表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強傭兵団でこの先生きのこるには  作者: 蛇色の海
フローデ・・・イタリア語で詐欺
14/27

続・豪傑王女歓迎会

ユーリ団長がいよいよ寝息を立て始めた頃に

メインディッシュが届いた

「お待たせしましたセイジョルニ産の豚肉の炙りです」


俺は余りの緊張でとても会話を楽しむ余裕は無く

届いたばかりの肉料理を早速頬張った

肉はやわらかく肉厚で

もちもちとした触感が歯に伝わっていく

そして咀嚼する度に香りづけしたかのような

豚肉とは思えない風味が鼻を抜けていく

うまいうまいと食べていると

キーリ副団長と王女殿下が話をしはじめた


「王女殿下も人が悪いですわ、私達の団長を会ったその日に潰してしまうなんて、」


キーリ副団長は軽くグラスを傾ける

彼女のグラスはまだ2杯目で控えめな

大人な飲み方だと思った


「あら、私はいつも通りにしていただけよ

ただ一緒に飲む部下達には悪いとは思っているの

いつも最後まで飲んでいるは私一人になるから」

言いながらまたお代わりを頼むレスビカ王女殿下


俺は最初の1杯は空にしたが2杯目の一口目で

すでに体がぽかぽかと熱くなってきていた


「団長さんがあんなになってしまってなんだけど

明日は大丈夫なの?敵が攻めてくるんでしょ

もう一年以上も攻めては引き返し

攻めては引き返しをしているって話じゃない

まるで本気で攻める気がないみたい」


来た


王女殿下はおそらく最初から疑っている


俺たちの存在を


だが幸いな事に意識のはっきりした副団長が

的確に受け答えをしてくれるはずだ


「アルトリゾネ帝国が何を考えているのかなんて

私達はうかがい知れませんわ

それでも一年以上、コリナポルタの領土を敵に踏ませていない、その事実が重要ではないでしょうか?」


おお、当たり障りのない、いい返答じゃないだろうか

ふふっと笑みを浮かべて王女殿下は言った


「そうね、だからこそ私はここに来た

あなた達の戦いを見たい

今すぐにでも

はっきり言って料理なんて食べている場合じゃないのよね

興味があるのはあなた達だけなんだから」


副団長の発言は逆に王女殿下の心に火を付けたようだ

俺と団長とアブラモ卿はすっかり蚊帳の外で

俺はひたすらおいしいおいしいと料理を食べて

アブラモ卿は団長の体調を心配している

副団長だけが真剣な表情で自身が放つ言葉一字一句に神経を集中させていた


「、、、もちろん戦場を見ていただくのは構いませんが、万が一という事もあります。レスビカ殿下にはこちらから護衛をつけて、かつ戦場から離れた丘からの視察という事でよろしいでしょうか」


「心配してくれるのはありがたいわ、けれど私は軍人よ、戦場から離れた場所での視察?

冗談じゃあないわ、傭兵団と一緒に戦うぐらいのつもりでここに来たんだから」


それこそ一番避けなくてはならない事体がだった

レスビカ王女が戦場に出る事で危惧されるのは彼女自身の安全はもちろん

傭兵団に被害が出ると言う事だ


「そう言うと思っていましたわ、ですが殿下、もしもあなたの身に何かあれば

国王陛下に顔向けできません

腹を割って言うならば、あなたが怪我の一つもすれば私達の命が危ない

どうかわたし達を助けると思ってこの条件を飲んではくれませんか?」


「私もキーリ君の意見に賛成だぞ、殿下に万が一の事があればここにいる全員の首が飛んでもおかしくない」


アブラモ卿が後押しをしてくれたが

王女殿下は肉を切り分けながら二人の意見に反論する


「お父様なら心配しなくてもいいわ

私が軍人になるって言った時は猛反対された

だけどお父様は諦めたように認めてくれたの

お前の身に何かあってもそれが運命だと思う事にした、

だが健康には気を付けなさいってね」


肉片をフォークで3つまとめて刺して口に放り込む王女殿下

何度か咀嚼して肉を飲み込みグラスを傾ける


「そんな事言いつつも何かと私の事を心配していたんだけど

ある時に海で賊に不覚をとって怪我をした時があったの

その事をお父様に報告しに行った時に私は手土産を持って行ったわ

それからはもう私の生き方に何か言う事はなくなったわね」


黙って肉ばかり食べているのは悪いと思った俺は少しは何か話そうと思って聞いてみた


「その手土産って言うのはなんだったんですか?」


「私に傷を負わせた族の頭よ、

見てお父様、あなたの愛娘を傷物にした男はご覧の有様よってね」


「そ、それは、すごいですね、首、、、」


それ以上言葉が出てこず、また食事に戻ろうとした

だが先ほどまでおいしそうに見えた肉料理はなんだか別のものに見えて

食欲がなくなってきてしまった

そんな俺の横からキーリ副団長が王女殿下が話しかける


「、、、レスビカ殿下の覚悟、しかと受け賜わりましたわ

ですが戦場近くでの視察、これを行うのであれば

一つだけ条件を付けさせてください」


「いいわよ、条件って言うのは?」


「、、、私と手合せしていただけませんか?

そこでもし私が遅れを取るようであれば

丘の戦場に立つ資格十分にありとして

傭兵団本隊への同行、および視察兼戦闘まで許可します

ですがもし私が勝ったら

その時は大人しく遠方からの視察のみとさせてもらいたい」


キーリ副団長が仕掛けた

これに乗ってくれば今日の目的はほぼ完遂したと言っていい

どんな勝負にせよ副団長が負ける姿は思い浮かばない

王女殿下は綺麗に肉料理を平らげると口元をナプキンで拭いた

そして鋭い視線で片目しかない副団長の目を見つめて言った


「それが条件?いいわよ

ただしルールは私が決める

OK?」


「ええいいですわ」


「ふふ、それじゃあ、ルールよ、

ひとつ 二人ともグラスを持つ、そこに入った酒をこぼしたら負け

ふたつ 武器は何を使ってもいい」


「異論はありませんわ、、、だけど変わったルールですね

時は明日の朝、我々傭兵団の陣営地にて

かまいませんか?」


「委細承知したわ

この勝負は海での訓練の一つよ

揺れる船の上でのバランス感覚を養うために私が考えたの

と言うのは理由の半分でもう半分は部下のガス抜き

ああ、言い忘れたけどみっつめのルール 勝った者はグラスの酒を飲み干す

そして両者は再度同じ勝負を繰り返す、3連勝したものが勝者

これでいいかしら?」


王女殿下が提案した勝負は変わった内容だったがキーリ副団長は笑顔でそのルールを快諾して言った


「性質が悪い遊びですね、だけど面白そう、レスビカ殿下はそれで

そんなにお酒に強くなられたのね?」


もう何杯目になるのかわからないグラスを空にして王女殿下は言った

「これは元からよキーリ副団長、明日が楽しみになってきたわ」

そう言いながら彼女は更にグラスのお代わりを頼んだ




その後、会食はつつがなく終了し

王女殿下への護衛に付けたフロメルの傭兵に明日の日程を伝え見送った後

俺とキーリ副団長は団長を担いで近場の宿へと向かった


「副団長、やりましたね、後は勝負に勝ってしまえばこっちのもんだ

遠方からの視察なら仕事の中身が見えにくくなる」


俺はすでにキーリ副団長が勝つ前提で話をしていたが

彼女は俺ほど楽観的ではなかった

「そう簡単にはいかないかもしれないわ

まず王女殿下の実力はまだどれほどなのかわからない

そして彼女はさっきの勝負に慣れている

単純な勝負だったらよかったんだけどね」


「副団長はお酒弱いんですか?」


「あまり強くはないわよ、大量に飲めば人並に酔っぱらうわ

長期戦になれば確実にレスビカ殿下が有利になる」


話しながら歩いている内に宿にたどり着いた俺たちは

質素な部屋の3つ並んだベッドの一つに団長を放り込んだ


「団長ってあんまり酒強くないんですね」


「普段はもっと飲めるはずだけど

今日は緊張していたのかもね、ああ見えて繊細な所があるから」


ああ見えて繊細な所があるから、か

副団長のセリフに今までの二人の付き合いの長さが覗える

ベルの死が偽装だった事によって、

俺が傭兵団にいる理由の一つはこの人だ


フロメル副団長、キーリ・アストージア 


あまりに実戦を経験する機会がないせいで忘れそうになるが

こう見えて俺はチート級のステータスを持っている

それなのにそんな俺が足元にも及ばないチートが転生してすぐに現れた

彼女に一体どうしてそんなに強いのかと聞いた事がある

だが強さに限らず、過去についてまったく教えてはくれないのだ

傭兵団に入って1か月経ってもその見えない壁はキーリさんとの距離を感じさせる

会食での緊張が弛緩したせいか俺はつい踏み込んだ質問を副団長にしてしまった


「副団長って、団長の事好きなんですか?」


俺の急な問いかけに普段冷静さを失わない副団長の顔色が変わったような気がした


「何?突然?、、、嫌いだったら彼の下で働いてなんかないわ

それに、、、」


副団長は途中で言葉を切ると

明日へ備えて早く寝ましょうと残る2つのベッドの一つに横になった

やっぱり教えてくれないか

俺は最後に残されたベッドに横になったが

なかなか寝付く事ができずにそのまま朝を迎えた




―――セイジョルニの迎賓館―――


セイジョルニの迎賓館は、迎賓館と言うにはこじんまりとした建物で

外観こそ絢爛な装飾が施されているがその内部に入るとそうした装飾は鳴りを潜めて壁や天井の飾りつけ等はほとんどなくシンプルな見た目になっている

そんな迎賓館が使われる事はめったになく

領民はなんだか知らないが立派な建物があるなぁと迎賓館を眺めていた

「あらあら、今日は何かあったのかしら」

老婦人がその迎賓館を眺める理由はいつもの理由と違っていた

迎賓館の周りに何人ものフロメル傭兵団が配備されている

戦場での仕事がない時など彼らは夜警を務めていた

そんな夜警が今日に限って普段出入りのない迎賓館に集結していた理由は王女殿下がここに寝泊りしているからだった


迎賓館の寝室は過剰に装飾されていて今度は内部のシンプルな装飾と隔たりがあった

フロメルの傭兵団幹部が三人で泊まっている宿の部屋と同じ大きさのベッドが

用意されていた

「普段やってこない王族がわざわざやって来るから急いで装飾を取り付けたと言った所かしらね」


その大きなベッドにレスビカとソシェが居た

ソシェは裸になってうつ伏せになったレスビカの体に

馬乗りになって入念にマッサージをしている


「お嬢様、それよりもあれはなんですか?勝負ですって?

お嬢様の戦場は海のはず、丘での戦いなど遠方からの見学で十分でしょう

それをわざわざあんなゲームまで持ち出して、、、」


言いながらソシェの腕に力が入る


「んっ、ソシェ、あ~そこ気持ちいい、、、

遠方で見学するだけならわざわざこんな所まで来る必要ないでしょ

まあ、ある程度気を使われるのは想定していたけど

まさか勝負をしようと来るとはね

ついあれで勝負したくなっちゃった

傭兵風情って思っていたけどなかなかどうして、、、

ソシェ、あの副団長どう思う?」


「私の話聞いていますか?、、、あの副団長相当強いですよ

率直に申し上げますとあの場に居た誰よりも強い

といいますかおそらく王国の中で一番強いかもしれません

もしかしたら大陸で一番強いかも」


ソシェ、彼女はレスビカ王女の専属メイド、兼ボディガードだった

彼女の過去の事をレスビカは知らない

だがそんな事はレスビカにとって重要ではなく

彼女が重視したのはソシェの容姿だった


レスビカが彼女に初めて会ったのは王国領土、北に位置する街

ソプラ・ヴィラージョに父と一緒に視察しに行った時だ

その街の領主のメイドの一人として彼女は働いていた

聞けば人身売買で手に入れたと言うのでその領主に

父が延々と道徳について語っている間に

レスビカはずっとソシェを見ていた

黒い髪に眠たそうに垂れた瞳

頬から鼻のあたりにそばかすが浮いており

こじんまりとまとまった体型がレスビカの好みだったのだ

父と領主の会話に割って入りレスビカはこの子がほしいと言った

結果として彼女は王族のメイドとして申し分ない能力を持っていたのだが

それはあくまで雇った後に分かった事だ

「そんなに?私も雰囲気の違いは感じ取ったけど、そこまでとは思わないわ

まあ単純な命の取り合いならともかくあの勝負なら私は負けたことないし

なんとかなるんじゃない?

最悪負けたとしても約束は反故にしたらいいのよ」 


「王族が約束を破れば名誉にかかわります、、、更に申し上げれば次に強いのは突撃隊長、その後にお嬢様、私、そして最後にアブラモ卿」


「あの突撃隊長が?なんかあいつ怪しいのよね、殺人者の独特の空気を感じないと言うか

、、、あれ、そうなるとあの団長は領主より弱いって事?」


「正直言ってわかりません、あの男の力量だけはまるで見えませんでした」


「ふーん、まあいいわ、明日の事は明日考えましょ、ソシェ、寝るわよ」

言われてソシェはレスビカから降りて彼女の隣に寄り添い布団をかぶった


「ありがとう、ソシェ、あなたのおかげで長旅の疲れはどこかへ消えて行ったわ

ゆっくり休んで、そして明日を楽しみましょう」


そう言ってレスビカは目を瞑った

ソシェは彼女が完全に寝付くのを確認して

ベッドから降り、音もなくどこかへ出かけた


―――?????―――

夜の暗闇の中で人影があった


「王女はレストランで会食後、迎賓館で眠っています

明日は傭兵団幹部と行動を共にする予定

明後日以降の予定は未定です」


「よくやった、今後も王女の動向の調査を頼む」


暗闇の中、人影は闇に溶けていった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ