常勝無敗の騎兵長
「いやー俺の天幕で寝ててもらったんだけどよ、なんだか眠くなっちまってさ
まあいいかと横になったらそのままぐっすりよ。悪かったな、、、えーと名前はなんだっけ?」
俺は来須エリオですと自己紹介した そしてすぐに疑問を口にする
「一緒に寝てた理由はわかりましたけど、その、なんで服着てなかったんですか?
俺も全裸で寝かされてたし、、、それがこの世界の風習だとか?」
キーリさんがいたずらっぽく答える
「それはね、団長が男好きだからよ」
俺はがくがくと膝が震えだした
男友達とBLゲームをふざけてやった時に相手の目がうっとりしていた事を思い出す
「冗談に決まっているでしょ!バカエリ!
あんたは今日からバカのエリオでバカエリよ!」
鬼のような形相で突っかかってくるのは一糸まとわぬエリオの姿をたっぷり見てしまったベルと呼ばれていた女騎士だった
ベルの発言をスルーしてキーリさんが顛末を語りだす
キーリさんによればあの後気絶した俺は
このモンゴルのゲルのような天幕に運ばれ
そこでキーリさんによる身体検査を受けたらしい
つまり俺の服を脱がしたのはキーリさんだったのだ
これでおあいこねとクールに笑みを浮かべて言うキーリさんを見ていると
彼女のあの胸と唇の柔かさが脳内で反芻される
団長はあの後すぐに意識を取り戻したらしい
そしてこの天幕へやってきて
後は先ほどの説明されたような感じで寝てしまったとか
寝る時に服を脱ぐのは団長の癖だそうだ
「いやー颯爽と登場できたもんだから、ここはかっこつけようと体に力が入っちまってよ、あんな風に頭から落ちるのは初めてだったなあっはっはっは!!」
傭兵団の団長がかっこつけて馬から落ちていいのだろうか
豪快に笑いながら団長は続けた
「改めて自己紹介よ。俺の名前はユーリ・アートフィシオ
ユーリって呼んでくれよ
傭兵団フローデ・メルチェナーリョの団長をやっててよ、、、
まあ団長っていっても対した事はしてないんだけどよはっはっはっは!!」
なんともさわやかな人だと言うのがエリオが団長に抱いた印象だった
そういえばベッドでもなんだか草原のようないい香りがしたような気が、、、
俺にはそっちの気はないぞとエリオは一人首を振る
「私はもう名乗ったわね。キーリ・アストージアよ
傭兵団の副団長。人からは色んなあだ名で呼ばれるけどお気に入りは月下美人のキーリ、よろしくね」
「キーリは死神とか死をもたらすものとか人殺しとか内臓引きちぎり地獄鬼とか呼ばれてんだぜ!こいつが居れば傭兵団も安泰って訳よ!
あ、これ内緒の話よ 人前で言うと怒るから」
内臓引きちぎり地獄鬼さんがユーリ団長を人殺しの眼差しで見つめていた
エリオは死神の雰囲気に呑まれ膝をがくがくと震わせた、、、だが
「俺は月下美人のキーリさんがいいと思う、、、かな?なんちゃって」
冗談っぽくアプローチしてみたがキーリさんの反応は
軽くありがと、と言うだけに留まった
「バカエリに名乗る名前などない!」
腕を組んで仁王立ちしながら金髪ポニーテール美少女がこちらを睨みつける
変なあだ名までつけられて凄まれたが不思議と膝の震えが収まっていく
「彼女が傭兵団のマスコットのベルさんでしたっけ」
ぷっとキーリさんが噴出してうっとしいぐらいにユーリ団長が笑い出した
ベルは鬼の形相でこちらを睨みつけるが不思議と迫力はない
何故だろうか彼女からはどうもキーリさんのような凄みを感じる事ができない
「この、フロメルの、常勝無敗の、騎兵長ベルナデッタ・アルドロヴァンディーニ様にどういう口を聞いている貴様ぁ!」
うぉっ今のはちょっとびびった
名乗る名前などないと言っていたのに
しっかり名乗っている事にベルは気づいてなさそうだ
「そこに直れぇ!粛清してやる!」
憤慨しているベルをよしよしとキーリさんがなだめる
「ベル、落ち着きなさい。ごめんねエリオ君 彼女がベル。ベルナデッタ・アルドロヴァンディーニ。常勝無敗の騎兵長。って言うのは自称で実際はそこまで強くない」
ふははははと大笑いするユーリ団長
不満を溜めた瞳でキーリさんを見つめるベル
「副団長!!」
「あはは、冗談よベル。。。彼女は馬術は超一級品。剣術も一級品 弓も戦術も一級品」
だけどと続けるキーリさんにベルは口を挟む
「だから副団長!!」
ごめんなさいねと笑みを浮かべて黙るキーリさん
気が抜けるというかなんというか、、、
「なんだかみんな仲がいいんですね傭兵団って言うのも意外と楽しそうだ」
俺は思った事を口にすると傭兵団の3人は急に真剣な表情でこちらを見る
「エリオ君よ、傭兵ってのはそんな甘いものじゃあない
生き死にの世界なんだ、そこをはき違えちゃあいけない」
雰囲気が変わった理由に気付いた俺は
軽はずみな発言だったと自省した
昨日見たはずだったのに、あの凄惨な戦闘の現場を
凄惨な
そう凄惨な
あれ?自分で言っていてなんだが違和感を感じる、、、
「だがしかしよ、エリオ君、俺は君に一目置いている!
単刀直入に言うと我が傭兵団に君がほしい!
何と言っても内臓引きちぎり地獄鬼とやり合って生きていると言うのがすごい!
しかも胸を揉んでパンツも脱がしたって!?
お前どれだけ命知らずなんだYO!
はっはっは!!!とにかくすげぇよ!
だからよ、よかったら考えてくれないか?傭兵団への入団をよ?」
すぱっと空気を切り替えてスカウトをしてくるユーリ団長
俺とは言えば単純に一目置いていると言われて嬉しいと思った
今まで居た世界で俺が一目置かれた事と言えばネットでぐぐった微妙な知識を
ひけらかした時ぐらいなものだったのだ
ユーリ団長の誘いにまんざらではない俺だったが
ちらっとキーリさんの表情を覗くとなんだか微妙な表情だ
やっぱりあの時の事を根に持っているんだろうか
「とりあえずよ、聞いた話しじゃああんまりこの辺に詳しくないんだろ?
ベル、お前が説明してやれよ、今日はもう遅いから明日でいいだろ
ハイ決定!」
「はぁああ!?なんで私!?」
急な業務命令にあからさまに不快感を表わすベルは
俺が居た世界では到底暮らしていけないだろう
幸いここは異世界の傭兵団だ
今まで俺が居た世界とは何もかも違うのだろう
「ベル頼まれてくれない?私と団長は明日は会合で忙しいの。
他の団員はまだ彼と面識がないし
そうなるとやっぱりベルが一番適任だと思うのよね
大丈夫、簡単に説明してくれればいいから
この傭兵団の事、セイジョルニの街の事、、、後は今の敵の事とか
そんな所かしら」
不満そうな顔のままベルは問いかける
「説明って言ったって副団長、、、《《どこまで》》説明していいの?」
俺はその時大してベルの言葉に気を払っていなかった
考えていたのはこの傭兵団に参加するべきかどうかだ
転生してきたのはつい昨日の出来事
なぜ俺が、この世界に呼ばれたのか
女神オニャンコポンとは何者だ
そもそもなんだオニャンコポンって
だが、、、
行くあてがないのは事実
今ここで話している限り彼らは悪い人達には思えない
だが、、、
「まあ細かい事は明日でいいだろうよ!!キーリ飲み行くぞ!ベル!お前は明日に備えて寝ろ!エリオ君はここで寝てもらってよ!何か必要な物があれば俺の名前をだせよ!そうすれば大体の物はそろうはずよ!」
わははははとユーリ団長は金髪の長髪を三つ編みでまとめたポニーテールを揺らしながらキーリさんの肩を抱いて外へ出て行った
、、、なんだろうこの気持ちは
団長と副団長なんだか戦いの後に飲みにぐらい行くのは普通だろう
「バカエリ!、、、団長の命令だから明日は私があんたの世話をする、、、
けど!!
勘違いしないでよね!私の傭兵団に、私の居場所にあんたはいらない!
団長には傭兵団には入らないってちゃんと言うのよ!?わかった!?」
「ああわかったその通りにするよ」
俺は形ばかりの肯定を彼女に示した
ベルはじっとこちらを睨みつけていたがしばらくすると踵を返し外へと出ていく
天幕の入り口の手前で足を止めるとベルはこちらを向かずに言った
「明日の朝呼びに来る 支度をしておいて」
言うだけ言って出ていくベル
なんだって彼女はあんなに俺に敵意剥き出しなのだろう
まあ確かに初めて会ったときはちょっと痛い目に合わせてしまったが
あれはあっちが悪いんじゃあないのか
どうでもいいか
とりあえずせっかくの寝床があるんだ
今日はゆっくり寝かせてもらおう
忘れるところだったが俺のステータスはオール65535
そんじょそこらの連中じゃあ何もできないはずだ
キーリさんレベルじゃあないかぎり、、、
キーリさん
彼女は何者なんだろう
女神が俺を転生させたのには何か理由があるとして
その上でその目的を果たす為に力をくれた
にもかかわらず自分以上の強さを持つ女性がすぐ目の前に現れた
考えれば考える程目が冴えてしまう
エリオは寝床に戻り、ぎゅっと瞼に蓋をして寝よう寝ようと意識した
そんな時にベルが再び現れる
「そうそう!この天幕の近くに浴場があるけど朝の浴場は女湯になってるから!間違って入ってこないでよ!
ちゃんと言ったからね!」
うるさいなぁ何がどうしたって?
どうでもいいか
俺は寝る事に集中し、寝よう寝ようと意識を集中する事を辞めた時になって
ようやく深い眠りに落ちていった