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妹がいなくなりました

______

 

「んんっ・・・・・・ふあ〜」


 昨日すぐに眠ることができたためかスッキリと目覚めることができた。しかし今日はいつもの朝とは様子が違った。


「あれっ、いま何時だ?」


 朝にしては外が暗かったのであまりにも早く起きすぎたかなと思ったが時計に目をやるとすでに7時を指していた。


「やっべ!」


 急いでベッドから飛び起きると階段を降りキッチンへと向かった。


______


「妙に静かだな」


 キッチンへ降りると葵の姿はなく、朝食を食べた形跡もなかった。


 玄関へ向かって確認しても靴はそのままでもう学校へ向かったわけではないらしい。


「あいつが寝坊とは珍しいな」


 葵はいつも俺より早くには起きていて今まで寝坊したのは見たことがない。


「起こしてやらなきゃ、だよな?」


 しばらく妹の部屋になんて入っていなかったもんだから少し緊張する。


______


 階段を登り妹の部屋の前へと着いた。ノックをしてから話しかける。


「葵、もう起きないと時間やばいぞ」


 ・・・・・・返事がない。そんなに小さい声で言ったつもりはなかったんだが。


「葵?起きないと遅刻するぞ!」


 さっきよりも数段大きい声で話しかけるがやはり返事はない。これもう開けるしかないよな?葵は生徒会だし遅刻はあまりいいことじゃないだろ。


「は、入るぞー」


 そう言ってドアをゆっくり開ける。すると女の子の部屋特有の甘い香りが鼻をつく。そのことにドキドキしつつも部屋へと入る。


「あ、葵ー?」


 返事はなく人の気配も感じない。


 恐る恐る電気をつけるとベッドに葵の姿はなかった。


「えっ、なんで・・・・・・」


 戸惑いが隠せなかった。靴を履かずに家を出たとは考えにくい。俺は急いで家の中をくまなく探し始めた。


「葵!どこにいるんだ!」


 風呂場、トイレ、別の部屋と探し回るが葵の姿はない。もう一度キッチンへと戻ってきたその時。リビングで音がした。


______


「葵なのか・・・・・・?」


 音がしたリビングに入ると少し空いたカーテンから朝とは無縁であるはずの月明かりが差し込んでいた。その月明かりはリビングで立っている葵を照らしていた。


「葵なのか?お兄ちゃん心配したぞ」


 そう話しかけても葵はこっちを見たまま返事はしない。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 しばらく沈黙が続いた。最近はあまり話してくれていなかったがそれとは別の静けさを感じた。


「ふむ・・・・・・お前が恭二か」


 ようやく口を開いた葵の口調はいつもとは明らかに違っていた。とういうより実の兄にまるで初めて会ったかのような態度だった。


「今更何言ってんだよ当たり前だろ?」


「では今の私を見てどう感じる?」


 突然の質問に驚いたが思ったことをそのまま伝えた。


「なんか・・・・・・いつもと違うというか、葵なのに葵じゃないっていうか・・・・・・とにかく違和感を感じる、かな?」


「そうか、まだ普通の感覚は残っているようだな。希望はありそうだ」


 葵が言っていることがよくわからなかった。そんな葵に俺は感じた違和感をぶつけた。


「なあ、お前ほんとに葵か?」


「そうだな、そろそろ本題に入ろうか」


 葵はそう言って電気をつけた。姿は葵そのものだった。


「まず始めに私は君の妹の葵ではない」


「っ・・・・・・」


 薄々感じていたことではあったがいざ言われると戸惑ってしまう。


「私の名バニティーという。私には任務が与えられている」


「言ってる意味がわからない!バニティー?なんだそりゃ、妹は!葵はどこなんだよ!」


 ついに俺はパニックに陥った。


「落ち着けって、妹はこの世界にはいない。代わりに妹の姿をした私が存在している。ちなみにお前以外の人間にはいつも通りだ。中身が違うのを知っているのはお前だけってことになるな」


「ふざけるな!葵をどこにやったんだ!葵、葵、葵、葵」


 すると突然頭を思いっきり叩かれた。


「そういうとこだっつーの、そんなんだからこんな依頼されんだろうがいい加減気づけバカ兄貴さんよ」


 頭を叩かれたからか少し落ち着きを取り戻す。


「いいか?人の話は最後まで聞くように。何もお前の妹は死んだわけじゃねえ。お前の行動次第で元どおりになる」


「俺の行動次第?何をすればいい!どうすれば葵は戻る!」


「だーかーらー!落ち着けっての!」


 もう一度頭を叩かれる。


「ちょっとお前への希望が見えなくなってきたかもしれない・・・・・・」


 そう言ってバニティーはため息をついた。


「お前に与えられたミッションを発表しようか」


 ごくっと唾を飲む。待ってろ葵すぐに兄ちゃんが助けてやるからな!


「それは」


「それは?」


「青春を謳歌してもらうことだ」


「青春を謳歌することか!じゃあ早速準備を・・・・・・って青春を謳歌?!」


 は?!そんなんどうすりゃいいんだよ!まるでノリツッコミのような反応をした俺を見てバニティーは大爆笑している。


「あー予想通りすぎてついつい笑ってしまったよ」


 そう言いつつまだ笑っている。こいつ・・・・・・!


「そりゃそうなるだろ!なんだ青春を謳歌って!アバウトにもほどあんだろ!」


「それについては基準っぽいものがあるから心配しないでくれ」


「いや!そういうことじゃねえよ!」


 青春なんていう今まで無縁だったものを謳歌しろだって?


「誰かを殺せとか世界を救えなんて言ってるんじゃないんだぜ?楽なもんだろ」


「そうだけどさ・・・・・・今まで妹以外は基本どうでもよかったし、もう高校3年だぜ?今更青春なんて無理だろ」


 受験期に突入している3年で青春にうつつなんてぬかしてたら進学が危うくなる。そうなると妹を養う夢が叶わない。


「そのシスコンが原因でこんなことになってるって気づかないかねぇ。いや気づけないからこうなったのか」


「シスコンがなんだって?」


「なんでもねえよ」


 聞こえるか聞こえないかのボリュームで話されると気になって仕方ない。例えば駅の女子高生な。こそこそ話して笑ってると自分のことなんじゃないかってなる。しかも「キモい」とかの悪口だけ聞き取れるから尚更質が悪い。駅周辺の区内では女子高生のこそこそ話禁止にしてください!


「とにかくだ、お前の言う通り高校3年から青春は難しいだろう」


「だろ?だから妹返して」


 また叩かれた。すぐ暴力は良くないと思います。


「3年は難しくても2年なら頑張ればいけるんじゃないか?」


「確かに、2年なら余裕もあるし3年よりは全然可能性があると思う」


「だろ?だからお前が高校2年生まで戻してみました!拍手!」


「おー!それはすご・・・・・・は?!」


 戻す?1年前に?それ何えもんのタイムマシンだよ。


「疑うならそうだなぁ、テレビでもつけてみれば?」


 そう言われすぐにテレビの電源を入れた。ニュースにチャンネルを合わせるとちょうど占いのコーナーが始まるところだった。


『さて!本日2016年4月7日の運勢は〜?』


 2016!?今2017だよな?!本当に戻ってんのか?!テレビ番組を疑うわけではないがこのあり得ない事実を確定させるために急いで部屋にあるスマートホンを取りに行った。


______

 

 しばらくして俺はリビングへと戻った。


「どうだった?確認はできたかね」


「ああ、1年前にプレイしたはずのイベントの真っ最中だった」


 ここ一年で手に入れたキャラはいなかったしランクも上がってなかった。


「確認の基準がアプリかよ・・・・・・」


「とにかく本当に1年前に戻ってるのはわかった」


「以外と落ち着いてるな。妹じゃないって言った時はあんなにパニックになってたのにな」


 そう言ってバニティーはめちゃくちゃ笑ってる。仕方ないだろ!シスコンでなくてもパニックになるわ!


「もうどうしようもないし、こういうのもアニメとかでよく見てたからあんまり驚かないというか」


「便利な時代になったもんだな」


「じゃあ早速だが俺は何すればいいんだ?」


 青春といってもいろいろ解釈があるだろうし基準があるっていってたからな。


「そうだなぁ、恭二は友達いるのか?」


「なんで突然呼び捨てになったんだ・・・・・・友達くらい一応いる・・・・・・はず!」


「だって一応兄妹になるわけだし普通だろ?しかもその言い方あんま友達いないだろ」


 そうだった、俺以外は葵の中身が違うって知らないんだもんな。


「友達はいるにはいるけど深く関わってないっていうか」


「じゃあまずは彼女作りつつ学校のイベント楽しもうか!」


「イベントはともかく彼女!?青春だからって彼女いなくても良くないか?それに俺は妹以外に貞操を捧げるつもりはない!」


「それ結構危ない発言してないか?流石に引いたぞ・・・・・・」


 うん、自分で言ってなんだけど俺も引いてる。今捕まっても文句言えないくらいにはやばい発言。


「青春といえば恋愛が基本だろ?」


「確かにそれはそうかも」


 なんか彼女いるだけでリア充って感じするし。というか俺はこれからリア充になるってこと?うっ・・・・・・ちょっと吐き気が。


「ウェイウェイ言ってればいいですかね」


「すごい偏見だな、その友達カッコカリに女子はいないのか?」


「いるけど」


「どんな子なんだ?」


「どんな子?うーん」


 いつも俺に絡んでくる早希のことを思い出す。


「優しくて」


「うん」


「可愛くて」


「うんうん」


「天然で、いつも話しかけてきて結構一緒に登校したりしてる、かな?」


 俺は思ったことを口にした。


「え、それで付き合ってなかったの?」


「当たり前だろ?妹いるんだし」


「お前はほんとドシスコン馬鹿男だな」


「うん、すごい言われよう」


「意外と任務達成は早いかもな」


「まじ?やったぜ」


 最初はどうなるかと思ったけど意外と早く終わりそうでよかった!


「よし、覚悟も決まったところで早速華の高校2年生スタートだ!よろしくねお兄ちゃん」


 すると目の前が光に包まれた。しばらく目がおかしくなっていたけど次第に慣れてきて視界が戻った。さっきまで外が暗かったが時間相応の明るさに戻っていた。


 時計を確認すると7時を指していた。ちょうどいい時間だな。ん?


「さっきまでの時間より戻ってないか?」


「ああ、あのままじゃ遅刻するだろ?だからいい時間まで戻しといた」


「その力便利だな俺も欲しい」


「だろ?でも今のでもう力すっからかんだけどね」


「は?じゃあ3年に戻れないのかよ!」


「大丈夫大丈夫、恭二が青春できれば力が戻るから」


(ほんとはもう戻んないんだけどね)


「ならよかった、もう一度2年全部やり直すなんて面倒だからな」


「そろそろ行くか、じゃあ私着替えてくるから」


「ああ、じゃあ俺も」


 ん?着替え?


「お前何に着替えるんだ?」


「もちろん制服に決まってるだろ?」


「そうだった・・・・・・妹なんだもんな学校に行かないと変だよな」


「そうそう学校とかよくわかんないけど一応知識としては入ってるから頑張ってくる」


「え、それ大丈夫?葵の迷惑になるようなことしたら許さないからね?」


「わかってるってさあ急ごう」


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