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誘われしダンジョンマスター  作者: 北のシロクマ
第4章:夜空に舞う銀箔蝶
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閑話:その頃の天界2

 神々が住まう天界。

そこでは神と、その神々に仕える大天使達が無数に存在する。

そんな神の一柱であるミルドは、自室で溜め息をついていた。


「はぁ……、何も分からず……ですか」


 ミルドはある調べものをしていたのだが、結果は思わしくなかった。

結局分かった事は、何も分からないという事実だけだ。

 そもそも何を調べてたのかというと、天前愛漓(あまさきあいり)ことアイリに掛けられていた呪いの件である。

アイリに掛けられた呪いとは、どうしようもなく運が無い状態に陥り、何をやっても生き延びる事は出来ないというものだ。

 それを哀れんだミルドが、アイリに加護を授ける事で、呪いを無力化してるのである。


「先祖代々まで遡って調べたのですが、それらしき出来事は何も無い。となると……」


 神でも分からない事など限られている。

可能性が有るとすれば、全く異なる別世界からの干渉か、呪いを掛けたのが()であるかのどちらかだ。


 ガチャ!


「ミルド~、入ってもいい~?」


 ミルドが思考を纏めてると、掛け声と共に1人の女の子が入って来た。

短く切り揃えたオレンジっぽい髪の色をした少女の名は、ミドルーシェ。

ミルド達と並ぶ神の一柱である。


「ミドルーシェ、入室してから了解を得ようとしても遅いですよ」


「ごめ~ん、忘れてた! じゃあお菓子貰うね~♪」


 ふぅ……と、軽く溜め息をつきながらミルドが指摘するが、言われた側のミドルーシェはどこ吹く風。気にもとめてない様子だ。


「貴女も神であるならば、常識というものを身に付けるべきだと思いますがね。それだと大天使達の見本には成り得ませんよ」


「ぶぅ~ぅ、そこまで言わなくてもいいじゃん!」


 ミルドの指摘に頬を膨らませるミドルーシェは、外見と精神年齢が近いらしく、年相応の子が拗ねてるように見える。


「いいもん。そんなに言うなら100年くらい前からやり直すから! 礼儀作法とか作り直せばいい?」


「下界に迷惑が掛かるからお止めなさい」


 どうやら外見と精神年齢とは裏腹に、本人の……いや、本神の実年齢はそれなりに重ねてるらしい。


「まったく、来て早々茶菓子を頬張るのは誰に似たんでしょうね……」


「ん~~~~……






 ……クリューネ?」


 暫しの思考の後、ミドルーシェの口から出たのは()()女神の名前であった。

どうやらミドルーシェ自身は、クリューネと近い行いをしてる自覚があるらしい。


「……可哀想だから彼女には言わないであげて下さい」


「うん、分かったぁ♪」


 本当に分かったのかどうかは不明だが、一応は分かったつもりのようだ。


「それでそれで、私に聞きたい事があるんだって?」


 どこかワクワクしたような感じに茶請けの羊羮(ようかん)を摘まみながら、ミルドに対して本題を切り出した。


「ええ。大した事じゃないんですが、少々気になる事がありましてね」


「え~~~え、大した事じゃないのぉ~?」


 大した事じゃないという事が気に入らないのか、ミドルーシェは不満を(にじ)ませる。

 それを見て本日何度目かの溜め息をついたミルドは、眉間を擦りながら暫し思案し、多少言葉を選んで新たに切り出した。


「いえ、もしかしたら重要な事に繋がるかもしれませんので、ご協力をお願いしたいのです」


「そうなのぉ~? じゃあ協力する~」


 漸く話が進むと思い、ホッと胸を撫で下ろしつつ話を進める事にした。


「ではお聞きしますが……ミドルーシェ、貴女はローザという人間に加護を授けた覚えは有りますか?」


 偶然にもアイリの様子を見ていたミルドは、ローザという老婆にミドルーシェの加護がついてるのに気付いたのだ。

 だが本来加護と言うものはホイホイ与えるものではないために、与えた理由が気になって尋ねたという事になる。


「ローザ? 加護ぉ?」


 しかし肝心のミドルーシェは覚えてないらしく、キョトンとした顔をコテンと傾けていた。

 そこで、仕方なく事の経緯を細かく話し、再度質問をぶつけてみたのだが……、


「うーーーーん…………あ、そうだ!」


 何かを思い出したミドルーシェが、目を輝かせて手をポンと叩いた。


「思い出しましたか?」




「今日って青年ジャンプの発売日だよ! お店に並ばなきゃ!」


 的外れな返答に思わず椅子からズリ落ちそうになるのを耐えたミルドは、慌てて椅子に座り直すと額に手を当て、まるで頭痛に耐えてるような顔付きで再度質問をぶつけた。


「ミドルーシェ、今は青年ジャンプの事は忘れて下さい。僕が聞きたいのは、何故ローザという人間に加護を与えたかです」


「ローザ? 加護ぉ?」


 先程と同じ台詞を聞いて、このままでは堂々巡りになってしまうという危機感を持ったミルドは、強引に話を進める事にした。


「見てください。こちらの老婆に貴女の加護がありました」


 下界を覗く神々しくも大きな鏡。そこにはローザとアイリが話してるところが映し出されていた。


「あ、この女の子、ミルドの加護がついてる~!」


 ミドルーシェが指したのは勿論アイリだ。

 だがミルドは首を左右に振り、アイリの隣に居たローザの方を指した。


「それは後程説明しましょう。今はこちらの老婆の方です。ほら、貴女の加護がついてるでしょう?」


「ほ、本当だ!」


 何故か初めて知ったような反応を見せるが、当然ミドルーシェが加護を与えたのは間違いない。

神を偽って加護を与える事が出来る者は居ないので当たり前ではある。

つまり、ミドルーシェは単に忘れてるだけだ。


「何故そのような反応になるのか分かりませんが、以前貴女が与えた事は確かです」


 神々には鑑定スキル以上の看破能力があるので、その人物を見るだけで身体能力やスキルが分かってしまうのだ。


「うーーーーん…………、あ! そうだ!」


「今度こそ思い出しましたか?」


 多少の期待を込めてミドルーシェの言葉を待つ。

 が、しかし……、




「この前綺麗なお花を貰ったんだよぉ! ミルドの部屋に飾ってあげるね~♪」


 急に立ち上がったミドルーシェが部屋から出ていく。

どうやら花を取りに行ったようだ。

 それを見たミルドは、より一層深い溜め息をつくと、茶を一口含み喉を潤す。

 すると間も無くミドルーシェが花を手にして戻って来た。


「コレだよぉ~、綺麗でしょぉ?」


 見せ付けてきたのは白い…………大変言いにくいのだが、菊の花だった。

 それを見て顔をひきつらせるミルドを余所に、目の前のテーブルに花瓶を置いてニッコリと微笑んだ。


「この花はローザっていう少女から貰ったんだよぉ~」


「ローザ……。つまり、この老婆から頂いた物という事ですか?」


 ローザという名前に反応したミルドが鋭く切り込んで行く。


「んーん、私が見た時はもっと若かったよぉ。確か80年前くらいじゃないかなぁ……」


 羊羮に飽きたミドルーシェは、今度は煎餅をバリバリと食べながら思い出しつつ語る。


「80年前……最早それはこの前とは言えませんよ……。それと煎餅の屑を落とさないで下さい。後始末が大変です」


 ミドルーシェの感覚だと10年20年単位なら大した差は無いらしく、80年前ですらつい最近の出来事らしい。

 もっとも、神によって時間の感覚は異なるので、ミルドからすれば80年前はかなり前の事になるが。


「何処だったか忘れたけど、たまたま下界の街に行った時に、このお花を売ってたの~。でもお金が無くて買えなかったから、欲しいなぁ~と思いながら眺めてたの。そしたらそのお花屋さんのローザって女の子が「どうぞ」ってくれたの~」


「……物欲しそうに眺めてたから、哀れんだのでしょうね」


「うん。だけどただ貰うのは良くないなぁと思って、加護を与えたんだよ~」


 纏めると、下界の花屋で見付けた花をローザがくれたので、そのお礼として加護を与えたという事らしい。


「この加護は個人情報を保護してくれるとってもナイスな加護なんだ。だから他人が鑑定しても、簡単にはステータスは見れないよ~」


 これは実際にアイリがローザを鑑定したが、詳しい数値やスキル等が伏せられてたので、揺るぎない事実だ。

 付け加えるなら、ミルドの加護があるアイリが、辛うじて名前と種族を見る事が出来たという訳だ。


「そういう事でしたか……」

(何となく予想はついてましたが、やはりアイリとは関係ありませんでしたね)


 結局、アイリの呪いに関しては分からずじまいに終わったところで、ダンジョンの話へと移った。

 

「このダンジョンって相当DPが貯まってるよねぇ? これだけ貯まると()()()()()()だねぇ」


 鏡には丁度アイリ達とアガレスの戦闘が行われてるところが映されていた。


「そうですね。こうなるとボスを撃破しても、コアルームに入るのは困難だと言わざるを得ません」


 2人が話してるのはコアルーム前のボス部屋の事で、ダンジョンコアはそこを最後の砦としてコアルームへの侵入を拒んでくる。

 しかし、DPが少ない場合にボスを倒されると次の召喚を見合わせる場合が多く、大抵は次に召喚されるまで時間が掛かる場合が殆どだ。

つまり、逆にDPが多いと倒した直後に再び召喚してくるので、中々コアルームに入る事が出来ない。

ローザは少々勘違いをしていたが、仮にアイリがミミズに対して全力を出さなかったとしても、ダンジョンコアは直ぐにアガレスを召喚してた事だろう。


「あっ、何か凄いのが飛んでった!」


 鏡にはアイリの近くで小型ミサイルを発射したドローンが映っていた。

勿論ドローンは特殊迷彩(ステルス)を発動中なので普通の者達には見えないのだが、神達は例外だ。

最初からアイリの近くを漂っていたのをしっかりと見ていた。


「コアルームが滅茶苦茶になってる! あれってここ(イグリーシア)以外の世界にあるアイテムだよね? どうやって持ってきたんだろ?」


 小型ミサイルよりも、どのようにして持ち込んだのかというところに着目したのは、流石は神というところなのかもしれない。


「そこに興味を示しますか。まぁ隠す事ではないので教えますが、あれは彼女が所持してるスマホから召喚したようです。()()()()()()()()()()()()()()()ので何故所持してるのか謎ですがね」


 アイリはミルドから与えられたと思ってるのだが、スマホを複製したのはミルドではなかったようだ。


「へぇ~~~~ぇ。じゃあさ、いったい誰がこの子に与えたの?」




「それは…………」

(これは盲点でした。このようなところに気付かないとは、僕も耄碌(もうろく)したものです。僕が与えてないのならいったい誰が与えたのか。これは重要な手がかりになりそうです)


 何かに思い立ったらしいミルドは、珍しくも慌ただしい動作でお茶を一気に飲み干し、ミドルーシェに告げる。


「ありがとう御座います、ミドルーシェ。お陰で調査が続行出来そうです」


 軽く頭を下げると、大急ぎで部屋を後にした。

 そして残されたミドルーシェは……、


「???」


 何の事かよく分からない様子で、首を傾げながらも黒糖かりんとうを頬張っていた。



ミドルーシェ「ああっ! この子の眷族達は美味しそうな物食べてる。私も貰いに行こーーっと!」

アイリ「な、なんだか寒気が……」 

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