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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
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仄かに燻ぶる思い (香澄編)

五月九日 六時二十一分

ガンガ湖に不時着して、そこをキャンプ地にして一夜が過ぎた早朝、(みな)が起き上がって点呼をとった直後に事件はおこった。


角刈りで強面の中年男が叫んだ。輸送機の操縦士である小野田だ。


「おい、田畑がいねえぞ」


田畑とは副操縦士だ。やや肥満体型の比較的寡黙な中年男性という印象。

その田畑が朝の点呼にいない。


「周囲を探そう、山岡と境倉をそれぞれ班長にして二班で行動する」


社長の一声で搜索が開始される事に、歩兵二人を班長にしたのは万が一奇獣に遭遇した場合すぐに対応して逃げるため。


しかし莉子はそこで単独行動を提案した。


「あの。私はカドモスで探してみましょうか?」


社長は一考して、源緑に伺う。


「カドモスの状況は?」


「バッテリーがあまり無いから激しい動きは出来んが、歩きながら太陽光発電すれば大丈夫じゃろ」


「わかった。戦闘は極力回避して行動するように」


「はい!」


こうして田畑の搜索が開始された。

莉子が単独行動を希望したのはカドモスの索敵性能に頼るためだけではない。もう一つ理由があった。


「田畑を発見した!」


その声が聞こえたのは一時間半後の事だった。

最初に見つけたのは山岡だった。現場について莉子は「ああ、やっぱり」と誰にも聞こえないように呟いた。


「田畑! 嘘だろ……おい」


小野田がその場に膝から崩れ落ちた。

田畑は死んでいた。ボコッと膨らんだ腹は食い破られ、千切れた内蔵がはみ出し、頭は右半分が潰され、残った左目が恐怖でひん剥いている。腕も脚も無惨に食われて、最早無傷の部位は一つもなかった。


「ちっくしょう、何で田畑が」


小野田は目から大粒の涙を流す。無精髭に涙が絡んで不規則な軌道をとるのをモニター越しに見て莉子は心が傷んだ。


「見ての通り奇獣にやられたんですよ。すぐそこにマフトの群れがいました。ひょっとしたら一人でいるところを運悪く狙われたのかもしれません」


山岡が淡々とした口調で語る。その口ぶりは身震いする程に冷たく、聴く者の恐怖を煽った。特に莉子の恐怖を。


「……っ田畑をこのままにはしておけない。ここに埋めていいか?」


山岡は社長を見やる。社長は静かに首を縦に振った。


「香澄さん、お願いします」


「はい」


莉子はレバーを操作して右手でスペツナズナイフを出し、それで死体の隣に穴を掘り始めた。

もれなく人一人サイズの穴ができると、今度はナイフの刃を死体の下に差し込むように置き、左手を添えるように死体に被せて持ち上げた。


ゆっくり死体を穴に入れる。最後にナイフで地面を削りながら砂を掛けた。


埋葬が終了した後、一分間黙祷をささげて一同はキャンプ地まで戻る。


移動中、莉子はサブモニターで山岡を映し続けていた。それは彼にある種の特別な感情を抱いていたから。

その感情は恋慕や友愛というものでは無い。猜疑心という名の冷たい感情だった。


それが芽生えたのは昨夜、田畑が殺されるところを見た時だ。奇獣にではない、人間にだ。それも身近な人間。


「あの時確かに」


莉子はサブモニターの山岡と一瞬だけ目があった。アジア人特有の黒い瞳。


何もおかしいところはない。 昨夜見たものは夢ではないかとすら思え始めた。


昨夜見たのは田畑が死亡した瞬間、それも山岡泰知が殺害した瞬間だった。

その時の事は脳裏に焼き付いている、山岡は冷酷な笑みを浮かべ、そして奇獣と同じ金色の瞳をしていた。


時は遡る

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