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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
33/65

腕 (山岡編)


五月十日 二十一時二十五分 ウランバートルの病院

山岡泰知が目を覚ましてから最初に見たのは白い天井だった。

次に救急箱の中みたいな、薬品の匂いが混じった妙に清潔感のある香りが鼻腔をくすぐった。


「そっか、ここ病院か」


ポツリと呟いた。何の気無しに左手を目の上に(かざ)してみた。しかし肘から先を切断していたため、余った袖がだらんと顔に掛かるだけだった。


「はぁ〜、痛かったなあれ」


「自分で切り落としてから焼いたのに中々神経太いじゃないか」


目を横に動かす。そこには白衣に身を包んだエッツェルがいた。ブロンドの髪が月明かりに照らされ妖艶に輝いている。


「口元に涎付いてる。寝てたでしょ」


「その通り仕事サボって爆睡してたぞ」


「仕事しなよ……で、今どんな状況?」


「まずお前の具合だが、命に別状は無い。健康状態は良好だ。最も病魔に冒されたお前を見た事はないがな」


「そう、腕は?」


寝起きのためか、イマイチ言葉に力が入らない。


「それは諦めろ、お前の腕が戻る事はない」


「わかった。日付は?」


「五月十日の二十一時半だ。三十時間は寝ていた事になる」


「他の皆は?」


「早朝トゥルゲン山地へと向かった。到着は明日の昼ぐらいだろうな」


「アルバイヘールじゃないの?」


「トゥルゲン山地にドラゴンの巣があるとの事だ。よって直接向かうように指示を受けたそうだ」


「トゥルゲン山地ってどこ?」


「モンゴルの西端、地図でみると左上だ」


「そう、話を戻すけど。義手を取り付けたいんだけど用意できる? 流石に片腕は戦いずらい」


「問題無い、お前専用の義手は既に出来ている。お前の声一つでいつでも取り付け手術が可能だ」


「わかったすぐに頼む。にしても用意がいいね」


「予測を受けたからな」


依子(よりこ)か、未来予測の奇人」


「ああ、とりあえず今は寝ろ。手術は明日だ」


「そうする」


三十時間も眠っていたのにやたらと眠い。よほど体力が失われているのか、山岡はゆっくり目を閉じて明日を待った。


――――――――――――――――――


翌日、十時十五分 病院横の駐車場

目が覚めたら左手が生えてた。


「……うぅむ、気持ち悪い」


日当たりが良く、人通りの少ない駐車範囲外にて腰を下ろした山岡は新しく生えた……もとい付けられた義手の具合を測っていた。


あれからエッツェルは山岡が寝ている間に義手の取り付け手術を行ったらしい。

肘の先にアタッチメントパーツを付けたおかげで義手自体の取り外しは簡単なものだ。


「指の動きに若干のラグがあるなあ、ん〜すぐに慣れるかな?」


しばらくグーパーグーパーを繰り返してから、購買で買ったボールやペン、サンドウィッチを順番に掴みあげる。


「おっと、気を付けないとうっかり握り潰しちゃうな」


サンドウィッチを潰しかけた。義手の推定握力は七十、リンゴを普通に潰せる程の力だ。


「やあ、練習に励んでいるところ悪いけど隣いいかな?」


「え?」


サンドウィッチを頬張ったとこで、山岡泰知を影が覆った。

顔を上げると目の前に中肉中背の優男が立っていた。肌がやや白いがモンゴル国軍の制服を着ている事から現地人だと思われる。


「ん? 君日本人だよね? もしかして中国人かな、困ったな僕は中国語は学んでないんだ」


「あぁいえ、日本人です。日本語わかります。アイキャンスピーク日本語」


「そこはジャパニーズじゃないかな」


男はそう突っ込んだ後山岡の隣に座り、そしてそのまま仰向けになった。

チラりと男の階級章を見ると星が三つにライン一つ、大尉だ。


「ここは僕のサボ……昼寝スポットでね」


今サボリって言おうとした!


「そうですか、じゃあ僕はこれで」


流石に誰かいるとなると落ち着いて練習出来ない。そう思い腰を上げて病室に戻ろうとした。


「そうかい、まあ世間話がしたかったらいつでもおいで、僕は大体ここでサボ……昼寝してるから」


「仕事しなよ職業軍人さん」


「ハッハッハ、部下が優秀だとこうしてサボれるのさ」


「ろくでもないな、それじゃあね大尉さん。また何処かで」


スタスタと立ち去る山岡、内心変な人間と知り合ってしまったなあと考えてた。

病室までの道すがら、さっきの軍人について思いめぐらしてみた。コネという意味では軍人、それも士官ともなれば、知り合いになるのも意外と悪くないのではと思えてきた。


――――――――――――――――――――


山岡がいなくなった後の駐車場にて。

歩き去る山岡の背中を見つめながら大尉はポツリと呟く。


「あれが山岡泰知か、普通の少年にしか見えないな」


大尉はよっと上半身を起こしてからポケットの携帯を取り出す。


「Мөрдөн байцаах баг болж байна вэ Öndörkhaan руу илгээсэн байна вэ? (ウンドゥルハーンに派遣した調査隊はどうなってる?)」


部下からの返事を聞いた後、ブツっと通話を切ってまたその場に寝転がった。


「ここはやっぱり正面からいこうか」


大尉はタブレットのメモに控えていた番号に掛ける。通話先はエッツェルのプライベート回線。

モンゴル語でおかしいところがあれば指摘して頂けるとありがたいです。

無論それ以外でも。バッチコーイ

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