高校生活で夢中になる三つのBは本当に存在するのか
今はもう古いのかも知れないが、高校生には3Bなるものがある――あった。
高校生活で夢中になる3つのBのことだが、今時の高校生でこれを知っている人がいるのか疑問だ。
私もその今時の高校生だが。
そんな3Bの中身、3つBは部活、バンド、バイトである。
残念ながら前半二つに関しては手を出していないので、夢中になる気持ちが些か理解出来ない。
ただし、最後のバイトをしているからと言って、夢中になっているのかと問われれば否。
ひたすらにお金のために働くのみである。
そんな3Bに大して何の思いも抱かない、花の女子高校生たる私は、コンビニでレジを打つのであった。
学校が近くにあるコンビニと言うのは、学生が多く、その時間帯にお客が集中するので、その時間さえ慣れてしまえばなんてことはない。
後は普通に仕事を覚えるだけである。
学生が集中する時間は朝の登校の時間と放課後、更には部活終了くらいの時間だ。
朝の登校の時間に関しては、私には関係の無い話だが、放課後と部活終了時間は関係大あり。
別に自分の学校の近くのコンビニではないので、特別沢山の知り合いに会うことはなく、見慣れた学生が多いなぁ、くらいだが。
ただ一つ、言わせてもらえるならば、何故運動部と言う奴は団体行動なのか。
大勢で店にやって来て、大勢で商品を見て回り、大勢で会計をする。
その団体を見る度に何と言うか、気分が沈むと言うか、面倒臭いと思ってしまうのだ。
早く帰りたいなぁ、なんて思いながら、彼らの買うホットスナックを取り出し、パンやら飲み物やらを打ち、レジ袋に詰める。
最初こそ、レジ袋のサイズと商品の量が合わなかったこともあったが、慣れたものだ。
「お姉さん、いつもこの時間にいるっスよね」
ガサゴソとレジ袋を広げて商品を詰めていると、目の前からそんな言葉が飛んでくる。
上げた視線の先には近所の高校の制服を着た男の子が立っていて、大きなエナメルバッグを方に引っ掛けていた。
その手にはお財布がしっかりと握られていて、小銭の入ったところを開いている。
お姉さん、とは私のことだろうか。
彼が高校生だと言うのは分かるが、その学年までは知り得ない私だが、同じ高校生、そこまで年の差があるとは思えない。
……いや、思える思えないではなく、そんな年の差があるはずないのだ。
「えぇっと、私?」
ペットボトルを袋に入れる途中で止めた手を動かしながら、緩く首を傾ければ、そう、と返ってくる。
やはり私のことをお姉さんと呼んだのか。
鈍い私の反応を見続けるのが嫌になったのか、目の前の彼は「いつもこの時間なんスか」なんて聞いてくる。
普段レジに立っていても、品物のチェックをしていても、ここまで声を掛けられることはなかった。
マニュアルにはないそれに、うーんと一人心中にて唸り声を上げる。
そうですねぇ、と頷きレジ袋の持ち手をまとめて差し出せば、彼が代わりにお金を出す。
「いつもこの時間にいるから、そうなのかなって思ってたんスよね。ぼんやり俺らのこと見てるから、学生時代懐かしんでるのかな、とか」
小銭を数えながら言う彼は、言い切ったのとほぼ同時に数え終えたらしい小銭を置く。
彼は完全に私を年上に見ており、なおかつ高校生ではないと判断したようだ。
これで同じ学校だったりすれば、こんな風に間違えられないのだろうか、と内心溜息を吐きながらお金を受け取る。
金額を数えてレジに打ち込み、お釣りを取り出す私を、彼はじっと見詰めていた。
お釣りの金額を告げながら、レシートとまとめて小銭を差し出せば、何故か彼が私の手を掴んで離さない。
お釣りを受け取ったならとっとと捌けてくれ、じゃないとレジが混む。
「あの……」
「だから、今度良かったら試合とか見に来ませんか?てか見に来て下さい」
口を開きかけた私の声に、被せるように彼が言葉を発して、これ試合の日程表です、なんて小さく折り畳んだ紙を押し付けられる。
まじか、まじか。
空いた口が塞がらない状態の私に、それじゃあ、なんて体育会系運動部系らしく、爽やかに笑顔で頭を下げて行く彼。
まじか、まじか。
チームメイトらしい他の子に、口笛を吹かれたり、やったじゃねぇか、なんて言葉と共に背中を叩かれる彼は、コンビニの自動ドアを潜って出て行く。
次のお客さんである、運動部らしい他の学生も、何やら口元が緩んでいる。
更には隣のレジで接客をしていた先輩も、生暖かい微笑ましそうな視線を向けてくるので、兎に角居心地が悪かった。
3Bを謳歌する人間というのは、あんなにも大胆なことを出来るのか。
仕事終わりに手渡された紙を開いて見下ろせば、先輩がケタケタと笑いながら私の肩を叩いたので、本気でムカついたのは言うまでもないだろう。
バイト先、変えようかなぁ、なんて思いながらも後日、わざとらしく制服で試合を見に行った時に、彼が真っ赤になって真っ青になって、と色んな顔をするのを見て、もう少しだけあの場所でバイトを続けることが決まった。