新しい朝
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まだ明るくなりきっていない中俺たち二人は制服に着替え終わり玄関を出る。
「なんかスカート短くね?」
葵、もといバニティーのスカートはものすごく短かった。
「調べたら今時の女子高生はこれくらい短いって書いてあったんだけど、違うのか?」
「いや間違ってはないけど葵はもっと長かった」
中身が違うとはいえ見た目は葵だ、そんな美少女が短いスカートで出歩いてどんな視線を浴びるのかと想像するだけでも胸が張り裂けそうになる。
「どうでもいいから早く行こうぜ!学校とやらにな!」
ちょっと?そんな短いスカートで走ると危ないよ?女子高生のスカートは見えそうで見えない絶対領域があるけどもね?駅の階段でめっちゃしたから見上げても見えなかったし、いやわざとじゃないよ?たまたま見上げたら上に女子高生がいただけで。
「お前場所わかんないだろ?送ってく」
「おっ紳士だねぇ、今のところいい調子だぜ?」
「いつも妹に接してるのと同じにしてるだけだよ、あとその口調やめない?葵はもっとおしとやかで可愛いから」
「んなこと言ってもなあ、わかりましたわお兄様!こんな感じか?」
葵の見た目だというのに嫌悪感を抱いてしまった!中身でこんなに変わるもんなのか。やっぱ葵って外も中も完璧だったんだってはっきりわかんだね!
「もう好きやってくれていいよ・・・・・・どうせ時間戻るんだし」
「あいよーそっちの方が楽でいいや」
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いつもの朝とは違った登校をしながら歩いていると葵が通う中学の近くについた。
「あそこに校舎見えるだろ?あれが葵の中学」
そう言って指をさす。
「ん?目の前まで送ってくんねえの?」
「いや、いつも葵がここでいいって言ってたから癖でな」
単なる拒否だったような気がしたけど年頃のせいだと信じたい。
「はぁ、あいつもあいつだな」
「え、葵のこと知ってんの?」
「やっべ、いや知ってるわけないじゃん?私が代わりに入ったわけだし?」
今思いっきりやっべって言ってた気がしたけど、まあいいか。
「もう俺行くけどヘマはすんなよ、いずれ戻るとしても葵が恥ずかしい思いをするようなことは困る」
「はいはい、そっちも任務達成に向けて頑張れよ〜」
ヘラヘラしながらバニティーは手を振っている。お気楽なもんだな俺はこれから慣れないことを頑張るってのに。
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バニティーを見送った後高校へ向かって歩き出した。朝から色々ありすぎたせいかもう学校帰りくらいに疲れていたが初日に休むわけにもいかず歩を進める。
2年のはじめっていうとクラス替えか?結構1年前のことなんて覚えてないもんだな。こんな状況になってみるといかに葵が俺の生活の中心だったかがわかる。
高校までの道も半分を切ったあたりでいつもの奴に出くわした。腰付近まで伸びた綺麗な茶色の髪が揺れた。
「あっ!恭二だ!おはよ〜」
「おお、おはよう」
挨拶をしてきた早希は笑顔を向けてきた。いつも通りのはずだが今日は何か印象が違った。こいつこんな可愛かったっけ?1年前だから?1年でそんなに変わるか?
「今日も葵ちゃん送ってきたの?」
「あっ、ああ!日課だからね」
今まで何回も行ってきたやり取りのはずなのに妙に緊張する。妹がいないという事実はだいぶ聞いているらしい。
「その割にはあんまり楽しそうじゃないね?いつもは葵ちゃんの話になると生き生きしてたのに」
そう言った早希の笑顔にドキッとしてしまった。
「そ、そうか?オレイモウトダイスキ」
焦りと緊張とドキドキとが混ざり合って片言のようになってしまう。
「いや、シスコンがいいってわけじゃないんだけどなぁ」
「そ、そうか」
なんだこれ会話ひとつひとつが恥ずかしい。顔から火が出そうだ。火出てないよね?消防車の水の勢いとか超強そうだから絶対にいやだよ?
「止まっててもあれだし向かおうか?」
「そうだな」
早希は自転車を隔てた右側ではなく俺の左側で歩いている。いつもこんなんだっけ?汗止まんない。俺女子に弱すぎない?とりあえず落ち着こう。妹・・・・・・妹・・・・・・妹・・・・・・ダメだ!全然落ち着かない!妹いないんだもん!
「なんか今日の恭二変だね」
「へっ?!そうか?」
「うん、なんか落ち着きがないっていうか元気というか」
葵がいるときの方が元気だった気がするけど・・・・・・他の人に接するときはもしかして適当だったりしたかな?そうかもしれない。
「私は今の恭二の方が好きかも」
「ぐはぁっ!!!!!」
「え!どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫だから!今は近づかない方がいい!非常に危険だ!」
(主に俺が!)
「う、うん大丈夫ならいいんだけど」
危なかった。恋に落ちるところだった。それはもうディザイア並みに真っ逆さまに。天然怖い!何気ない行動で落としにかかってくる!これは男子に人気出ますよ。優しさで殺すって矛盾感半端ないな。
「とりあえず行こう!早く行こう!」
そう言って走り出すとそれに合わせて早希も付いてくる。
「ま、待って〜」
「あ」
そうだった。俺が恥ずかしいからと言って早希に無理させてしまうのもあまり良くないね。やっぱり男は紳士でいなければ。謎解きもできないし英国でもないけど紳士目指します。
かと言ってこの前とあいも変わらず時間がやばい。どうしよう、まさかあれしかないの?今までと違って軽々しくできるようなもんじゃないんだけど。いやそもそも法律だし軽々しく破れないんだけどね?
やむを得ん!
「早希!後ろ乗れ!」
「わかった〜」
よいしょっと言いながら自転車の荷台に乗ってきた。するといつものように俺に捕まってきた。やばい!だめ!特に俺のせがれが背伸びを始めようとしているあたりがやばい。
「ちょっあのっ肩に!肩に捕まって欲しいです!」
「え?いつもこうしてたじゃん」
なんで今回は素直にいうこと聞いてくれないの?ここ1年でゲットしたバッジ失っていうこと聞かなくなった?そもそもバッジなんてゲットしてなかった。
「ほら俺今さ脇腹つりそうで、肩に捕まってくれるとありがたい」
「わかったよ、じゃあよろしくね?」
ようやく落ち着いて漕げる・・・・・・一時的にとはいえ妹を失うだけでここまで変わるのか。やっぱり今の時代妹は標準装備安定なんですね。
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いつも通っている川沿いの道を進んでいると風が朝特有の香りを運んできて俺の鼻を突く。この匂いを嗅いでいると小学生の時のラジオ体操を思い出す。夏の風物詩という感じはするが小学生からすると夏休みの特権である昼まで寝るという必殺技を封じてくるデバフでしかないと思う。
特に俺なんて低血圧で朝が苦手だったから尚更辛かった。
後ろに乗っている早希とはしばらく無言が続いていた。いつもこんなだった気もするし少し話していた気もする。
今の俺にとっては話さないのが少し気にかかったので話題を振る。
「いい天気ですね」
「え?うん」
下手くそか!いい天気ですね?今時こんなコミュ障テンプレ台詞なんて毎日が休日のご老人同士の挨拶でしか使われないだろ!全国のご老人の皆様偏見をお許しください。
早希もものすごく微妙な顔をしていた。しょうがないね俺もそんなこと言われたら同じ顔になるもん。
だからといって他に話題を出せるはずもなくひたすらに自転車を漕ぐ。ただひたすらに漕ぐ。だんだん音楽が聞こえてくるようだ。ヒーメヒメ!ヒメ!ヒメ!すきすき大好き!あれを見ているとついロードバイクを買いたくなってしまう。多分見てる人は共感してくれるだろう。
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あのあと特に会話もないまま学校に着いた。時間が遅めなせいかあまり生徒は見かけない。新学期だからってみんな張り切りすぎじゃない?休み中の話で盛り上がったりしてるんだろうなあ。
「恭二ありがとね」
「ああ、大丈夫だったか?揺れたりしたからどこか痛めてないかなって」
「大丈夫だよ〜それより自転車置いてきたら?ロッカーの前で待ってるから」
「おう」
優しさが心にしみる。ここまで優しいと俺のこと好きなんじゃないかと勘違いしちゃうくらい。そういう時はほとんどの場合『え?好きなわけないじゃん。ちょっと話したくらいで勘違いしてんの?キモいんだけど』とまあこんな感じに振られるから注意な。
自転車に鍵を閉めロッカーへ向かう。その途中で担任と遭遇した。
「おっギリギリだぞー」
「おはようございます」
「元気ねえなー他の奴ら見習って早くくるとかねえのか?早いやつなんて1時間も前から来て休みの話してたぞ?」
「悪かったですねつまんないやつで。じゃあ先生は夏休み何してたんですか?」
そこまで休みの話が聞きたいのかと気を使って話題を振ると意外な答えが返って来た。
「ほとんど仕事だよ!しかもよりにもよって合コン入れてた日に臨時会議だぜ?やってらんねえよ!看護師の子なんて中々組めないってのによぉ」
半分泣きそうになっている。これが教師の言うことかよ・・・・・・そこそこイケメンだし若いし女子生徒に人気があるのになぜか数年彼女がいないらしい。そのせいで恋愛関連の話題になるとだいたいこうなる。
「あそこに校長いますよ」
「うそっ!?」
泣いていたのが嘘のように焦った顔で振り向くとそこにはもちろん校長はいない。教師がこんなんで大丈夫なんですかね。無駄に硬くて厳しい人よりは全然いいんだけど頼れるかと言われると答えはNOだ。
「いねえじゃねえか!騙したな!」
「本当にいたら言わずにそのまま放置しますよ」
そっちの方が絶対反応面白いだろうしな。
「性格悪りぃなーそんなんだと彼女できないぜ?俺みたいにな・・・・・・」
煽るのか落ち込むのかどっちかにしてくれよ・・・・・・。
「俺は彼女なんて」
『じゃあまずは彼女を作りつつ学校のイベント楽しもうか!』
「欲しくないわけじゃないですけど・・・・・・」
天童は予想外の答えに驚いた様子だ。
「お前からそんな言葉が聞ける日が来るとはな・・・・・・なんだか巣立ちをしたみたいで感動して来たぞ!」
本当の事とはいえ失礼じゃないですかね?確かに今まで彼女が欲しいなんていった事なかったし考えたことすらなかった。これも妹がいなくなったことで生じた変化なのだろうか。
「よし!俺が一肌脱いでやる!どんな子が好みだ!?クラスの子に気になる子とかいないのか!?」
うっ、勢いがすごい。それに天童じゃあてにならない気がする、数年彼女いないし。でもこれをいってしまうとまた面倒なことになりそうなので心のうちに秘めておく。
「クラスで気になる子・・・・・・」
その時すぐに浮かんだのは早希だった。なんであいつが、ただの幼馴染だし好きだとか思ったことがない。
「おっ!もしかしているのか!?」
「あっ・・・・・・」
俺が考え込んだことにより一層興奮している天童の向こう側に校長の姿が見えた。しかしプラン通りに俺は教えないことにした。
すると校長がうるさく話している天童に気づいてこちらに向かって来たので巻き込まれないように離れよう。
「じゃっ俺もう急いでるんで」
「おい!まだ話は!」
「天童くん?おはようございます」
「こ、校長先生!?おはようございます!」
「随分と楽しそうに話しているようでしたがもうホームルームの時間ではないですか?生徒との交流は大切ですがほどほどにしてくださいね?」
「はい!わかっております!では私は教室に向かいますので失礼します!」
「あ、天童くんもう一つ」
「はい、なんでしょうか?」
「少し話したいことがあるので放課後校長室まで来てもらえますかな?」
「は、はい・・・・・・」