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悪に抗え

新章、突入です!!

「や、やれぇぇぇ!」


 拳銃の男が激昂と共に弾丸を放った。

 しかし、炎の中から現れたスピルシャン、ダージリンはそれをものともしなかった。

 一気に迫り、鳩尾を深く貫く拳。

 この世のものとは思えない痛みに、男は悶絶しながら吹っ飛んでいく。

 壁に叩きつけられる光景を、仲間は震えながら見つめた。


「こ、コイツ……強すぎる!」

「た、たかがガキのスピルシャンだ!」


 それでも自分達の敵と成り得る存在を消す為に、各自得物を構えた。

 短剣を一斉に振ったが、ダージリンは飛び上がり、避けられてしまう。

 男達は天井を見上げた。

 すると、大きな火炎が降りてきた。


「ぐわああああああああああああああああ」


 強大な火力で、散り散りになる様に吹き飛ばされる。

 壁に一人、二人と次々叩きつけられ、そのまま何人かは動かなくなった。

 残った男達が立ち上がるのを、ダージリンは見逃さない。

 一人の男に再び拳を炸裂させ、今度は上空へ吹っ飛ばし、続けてまた違う男には脚で力強く突いた。

 反撃される前に両手から火炎を放ち、それを大きく撓らせて男達を翻弄。

 隙が出来た所を一撃ずつ、右、左、右、と拳を与えた。


「ひ、ひぃ!?」


 最早打つ手なし。

 完全に戦意を失った。

 残った男達が後ろを振り返り、走り出す。


 ――逃がさない。


 ダージリンは落ちていた拳銃を拾い、発砲した。

 灼熱の弾丸は男達の横を通り過ぎていく。

 そして鳳仙花の種の如く、弾け散った。

 赤い蜘蛛の巣。


「な、何ぃ!?」


 捕らわれる男達。

 罪の数ほど焼き尽くされた。

 赤き光に飲まれ、自らの色が失っていく。

 黒く染まっていく男達を、ダージリンはただ見つめる。


 罰だ。

 命を弄んだお前達への死刑だ。

 死んで償え。


 激しい怒りを抱きながら、ダージリンは振り返ると、その先の光景が彼の怒りを変えた。

 力抜けたスダップがこちらを見ている。

 ダージリンは歩み寄り、体を起こしてみた。


(スダップ先生……)


 瞼は開いていたが、その眼に命の輝きはない。

 もう、向こうの世界へ行ってしまったんだ。

 せめて安らかにと、ダージリンは手をかざし、瞼を静かに下ろした。

 いつも見せてくれた笑顔だった。


 だから、余計に苦しくなった。


 右手を後ろへ伸ばし、男達を焼く炎を集める。

 もう少しで消し炭になる所だったが、男達は人としての姿を保ちながら倒れた。

 消火を確認した所で、もう一度スダップを見て、死を実感する。

 重い抜け殻。

 命を感じさせない冷たさ。

 でも、運命を繋げてくれた。


(ごめんなさい……そして、ありがとうございます)


 乳白色の瞳が滲んでいく。

 悲しみに満ちかけた時、ふとダージリンは男達のある言葉を思い出した。



(俺達の他にここへ来た仲間が今、体育館の方で生徒一人ひとりを調べている。まあ、全員死ぬ予定だがな)


 今までの自分なら出来なかった事。

 それが今、出来るかもしれない。


 ――皆を助ける。


 ダージリンは聞こえた先に顔を向けた。

 何故ならば、向こうから発砲が聞こえたのである。

 もう時間はない。


(間に合ってくれ……!!)


 空っぽになったスダップの肉体を動かし、両手を胸の上に重ね合わせた。

 最後に一礼し、ダージリンは駆け出した。

 その姿が小さくなるに連れて、炎は揺らめきを止めていく。













「食らえ! 牛鈍!」

「ぐはあ」


 息を荒くしながら、拳を上げるブランドン。

 振り下ろした拳は男を撃沈した。

 呻き声と共に倒れた。


「はあ、はあ、な、なんとか終わった」

「せやな。はあ、はあ……」

「息上がってるぞ。アクバル」

「ドアホ。自分よりはマシや」

「お、俺は! 力のタイプだから」

「よく言うわ」


 辺りを見てから、もう敵はいないと判断した。

 アクバルもまた息を荒くしている。

 辛勝であった。

 二人で複数の男達を相手にしたので、もう拳は痛くて仕方ない。

 何とか冷まそうと、拳を摩った。


「馬鹿が! てめえらの眉間に弾ぁぶち込んでやる!」


 膝を崩そうとしたその時、男が一人立ち上がり銃をこちらに向けた。

 固まるアクバル、焦燥のブランドン。

 隙を突かれた。


「な……ぐわああああああああああああああああああああああ」


 突然、男が耳を塞ぎながら発狂した。

 怪しい音色。

 アクバルとブランドンにも聞こえたが、特に異変はない。

 男だけが苦しんだ。


「や、やめろ。気色悪い音を俺に……ゴヘ」


 蹲る中、アクバルの手刀が脳天に炸裂。

 男は頭を落とし、大の字になった。


「敵に背中見せちゃうなんて、情けないわね」

「そういう自分は、逃げたんとちゃうのか?」

「逃げる? 『これ』を取りに戻っていただけよ」


 男の背後から現れたテレーズが笛を片手に立っていた。

 三人が揃った所でこの後についての話が始まる。


「とにかくここから出ましょう」

「そうだな。敵に見つからない様に出口へ向かおうぜ」

「そんな必要ないわ。アンタ達ならこっから飛び降りれるでしょ」

「でもお前はどうすんだよ?」

「アンタ達が受け止めるの」

「何て身勝手な……」


 テレーズは窓を指した。

 今は二階にいるのだが、これぐらいの高さなら運動神経の高い二人でも降りられる。

 自分は先に降りた二人に受け止めて貰えれば外へ出られる

 そう考えたのだ。


「お喋りはその辺にしとけや。早う、降りるで」


 窓を開けた。

 最初にアクバルが降りて、両手と両足を上手く使い着地。

 手に付いた砂や枯れ葉を払いながら、その場から少し離れた。

 続けてブランドンが

 大きく響いた。


「おい、お前も早く降りろよ。ちゃんと受け止めてやるから」

「う、うん」


 後はテレーズのみ。

 巨体のブランドンが両手を開いて受け止める体勢を作るが、テレーズは一向に降りて来ない。

 脚が震えていた。


「おいどうした? 早くしろよ」

「わかってるから黙ってて!」


 煽られたテレーズは激昂するが、確かにグズグズしている自分が悪い。

 しかし、二階がこれほどの高さとは思わなかったのだ。

 体を外へ出そうとするが、勢いが作れない。

 手もガッチリ固まり。離せなかった。


「後ろから男が狙っとるで!」

「ええ!? きゃあああああああああああああああああ」


 アクバルが叫んだ。

 驚きのあまり、テレーズは手を離してしまい、そのまま外へ。

 多分、人生で一番怖い瞬間だった。

 風を切りながら真っ逆さまに落ちていく。

 瞬く間に、体はブランドンとアクバルの手に拾われ、その際に二人は声を漏らした。

 受け止めてもらった直後、テレーズはすぐに花壇の裏へ避難するが、自分を狙った男は動くどころか姿一つも見せない。

 テレーズは隠れるのをやめて、アクバルへ詰め寄った。


「アンタ、騙したわね?」

「だってチンタラしとるから」


 眉間を寄せて、滑らかな白い歯を剥き出しにするが、対してアクバルは惚けた様子で口を曲げた。


「アクバル、正直面白かった」

「やろ?」


 口を抑えながら顔を隠すブランドン。

 アクバルの肩に手を置き、空いた方の手の指を立てた。

 グッジョブ。

 テレーズの頭が噴火した。

 そびえ立つ火山が煙を湧き立て、マグマを生み出す。

 灼熱の怒りが起きようとしたその時、三人は我に返った。


 轟く発砲。


 三人は身を固め、アリーナの方へ顔を向けた。

 アクバルの意地悪さ、ブランドンの愉快さが失せていく。

 テレーズも込み上がっていた怒りが一瞬で消えた。


「早く逃げましょう。ここから離れるのよ」

「お、おう。そうだな」


 こんな事をしている場合ではない。

 テレーズとブランドンは駆け出した。

 ところがアクバルは動かず、そのままアリーナを見ながら立ち尽くしている。

 強い眼差しを向けながら、拳を握った。

 少し離れた先でブランドンは振り向き、声を上げる。


「おいアクバル。何してんだ! 早く行くぞ!」

「待てや、自分ら。さっきの音、聞こえなかったんか?」

「聞こえたから、早く逃げるんだろ!」

「……見捨てるんか? あそこにいる連中を」

「お前、まさか……」

「ああ。スマンな」


 一部始終を聞いて、ブランドンよりも離れていたテレーズがアクバルの元へ歩んだ。

 下から覗く様に、自分もまた強い眼差しを向けた。


「アンタは確かに強いわよ。だけど出来る事は限られているし、今度は返り討ちにされるわよ!」

「――テレーズ、自分のダチはどうするん?」

「心配よ……でも私達に出来る事は限られてる。だからここは騎士団に助けを求めた方が良い!」

「発砲があったんや。多分何人か撃たれとる。時間はあらへん。今行かへんと……」

「違う! 私達が死ぬ事が駄目だって言ってんのよ! 今アンタがやろうとしてる事は勇敢じゃなくて無謀なの! 返り討ちにされたいの!?」

「まだそんな事決まったんとちゃう」

「わっかんない奴ね! アンタが馬鹿な事しようとしているから私は親切に止めてやってんのよ!」

「俺は、これが正しい道やと思う」


 激しい口論が始まった。

 どちらかと言えば、アクバルは冷静で、テレーズが勝手に怒り出した様なものだ。

 確かにテレーズの主張は正しい。

 寧ろ無謀なのはアクバルだ。

 ただでさえ、悪人が複数いるだけで骨が折れる程なのに、今度はそれ以上に過酷な戦いに行こうとしているのだ。


 傍で見ていたブランドンが二人の間に入り、アクバルを見て話し出す。


「待て。早まんなアクバル。彼奴らの強さ実感しただろ? 馬鹿な真似は止そう。今度勝てる保証は……」

「せやったら何や? このまま大勢の命見捨てるんか?」

「カッコ悪い死に方するかもしんねぇんだぞ?」

「かまへん。見捨てるよりはマシや」


 頑なに助けに行きたいアクバルだが、二人の顔は変わらなかった。

 テレーズは相変わらず恐ろしく、ブランドンは困惑した様に眉間を寄せている。

 アクバルは溜息を吐いた。


「いや、スマンな。自分らは先に逃げな。俺は行くわ」

「……ご勝手に」


 最後は自分だけ行く事にした。

 命が惜しい。

 それは誰もが持って当然の感情だ。

 アクバルは振り向き、駆け出していく。

 その背中に、テレーズは冷たく呟いた。


「な、なあ」

「何?」

「お、お前、先に逃げてろ。俺、用事を思い出したから」

「……え?」


 これから逃げようと動く直前、テレーズは固まった。

 困惑するテレーズをさておき、ブランドンもまた、アクバルを追い掛ける。

 友の覚悟。

 それがちょっと気に入らなかっただけだ。

 恐怖とかどうだっていい。

 俺も行くぜ。


「……たく。アクバルの奴、一人でカッコ付けてんじゃねぇぞ」


 残されたテレーズは二人を見つめていた。

 後ろ姿が小さくなる度に、孤独な気持ちが強まっていく。

 すると、手にした笛が抜ける様に落ちた。

 気が付いたテレーズは拾おうと手を伸ばすと、触れた金属から冷えが伝わった。

 テレーズは、強く握った。

もしよろしければ、感想ください!!

私のパワーになります。

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