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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第4章:夜空に舞う銀箔蝶
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三国会談+1

前回のあらすじ

 国に追われる立場になったミゲールとジュリアの両名をダンジョンに住まわせる事にしたアイリ。

2人の仕事として子供達(自分も子供だという事は無視)の教師として迎え入れたため、その様子を見に学校へ訪れたのだが、何故かそこに女神ミドルーシェが混ざっていた。

慌ててアイリはコアルームへと女神を引っ張り込み、お土産を渡して何事もなく天界に帰ってもらった(というか貰うもの貰ってさっさと帰った)。

「疲れたぁ……」


「お疲れ様です、お姉様」


 あれからあっという間に1週間が過ぎた。

三国会談も無事に終了し、たった今ダンジョンに戻って来たところよ。

 三国の代表の中に私が1人だけ場違いのように放り込まれてる様は、端から見るとさぞ異様に見えた事でしょうね……。


「お姉様、そもそも端から見る者が居なかったのですから、まだマシなのでは?」


 マシと言えばマシなのかもしれないけど、凄い孤独感を味わったんだからね!

キャメルさんはアレクシス王国の外交官を紹介したら他に仕事が有るとかでさっさと帰っちゃうし。

アイカはドローンで会談を録画しながら見てたみたいだけども、結局各代表の中に私が1人ポツンと置かれる事になったのよ。


「ねぇアイカ、真面目に想像してほしいんだけど、G7とかG8とかの代表者の中に私が混ざってたらどう思う?」


「場違いですね。ご自分の立場を考え直した方が宜しいのでは?」


 イラッとくる返答だけど、実際その通りだと思うわ。

そのせいで終始神経を磨り減らすはめになったけど、唯一の救いはダンジョンが既に崩壊した後だって事よ。

お陰で所有権を争う事態には発展せず、終始和やかな雰囲気で会談を行う事が出来た。

 そんな訳で、私としては1年間は働いたような気分になってるから、暫くはゴロゴロして過ごしたいと思う。


「あ~~~疲れた。もぅダメ。暫く動きたくな~~~い……」


「お姉様、そんな疲れきった雰囲気を出されると、こちらまで疲れが移るので止めていただきたいのですが」


 そうは言われても疲れは簡単にはとれないのよ……。


「どうせなら、もっと可愛く言ってみたらどうです?」


 可愛く? う~ん…………じゃあ……






「くぅ~疲れました♪ ……こんな感じ?」


「微妙に違う気がしますが、さっきの台詞よりはマシになりました」


 中々厳しい採点ね……。


「それよりもお姉様、会談の殆どは銀箔蝶の事でしたね?」


 そうそれ。

 ダンジョンに利用価値が無いと分かると、今度は銀箔蝶の話題に移った。

何せ多数の冒険者に巨大化した銀箔蝶が目撃されてるから、無事に逃げ延びた冒険者からあっという間に広がったらしい。

 ただでさえ捕獲依頼が多数出てるのに、そこへ来て巨大な銀箔蝶だもんねぇ。

そりゃあ大勢が興味を示すわよね―――あの場に居た冒険者以外は……。


「特にミリオネックの代表による食い付きっぷりと言ったら半端なかったですね」


「そうね。流石は商業連合国だと思ったわ」


 そして遠い目をしながら、会談でのやり取りを振り返った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「成る程成る程。それならそのダンジョンは利用不可という事ですな?」


 そう口にしたのはラーツガルフ魔王国の代表である丸メガネに七三分けの魔族ルブザリエス外交官で、アイリが湖底から発見されたダンジョンは崩壊したという内容に対する返答だ。


「そうですね。元々ダンジョンマスターは不在でダンジョンコアも破壊したので、今はただの廃墟になってると思います」

(思いますって言うより廃墟と化してるのを見たんだけどね。でも次にその廃墟を見た時に何者かが住んでたとしたら面倒くさいし、後は各国で自力調査をしてもらいましょ)


 アイリ本人からダンジョンコアを破壊したという話が切り出されたので、ならば仕方ないという空気に成りかけたのだが、それに待ったをかけた代表者が居た。

損得勘定に敏感なミリオネックの代表者で、フォーカスという小肥り気味の中年男だ。


「だが少々お待ちいただきたい。何もダンジョンコアを破壊する必要は無かったのでは? もしも上手く鎮圧する事が出来れば利益はかなりの物になったと推測出来るのだが」


 ミリオネック側の言い分は、地上の者達に対して牙を剥いたのであれば、それを押さえ付ける事でこちらに有利な条件を突き付けて契約する事が可能だったのでは? という事だ。

 だがアイリは首を左右に振りつつ否定する。


「それは無理ですよ。さっきも言ったように、あのダンジョンはダンマスが不在で徐々に崩壊するのは確定してたんですから。それに最後に現れたボスのランクは……」


「……ランクは?」


 アイリは一旦間を置くと、わざとらしく注意を引き付けるように1度周りを見渡すと、フォーカスは前のめりに姿勢を乗り出して続きを促した。

それを受けてアイリは一字一句を強調するように切り出したが、その内容は衝撃的としか言えない事実であった。


「S・ラ・ン・ク! でした」




「「「………………」」」


 暫しの沈黙が場を支配する。

 ある者は聞き間違いではないかと首を捻り、またある者はSランクとは何の話だったかと頭の中を駆け巡り、更にある者は久しく聞かないSランクというフレーズに記憶を探り起こそうとした。

 静寂の中、アイリは1人茶で喉を潤しつつ各代表の言葉を待つが、その間にズズズ……という茶をすする音が矢鱈と目立ってしまったが……。

 そこへ静寂を破り発言する者が1人。

アレクシス王国の外交官で、20代前半に見えるトスカムという若い男だ。


「え~~失礼。念のためもう一度確認したいのですが、コアルーム前に居たボスはSランクだったという事でしょうか?」


「いえ、違います。ボス部屋に居たのはAランクのリッチでした」


「「「………………」」」


 トスカム外交官の言葉をアイリが否定して、やはり聞き間違いだったのかという空気に成りかけたところで、再び爆弾発言が飛び出す。

Sランクより下のAランクだったとしても、国の存命が関わってくる強さなので、とても軽く流せる話ではない。

それにAランクの他にSランクの魔物の存在とあっては、外交官だけでどうにか出来るレベルの話ではなくなってくる。

 そこでアイリは外交官達から催促されるままに、これまでの経緯を語った。




「むむむ……。これは流石に契約出来る段階の話ではかったか……」


 ミリオネック代表のフォーカスは、ダンジョンコアが暴走し銀箔蝶と融合した話を聞き終えると、ガクリと肩を落とた。

話が通じない相手との契約なんぞ不可能だからだ。


「そうですね。最初にダンジョンの存在が報告された時は、ここまでの事態だとは思ってなかったので、寧ろ崩壊してくれて感謝しますよ」


 次に口を開いたアレクシスの代表トスカムは、SランクとAランクの双方を撃破されたという説明にホッと胸を撫で下ろす。

その言葉にラーツガルフの代表ルブザリエスも相槌をうち、ウンウンと頷いた。


 さて、ここまで順調に会談は進んでいるのだが、本来ならSランクやAランクといった魔物の存在を報告すると簡単には信じてもらえない。

 では何故三者とも簡単に信じてるのかというと、()()()()()()()()()()からである。

方法は簡単、アガレスや銀箔蝶との戦闘をドローンが生々しく映像として記録してたので、それを見せてやっただけだ。

しかもドローンの鑑定スキルによるステータス表示を込みで。

 結果はご覧の通り、最早三者としては現実を受け入れる以外の選択肢は残されてなかった。

因みに映ってるのはモフモフとアイリのみで、ドローンによる銃撃はアイカにより編集でカットされている。


「いやはやアイリ殿の眷族(けんぞく)には感服させられますね。まさかSランクの魔物を討伐出来るとは……」


 映像を見たトスカムは銀箔蝶との死闘を見て思わず息をのみ、そして銀箔蝶が倒れたのを見て安堵した。

事前にキャメルから聞いてたとはいえ、やはり生の映像として見るのとでは大きな差がある。


「然り。どうですアイリ殿、貴殿さえ良ければ我がラーツガルフ魔王国はアイリ殿に相応しい役職を用意致しますぞ?」


 空かさずルブザリエスはアイリの勧誘へと動いた。

これ程の戦力(主にモフモフ)を有してるのであれば、どの国から見ても喉から手が出るほど欲しい存在だろう。

 だが当然のように他の国も黙ってる訳はなく、フォーカスが素早く牽制に入る。


「ルブザリエス殿、抜け駆けは感心せんぞ? それよりも気になるのが銀箔蝶だ。前々から噂されてた銀箔蝶は、ダンジョンコアが生み出したのではないか?」


 牽制と同時に話題をすり替えると、その場を銀箔蝶一色に染め上げる。

その自然に流れるような手腕は、流石は商いの国ミリオネック……といったところか。


「ふむ。その可能性は高いと思いますぞ。如何ですアイリ殿?」


 丸メガネをくいっと上げつつルブザリエスはアイリに水を向けた。

向けられたアイリは、詳しく知らないのと銀箔蝶を思い出したくないという思いから答えたくなかったのだが、全員の視線が集中してるので、詳しくは知らないという前置きをした上で渋々口を開く。


「私もフォーカスさんの言った通りじゃないかと思います。でも最終的に銀箔蝶と融合したダンジョンコアを破壊したので、もう見る事は無いんじゃないかと……」

(というか見たくないわ……)


「う~む、やはりそうか……」


 仕方なしに話したアイリは終始渋い表情だったが、フォーカスもまた渋い顔で頷く。


「「「はぁ……」」」


 そして三者共揃ってため息をついたため、アイリは首を傾げる。

既にダンジョンの脅威は去った筈――――ならば何がいけないのかと。


「あの~、なんでため息を?」


「ん? ああ、それはね……」


 三者を代表する形でトスカムが答えた内容は、銀箔蝶が目撃される時期は毎年多くの冒険者がヨム族の草原を大移動するので、物の売買が飛躍的に上昇し三国ともかなりの利益を上げていた。

これが冒険者数人なら大した額にはならないところだが、それこそ1000人は軽く越えようかという数の冒険者が銀箔蝶を求めて移動するため、武器、食料、薬品、その他の雑貨類の消耗が激しい。

更にそれを見越して出張してくる商人まで居るくらいで、正に人が動くと物も動くかの如くである。

 しかし、ダンジョン崩壊により銀箔蝶が現れないという事実が明るみに出れば、冒険者の大移動は行われず、経済的損失が大きくなるという。

しかもアイリ達が巨大銀箔蝶を倒すところを遠巻きに見ていた冒険者が大勢居るため、下手な誤魔化しはきかない。


「これは由々しき事態ですぞ。早急に手を打たねば手遅れに……」


「しかしどうするというのだ? 銀箔蝶が現れない可能性が高いと分かった今、それに代わる何かを打ち出さなければ経済的損失は免れん」


 頭を抱えるルブザリエスに被せる形で、フォーカスが打開策を求めた。

それに従い三者共首を捻り、必死に策を練るのだが、中々思うように浮かばない。

ただ時間だけが過ぎていく中、事態を急転直下させる発言をしたのは、やはりやはりのアイリであった。


「銀箔蝶が出現すれば良いなら、いっその事作ってしまえば良いのでは?」


「「「作る!?」」」


 三者が声を揃えて驚く。

 そしてマジマジとアイリを見ると、無言で続きを促した。


「例えば、先程見せた映像のように一瞬だけ冒険者に見えるように映すだけなら、簡単に出来るんじゃないかと。それに映像だと捕まえるのは不可能ですし、絶対にバレる事は無いと思います」


 トスカムとルブザリエスはアイリの発想は盲点だったと考え、感心して頷いている。

一方フォーカスは身を乗り出すと、これでもかといくらい顔を近付けた。


「……詳しく聞かせてもらおうか」


 商いにうるさいフォーカス金の匂いを嗅ぎつけ、真剣に耳を傾ける。

鼻息の荒くしたフォーカスに若干引きぎみになつつも、自分の考えたアイデアを披露した。


「わ、分かったから少し落ち着いてください。要するに、銀箔蝶が映る魔道具をこっそり作っちゃえばいいのではないかと。それを定期的に冒険者に見せてやれば、当面はやり過ごせると思います」


「「「ほぉ~~ぅ」」」


 アイリが語った内容に、これまた息ピッタリに感心する3人。

シンプルで有りながら実に効果的な策だ。


「しかし待って下さい。魔道具を作れ……と、簡単に言われても、ホイホイと作れる者ではありませんよ?」


 トスカムの言う事ももっともで、容易く作れるのであれば苦労しない。

それなりに時間と金銭が必要になるのは明らかだ。

 しかし、その指摘にアイリは自信たっぷりに返す。


「私がそれを召喚出来るとすれば……どうでしょうね?」(流石にモニターを設置するのは勿体無いから、あの玉置錬三郎が使ってた記録石(メモリーキューブ)を召喚すればいいわね)


 だいぶ悪巧みのようになってきた感は否めないが、アイリ本人は場の雰囲気に慣れてきたようで、今はもうすっかりアイリのペースで話し合いが進められていた。


「ふむ。そこまで言うからには、召喚可能だと思ってよろしいので?」


 丸メガネをかけ直し、鋭くアイリを射抜く視線を向けるルブザリエスを気にも止めず、アイリは続ける。


「勿論です。それで詳細を詰めていきたいんですが……」


 この後、三国合同でアイリから提供された魔道具の設置について話し合いが行われ、その日の会談は終了した。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「はい。回想おわり」


 これで三国共に経済的ダメージを受ける事はなくなり、私は三国に対して貸し1つという事に。

最初は私も含めて利益配分される流れだったんだけど、お金には困ってなかったからね。


「特にフォーカス殿は乗り気でしたね、もしかしたら今まで以上の利益が出るかもしれないと言って」


「そりゃね。本来の青黒い銀箔蝶の色を変えて映す事も出来るし、それを見た冒険者は新種と思い込むでしょうね」


 新種に関しては頃合いを見て投入するつもりよ。

 ただ、ドローンの映像を記録石(メモリーキューブ)に記録させるのが手間だけども。




 ギュゥゥゥゥゥゥン!


「うっ! この感じ……確か前にも……」




「…………フフ」


 今笑い声が!?

 近くから笑い声が聴こえたので慌てて周囲を見渡したけど、アイカ以外誰も居ない普段通りのコアルームだった。


「お姉様、キョロキョロ見渡してどうしたのです?」


「……いえ、何でもないわ」


 あの感じは間違いなく、前に視線を感じた時と同じもの……。

でも気付いたらその感覚は収まり、今はなんともない。

結局よく分からないまま、どうする事も出来ずに放置するしかなかった。



玉置錬三郎「ふん、玉置錬三郎だ。知らない奴は第36部の闇ギルドを見るといいだろう。今回は記録石メモリーキューブの説明をする。俺の闇ギルドでも使用してたこの記録石は、過去にその場であった出来事を記録する事が出来る優れものだ。貴族連中なんかは暗殺対象を仕留める事が出来たか確認する手段として用いる場合もあるらしいな。もっとも、出回ってる数が少なく高価なものだから目にする機会は少ないかもしれん。以上!」

アイリ「以上! じゃないでしょ。えっと……第4はこれで終了です。閑話と自己紹介を挟んで第5章が始まります」

玉置錬三郎「いつも思うのだが、閑話は必要か?」

アイリ「息抜き(作者の)が必要なのよ」


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