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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
38/65

ウランバートル防衛戦〜弐〜 (山岡編)


五月十一日 二十時五分

ウランバートルを北西へ約二百八十キロの所にあるブルガンという街の上空五百メートル。


下から見上げても容易に目視できる高度を、四機のモンゴル国軍の戦闘機が編隊飛行している。


隊列はフィンガー・フォー、親指を除いた四本指の並びに似た編隊である。


先頭を飛ぶ隊長機、フィフス1というコードネームを持つ男は後方を飛ぶ部下達に通信を飛ばす。


「後五分弱で接敵する。各機戦闘用意はいいか?」


「フィフス2準備OK、オーバー」


「フィフス3同じく準備OK、オーバー」


「フィフス4準備OK、オーバー」


「よろしい、なら」


「ねえ、今どんな気持ち?」


それは突然だった。


「ん? 誰だ今ふざけた事を言ったのは」


「ねえ、今どんな気持ち?」


「だから誰……ひぃっ!」


フィフス1がふと右の足踏桿の奥、燃料タンク加圧計の下から童子わらしの顔がこちらを覗き込んでいた。


オカッパ頭で拳程の大きさの顔がニコニコとしながらこちらを覗いている。


「ねえ、今どんな気持ち?」


「何だこいつは! 何処から入った!?」


童子わらしには手足が無く、ただ肌色の胴体があるだけだった。


童子はゆっくりフィフス1の体をよじ登る。その動きには脊椎動物の動きは感じられず、まるでナメクジのようだ。


「や、やめろ! くるな! 化物!!」


「ねえ、今どんな気持ち?」


フィフス1の機体が右に左に揺れる。


「隊長! どうしました!」


「あ、ああああああああああガボボボボ」


童子はフィフス1の顔の辺りまでくると、その口を強引にこじ開けて体内に入り、直接体内を食い破り荒し回った。

そして、腹を破り真っ赤な血で全身を濡らした童子が飛び出す。

髪に内蔵の一部が引っかかっている。


既に機体は墜落している。童子はニコニコ顔で、今しがた出てきたフィフス1の腹に頭を突っ込んで血を啜っている。

機体が地面に激突して爆発した。


フィフス1が墜落するところを見ていたフィフス2は、ふと足下に違和感をおぼえた。

見ると。


「ねえ、今どんな気持ち?」


童子の顔がそこにあった。


――――――――――――――――――


同時刻 ブルガン市より南西へ七十キロメートル進んだ所に、今は廃墟となったモゴッドという町がある。


「あ〜、戦闘機全滅しちゃった。あの子供ハッチャケ過ぎ、これじゃ後続も時間の問題ね」


崩れかけた廃屋の屋根に立ち、指で双眼鏡の形を作って北東の空を見つめている女性が言った。


「それはそれは、赤ちゃんはどんな感じなんだい?」


廃屋近くにある木の根本に座り込んで、本を読む中年の男性が問う。


「気持ち良さそうにお空を飛んでるわよ、全くこっちの気も知らないで」


「はっは、いいじゃないか子供は元気が一番だよ」


「でもでも〜、あいつら私達の言う事全然聞かないからチョームカつく」


女性は芳醇なヒップを強調するように、くびれたウエストを左右にクネクネと振る。


「まっ、だからこうやって静観するんだけどね」


「私達もウランバートルに行きましょーよ、遠くから見るだけなんてつまんない! 私もどさくさに紛れて殺戮したい!」


「駄目だよ、あの街には彼がいる。もし見つかったら君は生きて帰ってこれない」


「彼って、あんたがよく言ってる十字仮面のやつでしょ? そんなに強いの? 厨二病全開の見た目なのに」


「強いよ、とっても強い。私が知る限り彼、山岡泰知は最凶の奇人だ」


「ふ〜ん、それって元教え子ゆえの贔屓目?」


「さあ? どうかな? こんな話してたら会いたくなってきたな、後で会いに行ってみようかな」


「見つかったら殺されるんじゃないの?」


「それは君の場合だ。私なら大丈夫」


「ぶー、何かズッコイ」


頬をプクーと膨らませる女性、その仕草はやけに子供っぽく実年齢より幼く見える。


「ところで、そろそろ足場崩れるよ」


「へ? わわわ!」


突如女性が足場にしていた廃屋の屋根が崩れ落ちた。合わせて女性も間抜けな声を上げながらホコリまみれの屋内に落下してしまった。


――――――――――――――――――――


更に一時間後。

ウランバートル南西部、山岡が入院している病院の病室にて。


「行くのか?」


エッツェルが着替え中の山岡に尋ねる。エッツェルは目を逸らしたり部屋の外で待つ等の気遣いは示さない。同様に山岡もエッツェルに見られていようが気にしない。


「うん」


いつものビジネススーツの袖に腕を通しながら答える。


「既に各地で戦闘が始まっている。この病院の連中も全員避難した」


「知ってる。ここからでも火の手が見えるから、避難しなかったのは装備の点検ができてなかったんだから仕方ないって」


「案外余裕だな」


「そうでもないさ、さっき後輩に見栄を張ったから先輩としての威厳を示さなきゃいけないし」


実は先程、香澄と会話をする機会があった。彼女は何かを迷っていたようで、その迷いを振り払えればと思い少し偉そうな事を口走ってしまった。


コンバットブーツの紐を締め、軽くジャンプして具合を確かめる。


「ドラゴンが一体防衛線を突破して中心市街に入り込んだ。おそらく広域避難場所のチンギス・ハーン広場に向かっている」


「チンギス・ハーン広場だね、わかった」


山岡はベッドに置かれたタブレットを押し付けるようにしてエッツェルに渡す。


「ここに僕の遺書が入ってる。もし僕が死んだら静流にこれを渡しておいてほしい」


「その静流が死んだらどうする? 他のジッパー社員も」


「その時はエッツェルに任せる」


バッフルコートをバサッと回しながら着込み前を止める。


「行ってくる」


「ああ、そうだ忘れていた。ドラゴンだが、ウランバートルに現れた小さい方をドラゴン・ベイビー、トゥルゲン山地にいる大きい方をドラゴン・マザーと呼称する事になった」


「……わかった」


――――――――――――――――――――


二十一時二十分。

ウランバートル中心部、政府宮殿があるチンギス・ハーン広場は避難してきた住民達でごった返していた。


その広場で偶々ドラゴン討伐を取材しに来た複数の国の報道マンが、逞しく各々の国に向けて生放送を行っている。


「現在、このチンギス・ハーン広場は広域避難所となっており、ご覧の通り多くの避難民で溢れかえっております」


日本から来た女性アナウンサーが実況を行っている。


「モンゴル国軍と警備会社がドラゴンに立ち向かっていますが……」


「Dragon ирж байна! (ドラゴンが来たぞ!)」


避難民の誰かが叫んだ。広場に緊張が走り皆が一様に空を見上げた。瞬間、ドラゴンが広場に降り立った。


その時、グチャッという音をたてて複数の人間が踏み潰された。足の隙間から腸の一部とおびただしい血液が流れる。


「Үзэн ядаж байна аа аа аа аа(いやああああああああ)」


「Надад туслаач! (助けてくれ!)」


悲鳴が上がり、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。逃げ惑う避難民を、四つん這いになったドラゴンが首を振り回してその口に人間を咥えられるだけ咥える。


咀嚼し、口から血や肉片がこぼれ落ちる。


「ドラゴンです! ドラゴンが避難所に現れて残酷にも人間を食べています!」


「GYAAAAAAAAAAAAAA」


ドラゴンが勝ち誇るように咆哮を上げる。


「最早我々は捕食されるしかないのでしょうか!? ていうか私達も早く逃げましょう!!」


アナウンサーが脇目も振らずに逃げようとした時、黒いバッフルコートを着た少年が人の流れに逆らうようにドラゴンに向かっている事に気付いた。


「君! そっちは危ない!」


アナウンサーの忠告を無視して少年がドラゴンの前に立ちはだかる。

全長五十メートル、頭胴長二十一メートルのドラゴンと比較すると、まるで少年が昆虫のように見える。


もっとわかりやすく表現するなら、ラノベが人間に立ち向かってるような感じだ。


「カメラ回して! 皆さん! 今一人の少年がドラゴンと対峙しています。こちらからは彼の表情を伺えませんが、勇敢にも我々を守ろうとしています!」


――――――――――――――――――――


「――勇敢にも我々を守ろうとしています!」


アナウンサーのうるさい声が山岡の耳に入った。

実況してる暇があったらとっとと逃げてほしい。


「さてと、おイタはそこまでだベイビーちゃん。ここから先はお兄さんが遊んであげる」


五錠の身体強化薬を口に入れてから仮面を付ける。端が伸び瞬く間に山岡の頭部を覆い尽くすフルフェイスメットに変わった。


十字のスリットがドラゴン・ベイビーを睨みつける。

腰から二枚のプレートを取り出して変形させる。トンファーに変わったそれを装備した。


「さっ、お守りの時間だ」

活動報告で好き邦題

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