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最強傭兵団でこの先生きのこるには  作者: 蛇色の海
フローデ・・・イタリア語で詐欺
12/27

傭兵団幹部緊急対策会議

俺は副団長の報告を聞いてセイジョルニの街外れにある畑へと馬を走らせる

傭兵団に入団してから一ヶ月、すっかり乗馬にも慣れた

入団したから空いた時間にみっちりと教え込んでもらったおかげだ

それにもかかわらず、今でも師匠には乗馬においてはとても敵わない 65535なのに、、、

なんだってベルはあんなにも馬術に優れているのか


しばらくすると畑が見えてくる

そして大勢の領民とその領民に囲まれた我が傭兵団の団長の姿も見えた

団長は真っ赤になったトマトを山のように収穫していた


「おお!エリオ君!見てよ!トマトがこんなに真っ赤になったよ!」

満面の笑みで話かけてくる団長にすごいですねと答え、急ぎ本題に移る

団長のペースに任せるとどんどん話が脱線していってしまうからな


「団長、緊急会議を開きます。すぐに陣営地に戻る必要があります」


「ええ?まだこんなにたくさんトマトがあるのに?もう少し後じゃダメなのかよ?」


「駄目です。今すぐでお願いします」


これ以上ないほど残念そうな顔の団長を無理やり馬の背に乗せる


「団長さん、トマト持ってってくんしゃい。きっとみんなお腹減ってるっけね」


団長は籠いっぱいのトマトを三つも四つも受け取っている

これ以上持てなくなる前にすぐに出発しないと


「あんちゃん、あんたも、いい男だね~

よかったらうちの孫もらってくんねかね?


声をかけてきた老婆の傍らにはちょこんと可愛らしい女の子がいた


「すいませんまだそういうのは考えていません

急いでいますのでこれで」


俺はそっけなく受け答えをした

冷たいようだが急いでいるのは本当だ


また来てねーと言う大声援を背に受けながら俺は陣営地へと駈け出した


「ごめんよー!!また来るからよ!今度はトウモロコシ作ろう!後かぼちゃ!それと」


言い終える前に農民達からは距離が開いた

トマトを口にしながら団長が話かけてきた


「いやー畑仕事楽しいよ!エリオ君!

俺もう農家に転職するよ!傭兵団は君にまかせた!」


「バカな事、言わないでください団長 

コリナポルタ城の王女様が傭兵団の視察に来ます

今から対策を練らないと」


「視察~?じゃあその日は現場での仕事をやめてみんなでBBQでもしようよ

それでちょっとチャンバラでも見せておけば満足して帰っていくだろうよ!」


「団長、王女の事知らないんですか?王国始まって以来の武闘派だって話ですよ

そんなのがわざわざこんな東の果てまでやって来るんですよ?

絶対に仕事が見たいって言いますね。下手したら私も戦うなんて言い出すかもしれない」


俺たちは戦場の事を現場、戦っている振りを仕事と呼んでいた

俺たちの傭兵団の仕組みを知らない人間が聞いても不自然感じないようにする為だ

それに戦っている振りという言い方だと、どうも空気が締まらない

、、、ちなみにBBQとは野外で火を焚き、肉や野菜を焼き酒を飲む事だ、念の為


「そうなの?けどそんな武闘派に俺たちの仕事見せたらクビにされちゃうよ!

やっぱりBBQだ!攻めてこないんだから戦いようがないって言って納得してもらおう!」


うーんそれでイケるのかな?こちらから攻めようなんて言い出したらどうする?

最悪なのは王国軍が出撃する事態だ、それだけは避けなきゃあならない


「それを決める為の会議です。団長、ちょっと楽観的過ぎじゃあないですか?

なんでフロメルみたいな傭兵団を作ったのかって話になりますよ」


俺は依然、団長に何でフロメルを作ったか聞いてみた事がある

その時は酒場で飲んでいたのだが

随分話しが長引いて結局朝まで付き合う事になったんだのだが

それ以上に団長の話には引き込まれた、そしてフロメルを作った理由にも


「なんでフロメルを作ったかって、、、そりゃあ、、、

わかったよ、みんなでちゃんと話会おう

、、、だけどBBQもやるよ!

別にふざけてる訳じゃあないぜ

せっかく遠くから来てくれるんだ、セイジョルニ産の新鮮野菜と肉で

盛大に一行を歓迎してあげよう!」

まあ肉を食うってアイディアは悪くないと思い、そうですねと俺は答えた

陣営地に帰ったらBBQの準備も進めないといけないと考えながら

俺は馬を陣営地へ走らせた



―――フロメル陣営地 レスビカ王女対策会議 会場 大衆酒場 ボッテ


陣営地の中でも一際大きな施設、猫の尻尾亭

屋根に当たる部分のみ大きく幕が張られている

建物に存在するであろう壁は完全に取っ払われ

奥にカウンターがあり、その正面が一応の入口となっている

カウンターの後ろにはカーテンのように布がかかっており

そこだけ壁のように幕で覆われていて中の様子を伺う事はできない

カウンターの手前にはいくつもの酒樽が置かれ、傭兵達は酒樽をテーブル代わりに酒を飲んでいた


「ようトトリ!儲かってるかよ!はい!お土産!」

俺は大量のトマトを持った団長を伴ってボッテにやってきた

トトリと呼ばれた割烹着姿の女性はこの酒場の女将さん

トラットリア・メルカンテの愛称だ


「まあぼちぼちかな、それよりこんなにたくさんのトマト、これでお金を取ったらみんなに悪いわね。ロラン!店から気持ちだって言ってお客さんに出してやって

ユーリ達はいつもの場所ね

みんな待ってるわよ」


ボッテのカウンターの後ろのカーテンのような幕を捲ると

更に幕がある

その幕を捲ると今度は木でできた壁が現れる

だがその壁は引き戸になっていて

その先がやっと我らフロメル・アルメル幹部が利用する会議室となっているのだ


「お!エリオじゃねーか!今日はカードに付き合ってくれてありがとよ!ほれ!俺のおごりだ!飲め飲め!」


カウンターの奥へ向かおうとする所でトマトを切り分けながらロランが酒を勧めてきた

俺は丁寧に断って切り分けられたトマトだけもらってカウンターの奥へと向かった

それにしてもロランは日中仕事して夜はここでバイトして、ずいぶんと働き物だ

よほど金が必要なのだろうか


奥の会議室へ向かうとそこには大きな円卓があり

その周りに並べられた席にはすでにフロメルの副団長と騎兵長、

更にはアリアート・メルチェナーリョの団長と副団長、

そして突撃隊長も待っていた。 

、、、待っていたと言うよりは宴会のようだった

ぎゃーぎゃーと騒ぐフロメル騎兵長ベルとアルメル突撃隊長チカチーロ

ぎゃはははと笑いながらジョッキを飲み干すアルメルの団長ジュリィ・アートフィシオ

そんな中

注がれた飲み物に一切手を付けず、無表情でこちらを見据えるアルメルの副団長

ルチオ・ズルツェンバハー

同じく注がれた飲み物に手を付けずに遅かったわねと声をかけてきたフロメル副団長キーリ・アストージア


「遅れたようですみません、これ、セイジョルニの畑で採れたトマトです。よかったらみなさん食べてください」

俺は切り分けられたトマトをみんなに配り席に着いた

そして最後にフロメルの団長ユーリ・アートフィシオがやってきた


「よ!おまたせ!」

軽いノリで一番奥の席に座り、いつの間に用意したのか片手に持った

ジョッキの中身を一気に飲み込む

その様子を見て、思わず俺は意見してしまう


「あの、緊急の会議だって、みんなで集まって、そこで団長二人が飲み始めているって

おかしくないですか?もう少し真剣さが必要っていうか、酒を飲んでいてまともに会議できるのかって言うか」


俺の一言が聞いたのか真面目な顔でアルメルの団長が話しかけてきた


「お前、フロメルの新人突撃隊長だろ?チカから良く話を聞いているよ

、、、確かにこういう場で飲んでいるは良くないな、、、お前の言うとおりだ、、、

ルチオおかわり!3本まとめて持ってきてもらって!!ぎゃはは!」


―――アリアート・メルチェナーリョ団長、ジュリィ・アートフィシオ

通称、傭兵巨人のジュリィ、その名の如く身長は2mを越え、肌は緑がかり頭には毛髪がなかった

そしてフロメル団長の異父兄弟でもある

、、、団長の口から直接聞くまでは信じられなかった


「団長、私はエリオ君の言う事に賛成です。今回の件、展開によっては新しい雇い主を探さないといけないかもしれません、、、なので1杯だけもらってきます

それで我慢してください」

アリアート・メルチェナーリョ 副団長兼同参謀 ルチオ・ズルツェンバハー

紫がかった短めの癖のある黒髪、分厚いメガネに尖った耳、そして華奢な体

傭兵団の副団長とは思えない見た目の彼女は今この騒がしい場に置いて

まともな思考ができる貴重な人物の一人だった


「別に何杯飲んでもらっても構わないわよ

いつものように私とルチオで話会えばいい

決まった事を後でみんなに伝えるから」


「副団長!!それじゃあ示しがつきませんよぉ!?副団長もここは一杯飲まないとぉ!」


我らフロメルの副団長、キーリ・アストージアはすでに団長達は無視して話を勧めようとしている

そしてそんな副団長に絡む恐れ知らずの酔っ払いは騎兵長ベルナデッタ、、、あれ?今はベルナディータだったか?もしかしたらベルベルべだったかもしれない

恐らく酒を勧められて断れなかったんだろう

放っておこう、その内静かになる


そんな事を考えているとアルメルの突撃隊長が後ろから抱きついてきた


「会いたかったよ!エリオ!ね、ね!チカチーとの約束覚えてる?一ヶ月規則違反しなかったらチューしてくれるって約束!あと三日だよ!チカチーは物覚えがいいんだよ!」


「はああ?あんたそんな約束してたの!?こんな幼い子供を捕まえてこの腐れロリコンバカエリオ!お前も飲め!騎兵長の命令だぁ!」


いくら副団長達が取り繕っても、もはや会議どころではない、あちこちが大騒ぎでもうどうにでもなれと俺が思ったその時


ダンッッ!!


フロメルの団長がジョッキの底で円卓を叩いた、

あたりの目が団長に集まった所で静かに口を開いた

「お前ら静かに!あ、もう静かになってるな

まあ、なんだ!飲んでしまったのは仕方がない

だけどせめて会議だけはちゃんと最後までやろう、、、

今日の議題はコリナポルタ王の娘が傭兵団の視察にやって来る事について!

キーリ!司会進行!ルチオ!書記!頼んだ!」


団長が声を出すとその内容に各々が反応を示す。

羊皮紙と羽ペンを取り出しながら、口を開いたのはアルメル副団長ルチオだった


「娘と言えばレスビカ王女の事ですね

コリナポルタ王国史上、最も勇敢な王女だと、聞いています

最近西の大海賊、刺青頭のハリー・アダムズを生け捕りにしたとか」


思わず息をのんだ

ルチオさんは一体どこからその情報を手に入れたのか

華奢な体と侮る事ができない、俺は彼女の評価を改めた

「すごいですね、バレナオンダにいながらそんな情報まですでに手にいれたんですか」


「いいえ、さっきキーリに聞いたの」


ああ、、、なんだ、、、うん、それなら知ってるよね、うん


団長が再び口を開く

「そのレスビカ王女が視察に来るにあたってどういった準備が必要か!

皆に意見を聞きたい!俺はBBQをしようと思う!酒と肉と野菜で!」


チカチーが元気よく賛成だよ!っと団長に同調する

おかしな方向へ向く前に大事な事だけでも話し合う必要がある

俺は発言するべく立ち上がった


「俺の考えを述べます。おそらく今のままでは王女は我ら傭兵団の正体を見破るでしょう

そうなれば今までみなさんが作り上げた仕組みが水泡に帰す事になります

そうならないためには一人一人の練度の底上げ、よりリアリティのある戦場の演出が必要だと思います」


まずは無難な意見で皆の発言を促していく

早速ベルから声があがった


「やめよう!戦闘は!悲しみの連鎖だ!だから接待だけして帰ってもらおう!!」


ベルは言うだけ言ってコテンとテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた


横からチカチーが意見する


「そんなめんどーなことやめてさ、来る前にやっちゃおーよ

寝込みを襲えば一発じゃない( ゜3゜)ノ ?」


物騒な意見に反論するはアルメル団長ジュリィ

「チカ、そりゃあ大事件になるぞ、いくらなんでも危ないなぁ、、、

やっちまうか!!ぎゃははは!!」


どうにもアルメルの人達は物騒な考えを持った人が多い気がする

しかもそれは一般の傭兵にまで影響を与えている印象がある

そんな中でまともな発想ができるルチオさんがぴしゃりと言い放つ


「絶対に止めるべきです

下手をすれば大陸全土を巻き込んだ戦争になります

、、、まず優先するは戦場を見られない事

それがうまくいかなかった場合の戦場での戦いをどう偽装するか

またそれらがすべて失敗した時の新たな雇い主を探し出す準備

と言った所でしょうか」


さすがアルメル副団長兼同参謀ルチオさんだ

端的に話をまとめながら自分の意見を入れてきた

問題はその為に何をするか

ここでキーリ副団長が口を開いた


「私もそれでいいと思う、ただ新たな雇い主を探すには時間がなさすぎると思うわ

ただ遠方へまで視察に来て戦場を見ないって事はないでしょうね

それならできるだけ離れて見てもらうのがいい

そうした状況への持っていく方法を考えるのは私とルチオ、エリオ君はベルと一緒に団員の訓練、

もしも戦闘を見られても怪しまれないようないい方法を考える

、、、と言うのはどうかしら?」


キーリ副団長は何か異論は?と全体に声をかけた

それに2杯目のジョッキが空になりそうなユーリ団長が反応する

「あれ?俺と兄貴とチカチーは何したらいいのよ?」


「ユーリ団長はいつも通りでいい。ジュリィ団長とチカチーロは、、、

どうしましょうか」


「それだったら二人には前線に出てもらったらいいと思います

あの二人の派手な戦い方は目を引く

手練れが相手をすれば、迫力のある戦場になる」


「なるほど、いいわね」


キーリ副団長から褒めてもらって俺は上機嫌だ

だけど団長はいつも通りって、、、


「いつも通りって何もしなくていいって事?やった!トマト取りに行こう!

エリオ君も一緒に行こうよ!あ!忙しいからダメか!はっはっは!」


言いながら食べやすいように切り分けられたトマトに食らいつく団長

それよりいつも通りが何もしないってどういう事だ

キーリ副団長は甘やかしすぎじゃあないだろうか

団長は口の周りまでトマトで紅く染まりそうな勢いでばくばくと食べ続けている


「待てよ、、、トマトか、、、」

俺はある事を思いついた、それがうまくいくかどうかは別問題だが

何もしないよりはましだろう


「大体話しはまとまったわね、明日、また会議したいけど

、、、いいわ、私とルチオで話しは進めるから

後の人達は各自、王女の視察に備えて準備を勧めて」


終始がやがやとしながらも、とりあえずやる事は決まった

だが俺の相方は幸せそうな寝顔ですぴーすぴーと寝息を立てている

果たしてこの傭兵団がこの先生きのこるには

どうするのがベストなんだろうか






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