飲んだくれとエリオ
―――セイジョルニの大衆酒場 猫をなで亭―――
太陽が地平線の向こうへ差し掛かる頃、
セイジョルニの大衆酒場、猫をなで亭は
すでに賑わいを見せていた
「お待たせしましたー生ビールです!」
そんな場所で俺は一人で酒を飲んでいた
「ちょっとぉ、乾杯しないのぉ?」
、、、一人で飲んでいると言うのは願望で
本当は飲んだくれと一緒だった
「おじいちゃん、乾杯はさっきしたでしょ」
俺たちはすでにお互い3杯目に突入していた
俺と言うのは来須エリオ、フロメルの傭兵で突撃隊長
別の世界からこの世界へ転生し、そして一ヶ月と少し
その間に2人の女性のパンツを脱がし、1人の男と一緒に寝た
そうして今はここで酒を飲んでいる
飲んだくれと言うのはベルナデッタ、、、なんだったっけ
とりあえずベルと呼ばれている、フロメルの傭兵で騎兵長
というかフロメルに騎兵は数える程しかいないのだが
騎乗している状態ではめちゃくちゃ強いが馬から降りると一気に弱体化する
ついさっき、俺は王女のパンツを脱がした
、、、言い訳をしたいが脱がした事は事実でもはやどうしようもない
「エリオ君今日はもう陣営地に戻りなさい
、、、あなたには何らかの処遇が言い渡されると思う
それまでは大人しくしている事、いいわね?」
俺は副団長に促され陣営地に戻った
戻る際に俺の後ろでは俺が異世界でパンツを脱がした二人がひそひそと何か話していた
俺はとぼとぼと陣営地に戻り
そこで先に陣営地に戻っていた騎兵長に出会う
騎兵長は俺の顔を見るなり
何よエリオあのメイドはどこに行ったの?なんて聞いたきた
俺は自分でも驚くぐらい
力無く、さあ、まだ副団長達と一緒にいるんじゃないかなと答えた
その後が問題だ
誰でもいいから話相手がほしいと思った俺は騎兵長を飲みに誘ってしまったのだ
なあベルよかったらこれから二人で飲みに行かないかって
そうしたらベルの奴、急に挙動不審になりながらも
どうしてもって言うならとか言って
一緒にネアルコに乗ってセイジョルニの街までやってきた
ネアルコと言うのはベルの愛馬で
この馬だけで城を落せるんじゃないかってぐらいの名馬だ
ともかくそれでここ、猫をなで亭に着いて俺とベルは乾杯をして
ビールを一杯飲んだ
するとベルは目の焦点が合わなくなり
にへらと笑ってうへへへへと奇声をあげ始めた
俺はハイとかヘ―とか相槌を打ちながら
ひたすら酒を煽り続けていた
よし!やめよう!
傭兵団やめよう!
旅に出よう!
最果て放浪癖でこの先生きのこるには開幕だよ!
とてもじゃないがあんな事の後に傭兵団に会わす顔がない
「ちょっとぉエリオ!聞いてるの!?
うへへへへ、エリオぉなんで誘ってくれたのぉ?ねぇなんで?ふへへっへえ」
横から何か聞こえるが俺は無視した
このまま飲んだくれてそれで姿を消そう
けど勝手にいなくなるとどこからともなく副団長が教育しに来るんだっけ
やっぱり挨拶だけはしておかないといけないか
俺はもう何杯目になるか分からないグラスを空にしてお代わりを頼んだ
「、、、それで”百合”は今どこに?」
「はい、今しがた”祭り”から戻りました
今日はこのまま”園”へ向かうと思われます」
場末の呑み屋には似つかわしくない会話が耳に入ってきた
どうやらこの呑み屋には中二病がいるらしい
百合に祭りに園だって
ぷふゅー何それ今考えたのかよ
俺は声のする方向へと顔をやると
中年のおっさんと老婦人が神妙な顔つきで話をしていた
おいおい、いい歳して何て会話しているんだ
あれ、どこかで見たことあるような気がするのだが思い出せない
「では今日にも”剪定”を?」
「ええ、”鬼”とやりあった後なら百合も消耗しているはず
やるなら今日かと」
鬼だってぷひゅー、鬼と言えばうちの副団長も鬼のようだけどな
甲冑で言えばベルの甲冑がそうだ
見た目だったらジュリィ団長だろうな
「ならば後は手筈通りに」
中二病二人はかちんとグラスを鳴らして中身を飲み干した後、
すぐに出て行ってしまった
平和だなぁと思う
あんな連中がこんな場末の呑み屋に来れる異世界だ
ステータス65535なんてまるで必要ないじゃないか
ああ、思い出したあの老婦人は会食の時に間違えてやってきた老婦人だ
支配人といくらか会話してすぐに出ていったんだった
あれ?あのおっさんは、、、
いやおっさんは初めて見るな
だがあの老婦人は会食にやってきていた人と一緒だ
、、、まいっか!
そりゃ呑み屋で飲んでれば中二病の会話もしたくなるだろ!
俺は隣の飲んだくれにキリっとした表情で思いつく限りの言葉を投げかけた
「ベル、俺の光が今暗黒の園へ舞い戻ろうとしてる、その先の未来へ進む
覚悟はあるか?」
「暗黒の漆黒が慟哭を迎える、、、
それが我ら胎動の時うへへっへ」
俺たちは何度目かの乾杯をした
そして時間を持て余した俺は酒場の中をぐるりと見渡す
平和だ
誰もかしこも、酒を楽しんでいる
ほらあそこのメガネをかけてフードを被った女の子なんて
一人で飲み屋に来ているのに変な輩に絡まれる事もない
こんな住み易い場所にそもそも傭兵なんて要らないのではないだろうか
まて
彼女も見たことがある
もう一度視力65535で店の隅にいる女の子に目をやる
ルチオさんだ
アルメル副団長兼参謀
こんな所で何をしているんだ
ルチオさんはフードを深く被ると店の外へと出て行った
「おいベル、店を出るぞ、ルチオさんがセイジョルニにいる
お前何か聞いているか?」
「ふぁ?店を出るの?
その後は???
二人で宿屋に泊るの!!!?」
「違うよ、全然違うよ、ルチオさんを追うんだよ
わざわざセイジョルニにいるのには何か理由があるはずだ
だけど俺たちは何も聞いていない
これって怪しくないか?」
「ルチオぉ?しらねーよ!ルチオよりエリオだよ!」
「とにかく行くぞ、なんだか気になるんだ」
俺はベルの手を握って店の外へ出た
―――少し時間を遡って、アルメルを追ったフロメル団長 ユーリ・アートフィシオ―――
「はっはっは!迫真の演技だったな!!」
そう言ってユーリ・アートフィシオは自画自賛する
わざわざ退却していったアルメルを追っていたのは
ユーリだけだったにも関わらずだ
「いやいやユーリよ、おめーしか来てねーから
もうちっとまわり見るようにしようぜ?
これが本当の戦場ならお前囲まれて終わりだよ?」
ユーリの異父兄弟であるジュリィは神妙な面持ちでユーリを諭す
「はっはっは!そんなことは分かってるよ!
だけどここは戦場じゃあないだろ!?
だったらちょっと大げさなぐらいが
ちょうどいいってもんよ!」
そんなジュリィの言葉もどこ吹く風でユーリは飄々としていた
「さてと、じゃあフロメルに戻るか
兄貴とアルメルの連中もみんな来なよ
今日はBBQするから!トトリに色々用意させたし!絶対楽しいよ!」
「BBQw(゜o゜*)w!?」
真っ先に食いついたのはアルメル突撃隊長のチカチーロだった
「おうよ!チカチーも一緒に花火やろうぜ!」
「やるやる絶対やる!
ジュリィ団長早くフロメル陣営地に行こうよ(=゜ω゜=;)!」
「まあ待て、今すぐ戻ったらまだ王女達がいるかもしれないだろ?
俺たちからも肉だのなんだの持って行ってやろう
チカチー準備するぞ」
アイサーと元気よく返事をするチカチー
ユーリは楽しみでたまらないといった様子で落ち着きがない
「よし!じゃあ俺は先に陣営地に戻ってるから!
アルメルは30人ぐらい減らしたって言っておくよ!
はっはっは!イヤー楽しみだなBBQ!みんなでトマト食べよう!」
ユーリ団長は戦場で何が起きたかまるで知らなかった
そうして頭の中はBBQの事でいっぱいだったのだ
BBQしたい
やきそばにビールかける系




