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火炎の一番星


 ――ファイヤースター!


 病の母に、少女は叫んだ。


 ――大きくなったら、ファイヤースターになる!


 少女の決意に、母は微笑む。

 そうだ。

 いつかその名前で呼ばれたいと、スーザンは思っていた。

 火炎の一番星は、簡単にくたばる様な奴じゃないんだ。


「……まぁ……まぁだだあああああああああああああああああああああああ!!」


 スーザンは全力で叫んだ。

 バラハタは歪んだ笑みを浮かべていたが、突然の叫びに思わず引いてしまう。

 スーザンはバラハタの腕にしがみついた。

 そして、火を起こした。


「何!?」


 バラハタの右腕が燃え上がる。

 灼熱の火が皮を燃やし、筋肉を焼肉に変えていく。


「ぐわああああああああああああああ!! こ、こいつ、離せ!」


 残った左手でスーザンの髪を引っ張る。

 だが、スーザンは離れない。

 此奴を倒すまで、諦めてはいけないんだ。

 スーザンの覚悟は、バラハタの腕どころではなく、全身をも焼き尽くした。


「ぐ、う、うう……」


 頭が重い。

 早く起きねば、こちらが危ない。

 岳から滴る血が瞼を閉ざす。

 ダージリンは歪んだ全身を何とか持ち上げようと、顔をあげた。

 そして、衝撃が走った。


「あ……ああ……!?」


 頭の重みすら忘れてしまった。

 ダージリンの目に映る事実。

 それは、バラハタの刀がスーザンの胸を貫き、スーザンの口からは生々しい血が流れ、更に二人は火達磨になっている。

 バラハタが絶叫する中、スーザンは目を見開きながら歯を食いしばり、しがみついていた。


 呆然としている場合ではない。

 助けなければ。


 雨水をも蒸発させ、ダージリンは再び炎となりスピルシャンへ変身。

 遠くに落ちた炎刃刀へ向け炎を放ち、絡め取った。

 脳裏に浮かぶ剣舞。


 ――見ていなさい。


 姉と兄が刀を、自分は木の棒を片手に座っていた。

 祖父が刀を両手に持ち、真上に構える。

 炎が、祖父の手から剣の先まで昇っていく。

 やがて圧縮された輝きと共に、祖父は跳び上がった。


 ――あの技だ。


 ダージリンは炎刃刀を両手に持ち、真上に構えた。

 幾多の炎が伸びて、刃先に集まっていく。

 火の粉を豪快に散らしながら、炎刃刀『繋留閃火けいりゅうせんか』は燃え上がった。


「いい加減にしろ!」


 炎上するバラハタは懐から小刀を取り出した。

 そして、スーザンの背中へ思い切り突き刺した。


「ぐう……!」


 声が漏れると同時に、スーザンの力が失われていく。

 彼女から発していた炎は弱まった所で、バラハタは蹴った。

 壁に叩き付けられ、崩れるスーザン。

 バラハタの右腕は黒焦げとなっていた。


 刀を握る為の手に、力が入らない。

 ただ振り子の様に動くだけだった。

 右腕を気にするバラハタだが、視界が一気に明るくなる。

 振り向くと、燃え上がる刀を構えたダージリンが、彼を睨んでいた。

 一呼吸を置き、ダージリンは呟く。


「一刀炎式――」

 

 英雄は今、炎と共に飛び上がった。

 

 ――ほむらの一閃!


 振り下ろされた赤き一閃。

 雄叫びと共に、燃え上がる刃が、バラハタの肉体を焼き斬った。

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