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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
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トゥルゲン山地攻略戦~伍〜(香澄編)


トゥルゲン山地中央部、ドラゴンの巣前。

そろそろ日付けが変わろうとする時間帯、巣の入口からいちキロメートル離れた地点で多脚式戦車のペイン・パラダンヌと国連軍の人型戦車三両の即席戦車小隊が待機している。


「そろそろ作戦開始時刻だよ」


パラダンヌのコックピットで、前の座席に座る紅李あかりがポツリと呟く。


「ふふ、腕が鳴るわあ。ドラゴンちゃん、あなたの行くところは地獄よ。G! O! T! O! HELL!! 後藤地獄ゴートゥヘル!」


「無駄にリズミカルな」


モニターに表示したタイマーを見ると、作戦開始まで十秒を切っていた。次にいちキロメートル先のドラゴンの巣を映した画面を眺める。

タイマーが三、二、一と表示した直後、ドラゴンの巣から轟音と粉塵が舞い上がった。


工兵部隊が巣を破壊したのだ、そしてそれが作戦開始の合図だった。


「出来ればこのまま倒れてくれないかしら」


「……そうは問屋が卸さないみたいだよ」


紅李の瞳には、破壊された巣から強引に飛び上がる山が写った。


――――――――――――――――――――


三時間半程前、トゥルゲン山地南東部の駐屯地にあるジッパー陣営にて。


「まずドラゴンの現在地だが、さっき言った通りここから北西へ三十キロメートルのところにある窪地、そこの北西端にドラゴンの巣があり奴はそこで寝ているらしい」


熊木はテーブルの上に置いたタブレット(地図アプリを開示中)の画面に一本の矢印をペンでひいた。

窪地は縦に六キロメートル、横に二キロメートル、南側がやや膨らみ、北側で三叉に別かれている。

みようによっては獣の足型に見えなくもない。


「まずはこの窪地の北側、三叉の真ん中に部隊を配置する。崖の上には砲兵部隊、なだらかな坂と分岐点には履帯式戦車をまばらに配置して埋める」


簡易トーチカだ、と莉子は思った。履帯式は安定した高火力の他に装甲の厚さをいかしてトーチカ代わりにする事もできる。

人型戦車程ではなくとも、履帯式には独自の戦術が数多ある。


「それからこの地一帯に妨害電波ジャミングが張られているため超長距離通信が使えない」


「フィリピンの時と同じ状況てわけやな」


「そうだ、だから一キロメートルおきに通信を中継する車両を置く。これを守る事も必要だ。司令部は窪地の南側に、病院は三叉の右側と司令部横におく」


タブレットの地図にポンッポンッとマーカーが表示される。


「どれも間隔が近いっすね、ドラゴンを三叉から出したら終わりっすよ」


境倉の言葉は的を射ていた。そうだいくら窪地が小さいとはいえ司令部は近すぎる、もう少し離せないのか。


「言いたい事はわかる。しかしジャミングのせいで通信が遅れる事は避けたい、ゆえに素早く指揮を飛ばすために司令部を前に出す事にした。だからこそ今回の戦いは死力を尽くさねばならない」


そういう事ならと引き下がる。


「話が逸れたな、まずは巣を破壊し寝ているドラゴンを叩き起す。わざわざ起きるのを待ってやる道理は無い、それに無理矢理起こした方が誘いやすいだろう。


さて、ドラゴンを巣から引き摺り出した後、今度はドラゴンを三叉の真ん中に誘い込む。その後全火力をもってしてドラゴンを叩きのめす。


これで倒せればいいが……まあ無理だろうな、その場合は香澄莉子、君の出番だ」


「はい!」


責任は重大、腹は決めた。後はなるようになるだけだ。


――――――――――――――――――


五月十二日 零時零分


「後藤! ドラゴンが北へ逸れる!」


「お任せよ!」


パラダンヌの砲塔から百二十ミリ砲弾が発射される。ワンテンポ遅れてM.O砲戦型が次々とドラゴンに向けて砲撃を行う。


砲弾はその全てが見事に命中した。しかしドラゴンそのものはビクともせず、ただ恨めしそうにパラダンヌの方を向いた。


「GURURURURU」


引く唸った後、ドラゴンは旋回しながら降りてくる。二百メートルもの巨体がパラダンヌらを踏み潰さんとする。


「あらやだ長くて大きくて硬そう」


「言ってる暇ないよ!」


通信から「各機散開!」の声が響き即席戦車小隊は散開する。しかし向かうのは一箇所、パラダンヌは砲撃を続けながら三叉の真ん中へ移動する。

残りの三機は夜の闇に紛れて一旦その身を岩場へと隠した。


「ハイ〜ハイ〜、さあこっちよ〜あたしに一物ぶち込みたかったら気合いいれなさい!」


「何言ってるのオカマキモイ」


「紅李ちゃん最近厳しくない?」


「昔からだよ」


「あらそう」


パラダンヌは三叉の真ん中へと入る。ドラゴンは入口で着地してパラダンヌを睨んだ。


「こっちに来ない、前に出て揺さぶりをかける」


紅李はパラダンヌをドラゴンの首の射程ギリギリまで近付けて後藤に顔を砲撃させる。

ドラゴンが怯んだ隙にステルスで隠れ、ドラゴンの右側面に周って砲撃する。

ドラゴンが振り回す腕を避け、再びステルス、左側面に回って砲撃。


その後正面に周って姿を晒す。機体を左右に振って揺さぶりをかけつつ後退していく。

流石にドラゴンも挑発されて腹が立ったのかパラダンヌを追い掛けて三叉の真ん中に入り、近くの岩を食べて火球の構えをみせる。


「華麗に避けてみせるわ!」


「避けるのボクだけどね」


ドラゴンから火球が発射される、しかしそれは一つだけではなくいくつもの火球が同時に散弾として発射されたのだ。

一つの火球を噛み砕いたのだろう。


「まさかこんな芸が!? 駄目……避けきれない」


火球の散弾がパラダンヌに命中する、まずは脚の一本が破壊され続いて胴体に直撃、幸いにも命中したのは小型だったため思ったよりはダメージが少ない。

しかし衝撃で激しく揺さぶられたコックピット内のパイロットはそうでもなく、頭がシェイクされたような不快感と胸への圧迫からくる呼吸困難に耐えながら機体を動かす。

火球は十数発受けた。機体のダメージは少なくとも、脚が破壊され、直撃を受けた胴体の姿勢バランスがおかしくなっているため、これ以上の続行は不可能である。


「パラダンヌ撤退します」


近くの通信中継車へそう報告すると、ステルスで透明化してその場をゆっくり離れた。

やや遅れて砲兵部隊の隊長から返事がくる。


「了解した、後は任せろ」


直後、崖の上から十数個のサーチライトが点灯してドラゴンを照らす。おかげでドラゴンの周囲だけ昼のように明るい。


ライトで照らす意味は三つある。一つは明かりの中に置く事で闇に潜む味方部隊を隠すため。二つは純粋にドラゴンの動きをわかりやすくするため。三つ目は闇に慣れた目を一時的に潰して怯ませた後、その隙を狙って最大火力を叩き込むため。


そして砲兵部隊の放った榴弾がドラゴンに降り注ぐ、ドラゴンの正面からは簡易トーチカと化した履帯式戦車からの絶え間ない砲撃。

左右からは砲兵部隊からの榴弾砲や迫撃砲の猛襲。中にはRPGを撃つものもいる。

後ろからは人型戦車の砲撃と射撃、こちらは主にドラゴンの足と翼を狙っている。


その間にパラダンヌは崖に沿って移動してドラゴンの後方に出る。時折味方部隊の流れ弾に被弾しかけて冷や汗がでた。


鼓膜が破れそうな程――実際防音してなかったらとっくに鼓膜が破れていた――の爆発は十数分に渡り、そして。


「GAAAAAAAA」


ドラゴンは怒りの咆哮を上げた。その身体にダメージらしいものは見受けられない。しいていうなら片方の翼が折れて使い物になってないことくらいだ。


――――――――――――――――――――


司令部トレーラー横の整備テントにて。

香澄莉子は戦闘の一部始終をカドモスのコックピットで見ていた。

そこに熊木から通信が入る。


「戦闘は見ていたな、発進しろ」


「はい」


スイッチを切り替え、モーターを回してカドモスの全身に電力をゆき巡らせる。カドモスに使われた奇獣の筋肉が弛緩していく。


いつも通り左腰に大太刀を提げ、折り畳んだアサルトライフルを背中に付ける。プラス新たな武装を右手に掴む。


「それが起動出来る時間は覚えているな?」


源緑に新武器に関して問われる。


「はい、六秒です」


その武器は膨大な電力を消費するため起動時間が極端に短い。しかしその威力は保証できる。これならどれだけ皮膚が厚くても切り裂ける。


その武器の名は戦車用熱光学大太刀。わかりやすく説明すると人型戦車専用の巨大なレーザーブレイドである。


見た目は長い柄に一本棒が刺さっているようなもの。


莉子はレーザーブレイドの握り具合を確認した後、ゆっくり整備テントを出る。それまで聞こえていた砲撃音がより鮮明に聞こえてきた。


至近距離まで近付いたら鼓膜が破れる恐れがあるため自動防音をONにしておく。

ゆっくり息を吸って……吐く。


「では、行きます!」


夜の闇の中を漆黒の機体が駆け抜ける。

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