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シーサイド・フェスティバル  作者: 芳川見浪
第三章 ドラゴンスレイヤー
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広大な大地へ (香澄編)

二〇四〇年 五月七日 月曜日

四日しかないゴールデンウィークも終わった平日の初日。といっても普通の警備会社には連休なんてものは存在しない、普通の警備会社は。


仕事もなく訓練と整備以外やる事のない普通じゃない状態のジッパーはゴールデンウィークを与えられていた。


連休明けの最初の朝礼、株式会社ジッパーの社長である熊木宗士郎(くまきそうしろう)は皆への挨拶を簡単に済ませた後、その豪腕を机に叩きつけるように置いてこう告げた。


明日(あす)、モンゴルへ行く」


「噂になってるドラゴン退治やろ? なんややっと依頼が出たんかいな」


最初に反応したのは赤みがかった髪と、近畿特有の訛りが特徴の

村井静流(むらいしずる)だった。


静流が口にしたドラゴンは曰く全長は百メートルを超え、コウモリの羽をもち、火を吐く。ファーストアタックから六日、数多の警備会社とモンゴル国軍が討伐に向かうもことごとく返り討ちにされていた。


「わしらのような弱小会社にまで回ってくるという事は、それだけ状況が緊迫しているという事か?」


整備班班長の中島源緑(なかじまげんろく)が老木のような腕を組みながらそう尋ねた。熊木は眉間に皺を寄せた神妙な顔で答える。


「その通りだ。既に複数の警備会社連合とモンゴル国軍、応援に来た国連軍全て合わせて約二個大隊がたった一体の大型奇獣に壊滅させられている」


想像以上に酷い現状だ。そのような強力な相手に今更自分達のようなのが行っても大して役に立てないのではないだろうか。


「我々が行っても意味がない。そう思っているな」


ギクッと肩が震えた。莉子だけではなく静流と境倉も同じ考えのようだった。


「その通りだ、我々が行っても大して変わらない。使い捨てられるのがおちだ」


「ほななんでそんな無謀な事やんの?」


「仕事がないからだ」


切実だ。


「まあ我々が行うのは偵察行動と補給部隊の護衛だろうから、ドラゴンと正面切って戦う事はないだろう」


「それなら安心っすね」


先日新しく入った衛生兵の境倉慈郎(さかくらじろう)がホッとしたように厚い胸板を撫で下ろす、しかしその境倉を否定するように静流が「んなわけあるかい」と言って冷めた目で一喝した。


「なあ社長、その二個大隊の被害やけど、どこが一番多いん?」


「……」一考、そして「警備会社連合一個大隊と二個中隊だ」と短く答えた。


つまり半分以上は警備会社のものという事だ。一個大隊がおよそ二個~六個中隊でなるから、モンゴル国軍と国連軍は合わせて最大四個中隊程の被害となる。


「そんな! 何でっすか!?」


「そらうちらは国連軍や各国国軍からしたら練度の乏しい素人集団で、その上手柄横取りしようとする邪魔もんやさかいな」


「つまり偵察やら前哨戦やら一番槍やらせたら壊滅したんじゃな」


「その通りだ」


と一つ話が区切れたタイミングで莉子がおずおずと右手を挙げ、熊木がどうぞと頷いた。


「あの、そういうのって国連軍や国軍のイメージ悪くなるんじゃないんですか?」


「なる」


即答である。


「しかし、そこは流石に国連軍が情報統制をしっかりしていてな。警備会社が勝手に突っ込んで自滅したと報道されている。今もネットニュースではそう報じられてるぞ」


「は、はあ」


想像以上に劣悪な扱いに憤りや絶望を通り越して最早諦観の域に達してしまう。

本当の敵は奇獣なんかではなく、国連軍なのではないかと思えてくる。


「まあとにかく今は久しぶりに実入りのいい仕事をこなす事を考えるんだ。なあにいざとなったら全て放り投げて逃げればいい」


信用というものをゴミ袋に詰めて投げ捨てるような発言だ。しかし、ある意味では正しい判断なのかもしれない。


「そういえば山岡さんは欠席っすか?」


あっ、それ私も気になってた。


「泰知は今日知り合いの葬式やからおらんで」


納得。

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