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狂気の回想

「まさか同級生だったとは……」

「え?」

「あ! いや、だから、その、どう? 急性の病気にはならなかった?」

「はい?」

「あんな怖い事があったから、体調崩したりとかしたかな、と思って」

「あ、ああ。特に問題ないです」

「それなら良かった」


 危ない。危ない。

 ダージリンは、自分が今スピルシャンのままである事を忘れていた。

 何とか誤魔化せたが、心臓のドキドキは暫く続いてしまった。

 荷物運びを手伝った後、水筒を手に、腰を下ろしたスーザンと会話をしていた。

 スーザンの横に立ち、彼女から様々な事情を聞いていた所である。


「だって、うちはもう、とっくに壊れているから」

「え?」


 スーザンの顔色が黒く落ちた。

 そして、彼女の傷が零れ始めた。


 ――強い女傑になって、お父さんや皆を守りたい。お父さんを悲しませたくないんだ。

 ――いっぱい勉強して、身体も良く鍛えた。幻想術も早く全部マスターしたかった。

 ――だけどあの時、うちは何も出来なかった。彼奴らの冷酷さ、残虐さが私の思う以上のものだった。本物の悪だった。

 ――情けないね。あたし。


 沈んでしまったスーザンの心。

 MADはまだ世界を知らない少女の未来をも閉ざしたのだ。


「そんな事はないよ。僕があの時、皆を助ける事が出来たのは精霊が力を貸してくれたおかげだったから、僕だけじゃどうしようも出来なかった」


 励ました所で、スーザンが元気になる事はない。

 だけど、出来る事はやってみる。


「確かにスーザンからすれば凄い力だと思うけど、あの時ヤーグル(鎖の男)に勝てたのは、本当に偶然だった。残された皆が協力してくれたから勝てた。実際、僕一人じゃ負けてしまうくらい強い奴がいる」


 脳に浮かび上がる白い女。

 その姿は今でも忘れられなかった。

 あの凍てつく様な、見ているだけで体が固まってしまう、冷酷な人は初めてだった。

 僕の話を、スーザンは黙って聞いてくれた


「……話を戻すけど、スーザンは何の為に強くなりたかったの?」

「お父さんや皆を守りたかった」

「そうしたらさ、お父さんの側にずっと居てあげなよ」

「え?」

「スーザンを含めて、この国の人々は僕が守る。スーザンはお父さんの側にいて、安心させてあげて」

「スピルシャン……」


 銀の仮面を傾げた顔は、日光と共に輝き、微笑んでいる。

 彼は救世主だ。

 私達の心に火を灯してくれる。

 不思議と暖かくなった。


「ありがとう。あたし、出来る事からやってみる」


 口元が緩くなり、スーザンから元気が湧き出た。

 ダージリンは静かに頷き、回れ右をして歩き始める。

 しかし、そんな彼をスーザンは呼び止めた。


「ねえ、あんたは一人で戦うの? 全部一人で抱え込むつもりなの? 仲間とか、いないの?」


 その問いに、ダージリンは――


「大切なものを作って、失うくらいなら……」


 ――最初から、無い方がマシだ。


 はためいた上着が宙を舞う。

 姿と影が街に溶け込んでいく。

 英雄は孤高と共に姿を消した。

 スーザンはそれを、ただ見ている事しか出来なかった。

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