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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
赤く染まる雪の園で希望を祈らせてください
64/65

青森事変、開幕


 石蕗の訃報が報せられた翌日、矢島と片岡と花恋は訓練後に空き教室で集まった。

 彼等はそこで石蕗の正確な死亡を知り、又石蕗が死の間際に残した情報を整理していた。

 ミーナは石蕗の死がショックらしく、部屋に篭っている。花恋が部屋を尋ねると「明日には直しますわ」と返したらしい。

 

「結論からいいますと、襲撃したアジトに首謀者はおりませんでした

 また、どうやら青森だけでもあと二つ似たような拠点がある事も判明しました」

 

 淡々と花恋が報告を連ねていく。石蕗とは付き合いも長いためその悲嘆は大きい筈なのだが、それを隠して彼女は冷静を努めている。

 

「その残り二つの拠点はどうするんだ?」

 

「明日、別の部隊が攻め込む予定です」

 

「今わかってる事だけでも教えてくれないかな?」

 

「かしこまりました。まず襲撃したアジトは引き払った後のようでした」

 

「つまりこっちの動きを予想していてあらかじめ引き揚げたのか、くそっ」

 

「そうでしょうね。そしておそらく我々を罠に嵌めるためあえて情報を流して引き寄せた可能性もあります」

 

「何があったの? そこで」

 

「奇獣がおりました。それもかつてのゴルゴンのような、人の身体がへばりついた小型奇獣がです。石蕗は奇獣との戦闘で戦死しました」

 

「……そう」

 

 これで人体の貼り付いたゴルゴンは、自然的な、あるいは新種の特性とかではなく、人為的なものであることがハッキリしたわけだ。

 もしかしたらあれは彼等の実験であるのかもしれない。

 とにかくメモ以外で確固とした証拠を得られたのは僥倖というべきか。

 

「他には何かあった?」

 

「いえ」

 

 彼女は首を横に振った。

 

「明日の襲撃で何かわかるのを期待するしかねえか」

 

「そうだね、でも……多分何も見つからないと思う」

 

「私も同意見です。あっても彼等が新たな計画を練る時間を稼ぐためのダミーの可能性が高いでしょう」

 

「俺達にはなんもできねぇのかよ」

 

「僕はもう一度手記を調べ直してみるよ」

 

 例の手記はロードナイト家の科学捜査班に預けてあるが、矢島は渡す直前に全ページを写真に収めていた。

 今までも、何度か精査したのだが、これと言って成果は上げられなかった。

 

「そうですね、それで少しでも同士の正体がわかれば」

 

「同士……か、こいつが全ての元凶なんだよな」

 

「うん、こいつがおそらく組織の幹部クラスだと思う。森田を利用して街で失踪事件を起こしたり、ゴルゴンに人を貼りつけたり……木野さんの事件にも関わってる」

 

「木野か」

 

 思えば、木野の事件が全ての始まりだったように思える。

 突然失踪した木野美代は、奇獣の姿に変えられてしまい死亡した。

 そして遠野が士官学校を去り、程なく彼も死亡(これに同士が関わっているかは不明)。

 2年目の冬、実戦演習にて人が貼り付いたゴルゴンと応戦、これを撃退するも、当時の委員長が小型奇獣に襲われ死亡する。直後、彼の恋人が後追い自殺した。

 3年目、突如士官学校の教師である森田が乱心して矢島の妹を誘拐、その際傍にいた熊木を撃ち町外れの畑に逃亡、士官学校生に囲まれる中、頭を狙撃され死亡。

 熊木は記憶を失って現在は入院中。

 

 こうして羅列してみると散々な3年間だった。歴代でも屈指の死亡率だと誰かが言っていたが、確かにこれは頷ける。

 

「とにかく卒業式まであと僅かだ。僕達が自由に調べられるのはそれがリミットだから、頑張ろう」

 

 矢島の言葉を受けて花蓮と片岡が首肯する。

 卒業式まで一週間もなかった。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 矢島は焦っていた。ついに卒業式の日を迎えたからだ。

 残念ながらあれから新たに得た情報は皆無に等しく、襲撃したアジトからは何も見つからなかった。

 

 メモを解読しても新しい情報なんてでない、むしろ不快感しか湧き上がってこない、そんなこんなで最悪の気分のまま彼等は卒業式の日を迎える。

 

「眠そうだな矢島」

 

「まあね」

 

 隣に立っている片岡から気遣いの言葉が投げかけられる。

 何も得られないままタイムリミットをむかえたのだ、最早諦観と絶望で眠れる筈もなかった。

 

 現在、矢島達は講堂にて士官学校の校長による有難くない演説を聞かされている。この後は卒業証書と階級章を授与されて解散となる。

 

(ふわぁ、眠い。結局なにもわからずじまいか……ごめん委員長、それに木野さん、仇はまだ取れそうにないや)

 

 はぁと矢島の口からため息が零れた。

 

(そもそも手記自体が不可解なんだよね、後半から性格が変わったように荒いものになったしまるで別人のよう……)

 

 そこまで考えた時、不意に、そう不意に頭の中がクリアになって覚醒していくのを感じた。思考力が冴え渡り眠気がとれていく。

 これまで以上の思考速度を得て矢島の脳内はアドレナリンが放出されてるかのようにフル回転する。

 

(もし本当に別人なら筆跡はどうする? あれは完全に同じものだ。森田が筆跡を真似ていたとか? いや必要性を感じない、ならば何故?

 そうだ代筆だ、つまり最初の頃は別人の手記を森田が代筆していたんだ。なんために? 決まってる罪を擦り付けるためだ。

 あの手記を警察に渡して操作を森田に集中させるためだったんだろう。手記を僕が奪ったからそれは失敗したのだけど)

 

 その時ようやく校長の話が終わり、講堂内にホッと一安心するような、解放されたかのような空気が蔓延した。

 そんな空気の中、校長が舞台袖に下がり、代わりに蒼本が登壇する。それはプログラムに無い出来事だった。

 

(前半は同士の言葉だとすると、そこに出てくる同士という単語は森田だろうか? いくつかはそうだろうけど、おそらくは複数人だと思う。

 そもそも木野さんの時森田は一日中学校にいたからアリバイがある。手記と矛盾してるから、どこかで抜け出したのだろうと思っていたのだが、そもそも別人なら辻褄は簡単に合う。

 まてよ、木野さんは曲がりなりにも士官学校生だ、訓練された彼女がそう簡単に倉庫に連れていかれるだろうか……いやあの時の彼女は消沈していたらしいから可能性もなくはないのか……ん? なんで消沈したって僕が知ってるんだ? 誰に聞いた?

 確かそれは……蒼本から聞いたんだったか……そうだ! あの日は木野さんと蒼本のデートだ! デートの直後にあの事件が起き……て……)

 

 矢島の思考とは関係なく、プログラムに無い登場を果たした蒼本はマイクのスイッチを入れた。


「突然予定にないことをしてすみません、ですが私はどうしてもこの子達にお祝いの言葉を告げたかった」

 

 その言葉で、蒼本を引き摺り下ろそうと壇上に上がった他教官達は、固まった筋肉を解して隅に寄ることにした。彼の祝福したいという思いに応えようとしてのことだろう。

 

(いくらなんでも出来すぎてないか? もし手記の通りに蒼本が行動したとしたらどうする? なにもおかしくない、彼は木野さんと別れた後ネットカフェにいたらしいが、証拠なんてない。

 そうだ、つまり彼は……木野を強姦した後、学校に戻り、そこから経過を観察したとしたら……なんで、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ!)

 

「皆さん、ご卒業おめでとうございます。実はかくいう私も本日を持って教官職を卒業する事になりました」

 

 ザワザワと講堂が騒がしくなる。誰も知らなかったのだから仕方ない、そう誰も、他の教官達でさえも。

 そして矢島が蒼本を見据えたのもその時だった。

 シンパシーでも通じあったのか、蒼本は矢島と視線を合わせて満面の笑みを浮かべる。その笑顔はとても魅力的で、女生徒ならそれだけで昇天しそうな程であった。

 

「……フフ、矢島君……君が何を考えているかわかるよ、だからこう答えよう……イグッッザクトリィィィィ!!!」

 

「蒼本ぉぉぉぉぉ!!」

 

 ガタッと椅子を蹴飛ばして立ちあがる矢島。その勢いのまま走り出そうとするが、傍にいた片岡と若宮が取り押さえて鎮めようとする。

 

「おい! どうした!?」

 

「大人しくするんだ矢島!」

 

「離せ! 離してくれ! こいつがっ……こいつが同士だああああ」

 

 瞬間二人の拘束が緩まり、その隙をついて矢島が蒼本の元へ駆ける。

 その様子を実に愉快そうに眺めながら、蒼本は着ている白衣の中からおもむろにガスマスクを取り出して顔に付ける。

 

「推しかったねぇ矢島君、運が良ければまた会おう」

 

 そのくぐもった言葉が終わるや否や、講堂内にガスが吹き込まれ、程なく充満していった。

 そのガスを吸った生徒や教官達は立つ力を失ってバタリ、バタリと次々倒れていく。

 

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