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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
27/65

奪還 (山岡編)

「寒い」


日本の五月は季節的には春だが、夏に向けて徐々に熱くなる時期でもある。しかしモンゴルは違う、同じく季節は春だが朝晩の寒暖差が一年で最も激しく、最大十五度も違う。また地域によっては降雪も確認されており、ある意味冬よりも厳しい季節かもしれない。


現在の気温は十七度、普通なら肌寒い程度だが湖を泳いだ後だと凍えそうな程寒い。

更に巻き上がる砂埃が濡れた服に張り付いて不快感を煽る。


「さて、夜になる前に指揮車や物質を回収しないと」


「物質が落ちたのはここから北西へ二キロだ」


熊木がタブレットで周辺マップを取り出して位置を確認する。

因みに今自分達がいるのはモンゴルの南東端にあるガンガ湖のほとり。


大量の白鳥が中途半端に湖面から突き出た輸送機を「ナニコレ?」「たべものかな?」「へんなのでてきたからきっと違うよ」みたいな会話でもしてそうな雰囲気を出して、おっかなびっくり遠巻きに観察している。


「じゃあ急ぎましょう。いつまたワイバーンが襲ってくるかもわからないし」


「えぇっ、ちょっと休ませてえな」


湖から這い上がった静流がそうぼやく。隣では香澄が仰向けになって肩で大きく息を切らせていた。


二人共着ているスーツが水を吸って体にピッタリ張り付いていた。体のラインがくっきり現れて少し目のやり場に困る。

特に香澄はなまじスタイルがいい分妙な艶っぽさがあった。


「ダーメ、今日はとりあえず野宿をするんだから、早めに準備しないと」


「マジかいな」


「ほら、立って立って。ハリーハリー」


山岡が手を叩く音に合わせて香澄と静流が気だるげに起き上がる。


「ほら境倉さんも、悪いけどパイロットさんもお願いします」


境倉は上半身だけ起こして一度呼吸を整えてから機敏な動作で立ち上がった。流石に鍛えているだけはある。


パイロット、輸送機の操縦士と副操縦士は立ち上がるのに一分以上の時間を掛けた。


全員が立ち上がったのを確認して熊木が「よしっ」と頷いた。


「山岡に境倉、走れるか?」


「大丈夫です」


「自分も平気っす」


「ならお前達は先行して偵察をしてきてくれ、後は俺が先導してゆっくり連れて行く」


「「了解」」


二人同時に踵を返して湖を走り出る。山岡は懐から仮面を取り出して顔に付ける。仮面の端が伸びてたちまち頭部全てを覆い尽くした。

境倉も同様に走りながら折りたたみ式のフルフェイスメットを被った。


ガンガ湖の周りは砂漠、というよりも荒野のような状態で砂埃が激しく舞っているから目を守るためにメットが必要となる。


砂埃に関しては「春の嵐」と呼ばれるこの地特有の突風のせいでもある。


走りながら山岡は境倉に尋ねる。


「少しペースを上げても大丈夫?」


「大丈夫っす」


「上等」


二人は更にペースを上げて荒野を駆けていく、目的地に着くまでに十五分も掛からなかった。


「やーばい、ワイバーンがいるよ」


「どうするっすか?」


山岡達は付近の岩陰に隠れて様子を伺う。

北西正面に指揮車がありその向こうに物質が詰まったコンテナが三つ。


整備車は物質の北側、カドモスは物質の更に北西にある。

ワイバーンは物質の南側からゆっくり様子を見ながら近付いている。接触は時間の問題だ。


「僕達だけじゃ無理だ。香澄さんを呼んで先にカドモスを確保して起動しよう」


「了解っす。自分が呼んでくるっす」


境倉が元来た道を駆けていった。


――――――――――――――――――――


二十分後。

境倉がバイザーを付けた香澄を担いで走って来た。

香澄は境倉の上で気持ち悪そうにしている。


境倉が香澄を下ろすと、香澄はヘニャヘニャと崩れるように地面に座り込んだ。


「大丈夫? 香澄さん」


「はい、大丈夫です」


青ざめた顔でそう答えた。


「境倉さん、社長は何か言ってた?」


「任せると言ってたっす」


「わかった。僕達三人で何とかしよう」


「ええっ! 三人だけでですか!?」


「しぃっ!」


突然大声を出した香澄の口を慌てて手で抑える。手袋に付着した砂埃を吸って香澄がむせた。


「大声禁止、ワイバーンに気付かれたらどうすんの」


「す、すみません」


ワイバーンは物質のコンテナを囲うように点在し、コンテナをつついて中を取り出そうとしている。

コンテナはそれに耐えきれず、徐々に凹んでいく。


「いい? 僕がワイバーンの注意を引きつけるから、二人は北から整備車を回ってカドモスまで行くんだ。

その後はカドモスを起動してワイバーン三体を一気に殲滅する。大太刀とアサルトライフルは整備車のトレーラー部分に入ってるから、境倉はカドモスが起動したらすぐにトレーラーを開放するんだ」


「了解っす」


「はい、あの一人で注意を引きつけて大丈夫なんですか?」


香澄が心配そうに尋ねる。十メートル以上もある巨大な奇獣を三体も引きつけるのだ。普通は無謀と考える。


「問題ないよ、どうせ引きつけるだけだから。それに一番キツイのは香澄さんだよ、一人で三体倒すんだから」


「そ、そうですね」


納得して貰ったところで作戦を開始する。

まずは一旦指揮車まで移動して隠れる。山岡が懐から拳銃を取り出し、空いた手で指を三本立てる。三秒後に行動するという意味だ。

二人は静かに頷く。

三……ニ……一、状況開始。


「行ってくる」


山岡は指揮車の南側から姿を現して、手近なワイバーンに向けて発砲する。

乾いた音が辺りに反響する。


弾はワイバーンの首筋に命中した、しかし大したダメージにはなっていない。せいぜい小石が当たった程度だろう。


「ほらほら、こっち来なよ」


続けて三回発砲する。三発ともそれぞれ別の個体に命中する。正直的が大きいから狙う必要がほぼ皆無だ。


ワイバーンが山岡に気付いて向き直る。合わせて山岡が南に反転して走る。


「よーしよし、こっちだ」


ワイバーン二体はそのまま歩いて追いかけてくる。ゆっくり歩いているが一歩一歩が大きいため山岡にすぐ追いつく、もう一体は一度空に上がって低空を滑空して山岡の進路を塞ぐように回り込んだ。


「境倉!」


「もう走ってるっす! 今香澄さんがカドモスに辿り着きました」


カドモスを見やる。ちょうど立ち上がった所だ、開放されたトレーラーからアサルトライフルを取って腰に差し、大太刀を手にして青眼に構える。


「逃げるのは終わり」


ワイバーンに進路を塞がれた。山岡はニヤッと笑って立ち止まる。


一体のワイバーンが超音波カッターのモーションに入った。三等分にして分け合うのかなと軽く思う。

しかしワイバーンは途中まで貯めていた超音波カッターを中断して振り返った。


すぐそこまでカドモスがきていたからだ。三体のワイバーンがカドモスを注視し、ピギャアアアと高い声で威嚇を行う。


一体のワイバーンが空中に上がろうと翼を羽ばたかせる。


「うわっ」


山岡が風圧で軽く吹き飛ばされてしまった。

しかしおかげでワイバーンの群れから離れられたので好都合でもある。


すかさずカドモスが腰からアサルトライフルを取り出し、飛び上がろうとするワイバーンに向けて片手で撃つ。

弾道が安定していないがほとんど命中してワイバーンを叩き落とした。


落ちたワイバーンはまだ絶命しておらず地面でのたうち回っている。


カドモスは距離を詰めて超音波カッターのモーションに入った別のワイバーンの首を切り落とし、腰を捻って無理矢理体勢を変えて残りのワイバーンと向き合う。


あの無茶な挙動、源緑辺りが怒りそうだなあ。機体に負担を掛けるな! とか言ってさ。


最後の一体は既に超音波カッターのモーションを終えていて、吐き出す直前だった。

カドモスは地面でのたうち回るワイバーンを掴んで盾代わりにして超音波カッターを防ぐ。


盾にされたワイバーンの腹が切り裂かれて血液が溢れ出す。

ワイバーンを捨てて残った一匹との距離を三足飛びで詰める。間合いに入った瞬間に、大太刀を切り上げて顔を真っ二つに切り裂いた。


まさにあっという間の出来事だった。

一連の流れを見ていた山岡は心の中で思った。


香澄さん、可愛い顔して戦い方がエグイな。


そういう教育をしたのは自分自身である事は考えなかった。

何だか地道に評価が増えているようで、ありがたや

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