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太陽と月と星屑

ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 あなたは今、みなから羨ましがられるような存在なのよ。本当なら、あなたは泣いて喜ぶべきなのよ?

 だってね、あなた。わたくし、両親からも友達からも褒められるのよ。世界中のだれからも称賛を受けるような人なの。

「貴女様の様に美しく聡明で、こんなにも光に満ち溢れた方は見たことが御座いません」

って、

「まるで太陽の如き方ですね」

って、何度言われたか分からないわ。

 だからね、わたくし。ひとつ疑問があるのよ。

 どうしてあなたはわたくしと言う婚約者の隣で、月の様に青白い顔をしているの?



 ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 わたくしはずっとあなたを慕っていたのよ。それはもう、幼子のころから。

 幼いころに、あなたを見かけたわ。ひとりで、頼りなさげに寂しそうにいるところを。すごく頼りなくて、でも、不思議な光を放っているように見えたの。そのときに、わたくしは恋に落ちたのよ。一目惚れ、とかいうやつかしら。

 ねえ? あなたと婚約したときのわたくしの喜びよう、あなたに分かるかしら。それこそ、泣いて喜んだわ。あなたのことが欲しかったからよ。ようやくあなたとともに在れると思ったの。

 そう。わたくしたちは婚約したのよ。早くわたくしのことを好きになって頂戴?




 ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 わたくし、見てはいけないものを見てしまった気がするの。迂闊、だったのかもしれないわ。あなたがわたくし以外の女性に興味をしめすなんて。

 あの日、わたくしはいつもの様にみなに光を与えていたわ。それがわたくしの仕事、義務だもの。でも、たまにわたくしの光が強すぎるひともいるのよ。そういうひとはわたくしの傍では霞んでいくより仕方ない、そういう運命なはずだった。

 でも、あのときあなたが声をかけたのは「そういう」弱いひとだったの。いまにも消え去りそうに儚い、星屑の様な子。あなたはその子に向かって

「代わりに結婚したいぐらいだよ」

なんて、妄言を吐いて。顔を真っ赤にさせて。

 わたくしは胸が燃えあがりそうだったのよ。わたくしを好きになるより先に、あんな子を選ぶだなんて。

 でも、どうせわたくしを好きになるのでしょう? 可哀想に。一番は婚約者のわたくし、なのでしょう?



 ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 わたくしは最初から分かっていたのかもしれないわ。あなたの好みの人になんてなれないこと。

 あの妄言、実はかなり本気だったのでしょう? わたくしを褒めたことなんかない癖に。あの子が本当に好きなのね。あなたは、ああいう薄幸な可愛らしい子が好きなんでしょう? 私の様に、照りつけることしかできない荒々しい女はさぞかし嫌でしょう。

 全部分かってるわ。

 あぁ、婚約者どうしなのにどうしてこんなに心は遠いのかしら。



 ねぇ、あなた? わたくしの愛しいひと。

 もう何をしても無駄みたいね。あの子の真似をして優しく寛大なふりをしてみても全く意味なんて無かったわ。よっぽどあの子を愛しているのね。

 もう、良いのよ。何でも。

 わたくしはただ、一度で良いからあなたに思い切り笑いかけて欲しいだけなのよ。

 あなたが好きよ。心の底から、愛しているわ。

 でも、一生そんなこと言わないわよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これだけの文字数で、読む者の心を締め付けることが凄いです。 切ない余韻が残りました。 [一言] 短編って、短いから逆に難しいと思うんです。訴えかける言葉が響きました。 これからも応援して…
[良い点] 反復効果が良く利きますね。 繰り返される詩がだんだんと意味が暴走していくような憂いと恐怖を感じました。 太陽と月と薄幸な少女。果たして、一番不幸だったのは誰だったのか。 “ねぇ、あなた?…
[一言] 背景が描かれていないので細部までは分かりませんが、大まかに言うと『地位があり権力もある女性が凡夫にとらわれた故の悲劇』でしょうか。 「わたくし」の恋は実らないのですね。 ラストの『でも、一…
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