出ました魔法少女
前回のあらすじ
邪神レグリアスの発案(実際はミゴル)によりダンジョンバトル強化週間を打ち出し、バトルの活性化を計る。
そして思惑通り、数多くのダンマス達が興味を示すのであった。
邪神レグリアスの思い付きで、突如始まったダンジョンバトル強化週間。
獲得出来るDPが普段の2倍になるという事で、バトルの申請があちこちから届いた。
私としてはDPが2倍になったところでガッツく程じゃないんだけれど、他のダンマス達は違うらしい。
まったく、ヤレヤレねぇ……ってレミエマに話したら、本人はバトルの最中だった。
しょうがないから私も適当に対戦相手をチョイスしてバトルと行こうかな…………って事で、相手を決めたんだけども……。
ヒカリ
『ヒカリ。よろ』
アイリ
『――――えーと、アイリです。宜しく』
ヒカリ
『バトル1時間後、特設ダンジョン1階層のみ、眷族参加有り。んじゃ』
アイリ
『ア、ハイ』
適当にチョイスしたら適当過ぎる相手になってしまったらしい……。
一応相手はEランクって事でFランクの私でも対戦可能なんだけど、そのぉ……何というか、適当っていうか、いい加減っていうか、面倒臭いって雰囲気が伝わってくる。
そして見た目の年齢も相成って今時の女子高生って感じね。
ヒカリ
『……おい、今適当な奴だと思っただろ?』
ンゲッ! 戻って来た!
ここで慌てたら肯定してると見なされるし、落ち着いて対処しよう、冷静に冷静に。
アイリ
『いえ、決してそんな事は『しらばっくれるんじゃねぇーーっ!』んひっ!?』
ヒカリ
『テメェもあたいを馬鹿にするんだろ? そうなんだろ!? あ"!?』
大声で怒鳴られた……。
よく分からないけど、相手を怒らせてしまったらしい。
と言うより、今の流れのどこにキレる要素が合ったのか全く分からないんだけど、宥めても逆上しそうだし、いっその事開き直って煽ってみよう。
アイリ
『馬鹿にしてるつもりはないんだけど、そう感じるなら思い当たる節が有るって事よね?』
ヒカリ
『ね、ねーよ、んなもん!』
アイリ
『いいえ、他の人は騙せても私は騙せないわよ。アンタのその格好、どう見ても魔法少女じゃないの』
今言った通り、この人はシーラやユーリと同じような魔法少女の衣装を身に付けてるのよ。
その魔法少女というフレーズを出した瞬間、その場の空気がピシリと変わり、ヒカリの顔がカァーッと赤くなっていく。
そしてついに耐えきれずに……
ヒカリ
『い、い、い……
言うなぁーーーーっ!!』
叫び声を上げて真っ赤にした顔を両手で覆ってしまった。
更にそのまま身をよじる姿は、先程まで威勢の良いヤンキー女と同一人物とは思えない。
そして赤くした顔に青いストレートロングの髪が微妙にミスマッチしてるのも煽りポイントとしては有効ね……ってどうでもいいか。
それにしても、まさか4人目の魔法少女が出てくるとはねぇ……。
それになんで魔法少女の衣装を着てるのか分かんないわね。
嫌なら着なきゃいいのに……。
アイリ
『どうでもいいけど、早くダンジョン作らないとバトルに間に合わないわよ?』
ヒカリ
『わ、分かってる! クソッ! 覚えとけよテメェ、バトルでギッタギタにしてやるからなぁ! 首洗っとけや!』
捨て台詞を吐きつつ親指を下に向けてから通信を切られた。
騒がしい人だったけど、アレって多分転生者な気がする。
確か同じ魔法少女のシーラがダンジョンマスターには転生者が多いって言ってたし、ヤンキーが魔法少女のコスプレしてると思えばしっくりくるわ。
「お姉様、早く特設ダンジョンの作成に取り掛かった方が宜しいのでは?」
「そうね、大した時間は無いけど対決する舞台は整えておかなくちゃね」
そして早くも1時間後。
よく考えたら1時間って短いわ。OKしちゃったから仕方なんだけど、ろくな仕掛けが出来なかった。
けれどそんな短時間でも匠は嬉々としてやってくれました。
「いつでもええで! 歓迎の準備はバッチリやからな!」
等と腰に手を当てて自信満々な発言をしており、今後の展開に注目が集まりそうです。
なんせ私に内緒で仕掛けを施してる部分もあったので。
さて、対するあの魔法少女は……
ヒカリ
『逃げずによく来たな。その根性だけは認めてやんよ!』
通信を繋ぐと、コスプレヤンキーことヒカリが腕組みをしつつ仁王立ちしているのが確認出来た。
というかよく来たと言われても、ダンジョン通信で繋いだだけなんだけど……まぁいいや。
アイリ
『じゃあルールの再確認をするわよ』
ヒカリ
『おい、スルーすんな!』
・今回の使用階層は1階層のみ。
・先にコアルームにたどり着いた方の勝ち。
・眷族の参加はOK。
・制限時間は2時間で、時間内に決着がつかなければ引き分けとなる。
以上、とてもシンプルな内容でした。
アイリ
『後は審判が来るのを待つばかりなんだけど』
ヒカリ
『そういや審判来てねぇな。いつもならとっくに来てるのに……』
なんて思ってると、運営から1通のメッセージが届いた。
運営より
『ただいま人手不足中につき、セルフサービスにて進行して下さい。音声入力が可能なので、バトル終了時に勝者は勝利宣言を、敗者はそれを認める事で処理されます。また、敗者側が認めなかったり、勝手に勝利宣言をした場合は、超特大のペナルティをご用意致しますので、そのような不正は行わないように願います。バトルは全て記録してますので、不正は見逃しません。最後に、バトルの報酬は後日、記録を確認させて頂いた後に配送、もしくは振り込みをさせて頂きます』
――ああ成る程、バトルが多くて手が回らない状況なのね。
ならさっさと始めちゃおう。
アイリ
『それじゃ、3・2・1・0! でスタートするわよ?』
ヒカリ
『おい、お前が仕切んなよ』
さすがヤンキー。
他人に指示されるのが嫌いだと見える。
アイリ
『ならカウントダウンはヒカリちゃんに任せるわ』
ヒカリ
『ちゃん付で呼ぶな、ちゃん付で! じゃああたいがカウントダウンするからな!』
アイリ
『はいはい』
3!
2!
1!
ヒカリ
『0! っしゃーっ、一気に攻め込むぜ!』
さてと、まずはお手並み拝見ね。
今回の特設ダンジョンは思い切って海タイプのダンジョンにしたから、水中や空中を移動出来るモンスターじゃないと対処出来ないようになってるわ。
「お姉様、こちらからは攻め込まないのですか?」
「ええ。まず攻めてきた相手を殲滅させる事を優先するわ」
今回のルールは、先にコアルームに到着した方が勝ちになる。
という事は、それまでに遭遇した敵は極力避けるように行動する筈。
更に素早く動ける手駒が居れば、事を有利に運べるって訳よ。
なら先陣を切ってくるのは……
「飛行タイプのモンスター……という事ですね、お姉様?」
「その通り。だから最初に相手の翼を折ってやろうかなと思ってね」
ダンジョン内を捜索するなら、障害物や罠に掛かりにくい飛行タイプがベストの筈。
予想通り飛行タイプのモンスターをよこしたら、空かさず殲滅してやるわ。
そうすれば警戒して攻めあぐねる筈よ。
「しかし主よ、何故そのような回りくどい事をするのじゃ? いつものようにモフモフを突っ込ませればよかろう」
「せやな。そこんとこどうなん?」
アンジェラとホークはこちらから攻めない事を疑問に思ってるのね。
特にホークは顔を90度くらい曲げて頭に?マークを浮かべてる。
「確かにモフモフを突撃させればあっという間に決着がつくわね。モフモフに勝る相手なんてそうそう居ないだろうし、単独で突っ込んでっても問題は無いと思うわ。でもね……」
それだと私が納得出来ない。
眷族のお陰で勝てたって言われるだろうし、何より簡単に事が運んだら面白くない。
「だから戦略を駆使して勝ちたいのよ」
「ほほぅ、成る程のぅ。流石は我が主じゃ!」
アンジェラは手をポンと叩くと、合点がいったとばかりに感心しきりのようだ。
「うん。だから力押しに出るのは最後の手段にするわ」
生前はろくに遊べなかった訳だし、折角なら楽しまないと損だと思う。
もしこれが殺し合いだったら、迷わずアンジェラに無双させるけどね。
「アイカ、状況はどう?」
「はい。先陣を切って侵入してきたのは、ホーネット30匹です。お姉様の思った通りですね!」
ホーネット……手のひらサイズのスズメバチモンスター。
Fランクのモンスターだが、集団になると凶暴さが増してEランク並の強さになる。
「思った通りね。アイカ、すぐにアイツを召喚して」
「さっそく出番ですね。すぐに召喚します」
DP4200→DP3700
「のぅ主よ、いったい何を召喚させたのじゃ? 思ったほど消費したDPは多くないようだが……」
「俺も気になるッス!」
「ワイもやで!」
うんうん、皆気になるみたいね。
でもそれは……
「見てのお楽しみ……ってね!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「さぁて、派手に暴れてやるぜ!」
(あの糞生意気な糞ガキに、吠え面かかせてやらぁ。年下のくせにあたいの衣装をバカにしやがって、今に見てろよぉ!)
――と、ヒカリは言ってるが、アイリとしてはバカにしたつもりはない。
他意無く煽っただけである。
「マスター、落ち着いて下さい。まずはどのように動きますか?」
「ああん? んなもん決まってんだろ。何でもいいから突っ込ませろよ!」
「……ホーネットを30匹投入します」
DP7450→DP7150
ヒカリがまともな指示を出さないと悟ったダンジョンコアは、とりあえずと言った具合にホーネットを召喚した。
ホーネットはFランクの大型の蜂で、召喚コストは高くない。
「おしおし! すぐに突撃させろぉ!」
ただひたすらスクリーンに映ってるアイリのダンジョンを指して指示と言えないような指示を出すヒカリ。
「了解しました」
そのヒカリの指示を受けて、ホーネットを突入させるダンジョンコアだが、こんな調子なのはいつもの事で、これまでヒカリがダンジョンバトルで勝ってこれたのも、ひとえにダンジョンコアのお陰であると言えるだろう。
それに今までのバトルはヒカリの性格がアレな為に、相手の油断を誘うことが出来たというのも大きい。
「なぁ、ホーネットだけか? もっと突撃させろよ。DP余ってんだろ?」
「マスター、相手のダンジョンは海エリアとなっております。ホーネット視点の映像によると、陸地は少なく殆どが海になってるようですので、まずはホーネットで広範囲に広がりボス部屋を見つけるのが先決かと思われます」
(う~ん、それもそっか。でも時間が掛かるのは嫌なんだよなぁ……ならやっぱり数が必要だよな)
「でもよ、先にボス部屋を見つけた方が有利なんだから、もっと召喚するべきだと思うぜ。だからケルビムスワローを召喚させようぜ」
ケルビムスワロー……全長1メートルの真っ白な燕で、短時間なら雲の上まで飛ぶ事が出来る。
しかし戦闘能力は強くなくFランク並の強さなのだが、空を飛べるという事からEランクとなっている。
「了解しました。ケルビムスワローを30体召喚します」
DP7150→DP4150
「っしゃーーっ! そのまま突っ込め!」
「ケルビムスワローをホーネットに続き突入させます」
スクリーンに向かってシャドーボクシングを繰り広げるヒカリを横目に、ダンジョンコアはケルビムスワローを突入させる。
アイリのダンジョンは快晴で視界良好となっており、これなら上空からの捜索は上手く行きそうだと思われた。
しかし、それから10分近く経過した時、今まで快晴だった空模様に突然変化が訪れる。
疑似太陽を雨雲が覆い、捜索中のモンスターに豪雨が降り注いだのだ。
「くそっ! 視界が悪い上に雨とはなぁ。ケルビムスワローを一時的に雲の上へ退避させろ」
「了解です。ホーネットは如何致しますか?」
「ホーネットはしゃーない、そのまま捜索続行だ」
「了解致しました」
ケルビムスワローはその特性を生かし雲の上へと逃れるが、ホーネットはそうもいかない。
運良く孤島に木を見つけた者はそこへたどり着くが、それが叶わないものは胴体と羽を雨で濡らし続け、やがて海中へと沈んでいった。
「マスター、この豪雨はアメフラシのスキルだと思われます」
「アメフラシ?」
アメフラシ……Fランクのナメクジ型モンスターで、戦闘能力は皆無だが一時的に局地的な豪雨を発生させる事が出来るスキルを持つ。
稀少種のためFランクの割には召喚コストが高い。
「つまりそのアメフラシってのがこの大雨を発生させたってのか?」
「そうです。恐らくは相手のダンジョンマスターが召喚させたのでしょう。見てくださいマスター、もうじき雨が止みそうです」
スクリーンには先程までの豪雨が嘘のように、雲1つない青空が広がりつつあった。
「チッ、やってくれるじゃねぇか! ぜってぇ泣かしてやるから首洗っとけやぁ!」
アイリにやられたと気付いたヒカリは、ビシッ! と指をスクリーンに突き付けながら更なる闘志を燃やした。
ヒカリ「ヤンキーがコスプレ好きで悪いかコルァ!」
アイリ「いや、何も言ってないって……」




