夕日を背に写る者
前回のあらすじ
アイリがダンジョン崩壊を告げ、その場に居た者は大慌てで出口へと急ぐ。
しかし、アイリが隠し扉を破壊したのと同時に、ボス部屋から巨大化した銀箔蝶が現れ、次々と傭兵達を襲い始めた。
崩れ落ちるダンジョンと銀箔蝶の脅威から逃れる途中で尾行者の女の子を保護するが、そこで銀箔蝶に追い付かれる。
だがドローンの援護もあり、最終的には崩落ギリギリのタイミングで、ダンジョンから脱出する事に成功した。
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銀箔蝶のステータスを一部変更しましたが、ストーリーに変更はありません。
「主よ、無事でなによりだ」
脱出に成功した私を、夕日を背景にしたザードとホークが出迎えてくれる。
しかもいつの間にか人化もしてるし。
外には他の冒険者も居るから、脱出する直前に人化したのねきっと。
「いやぁ流石はアイリはんやで! あないなギリギリのタイミングで脱出しよるたぁハリウッド映画みたいやったわ!」
「まぁ……ね。でも今にも出口が塞がれるんじゃないかと思って流石にヒヤリとしたわ……」
それに銀箔蝶にも追われてたしね。
もう銀箔蝶は暫く見たくないわ……。
「止さぬかマンシーよ!」
ん? この声は……、
「もうよいだろう。お主らの企みは潰えた。今更儂らを狙ったところでお主には勝ち目はない!」
「黙れ! 我が国の面汚しが! 貴様らのような輩が居るから反乱分子が沸いてくるのだ!」
いけない! マンシーがミゲールさんに斬りかかってる!
「ザード!」
「承知した!」
呼ぶだけで意図を理解したザードが、急いで2人の元に駆け寄る。
「ミゲールよ、最早あなた方を消さぬ限り、祖国の意思は固まらないのだぁ!」
キィィィン!
「ぐっ!? ぬぅぅぅ……」
剣の腕はマンシーが勝るため、ミゲールは杖を弾き飛ばされその場に尻餅を着く。
「ミゲール、覚悟ぉぉぉぉぐふっ!?」
剣を振り上げ、がら空きになっていた脇腹にザードが峰打ちを叩き込み、マンシーはその場に踞った。
「油断も隙もないで御座るな……。既に傭兵達は何処かへ逃げ、マルティネス殿も……恐らくは銀箔蝶の餌食となったのであろう。このような状況で何をしようと言うのだ」
「フッ……貴方達には分からないでしょう。我が国はエレム教を国教とする国。エレム教以外の宗教的概念は受け入れる訳にはいきません。しかし、この2人が行おうとしてるのは、エレム教を分かつ行為……つまり、国家を二分する事に繋がるのです!」
要するに国が分裂しちゃうから、現状を維持したい訳ね。
でもそこまで情勢が悪化してるなら、いっその事分裂させちゃえばいいのにね……って、他人事みたいに言っちゃダメね。
「せやけどマンシーはん、国民の大半が現教祖を支持しないとなったら、どないするんや?」
ホークが素朴な疑問をぶつけたけど、それに対してマンシーは鼻で笑って呆れたように首を左右に振って見せた。
「フン、何を言うかと思えば……それは有り得ない。教祖様の御言葉は絶対です! もし貴方の仰る通りに国民が教祖を支持しないとなれば……」
「なれば?」
「粛清するしかありませんね!」
「マンシー……」
さも当然という感じに堂々と言い放った。
ジュリアさんは悲しそうな表情でマンシーを見つめてる。
「あ~~こりゃあきまへんわ。完全に毒されてまっせ」
うん、ホークの言う通りね。
マンシーを説得するのは難しそうだけど、このまま放置するのは危険よね? 何だか今の教祖を盲信してるようだし……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ん? これは……地震?
地面が鈍い音を立てて揺れてるような……。
「なんや地震か?」
ホークも同じ事を思ったみたいだけど、明らかに普通の地震とは違う。
何て言うかこれは……、
『お姉様、マズイです! この地鳴りはダンジョンの方からです!』
「え? ダンジョンって……まさか!」
アイカに念話で言われてダンジョンを注視すると、既に瓦礫の山と化したダンジョン跡地が特に強く揺れ動いてるのが分かる。
そして瓦礫が吹き飛ぶと、案の定、今現在最も再会したくないベスト1である銀箔蝶が姿を現した。
「な、何だよアレ!」
「俺に言われても知らねぇよ!」
「でもアレって銀箔蝶じゃない!?」
「けど銀箔蝶ってあんなにデカくないぞ?」
周囲の冒険者も困惑してる。
そりゃあんなに巨大な銀箔蝶の目撃例は無いでしょうから当たり前よね。
「新たな侵入者を感知。捕食を開始する」
出てきたと思ったら、すぐ近くの冒険者を襲い始めた。
「うわぁ、こっちに来るなぁ! ぐぼげぅ」
そしてダンジョン内の時と同じように、頭からカジリ付く。
それを見て、自分達を食うと分かった冒険者達の行動は速かった。
「に、逃げろぉぉぉ!」
「ひぃぃぃぃ!」
「ちょっと退いてよ! 邪魔よ!」
「押すなよ!? 絶対押すなよ!?」
捕獲された冒険者を置き去りにして四方八方へ逃げ出して行く。
そうなると当然、私達が狙われる番になる訳ね。
「ザードとホークは2人をお願い」
「承知した」
「任せとき!」
ミゲールさんとジュリアさんはこれで大丈夫っと。
後はコイツを何とかしなくちゃね!
改めて銀箔蝶に向き直り、剣を構えた。
そして銀箔蝶が他の冒険者を捕食してる間に、鑑定スキルで銀箔蝶を確認する。
名前:パープルパーピュリオ
種族:ニューダンジョンコア ランク:S
HP:5863 MP:6320
力:1024 体力:1734
知力:1013 精神:3341
敏速:3575 運:25
【ギフト】
【スキル】魔力変換 マナイート ビットパウダー
【魔法】
【補足】ダンジョンコアが銀箔蝶と融合したモンスター。本来の銀箔蝶は青い色だが、赤いダンジョンコアと混ざった事で紫色に変色した。魔力が好物なため、マナイートで魔法を吸収してしまう。またビットパウダーに触れると、身体が痺れるので注意。
「この脅威的なステータス……しかもSランクだなんて……」
出来ればSランクとなんか戦いたくなかったけど、向こうから襲ってくるんだから仕方ない。
兎に角、最初から全力出さないと危険ね。
『アイカ、機銃を避けた方に斬り込んでくからお願い!』
『了解です!』
先制攻撃とばかりにこちらから仕掛けてく。
まずはドローンに銃撃させると予想通りすぐに回避していく。
敏速がずば抜けてるから銃弾も避けられるらしい。
何度か繰り返してると、回避する方向はほぼ真上だという事が分かった。
『アイカ、私が前に出るから私の目の前にヤツが来たら銃撃して!』
『分かりました。やってみます』
私が前に出ると、すぐに銀箔蝶が接近してきた。
「捕食する、捕食する、捕食する」
けどアンタに食われる程……、
『今です、お姉様!』
「安くないのよっ!!」
予定通り銃撃の後に真上へ回避したので、それに合わせて思いっきり斬り上げる。
剣で斬りつけた胴体からブシュブシュと気持ち悪い体液みたいなのが吹き出て、より一層グロテクスになった。
「よし、命中ね! ……ん? これは……」
銀箔蝶から体液以外に球体が複数出現し、それが周囲に浮遊した。
それを見て思い出す、この銀箔蝶のスキルにあったビットパウダーという存在!
「しまった! ……うぐぅ、身体が……」
しまったと思った時はもう遅かった。
あの球体は間違いなくビットパウダーよ。
あれから散布されたパウダー受けた事で、身体が麻痺していくのが分かる。
「捕食、捕食、捕食、捕食」
普段なら回避出来る筈の動きを出来ずに銀箔蝶の大口が迫ってくる。
『お姉様!』
銀箔蝶の腕に絡まれて身動きが出来なくなり、今まさに噛み付かれる瞬間が訪れようとしていた。
もうアイカの銃撃も間に合わない!
思わず私は目を閉じてしまった。
グシュッ!!
嫌な音が響く。
それは鋭い牙が肉体を抉るような音。
でも不思議と痛みは感じない。
寧ろ暖かい毛皮のような……って、
「モフモフ!!」
「ご無事ですかい姉御!?」
銀箔蝶の拘束から逃れて、人化を解いたモフモフに抱えられながら地面に着地した。
「ありがとモフモフ。助かったわ!」
やっぱりいざとなれば頼りになる眷族よね!
思わずスリスリしちゃう。
「あ、姉御。お気持ちは嬉しいんですが、今はあの野郎をぶちのめすのが先でさぁ」
『モフモフの言う通りですよ、お姉様』
「あ、ゴメンゴメン!」
そうよ、油断しちゃダメよね。
でも銀箔蝶は左半身をモフモフによって噛み千切られてる状態だから、そうとうダメージを受けて…………え?
「魔力をHPに変換。修復せよ」
コイツ、魔力を消費して回復しやがったわ!
これじゃあチマチマダメージを与えてたんじゃ切りがない。
何とかして一気に倒さないと……。
「モフモフ、銀箔蝶は倒せそう?」
「肉弾戦に持ち込めりゃ楽勝なんですがね。しかしあの野郎、俺が跳んでも届かない位置まで高度を上げやがって……」
見上げると銀箔蝶は、先程までよりも高い位置からこちらを見下ろしてて、ジャンプするだけじゃ届きそうにない。
コイツを倒すには地上に引きずり下ろさないと……。
そんなアイリ達の様子を遠くから窺ってるのは、2人の眷族とミゲール及びジュリアであった。
因みに獣人の女の子は、ホークが責任をもっておんぶしている。
「アイリ殿は大丈夫であろうか……」
あわや食われる寸前の光景を目の当たりにしてたミゲールは、心の中でエレムに祈りつつ呟いた。
傍らではジュリアも目を瞑り、祈りを捧げている。
「モフモフが来たからには大丈夫……だと思いたいが、あの銀箔蝶も並のモンスターでは御座らんからな。だが我が主とモフモフ、それにあのドローンとやらが加われば、倒せそうではあるが」
「せやけどザード、せめて弱点を突くくらいの事をせなマズイんちゃうか? さっきから後手後手に回ってるやん」
彼等の視線の先では、地平線の彼方で顔を少しだけ覗かせた夕日を背景に、高所から急襲を仕掛けてる銀箔蝶が写っていた。
「弱点……とまではいかないが、銀箔蝶は魔力を吸収する魔物らしい。ならば物理的な攻撃が有効になる筈……」
「そらまぁ、魔法が効かんなら物理的にかますしかないやろうが…………ん? なんや?」
不意に近くの地面に魔法陣のようなものが出現してるのにホークが気付く。
ホークの声にザードもそこに視線を移すと、それを見て警戒を強めた。
「ホークよ、何やら嫌な予感がする。警戒を怠るな!」
「マジかい! 堪忍して~な……」
2人の会話にエレムラブの2人も気付き見構える。
やがて魔法陣から剣を携えたスケルトンが現れたのを見て、ザードが剣を抜いた。
「ぬ? これはスケルトンの上位種であるスカルソルジャーではないか!」
驚いた声を上げたミゲールは、スカルソルジャーを知っているらしい。
スカルソルジャー……通常のスケルトンはFランクだが、より動きが洗練されたのがDランクのスカルソルジャーである。
「スカルソルジャーごとき、我が剣の錆にしてく……ハッ!」
突然ザードが振り向き様に剣を降り下ろす。
そこには、密かに忍び寄って襲いかかろうとしたマンシーが剣を弾かれて片膝をついていた。
「ちょ、ザード! ……ったくしゃーない!」
ザードがマンシーの相手をかって出たようなので、やむを得ずホークがスカルソルジャーに向かって行く。
勿論背中の女の子も一緒だ。
「いい加減にせぬか! お主は敗れたのだ。敗者なら潔く凛とあれ!」
「まだです! 私の命が続く限り、私は戦い続けるのみ! ……貴方達は甘い、甘過ぎる。いくら手心を加えられても、私は考えを改めはしない」
「おーい、ザード! 両手が塞がってて足だけじゃキツいわ! ちゃっちゃと片付けてくれや!」
ホークの救援を訴える声を聞いてマンシーから目を離す。
マンシーはそれを好機と見なし、再び斬りかかって行く。
「今だ、隙あ……グハァッ!?」
突然口から血を吹き出すマンシー。
ザードが振り向くと、彼女の心臓から一本の剣が生えていた。
「カカカカカカ!」
その剣の持ち主はスカルソルジャー。
出現したのは1体だけではなかったようだ。
「グ、グロスエレム……バン……ザ……」
スカルソルジャーが剣を引き抜くと、ゆっくり前のめりに倒れていった。
「マンシー殿! …………ムン!」
最後まで聞く耳を持たなかったマンシーに一目くれて、スカルソルジャーを一刀両断すると、ザードは静かに黙祷を捧げた。
「結局……最後まで考えを改めてはくれんかったか……」
「マンシー……」
ミゲールとジュリアの2人も、ザードに続き黙祷を捧げる。
そして暫しの沈黙の後、ミゲールはマンシーの瞳をそっと閉じたのだった。
「あ、あのぅ……誰か手伝ってくれへん?」
「カカカカカカ!」
残されたホークは、1人でもう1体のスカルソルジャーと格闘していた。
マルティネス「僕とマンシーの扱いが違い過ぎる件」
ホーク「基本ギャグ作品やからしゃーない」
マルティネス「そういう問題ですか!?」




