採取依頼
ハーゲ〇ダッツを堪能した次の日、再び私たちは冒険者ギルドに来ていた。
理由は冒険者ランクを上げるためよ。
魔物討伐はEランクのものから存在するけど、Eランクの魔物討伐はスライム以下の依頼しか無いため、今のGランクだと、ろくな依頼を受けられないみたいね。
それにダンジョン攻略にもランクが関わっていて、ダンジョンに入る資格があるのは、Eランクの冒険者以上である必要があるんだって。
ダンジョン攻略の資格については、道中でカインさんに聞いた。
でも間違って入ることもあるので、GランクFランクの冒険者がダンジョンに入っても特に罰則はないらしい。
「まずは採取依頼からやってみましょうか」
「おや? てっきり討伐依頼を受けると思うとったがの」
「採取依頼なんて~、チャチなことは~、やりたくねぇ~、ってイメージですね~♪」
あんたたち、いったい私を何だと思ってるの……。
「もしかしてお姉様、昨日会ったイケメンハーレム男の助言に従うのですか?」
「むむ? 何か面白そうな輩に会ったのか? 詳しく話してたも」
ちょ、こんなところで!
「実はですね「ここで話したらお昼と晩御飯を抜きにするからね!」
「……わたくしは何も知りません」
「アンジェラも……いいわね?」
「う、うむ……」
ふぅ……依頼を受ける前に疲れちゃったじゃないの……。
「まぁいずれ討伐依頼を受ける日が来ると思うわ。でも採取依頼はこの先受ける日が来るか分からないでしょ? だから採取依頼ってわけ」
寧ろ、ランクが上がっていけば、討伐依頼しかできなくなるんじゃないかしら。
高ランクの冒険者を、採取依頼で時間をとらせるのは勿体ないものね。
「ふむ、アイリも色々考えておるのじゃな」
「そんな大袈裟なことじゃないわ。単純に採取もしてみたいってのもあるし」
といっても、どの採取依頼も実物がわからないわね…………あ、そうだ! 受付嬢さんに初心者にお奨めの採取依頼を聞いてみよう。
まだ早朝のためか冒険者の数が少ないから、少し時間をとらせても大丈夫そうね。
さっそく近くの受付嬢さんに聞いてみることにした。
「すみません。初心者にお奨めの採取依頼ってありますか?」
今日の受付嬢さんは、昨日と違って妖艶な感じがする人だ。
よく見ると耳が長いからエルフなのかもしれない。
「いらっしゃいお嬢さん。採取依頼は初めてかしら?」
「はい、そうなんです。植物とかには詳しくないので、分かりやすい依頼はないかと思いまして」
「なら今ある採取依頼で、お奨めのを探してあげるわね」
「よろしくお願いします」
そもそも私はこの世界の人間じゃないから、みんなが知ってて当たり前の植物とか知らないしね。
『今からでも遅くないですから、討伐依頼にしましょうよお姉様……』
アイカはどんだけ私に討伐依頼をさせたいのかしらね。
それとも自分が討伐したいだけだったり?
……あり得るわね。
『道中の魔物はお姉様がほとんど倒してしまいましたから、私の出番がなかったじゃないですか……』
やはり後者だったのね……。
『はいはい、また今度ね』
そんなに闘いたいんなら、道中で出現した魔物は全部任せてみよう。
私は楽をしてアイカは戦闘をこなせる……まさにWINーWINね。
「おまたせ。コレなんかお奨めよ」
アイカと念話してる間に受付嬢さんが戻ってきた。
「ありがとうございます、えーと……グリーンクラブの採取? グリーンクラブってどんな植物ですか?」
「あら、グリーンクラブを知らない? こんな感じに葉が3枚ついてる草よ。あちこちに生えてるから、すぐに見つかると思うわ」
わざわざ絵に描いて説明してくれたけど、要するに私も知ってる三つ葉のクローバーだったわ。
この世界にもあるとかクローバーは割とメジャーな植物なのね。
「親切にありがとうございます。私、昨日冒険者登録したばかりの新人で、アイリっていいます」
「そうだったの。私はローニアよ。宜しくね、アイリちゃん」
「はい、宜しくお願いします」
ローニアさんね……よし、親切なローニアさんって覚えておこう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「本当にあちこちに生えてるわね」
今私たちは、街のすぐ北側にある森の手前に来ていた。
ローニアさん曰く、お奨めの場所らしい。
というか、やっぱりどう見ても三つ葉のクローバーよコレ。
もしグリーンクラブが地球にあるクローバーと同じ性質なら、あちこちに生えてるのも納得ね。
「まさかお姉様がグリーンクラブを知らなかったとは……」
「そりゃこの世界のことで知ってることなんて極僅かよ」
私はこの世界に来て1ヶ月だもの。
下手すりゃその辺の子供より劣るわ。
「ふむ。なら1つ面白いことを教えてやろう」
「あら、どんなこと?」
「このグリーンクラブは主にポーションの材料として使われることが多いんじゃが、極稀に強力な回復力を持った個体があるのじゃよ。その個体でポーションを作ると上級ポーションができる可能性があるのぅ」
へーぇ、強力な個体ねぇ……。
「まるで四つ葉のクローバーみたいね」
確か幸せを運ぶとか言われてた気がする。
「な! 主よ、何故知っておる!?」
「そんな話は初めて聞きましたが、何故知らないはずのお姉様が、知ってらしたのでしょう?」
「四つ葉のクローバーは、初めて聞きました~♪」
あれあれ? 本当に四つ葉のクローバーだったの?
「いや、あっちの世界にも似たようなのがあるのよ。でも極稀ってことはないわねぇ。それなりに見つかるし」
「なんと……主の世界では貴重な存在ではないのか……」
もしかしたら地球と違う点として、四つ葉は非常に見つかりにくかったり……。
「四つ葉の~、グリーンクラブ~、ありました~♪」
「そ、そんな簡単に見つかるわけは……」
……ってことでもないのかな。
「しかし上級ポーションの材料がこんな簡単に見つかるのでしょうか? 簡単に見つかるのであれば、市場に上級ポーションが溢れるように……」
「バカなことを言うでない。そんなにホイホイ見つかるのなら誰も苦労せんわい」
「でもアンジェラの足下にもありますよ? ほら」
「ななな、なんと!?」
こうなると地球のクローバーと変わらないような‥‥あっ!
「……ねえみんな、もしかしたら私のギフトの影響なのかもしれない」
「お姉様、以前聞いたミルドという神に与えられたギフトのことですね?」
一応みんなに話しておこうと思って、ミルドにもらったギフトの話は以前聞かせてたのよ。
ただの知人に教える気はないけど、アイカや眷族のみんななら問題ないでしょ。
「そういえばギフトのことをすっかり忘れておったわい。だが間違いなくギフトの影響じゃろうな」
「やっぱりそう思う?」
あの人は控え目に言ってたからあまり気にしなかったんだけど、もしかしたらかなり強力なのかも。
「神が一般人にギフトを授けるなんてことは、普通では考えられないんですが。しかも無償で」
「そうは言われても普通にもらったのよ。特に何かしろとも言われてないし」
まぁ、以前の私の運は最悪だったらしいから、同情されたんじゃないかな。
「コレに関しては、今現在は不明ですね。場所が良かったという可能性もあるわけですし」
「受付嬢の~、ローニアさんに~、感謝ですね~♪」
そういえば親切な受付嬢だったわね。
昨日のギルドマスターの印象が強くて、私の中では冒険者ギルドのイメージが著しく低下してるのだけど、ローニアさんやナタリエさんは逆に好印象よ。
ただナタリエさんは、もう少し落ち着いてくれると有り難いけど。
だいたい、ギルドに対するイメージが悪いのも、昨日のギルドマスターやチンピラ共の……、
そうだ、チンピラ共で思い出した。
昨日、アンジェラ達に行ってもらった情報収集のお陰で、有力な情報を得たんだった。
件のチンピラ共は、この街の領主の息子の専属護衛をしてるらしい。
なので、「俺たちに逆らうのは、領主様の子息様に逆らうのと同じだ!」とか言ってるらしい。
要は領主様の後ろ楯があるってことね。
「でも息子はともかく、その領主様がどういう人柄なのかは分からないわねぇ」
もしかしたら、まともな人物かもしれないし、チンピラ共と同じような奴かもしれない。
「だが息子の方は、あまりいい話は聞かんぞ?」
アンジェラが言った通り、息子のロドリゲスは、欲しい物は絶対に手に入れる性格で、逆らった者は不敬罪で捕らえるのだとか。
この息子の性格を考えると、領主の方も同類なのかもしれない。
けどさすがに会ってもいない人を判別はできない。
結局ギルマスとチンピラ共の接点はないが、領主が間に入るなら違ってくる。
ギルマスが領主に逆らえない何かがあるのかもね。
「でも~、違う情報ならありましたよ~♪」
ん? 他に何かあったっけ?
「ギルドマスターが~、数ヶ月前に~、離婚してるって話です~♪」
……いや、それ多分関係ないから。
「しかも~、離婚の理由は~、禿げ上がった頭に愛想が尽きたって話で~、主婦たちの間で~、その話題が~、もちきりです~♪」
なんで主婦たちの間でもちきりなのよ。
もっと話すことはないんだろうか……。
「なるほど。最近流行りの熟年離婚ですね」
アイカ、あんたはテレビの見すぎよ。
「そういえば、髪の毛を生やすためにエリクサーを探してるという噂もあったの」
とりあえずその辺にしときなさい。
さすがに可哀想になってくる……。
確かに隅の方からじわじわと侵食されてるのは見たけど。
「さて、だいぶグリーンクラブも確保したし、街に帰ってお昼にしましょ」
「はい賛成ですお姉様!」
「うむ、妾は肉がいいぞ」
「~♪」
さて、お昼を済ませたら、違う依頼を受けましょうかね。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
街に戻って街の北門までやってきた。
入場待ちの列が無かったからすぐに通ることができたんだけど、入ってすぐの所で人だかりができてるのが見えた。
「お姉様、お祭りの出店かもしれません。もしそうなら、かき氷が存在する可能性も!」
アイカはどうしても食べ物に結び付けたがる傾向があるけど、祭りの雰囲気とは全然違うじゃないの。
なんか時々怒鳴り声が聴こえてくるし、野次馬が集まってるだけよ。
「少なくともお祭りじゃないわよ。ケンカでもしてるのかもね」
まぁちょっと気にはなるし、何をやってるのか覗いてみよう。
「おい、聞いておるのか!?」
「す、すみません! 悪気は無かったんです! 本当です!」
なにやら貴族っぽいオヤジが、若い女性とその子供に対して怒鳴っている。
何故そうなったのか、近くの野次馬Aさんに聞いてみた。
「ああ、なんでもあの貴族が乗っていた馬車を遮るように、あの子が飛び出してきたらしいぜ」
なるほど、よく見るとそばに馬車が停まってるわね。
そして進行を妨げた平民に対して、貴族の方は怒ってるってことか。
貴族のあるあるっぽい展開ね。
ありがとう野次馬Aさん。
ちなみに野次馬Aさんは、背が高くガッチリとした体格の女戦士でした。
怒鳴られてる親子は少し可哀想な気もするけど、貴族と関わりたくないからそのまま通り過ぎようとしたら、角度が変わったせいで子供の姿がハッキリと見えてきた。
ん? あの子、頭から血を流してるじゃない!
母親が貴族から庇うようにしてたから見えなかったけど、早く治療してあげないと手遅れになるかも!
そう思った私は、こっそりとスマホを操作して上級ポーションを召喚した。
DPは全然余裕で有るし、周囲の人たちも誰も私を見てないから簡単だったわ。
そして急いで人だかりを掻き分けて、当人の前に出た。
「ちょっと失礼するわね」
「む? なんだ小娘、貴様の家族か?」
「いいえ、家族じゃないわ、寧ろ他人よ」
あまりにも私が堂々と出てきたから、周囲の人たちも私が関係者かと思ってそうね。
で、オヤジ貴族もそう思ったらしいけど、この親子との関係を真っ向から否定したから、面食らった顔をしてる。
「よく分からんが、関係無いなら引っ込んでおれ。それとも貴様も儂に楯突く気か?」
「その男の子が怪我をしてるみたいだから治してあげるだけよ。アンタに用はないわ」
「なっ!?」
アンタに用はないと言われて、またもや面食らった顔をしてるオヤジ貴族。
そんなオヤジ貴族を無視して、血を流して怯えてる男の子の前に立つと、腰に着けてるポーチから上級ポーションを取り出した。
正確にはそう見せただけで、実際はアイテムボックスから出したんだけども。
「ほら、コレを飲みなさい」
男の子は怯えつつもしっかりと上級ポーションを受け取って恐る恐る飲みだした。
そばの母親は理解が追い付かず、私と男の子を交互に見ているだけだ。
そして男の子がそれを飲んだ直後から変化が起こった。
あれほど痛々しかった傷が塞がり、流血も止まったのだ。
「痛くない……傷が……治った?」
自分の身体に起こった変化に戸惑ってるようなので、優しく教えてあげる。
「そうよ、上級ポーションだもの、すぐに治るわ」
「「上級ポーション!?」」
何故か貴族と母親の声がハモった。
その声を聴いた周囲の野次馬も、私が上級ポーションを男の子に使用したと理解し、どよめきが起こる。
これは後からアイカに聞かされたけど、上級ポーションは普通の冒険者が持ってるケースは少ない。
貴族の中には多く所有する者も居るが、平民が持っていて、しかも簡単に他人に与えるなど一般常識からはかけ離れてる行為らしい。
「ふむ……おい貴様、中々良さそうな物を持っておるな。それを儂に譲ればこの場は収めてやってもよいぞ?」
おっと、そう来ましたか。
でもいくら簡単に召喚できるからと言って、簡単にホイホイとくれてやるほどお人好しじゃないのよ。
『そう思いつつも簡単に使ってしまったのはお姉様ですけどね』
そこ、一々突っ込まない。
「さて、怪我が治って良かったわね。気を付けて帰るのよ?」
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
「あ、ありがとうございます! お礼をしたいのですが、何か私にできることは……」
「いいんですよ、それよりも……」
(あの貴族の相手をするから早くこの場から離れて)
私が小声で話すと、母親は黙って頷き、子供を連れてその場から離れていく。
「はい、一件落着。野次馬の皆さん、帰った帰った!」
まるで事態は収束したかのような雰囲気を作り出し、野次馬を撤収させる。
やがてぞろぞろと野次馬たちが離れていった。
「さ、私たちも帰りましょ」
「はい、お姉様」
「ハッ? ちょ、ちょっと待てぃ! 貴様、何を勝手に終わらせておる!?」
そりゃ私の中では終わったからに他ならないわね。
「あ、まだ居たの? もう終わったから早くかえれば?」
「カラスが~、鳴いたら~、帰りましょ~♪」
ここで、オヤジ貴族はようやく相手にされてないことに気付いて徐々に顔を真っ赤にしていった。
「おのれぇ、貴様! 貴族に歯向かう愚か者が! 今この場で「お、落ち着きください、モルドルト様!」
今にも斬りかかってきそうな雰囲気の貴族を、側近らしき男が止めた。
「このままでは間に合わなくなります! 今は王都へ急ぎましょう!」
「チッ! 仕方ない……おい小娘、命拾いをしたな、今日という日に感謝するがいい!」
何やら時間が差し迫ってたらしく、側近に急かされてそそくさと馬車で街を出ていった。
まったく、どこにでも居るのね、ああいう輩って……。
アイリ「何味のかき氷がいい?」
アイカ「ブルーハワイで」
アンジェラ「焼き肉のタレじゃな」
セレン「黒蜜で~♪」
アイリ「アンジェラ、後悔するわよ?」




