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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第4章:夜空に舞う銀箔蝶
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夜空へ舞う銀箔蝶

前回のあらすじ

 実に際どいタイミングでダンジョンから脱出したアイリは、瓦礫に埋もれたダンジョン跡地から銀箔蝶が出現したために、戦闘を余儀無くされる。

 一方でアイリを離れた位置から見守っていたミゲール達を執拗に狙うマンシーであったが、ダンジョンコアである銀箔蝶が召喚したスカルソルジャーによって呆気ない最後を迎えた。


「チッ、ちょこまかと避けやがって!」


「モフモフ、大丈夫!?」


 今もなお銀箔蝶との戦闘は続いている。

けれど戦況は思わしくない。

銀箔蝶はこちらの攻撃が及ばない範囲にまで高度を上げて、そこからヒット&アウェイを繰り返してくる。

自立したダンジョンコアなだけあって、学習能力が高いから非常に面倒くさい。

出来ればそういった頭脳は別の方面に役立ててほしいわね。


『姉御、やはりアイツを地上に引きずり下ろさないと難しいですぜ……』


 そうよね、そして少しの間だけでも動きを封じないと、こちらの攻撃が当たらない。

一応最終手段としてダンジョンに転移して逃げるっていう手もあるんだけれど、これは出来れば使いたくない。

こんな危険な魔物を放っておいたら、下手すると滅ぶ国が出てきそうよ。

 と、なれば、当然私達が何とかしなきゃならない訳ね……。


「もう一度ファイヤーボールを使って誘き寄せるってのはどう? 地上にファイヤーボールを配置して、降りてきたところを滅多うちにするのよ」


 私としては自信有りなんだけど、アイカが真っ向から否定してきた。


『お言葉ですがお姉様、一度同じやり方でダンジョンから脱出を図ったじゃないですか。二度目になると、逆にフェイクを交えてきそうで危険ではないですか? それに奴を見てください』


 言われてモフモフとの激戦を繰り広げてる銀箔蝶を見る。

あの銀箔蝶は空中からモフモフを急襲してるけど、モフモフも簡単には捕まらない。

時折ビットパウダーを織り交ぜた攻撃を仕掛けてきても、素早さで上回るモフモフは的確に避け続けていた。


 これを見て特に疑問に思うところはないわ。

 強いて言えば、よくモフモフのスピードについて来れるなぁという感想と、特殊迷彩(ステルス)を発動してるモフモフに攻撃出来るなんて恐ろし…………





 え…………ええっ!?



「な、何で奴はモフモフの居場所が分かるのよ! 特殊迷彩(ステルス)を発動してる筈でしょ!?」


 本当に今更気付いたんだけど、銀箔蝶にはモフモフの姿がハッキリ見えてるらしく、私ですら姿を確認出来ないモフモフと互角に戦ってるように見える。

本来なら特殊迷彩(ステルス)で急襲をしかければ、一発で片付きそうなのに……。


『恐らくですが、魔力に反応してるのではと思われます』


「魔力に?」


『はい。モフモフは頭が少々……じゃなかった、魔力が少々心許ないとはいえ、有してるのには代わりないですからね。それを探知してるのではないか……という仮説になりますが』


 成る程、要するに生き物全般は大抵探知出来るって考えてよさそうね。


『それにこの仮説なら、ドローンに攻撃してこなかったのも頷けます』


 確かにそうね。

ダンジョンで銀箔蝶から逃げ回ってた時も、私には攻撃してきたくせにドローンには無反応だったもんね。

ただ銃撃には反応して回避されてたけども。


 ……あれ? でもそれだと……、


「ねぇアイカ。何で銃撃は回避出来るの? 銃弾には魔力が無いわよね?」


『言われてみればその通りですね。……はて、どうやって感知してるのでしょう?』


 いや、それは私が聞きたいんだけどね。

感知されないように攻撃出来れば簡単に倒せそうなのに、その方法が浮かばない……。

 それに……、


「何か重要な事を忘れてる気がするのよ」


『重要な事……ですか?』


「うん」


 その重要な事が思い出せないのよ。

なんかこう……頭の中が凄~くモヤモヤするっていうか、喉の奥に引っ掛かってるっていうか、それが重要なヒントになりそうなんだけれど……。


『アイリはん、大丈夫でっか? なんや苦戦しとるようやけども……』


『あ、うん。とりあえず私は大丈夫よ。モフモフが苦戦してるのも、銀箔蝶が空中に居るせいだからね』


 普段はふざけてる事が多いホークだけど、心配してくれてるのね。


『あれなぁ。ワイももう少しステータスが高ければなぁ。空から踵落とし食らわしてやるんやけどなぁ。』


 出来たとしても、踵落としだけじゃ倒せないわよ……。


『それにあの銀箔蝶はダンジョンコアやって話やろ? 本来ならあれを破壊して終わりやのに、あない強うなったら無理ゲーやんな』


 普通のダンジョンだとダンジョンコアが弱点みたいなものよ。

それに比べてコイツはダンジョンコアそのものが強いんだから悪質ね。


『まったく、とんだ卑怯者やな! 正々堂々と降りて来い言うねん、あの腐れダンジョンコアが!』


 その通りね! ほ~んと卑怯なダンジョンコア……






「そうよ! ダンジョンコアなのよ!」


『お、お姉様、いきなり大声をあげてどうしたのですか!?』


 やっと分かったわ! ずっとモヤモヤしてたのは、あの銀箔蝶がダンジョンコアだって事よ!


「分かったのよアイカ、銀箔蝶がどうしてモフモフを探知出来るのか!」


『本当ですか!?』


「ええ」


 これは自信を持って言えるわ。

探知出来るのは、あの銀箔蝶が()()()()()()()だからよ。


「現状詳しくは分からないけれど、この辺り一帯がダンジョンという扱いになってて、その場に居る生物はダンジョンコアである銀箔蝶が把握してるって事だと思うわ」


『成る程、流石はお姉様です! それなら生物ではないドローンに反応しないのも理解出来ますね。ついでに銃撃を回避されるのは、ダンジョンコアの防衛反応的なものですね?』


「多分ね」


 ドローンの場合だと銀箔蝶(ダンジョンコア)からすれば、武器が勝手に動いてるだけにしか見えないのよ。

だから放置されてるのね。


 銀箔蝶の使ってるトリックは分かった。

いや、意図したトリックかは不明だけど、全ては銀箔蝶がダンジョンコアであるが故にって事になる。

そして私達は今、その銀箔蝶のテリトリーに居るって事だから、それを利用しない手は無い。


『全員に通達。今から銀箔蝶を引き付けて徐々にダンジョンから移動するわ』


(あるじ)よ、何やら閃いたで御座るな?』


『うん。恐らくだけど、この辺り一帯はダンジョンって扱いになってる筈なのよ。そのせいで特殊迷彩(ステルス)を使ってるモフモフでも探知されてると思うの。だからダンジョンから出てしまえば、銀箔蝶はモフモフを探知出来ず……って事に成る筈よ』


『な~る程なぁ。そういう裏技が有ったんかいな。流石はアイリはん。いょう! 世界一のダンジョンマスター!』


『嬉しいけど、喜ぶのは作戦が上手くいった後にするわ。それで作戦なんだけど……』


 念話で眷族達に作戦内容を伝える。

これが上手くいけば私達の勝利よ。


 既に夕日が沈んで暗くなった夜空に浮かぶ悪魔、銀箔蝶を見据えつつ決着をつけるべく動き出した。






「捕食捕食捕食捕食捕食捕食」


 銀箔蝶が伸ばす触手のような腕をモフモフは華麗に回避した。

そして伸ばされた腕を噛み千切ろうとモフモフが迫るが、瞬時にビットパウダーを放ち夜空に舞い上がり距離をとってくる。

その動きは、まるで予め予測してたかのようにすら見えた。


(チッ、中々命中しねぇ。後手に回っちまってるのが原因だと分かっちゃいるんだが……)


 依然として膠着(こうちゃく)状態が続く戦況に、モフモフは内心舌打ちした。

捕食されそうになっていたアイリを救出したまでは良かったが、そこから先は常に向こうのペースとなってるからだ。

 今のところアイリが無事なのが唯一の救いとなっているが、もしここでモフモフが倒れる事があれば、アイリに危機が及んでしまう。

それだけは絶対に避けなければならないという思いで懸命に銀箔蝶へと挑むが、こちらの動きが把握されてるのでは上手く行く筈もなかった。

 だがそこへ転機が訪れる。

アイリが銀箔蝶を倒す作戦を思いつき、念話で伝えてきたのだ。


『……するってぇと、一時的にあの野郎に対して背中を向けるってんですかい?』


『そうなるわね。でも少しの間よ? 別に尻尾を巻いて逃げる訳じゃないわ』


 アイリが提案した作戦は、まず第一に少しずつ後退していき、銀箔蝶がダンジョンとしてる範囲を探る。

範囲を出てしまえばこちらの動きを把握する事は出来ないからだ。

 第二に範囲外から出たら、銀箔蝶はどういう行動をとるのかを要確認。

もしかしたらそのまま追ってくるパターンも捨てきれないが、その可能性は低いとみる。

あの銀箔蝶(ダンジョンコア)は学習能力が優れてるので、自らを危険な状況に追い込むような事はしないだろう。

 そして最後に、ダンジョン範囲外から急襲するというもの。

そうすれば銀箔蝶にとっては奇襲を受ける形となり、一気に倒す事が出来る筈である。


『お言葉ですが姉御、俺にとっちゃあ敵前逃亡は死ぬのに等しい屈辱ですぜ? どうせなら正面からガツンとかましてやりやしょうぜ!』


 モフモフとしては一時的にでも逃げ出すのは我慢ならないらしく、真っ向勝負を挑むつもりでいた。


『落ち着いてモフモフ。全てはあの銀箔蝶を倒す下準備よ。だから精々今のうちに踊らせておきましょう。……ね?』


『分かりやしたぜ。姉御が言うんなら黙って従うのが男ってもんでさぁ!』


 先程駄々をこねた事は完全に忘れたらしく、アイリの熱意に負けたような形で指示に従うと言ってのけた。


『ありがとうモフモフ。期待してるからね?』


『へい、任せてくだせぇ! そんじゃあガツンと作戦に移りますぜ!』






 よし、モフモフもやる気になった事だし、作戦開始ね。

 さっきまで好戦的だったモフモフが徐々に後退していくと、銀箔蝶もそれに続いてくる。

既に日が落ちダンジョン跡地が暗くて視認出来ない位置まで来ると、唐突に銀箔蝶は動きを止めてダンジョン跡地へ引き返して行った。


「ここなら範囲に掛からないのね」


 銀箔蝶が遠くに離れたのを見て、ダンジョン跡地へ再接近してみる。

 すると……、


「侵入者発見、侵入者発見、捕食捕食捕食」


 思った通り再び猛スピードで近付いて来た!


「モフモフ!」


 銀箔蝶を避けるため後退した私に代わって、今度はモフモフが突っ込んで行く。


「くたばれやぁ!!」


 モフモフの牙が銀箔蝶を捕らえ、下半身を思いっきり食い千切る。

奴から見れば、突然モフモフが現れたように見えたと思うわ。

そんなモフモフに対処出来なかった銀箔蝶は、上半分になったままその場で急浮上した。


「危険危険、身体に深刻な損害発生! 直ちに修復を行う」


 だけどこの銀箔蝶もしぶとい。

再び身体の修復を行うつもりのようで、モフモフの牙が届かない位置まで浮上してしまう。

 でもね、そんなのは既に予測済みなのよ!


「アイカ!」


『分かってますよ。――――さぁ大人しくミンチになりなさい!』


 恐らく真上に退避するだろうと予測した通りの行動をとった銀箔蝶に、ドローンによる銃弾をお見舞いしてやる。


「危険危険危険危険! 損害大、損害大」


 こちらも突然銃弾が飛んできたように見えてるようで、その殆どが銀箔蝶に命中する。

そして銃弾が命中する度に銀箔が夜空を枚散りグラデーションを築き上げる様は、何とも言えない神秘的な夜景となって目に焼き付く。


「消耗率80%! 消耗率87%! 消耗率99%! 限界突破! コアの維持不可、不可、不可、不可……」


 ついに修復が間に合わず、上半分も残骸に成り果てたところで銀箔蝶は完全にダンジョンコアとしての機能を停止させた。



ザード「やったか!?」

アイリ「その台詞、本編で言っちゃダメだからね?」

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