悪の手先
ある宿の一室に、女が一人、机に向かって座っている。
ベッドが一つと、机と椅子も一つずつ置いてあるが、それらが小さく見えるくらい広い部屋だった。
その部屋で、ミレッジは紅茶を嗜んでいた。
カップに入った紅に、白を加えてかき混ぜる。
口に入れれば、絶妙な渋みと甘さが体に染み込んだ。
ご満悦。
「ミレッジさん、これを」
「うん?」
部屋に入って来たルークが新聞紙を片手に、ミレッジに手渡す。
ミレッジが新聞の中を覗くと、そこには見覚えのある人物が写っていた。
「へぇー。スピルシャンビギンズ。カッコイイわね」
「音沙汰無しでしたが、どうも自殺しようとした子供を止めたらしいです」
「それじゃあ頃合いね。人は取れた?」
「はい」
「その人達は強い?」
「全員、GOHの賞金首リストに入っています」
「どれぐらいの価値?」
「少なくとも、一国分の悪人です」
「彼らに『動いて良し』と伝えて」
「わかりました」
「ついでにオレンジジュースも買って来て」
「は、はい」
相変わらず注文の多い上司だ。
ジュースくらい、自分で買えばよいのに。
ルークは眉を寄せながら、部屋を出た。
再び一人になったミレッジはティーカップを手に、ひとり口を緩む。
「ふふふ。どんな活躍をしてくれるのかしら? 期待しているわ。ダージリン君」
香るミルクティーが、ミレッジの口に流れていく。