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理解されにくい精神疾患

作者: 三島 至

 

 昨年、精神的に限界がきて、会社を休んだ。


 朝起きて、支度をする。

 戸締まりをして、車に乗り込もうとしたとき、体が重くなり、動けなかった。

 運転したら、確実に事故を起こす。

 会社に行くことを考えただけで、体が震え、勝手に涙が出てきた。


 もう無理だ。


 私はその日、体調不良と言って、会社に休む連絡を入れた。


 家の中にいても、不安な気持ちが収まらない。

 涙はどうしても止まらない。

 いよいよこれはおかしい、と、半日ぶるぶると震えた後、午後になってやっと決心した。


 精神科に行こう。


 電話をするのも苦痛だ。会社に連絡を入れた時も、泣くのを抑えられなかったので、絶対仮病だと思われている。


 近くの、今日受診できる精神科を調べて、一時間位電話を握りしめたまま、気持ちを落ち着けようとした。

 結局震えは収まらないまま、時間が終わってしまう、と、泣きながら電話をかけた。



 医師の診断は、社交不安障害というものだった。


 鬱病とは違うと思っていたので、それはどういうものか聞くと、昔で言う、対人恐怖症のことらしい。


 人前だと緊張して、どもってしまう、声が震える、赤面する、……どれも珍しくはなく、誰にでもあることだ。

 私はその度合いが大きく、仕事に支障を来すほどになってしまった。


 本当に辛くて、でも、人に否定的なことを言われるのが恐ろしい。


 それは甘えだ。

 自分だけが辛いと思うな。

 他の人は出来ているのだから、要は気の持ちようだ。

 ネガティブに捉えたり、そういった発言をするな。

 現場に影響が出るから切り替えろ。

 社員としての自覚が足りない。


 上司の言葉に追い討ちをかけられている。

「ちゃんと理解して、なおさなくては駄目だ」と言われているように感じる。


 社員なんだから、仕方ない。


 言われなくても分かっている。

 自分でも分かっていて、良くしようとしたり、落ち込んでしまったりする。


 入社した頃は、叱られたり、失敗したりして、泣いてしまうことがあった。


 でも最近は、人と話そうとするだけで、少しでも私自身に対して否定的なことを言われただけで、まともに立てなくなる。


 特に、ここ一年ほど、上司と打ち合わせる機会が増えた頃から、それは顕著になった。


 失敗することよりも、その結果、上司に悪い感情を持たれることが怖い。


 上司の視線が怖い。

 上司の声が怖い。


 何をしても裏目に出るようで、仕事内容よりも、人にどう思われるか、そればかりが頭を占めるようになった。


 まだまだ覚える仕事も沢山ある。改善して、より良くしていこうという気持ちもある。


 ただ、朝会社に行ったら、また人から、上司から、否定的なことを言われるのかと思うと、一瞬でもその事が頭を過っただけでも、涙が勝手に出てきて、声を出すのもままならない。


 会社は、良い職場だと思う。

 問題は私の症状と、人間関係である。



 病院で処方してもらったのは、鬱病の人が飲むのと同じ薬だと聞いた。

 それから毎晩飲んで、極度に緊張する時は、即効性の薬を飲んで、なんとか出社する。



 泣きながら電話したために、やはり上司にはばれていたので、原因はぼかして、病院に行ったことを伝える。


 気遣い、休日を割いて、話をしてくれたので、思い切って話して良かったと思ったのだが。


 結局、社交不安障害なんて精神的なものは、理解されないものだと痛感した。


 しばらく経ったある日、何気なく、まだ薬を飲んでいるのかと聞かれ、そうだと答える。

 内心、すぐに止められるわけないじゃないか、と思ってしまったが、おそらく深くは考えていないだろうと、やり過ごそうとした。

 次に言われた言葉で、もうこの人に相談したところで何の意味もないと、振り出しに戻る気持ちになった。


 薬、飲まなくてもいいんでしょ。

 それで気持ちが楽になるなら、まだ飲んでいてもいいんじゃない。


 一言一句同じではないが、このようなことを言われたと思う。

 まず、もう限界だから薬を飲んでいるのに、本当は飲まなくても平気だと思われていたこと。

 リバウンドもあるので、急には止められないのに、いつでも止められると思われていたこと。


 つまりは、気の持ちようでなんとかなると、軽く受けとめられていたのだと思う。


 この人に話したのは失敗だったかもしれない。

 余計に、精神異常のレッテルを張っただけかもしれない。



 それ以降、症状は改善するどころか、悪化していた。

 こうなる前は、社員として、ほとんど休まないようにしていたし、当日欠勤が現場にかける迷惑を、身をもって知っていたので、必ず事前申請していた。

 でも、当日欠勤も増えたし、仕事にならなくて早退することがしばしばあった。


 つい最近、精神的な不調ではなく、本当に風邪を引き、会社に電話を入れたことがある。

 下手に上司に事情を話したせいで、全て仮病だと思われるのではないか、という不安があった。


 風邪薬を飲んで寝ていても、仕事を休んだ罪悪感と、上司に悪く思われることを考えてしまい、一日中気分は最悪だ。


 次の日、被害妄想と思われるだろうが、確かに上司は冷たかった。

 午後に薬の効果が切れた頃、私が鼻水をすすっていたので、どうやら誤解は解けたようだが、明らかに午前の態度は違った。


 ますます、会社に電話するのが憂鬱になる。



 会社に行けば上司がいる。電話をかければ上司が出る。

 電話するのが嫌で、昨晩からずっと泣いていたが、無理矢理会社に行った。

 でも無理だった。

 会社について、上司以外の人に挨拶する段階で、声が震えてしまう。

 あ、これだめだ。

 そう思った瞬間、ぼろっと涙が出てきて、しゃくりあげてしまった。

 このままでは、出社してきた上司に見られてしまう。

 また泣いていると、呆れられる、内心ではきっと怒る。


 その場に居た人に事情を説明して、早退した。

 繰り返すうち、上司は日に日に辛辣になる気がする。


 実はこの前日、会社の偉い人と面談する機会があったので、もうこんなこと言う機会はないかもしれないと思い、思い切って、精神科に通っていることを話してみた。


 案の定、私が泣き出したせいで、時間がおしてしまい、ずっと、上司に怒られることが不安だった。私は面談中しきりに時間が気になったが、その人に大丈夫と言われて、つかえながらも長々と話してしまった。

 私があんまり気にするので、「自分から言っておく」と心強い言葉をもらい、話すことができた。


 その人は、体験談も交え話してくれて、少し励まされた。私はまだ大丈夫かもしれない、という気持ちになる。


 でも、私のせいで他の人の面談が出来なくなってしまい、そのことで上司に注意を受けて、死にたくなった。


 あれ、大丈夫じゃないじゃん。

 話通ってないじゃん。


 確かに申し訳なく思ったし、私が悪いのは事実だが、私のストレスの一番の原因である人に言われて、心が折れてしまった。


 あ、もう会社辞めよう。


 そして目が腫れるまで泣いて、次の日の早退につながる。


 流石に、社交不安障害のことは言えても、上司のこの人が本当に無理です、と言う勇気はなく。


 今日こそ飛び降りなきゃ、今日こそ飛び降りなきゃ……とぶつぶつ呟いている自分に気付き、死ぬ気になれば、休職願いくらい出せるのではないか、という結論に到る。


 色々調べてみた。


 実際に、鬱病ではなく、社交不安障害で休職する人はいるようだ。

 社員規則を見る限り、認められるかは分からないな、とも思う。

 取り合えず転職サイトに登録し、退社後の身の振り方も調べる。

 面倒だが、あの上司とこれ以上会話したら鬱病になりそうだ。

 出来れば、仕事を決めてから辞めたい。

 まずは休職出来ないか相談したいが、まともに話せない状態なので、それも難しい。

 一刻も早く行動を起こさなければ、という危機感がある。



 ところで、小説家になろうに入り浸るのが好きで、私はずっと読み専だった。

 就職したことで金銭的余裕がほんの少し出来て、自由にできる機械を手にして、やっと念願の小説投稿をした。

 子供の頃から常に妄想していて、自分の中にはいつもキャラクターがいて、それをイラストにしたり、文章にするのが好きだった。


 しかし下手の横好きというもので、それらは全く上達せず、人に言われるまでもなく、面白いものは書けない。

 イラストはもう全く描いていないが、小説は書きたい。


 つまらくても、書いた小説を投稿出来るのは嬉しい。




 話を戻すが、会社でそんな状態のため、趣味の小説を書きたくても、書けない日が続いた。

 会社に行くのも辛いが、好きなことを出来ないのも辛くて、ストレスがたまる一方だった。


 世の中ブラック企業が多いと聞く。

 その点、私が勤める会社は問題ないので、非常にもったいない。

 社員でなければ、最高の職場かもしれない。

 しかし、社員はきちんと休憩を取らないのは当たり前になっているし、私は時間を取れる時でも、休憩時間が上司と重なると、休めるどころか疲弊する。


 以前、私が社員で良かったと言われて一瞬喜んだら、きっちり一時間休憩取ると言わない人で良かった、と続いた。


 それを前提にしてはいけないと思う。


 上司が私より遅く休憩に入って、私より早く仕事に戻っていたら、のうのうと休むことなど出来ない。

 気にせず休めと言われても無理だ。言われないけど。


 毎日そんな感じだと、二言目には社員だから、社員のくせに、と言われて働くのが嫌で嫌で仕方がない。


 休職出来たら仕事を探そう。

 休職は認めないから辞めろと言われたら、急いで保険の手続きはして、時間が空く前に転職先を見つけよう。


 仕事辞めたい、で検索したら、人間関係で悩んでいる人、鬱病一歩手前の人は辞めていい、と書いてあった。


 今が辛くても、乗り越えればいい思い出になる、と言われることが多い。


 知っているけど。


 先のことも考えないと駄目だ、とも言われる。


 考えているけど。


 自分の事ばかり考えるのではなくて、とたしなめられる。


 辞めたいほど追い詰められている人は、人を気遣う余裕なんてない。


 周りの人も、人を気遣う余裕がないのだと思う。

 私のことも、案外平気そうだと思っているようなので。


 これを読んでくれていて、辛い思いをしている人は、こういう事を打ち明ける相手は選んだほうがいい。

 相談相手を間違えると、私のように悪化するから。



 もちろん、言われなくても分かっているので、書いておく。

 なんて独り善がりで、胸糞が悪い文章だろう、と。

 でも、少なからずこういう人はいるのではないだろうか。

 鬱々とした気持ちを、面と向かって言えずに抱えている人は。

 だから、ここに書かずにはいられなかった。



 今度は、小説を書く余裕がある仕事に就きたいと思う。

 まずは、就職活動の傍らで。





読んでくださった方、ありがとうございました。

実話なので、上司にばれる事態になったら、非表示にするかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いま会社を休んでこの文章を読みました。 キツイ上司にあたり適応障害になってから打たれ弱くなってしまいました。 本当に辛いです。 すごく共感できました。ありがとうございます。
[一言] こんにちわ。 看護師歴7年目、そして精神看護に今年より従事しだした者でございます。 お辛い経験もされたなか、小説の世界でこうして出会えてうれしく思います。 この経験談を読ませていただいて、自…
[一言]  当方躁鬱病罹患者、医療保護入院での閉鎖病棟保護室隔離経験有り、今では一応復帰してギリギリ社会人で御座います。  人の目・上司の目が気になる不安、お辛い経験だったと思います。【精神病】のレ…
2017/06/17 18:54 退会済み
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