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妖怪SNS  作者: 相野仁
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鵺登場

「それではオーナー、今日も甘藍ちゃんと遊べばいいのでしょうか?」


 鋼征が改まった態度で質問すると、紅蜀葵は苦笑する。


「昨日と同じ態度でお願いしてもいいかしら。何ならオーナー命令で」


「分かりました」


 彼は素直に命令にしたがう。

 

「よろしい」


 紅蜀葵はそう言ってから次の指示を出す。


「聞いているかもしれないけど、このお店に来る子たちの多くは数日に一回のペースが多いの。例外は甘藍ちゃんと薫風ね。だから来る都度鋼征さんを紹介していくことになると思うの。そのつもりでいてね」


「はい。楽しみにしていますね」


 鋼征が答えると、彼女は笑顔で褒める。


「今のはとても素敵な答えね。頼もしい新人が来てくれたわ」


「こうせい、いい人」


 甘藍はぼそっとした声で彼女に賛同した。

 

「でも、みんなと上手くやれるとはかぎらない。でも、気にしなくていい」


 彼女は彼に対して心配そうな目を向ける。


「……そうなのかい?」 


 鋼征は少しだけ不安になった。

 今のところ上手くやれそうな妖怪ばかりだったが、やはり例外はいるのだろうか。

 それとも彼らのほうが例外だったりするのだろうか。

 不安を頭に浮かべはじめた甥っ子に圧延が困った顔で言う。


「そうだな。うっぷんがたまる前に来てほしいんだが、全員そうするとはかぎらないからな。大荒れ状態になってからじゃないと来ない厄介なやつもいる」


「ええ、それは大変ですね」


 妖怪たちが大荒れと言われても、正直鋼征には想像がつかない。

 悪霊や祟り神と呼ばれることもある存在だとは聞いたものの、具体的な周囲への影響や被害というものがイメージできないのだ。

 そういう状況が発生した場合は、いったいどうすればいいのだろうかと紅蜀葵の顔を見る。


「私がその子たちをオシオキしたり、強引に鎮めたりするのが第一手ね」


 彼女は笑顔でこわそうなことをさらりと告げた。


「その後、圧延さんや鋼征さんの出番になるかしら」


「ひょっとして紅蜀葵さんが毎日のようにここに来ているのは……?」


 そういう困った妖怪対策の一環なのではないかと鋼征は考える。


「否定はしないでおくわね」


 彼女はすまし顔で応じた。

 何とも表現しがたい貫録を鋼征でも感じとることができる。


(伝説の九尾の妖狐だもんな)


 と思いながら、彼はひとつ確認しておきたかったことをたずねた。


「石はこのまま外していても大丈夫なのでしょうか?」


「そうね。今日のところは問題ないでしょう。明日以降私が指示をした場合、きちんとつけて下さる?」


「あ、はい」


 紅蜀葵は真顔で答えたため、彼も思わず姿勢を正す。

 やはりと言うか、彼に影響を与えるような力の持ち主が訪れることはあるのだろう。

  

「どういう妖怪が来るんだろう?」


 彼は独り言を言ったつもりだったが、聞こえていたらしい甘藍が返答する。


「鬼とかオロチとか天狗とかも来るよ」


「有名どころばかりだね」


 日本の妖怪や怪物と言えば一度は聞くような存在ばかりだった。


「あいつらあんまり来ないから平気。それよりあそぼ?」


 甘藍の手短な誘い方を微笑ましく思い、鋼征はうなずく。


「いいよ。トランプでいい?」


「うん。でも、涼しくなったらお外がいい」


 彼女は意外と自分の主張をしてくる。


(犬と猫が混ざった感じだな……というのは失礼だろうか)


 彼はそう考えながらたっぷり彼女と遊ぶ。

 人外だが美しい少女とクーラーが利いた店内で遊ぶだけで給料をもらえるのだから、鋼征にしてみれば割のいい仕事だ。

 少なくとも今のところは。

 

 ……別に鋼征の予感が的中したわけではないのだろうが、穏やかで静かな時間は突然終わりを告げる。

 不意に雷鳴が轟きはじめたのだ。


「えっ? 今日は一日中晴れのはずじゃ?」


 突然起きた予想外すぎる展開に、鋼征はトランプの手をとめて顔をあげる。


「……うるさいのが来る」


 甘藍はと言うと、珍しく表情を嫌悪にゆがめて不快そうな声を出した。


「つまり俺と初対面になる妖怪か」


 彼は合点がいったが、同時に「雷のような音を立てる妖怪って誰だろう?」と疑問を持つ。


(素直に考えるなら風神雷神の雷神だけど、あれって妖怪なんだっけ? 神様なんだっけ?)


 祟り神も悪霊も実は妖怪だったとなると、案外神様と思われていた存在だって妖怪かもしれない気がする。

 甘藍に聞くのが手っ取り早いのだろうが、露骨に不機嫌そうになってしまった少女にたずねるのはためらわれた。

 視線をおじや紅蜀葵に向けてみれば。彼らは落ち着いた態度である。

 どうやら甘藍だけが嫌っているようだった。

 

「邪魔するぜ」


 勢いよくドアを開け、怒鳴るような大声で入ってきたのはひとりの若い男性である。

 髪は黄色で肌は小麦色、アロハシャツに水色の海パンのようなパンツをはいた男性はぐるりと店内を見回してから叫ぶように言う。


ぬえ猛震もうしん、来てやったぜッ! よろしくッ!」


 騒音のちょっと手前の声量に鋼征は辟易し、甘藍は両耳をふさぎながら恨めしそうに彼をにらむ。

 彼らと言うか鋼征の存在に気づいた猛震となった男は、金色の瞳を興味に輝かせながらずかずかと寄って来る。


「おおっ? 知らねえ顔、それも人間じゃねえかッ。何でここで甘藍といやがるんだっ?」


「彼は俺の甥っ子で、俺と同じような境遇だから昨日から働いてもらっているんだよ」


 圧延の説明を聞いた彼は、端正な顔を無遠慮に鋼征に近づけた。


「へええ、店長の甥ねえええ」


「は、はい。鋼征と言います。よろしくお願いします。猛震さん?」


 鋼征があいさつをすると、猛震は気味わるそうな表情になって体をぶるりと震わす。


「うへえええ、男にさんづけされるとか気持ち悪いぜ。猛震って呼び捨てでいい。俺らと仲良くできるって言うなら、もう俺らは友達だぜ?」


「えっ? 会ったばかりなのに?」


 人間の少年はあっけにとられるが、鵺の青年は意に介さない。


「紅蜀葵が店内に入れてて、甘藍のやつと遊んでいるくらいなら余裕よッ!」


 何故か叫び出したため、鋼征はあわてて耳を押さえる。

 離れているならばまだしも、至近距離で彼の声量を叩きつけられるのはかなりつらかった。


「だまってばかもうしん」


 鋼征と同じ意見らしい甘藍は同じく耳を押さえつつ、にらみながら抗議をする。


「おおっと? わりーわりー。でもこれ、地声なんだよなあ」


 猛震はバツが悪そうに謝ったものの、改める様子はないらしい。

 

(というか地だったのか……)


 鋼征はその事実に驚く。

 甘藍の抗議に詫びたくらいだから、悪い男ではないようだ。

 圧延と紅蜀葵が注意しないことも裏付けになっている。

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