスター。近くに陸地は無く回避は不可能です」


 そして不運な事に近くに豪雨を凌げる場所は無く、氷の刃に当たり続けたレッサーワイバーンはとうとう力尽き、2体とも海へとその身を沈めた。


「……クク」


「マ、マスター?」


「クックックックッ……」


 不意にクックッと笑いだすヒカリに、ダンジョンコアは不思議がる。

それもその筈で、当然の如くヒカリが怒りを撒き散らすかと思ったからだ。


「アーッハッハッハッハッ! 負けだ……」


「え!?」


「負けだよ負け。あたいの負けだ」


 まさかのヒカリのその台詞に、ダンジョンコアは面食らう。

いや、正確には面食らったような喋り方をしたと言った方が正しい。

何故なら、ダンジョンコアには顔が無いので。


「しかしマスター。バトルはまだ終わってませんが……」


「終わったよ。もうこっちから突入させるモンスターは召喚出来ねぇ。出来たとしても、撃破されるのが落だ」


 どうやらヒカリは完全に諦めてしまったらしく、テーブルに身を突っ伏してしまった。

 だがそんなヒカリに対しダンジョンコアは、らしからぬ言葉を投げ掛ける。


「マスターはそれでいいのですか? 少なくともまだ敗北が決まった訳ではありません。ならば可能性が有る限り、戦うべきではありませんか?」


「だからもういいって……」


 尚も突っ伏したままのヒカリに、これまでのダンジョンコアとは思えない信じられない言葉を叩き付けた。


「このまま何もせずに負けるのですね。ならば言わせていただきますが、今の貴女の姿は()()()という言葉が相応しいでしょう」


「……なにぃ?」


 一瞬聞き間違いかとも思ったが、確かに今、負け犬というフレーズが聴こえてきた。


「今……何つった?」


「おや、思ったより耳が遠いのですね、ではもう一度言わせていただきます。今の貴女は()()()そのものです」


 そしてもう一度聞き返すが、やはり出た言葉は負け犬であった。

しかもそれは、パートナーとも言えるダンジョンコアからヒカリに充てたメッセージ。

そのメッセージを受け取ったヒカリは静かに立ち上がると、送り主にツカツカと詰め寄る。

そして……




「ざっっっけんじゃねぇぞ、この野郎! 誰が! いつ! 負け犬になったってんだ!?」


「いつもなにも貴女はご自分で認めたではありませんか」


「だからって、負け犬って事ぁ「いいえ、負け犬です!」――え?」


 怒りを爆発させた筈のヒカリは、予期せぬダンジョンコアの反論に、思わず冷めてしまう。

そしてダンジョンコアによるマシンガンのような暴言が始まった。


「これまでの貴女は素晴らしかった。相手がどんなに強敵でも怯まずに挑む姿は、頼もしくもあり誇らしいものでした。しかし、今の貴女はどうです? バトルを途中で投げ出し、自らを敗北者と身を落とした。はっきり言って、バカでマヌケでトンチンカンで根性無しな寝相の悪いアホ女です」


 一頻り喋り終えたダンジョンコアは、黙ってヒカリの様子を窺う。

すると、妙にすっきりしたような表情をヒカリは見せた。


「……ハン、ダンジョンコアに説教されるたぁ、あたいも焼きが回ったもんだな」


「マスター……」


 どうやらヒカリは吹っ切れたらしく、普段の勇ましさを取り戻したようだった。


「いいぜ、やってやるよ。勝ちは無くなってもまだ引き分けがある! おい、残り時間は何分だ!?」


「はい、試合終了まで後30分と21秒です」


「へっ、上等だ。そんだけ有りゃ何とでもならぁ」


 そして完全に自分を取り戻したヒカリは、ボス部屋に居るプロトガーディアンのユウトに念話で命じる。


『おいユウト、残り30分だ。死ぬ気で死守しやがれ!』


『了解です。鼠1匹通しません!』


 指示を出し終えたヒカリは姿勢を正すと、照れ臭そうに頬を掻きながら小さく呟く。


「あ~、その、なんだ、……ありがとよ」


「マスター、何か言いましたか?」


 だがダンジョンコアの方は聞き取れなかったらしく、ヒカリに聞き返すのだが、本人はプイッとそっぽを向いてしまった。


「な、なんでもねぇよ! あ、そういやお前、あたいの寝相が何とか言ってたよなぁ?」 


「……何の事でしょう?」


 そして今度はヒカリのターンに成ったらしく、サーブ権はヒカリの手に渡った。

それを悟ったダンジョンコアは、かけない筈の脂汗をかいた。


「惚けんじゃねぇ! テメェ、あたいの寝顔見てやがるな、このクソッたれが!」


 余計な事を口走ったダンジョンコアをヒカリが鷲掴みにし、ブンブンと振り回す。


「マ、マスター、落ち着いて下さい。今はバトル中です、バトルに集中しましょう」


「ああ、そうだな! 今はバトルが最優先だ! だから話はバトルを終えてからだ! いいな!?」


「……了解です」


 ヒカリのやる気と引き換えに、ダンジョンコアは寿命を縮ませる事になったようである。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ヒカリによるダンジョンコアへの鉄拳制裁が決まった頃、アイリの方は眷族のクロとホワイトウルフ以外にもグリーンウルフを50体程召喚して、ヒカリのダンジョンへと攻め込ませていた。


「順調に進んでるようね」


「はい、お姉様。罠の類が殆ど無い洞窟のようで、これだけの手勢で仕掛ければボス部屋の発見は間も無くかと思います」


 そしてアイカの言う通り、1体のグリーンウルフがボス部屋を発見したので、そこへクロとホワイトウルフを急行させた。

 既に先行させてたグリーンウルフにボス部屋へ突入させてたけど、中に居たのはプロトガーディアンというDのモンスター。

けれどそのプロトガーディアンは何故か守勢を保ったまま、その場から動こうとはしない。


「グリーンウルフ相手に隙を窺ってるのかしら?」


 考えられなくはないけど、そこまで慎重になるのは何故だろう……。

 するとアンジェラから、忘れかけていた事実を突き付けられてしまった。


(しゅ)よ、残り10分を切ったが、大丈夫なのかや?」


「残り時間? ――あーーーっ!」


 すっかり忘れてた。

今回のバトルは、2時間っていう時間制限を設けてるんだった!

だから相手は攻めて来なかったのね。


「アイカ、グリーンウルフ達に相手を撹乱させるように指示して!」


「お姉様、先程から行ってるのですが、一向に動こうとはしません。恐らく、こちらの考えは見透かされてるのだと思われます」


 くっ、何て事! 折角の勝ちバトルがこのままじゃ……。


「お姉様、クロとホワイトウルフが到着しました。今プロトガーディアンに挑むところです」


「よし! ソイツを倒せばもうすぐよ、このまま押し切って!」


 上手く攻撃を回避し続けてるプロトガーディアンが憎らしいけど、こればかりは仕方ない。


「お姉様、残り5分を切りました」


 マズイわ……もう少しだっていうのに!

こういう時って、相手のモンスターは強く見えるものよね。

こっちが断然有利な筈なのに、中々決定打を当てる事が出来ないみたい。


「お姉様、残り1分を切り……あ、プロトガーディアンを倒したようです!」


 よ~し、あとはコアルームに入るだけよ!


『クロ、急いで!』


『了解ッス!』


 クロがコアルームの扉にカジリ付き、扉を開けようとする。



 残り5秒!



 少しずつ開く。



 残り4秒!



 辛うじて通れるくらいに開く。



 残り3秒!



 クロが通ろうとするが引っ掛かる!



 残り2秒!



 尚も無理矢理通ろうとするも踏み込めない!



 残り1秒!



 ホワイトウルフがクロを踏みつけ頭上を通り越す!



 残り0秒!



 ピリリリリリリ!


 バトル終了の告知音と共に、コアルームにホワイトウルフが到達した事で私達の勝ちが決まったわ!


「間一髪ですね、お姉様!」


「ええ、ホワイトウルフはよくやったわ!」


 もうダメかと思ったところに颯爽(さっそう)と現れたから、とてもかっこよく見えた。

功労者として眷族にしてあげようかな?


「しかしクロは情けないのぅ。ホワイトウルフが居なければ戦犯だったぞ」


「せやな。こらぁアンジェラはんに渇をいてれてもらわんとアカンでぇ」


「うむ、そうするかの」


 可哀想な事に、クロの制裁が決まった。

私としては責めるつもりはないんだけど、さすがにあの場面だと印象が悪すぎるってもんよね。

 等とバトルを振り返ってると、対戦相手のヒカリから通信がきた。


ヒカリ

『よう、どうやら今回はあたいの負けだ。素直にお前の実力を認めてやらぁ』


アイリ

『ありがと。てっきり認めないとか言い出すんじゃないかと思ったわ』


ヒカリ

『フン、そこまでみっともないバカじゃねぇよ。だが勘違いすんなよ? 今回は負けたからって、次にやった時にゃ負けるつもりは無いからな!』


アイリ

『いいわよ。機会が有ったらまたバトルしようじゃないの』


ヒカリ

『上等だコルァ! 次は叩きのめしてやっからよ、精々首洗っとけやぁ!』


 こうして騒がしい対戦相手とのバトルは終了した訳なんだけど、バトル強化週間は始まったばかりね!


ヒカリ「で、どうなんだ覗き魔?」

ダンジョンコア「……黙秘します」

ヒカリ「ざっけんなゴルァ!」

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