転移と転生
私――天前愛漓は自分の部屋のベッドで横たわっている。
理由は未知の病。
生まれた時から患ってたらしいその病で限界を迎えていた私は、家族に見守られる中そっと目を閉じた。
そして完全に周りが暗くなったかと思うと、逆に意識が戻ってくる。
もしかして死後の世界なんだろうかと思い、目を開けてみると……
「……あれ? ここは……洞窟?」
気付いたら見知らぬ洞窟っぽい中にいた。
人が死んだら三途の川に辿り着くって聞いてたけど、川なんてどこにもない。
有ったとしても渡るのは躊躇しそうだぁとは思うけど。
でもって、川の代わりって訳じゃないんだろうけど、淡い光を放ってる石みたいなのが少し先に置いてある。
置いてあるって言うより供えられてるって言ったほうが正しいかもしれない。
ぼんやりと赤く光ってる石に引き寄せられ、気付けばもう目の前に立っていた。
「得体の知れない物に触るのは危ないんだろうけど、もう死んでるし今更よね」
そして意を決して石を掴み取ろうとして……
スカッ!
「アレ?」
もう一度!
スカッ!
「掴めない……」
何なのコレ?
雰囲気的にこの石を掴みなさいみたいに御膳立てしといて、それはないんじゃない?
コレを手に取ったら天使が出てきたりするんじゃないの?
いや、場所の雰囲気的に天使よりも悪魔とか鬼が出てきそうだけども。
試しに両手でトライしたけど結果は同じ。
いよいよどうして良いかわからなくなってきたところに、後ろから声を掛けられた。
「受肉してないと、ダンジョンコアには触れられないよ」
驚きつつも後ろを振り向く。
「誰!?」
見るとそこには20代くらいの金髪の青年が岩に腰掛けていた。
「僕の名はミルド。この世界を管理してる神の1柱だよ」
「え……か、神様!?」
「うん、神様」
神様ってあの雲の上に住んでるとかの神様のことよね?
天使とか悪魔じゃなくて、まさかの神様の登場ですよ。
でも何故に神様がここへ?
まさかここに住んでるとか!?
いやいや、まだそうと決まったわけじゃない、落ち着け私、冷静に冷静に。
「あ、あ、あのぅ、ユーは何しにここへ?」
咄嗟に出た言葉がコレです。どうやらまだ落ち着いてなかったらしい。
「まぁ慌てないで。何故神である僕がここに居るのか――そう疑問に思うのは当然だ。うん。中々的確で鋭い質問だと思うよ」
……え?
いやいや普通に疑問に感じることよね?
当然の疑問だよね!?
普通洞窟に神様は居ないよね?
「まぁ冗談は程々にしとこうか」
冗談かよ! って、真顔で突っ込んじゃったじゃない。心の中で。
「それでここに来た理由なんだけど、異世界から迷い人が来てしまったみたいだから、その調査とサポートだね」
「異世界から……」
あぁなるほどねぇ、異世界かぁ。
そして迷い人ってのは、恐らく事故か何かで入りこんでしまった人間のことよね。
で、その迷い人とやらを捜してここに来たということは……あ、それってもしかして……。
「私のことですかね?」
「うん、君だね」
「人違いとかは……」
「ないね」
「場所違いとかも」
「有り得ないね」
「偶然を装ったナンパとか?」
「……君は僕を何だと思ってるんだい? これでも真面目に勤めてるんだけども」
「失礼しました……」
笑顔100%のニコニコスマイルで断言されたうえに軽く説教されてしまった。
まぁ天国か地獄かよくわからない場所に居る時点で、何となくそんな気がしてたけども。
そしてさっき言ってたダンジョンコアがどうのって話、コレってダンジョンコアに私が呼ばれたってことだと思うのよ。
小説に書いてあったから間違いないわ。
……多分。
でもこの人が神かどうか分かんないなぁ。
いきなり現れて神ですって言われても判別しようがな「神だという証明ならできるよ」……え?
この神ってもしかして人の心が読める?
「勿論、神だからね。心が読めるし過去を覗くこともできる。そして見たところ君は家族に見守られながら肉体は滅びたけど、その直後に魂だけがダンジョンコアに喚ばれてここに辿り着いた……ってとこだね」
失礼しました。どうやら神様みたいです。
疑ってしまってすみません……。
「いやいや、そんなことは気にしないから大丈夫だよ。それでね、今度はこちらから質問するけども、君はダンジョンマスターに成りたいかい?」
うん、予想通りの展開。
ダンジョンコアに呼ばれるのは、ダンジョンマスターの素質が有るとか波長が合うとかなんでしょうね。
……小説の中の話だけど。
でもこれは紛れもない現実。
私はダンジョンコアによってこの世界に喚ばれたらしい。
今まで何もできなかった私だけど、この世界でできることがあるならやってみたい。
それが少々危険なことであっても。
「ダンジョンマスターになってみたいです。今まで寝たきりで何もできなかったし」
最後に出歩いたのは中学の入学式の時ね。
かなり無理をしてだけど。
それ以降はベッドの上でスマホ弄ってるだけの人生だったわけで。
このまま何もできずに終わるよりは、色々なことをやってみたいと思うのは間違ってないはず。
「わかったよ。もう決心がついてるようだから、今から受肉を開始するね」
そういえばさっきも言ってたっけ?
受肉がどうのって。
言葉から察するに、肉体を手に入れるってことなんだろうけど。
「その通り。魂だけだとダンジョンコアには触れないからね。だから肉体を用意する必要があったんだ。そして肉体構築のために、君の記憶から生前の肉体を構築……っと。これで完了したよ」
私自身が白くピカピカと光ったと思ったら、光が収まるのと同時に見慣れた自分の体が出来上がった。
但し……
「さぁ、後はコアに触れてごらん」
肉体を用意してもらったのは感謝してる。
うん、凄く感謝してる。
でもね、それと同時にどうしても看過できない事案が発生したのも事実。
「どうしたんだい? プルプル震えてるけど」
どうやらコイツは分かってないらしい。
「具合が悪いのかい? 肉体構築は完璧のはずなんだけど……」
肉体は完璧ですよ。
文句なんて付けようがない。
肉体は問題ない。
むしろ今、肉体だけなのが大問題なのである。
「もしかして衣類のことかい? でも大丈夫だよ、僕には性欲といったものがないから何も問題はな「大問題だろーーーーっ!!」」
バチーーーーン!!!
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、今日初めて神様をぶっ叩きました。
神様だけあって、中々の手応えです。
手がジンジンする……。
「僕はどうしてビンタをされたのかな?」
天然ですか、そうですか。
つーかね、私はまだ13歳の乙女よ!?
他人に裸見られちゃ恥ずかしいに決まってんじゃない!
いや、それより今は!
「服を用意して。今すぐ!」
「何故怒ってるのか分からないけど……っと。こんな感じかな?」
直ぐに服も構築された。
お気に入りの水色のワンピースだ。
「ありがとうございます。それとひっ叩いてごめんなさい」
「いえいえ、迷い人のサポートも僕らの役目だからね」
サポートしてくれるのは有難いけど、思いっきり精神的に負荷が掛かったのですが……。
とりあえず精神治療が必要なので、カウンセラーを呼んでほしいです。
勿論アナタ以外の。
「うん? でも君にステータス異常は見当たらないから大丈夫だよ」
ハイ、ソウデスネ。
……ってステータス?
「そう、ステータス。この世界にはステータスというものが存在するからね。自分自身のステータスを確認することができるんだよ。まぁ論より証拠、心の中でステータスと念じてごらん」
ますますファンタジーっぽくなってきた!
魔法とかも存在するのかな?
ワクワクしながらステータスと念じてみる。
名前:天前愛漓 種族:人間
レベル:1 職種:ニート
HP:124 MP:155
力:32 体力:42
知力:65 精神:58
敏速:54 運:50
【ギフト】 ミルドの加護
【スキル】 相互言語
【魔法】
知力とか体力とかは平均を知らないからよく分からない。
というか職種!
ちょっとコイツを問い詰める必要が出てきたじゃない!
「職種ならダンジョンコアに触れればダンジョンマスターになるから、気にしなくて大丈夫だよ」
「アナタが気にしなくても、私が気にするのよ!」
「まぁまぁ落ち着いて」
まぁ話が進まないから、今は大人しくしてようじゃないの。
「じゃあ続きを話すね……っと。コレが一般成人男性のステータスだよ」
名前:マイケル 種族:人間
レベル:10 職種:家事手伝い
HP:75 MP:31
力:22 体力:26
知力:31 精神:29
敏速:25 運:25
【ギフト】
【スキル】 料理Lv1 清掃Lv2
【魔法】
……誰なの? この人。
「アレクシス王国の王都に住んでる極普通の男性だよ」
「いやいや、勝手に個人情報晒したらまずいでしょ! ていうか一般の成人男性って、家事手伝いが普通なの!?」
「比較対象がないと分からないでしょ?」
まぁそうなんだけど……。
それにしたって、いきなり知らない男性を紹介されても、どう反応したらいいか分かんないんだけども。
「それとも一般女性のステータスの方がよかったかな?」
いえ、もういいです。
これ以上無関係な人のステータスを晒すのは止めたげてください。
「それと、職種に関しては察してあげてほしい。その人なりに頑張ってるみたいだから」
「そ、そうね」
ていうか、頑張ってる人を無断で晒しちゃダメでしょ! ……って、何で私が気を使ってるんだろ……まぁいいや。
じゃあ改めて自分のステータスを確認してみよう。
名前:天前愛漓 種族:人間
レベル:1 職種:ニート
HP:124 MP:155
力:32 体力:42
知力:65 精神:58
敏速:54 運:50
【ギフト】 ミルドの加護
【スキル】 相互言語
【魔法】
レベルに差があるにもかかわらず、私のほうが遥かに強そうなのは何故なんだろう……。
というかこれって、同じレベルになったら益々差が開くわよね?
なんというか正にチートってやつね。
「今は君が患ってた病気にかかってないからね。元々他人よりも優れた能力があったんだよ」
「そ、そうだったんだ……」
これは素直に驚いた。
普通の人より優れてると言われれば悪い気はしない。
ちょっとだけ天狗になりそう。
っと、いけないいけない。他のステータスも確認しないと。
魔法は無し……これは仕方ないわよね。
でも機会があれば使ってみたい!
それから……スキルの相互言語は、言葉が通じるってことね。
異世界に来ても言葉が通じないんじゃ生活に支障が出るし。
後は……ギフトは何故か神様から加護を貰ってる。
一応御礼を言っておこう。
ありがとうございます。
「いえいえ、どういたしまして」
「それで、ミルド様の加護って何ですか?」
この加護に関しては詳細をはっきりさせておきたい。
他人に見られるとまずいなら注意しないと。
「運を人並みに……いや、人並み以上に補正してるよ」
人並み以上に?
「うん、君の過去を覗いた時にね。頭脳明晰、身体強健、容姿端麗。だけど運だけはーに振りきれてたのを確認したんだ」
運が-!?
「その通り。偶々風邪を引いた時に、偶々脳にバイ菌が入り込んで、偶然進化したバイ菌に、なす術もなく蝕まれたみたいだね」
……えーと、つまり、自分が死んだのは物凄く運が悪いせいで、むしろ身体が丈夫なおかげでよく持ちこたえたってことで?
「その通りだよ。やはり君は理解力が高いねぇ」
なるほどね。
でも加護のおかげで運が+になったから、今までのような悲惨なことは無いってことよね?
「断言はできないけどね。滅多に無いはずだよ」
これは有難い。
せっかく新しい人生を歩もうとしても、今までの運の悪さだと結局は短命に終わっただろうし。
ここまでしてくれたなら裸を見たのは目を瞑ろう。
但し、次は無い!
「さて、長々と話し込んでしまったけど、そろそろ失礼するよ」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「それじゃあ良い異世界ライフを」
そう言って眩しい光とともにミルド様は消えていった。
天界にでも帰ったんだろうか?
色々と主観がおかしい神様だったけど悪い人じゃないみたい。
もし今度会うことがあるなら、もう少し改善されていると有難い。
主に女性の扱いに関してを!
さて、なんだか少し疲れた気がするけど、気を取り直して……
「早速ダンジョンコアに触れてみよっと♪」
赤く光るダンジョンコアに、そっと手を触れてみる。
「コアへの接触を確認」
「何か喋った!」
喋ったってことは、意思疎通ができる可能性大だよね!? それなら楽しくお喋りしながらダンジョン運営ができちゃうかも! しかも声も可愛い女の子の声!
――っと、テンションが上がりまくってるけど、こういう時こそ落ち着いて行動しないとね、冷静に冷静に。
「貴女を新たなマスターと認識します。ご命令を」
私がマスター……つまり、ダンジョンマスターってことね。
「ご命令を」
あーはいはい、ちょっと待っててね、今考えを纏めてるから。
「ご命令を」
いやいや、だからちょっと待って……あ、そうか、あの人と違って私の心を読めるわけじゃなかったわね。
「難聴ですか?」
「って、ちょっと、失礼じゃないの! ちゃんと聴こえてるわよ!」
「安心しました。持病を抱えてらした場合、完治できる保証はないので」
幸いにも新しい肉体を手に入れたばかりだから、持病とかは一切無い健康体よ。
「ではご命令を」
「だからちょっと待ってってば! 今考えてる最中だから」
なんかマイペースでグイグイくるダンジョンコアね。
まさか初対面で難聴とか言われるとは思わなかったわ。
まぁそんなことより命令よね。
でもいざ命令するって言っても、中々出てこないもんよね。
「すみませんが、いつまで待てばよろしいのでしょうか? いい加減退屈なのですが……」
退屈って……ダンジョンコアってこんなに感情豊なものなのかしら?
って、いやいや、まずは命令を考えないと。
こうして私――天前愛漓の異世界での生活が始まろうとしていた。
……下手すると文字通りの裸一貫で始まるところだったけど!
ミルド「そうだ、替えの下着はどんなものがいいか、生前の記憶から‥‥」
アイリ「ふざけんな変態!」