灯火と衝突
「ああ~!! やっと終わった~!!」
両拳を真上に、背筋もピンと伸ばしながらフラウアが声を上げた。
後を付いて来るシレットとテレーズも安堵な表情を浮かべている。
三人は廊下を歩いていた。
鞄を持った生徒達が各々昇降口に向かい、下校してゆく。
「ほら、早く行こ!」
フラウアに急がされ、二人は鞄を抱えながら駆け出し、他の生徒達を避けながら昇降口に向かう。
シレットは廊下を走ると危ないよなぁと思いながら走っていたが、運悪くシレットのみが曲がり角を曲がる時に誰かとぶつかってしまった。
相手が持っていたプリントは、宙を舞う様に床へばら撒かれた。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」
「……だ、大丈夫です。大丈夫ですから」
「あ、ダージリン君……」
「あ……」
痛そうに顔を上げると、ぶつかった相手はこの前数学を教えた男子で、カメリアの王子様でもあるダージリンだった。
ダージリンも尻餅を付いて、痛そうに座っている。
「おーいシレット! 大丈夫ー?」
シレットが着いてこない事に気が付いたフラウア達が戻って来ると、ダージリンが急に立ち上がったのでシレットもつられて立ち上がる。
二人は特に会話を始める事はなく、ただただ気まずい空気が流れただけで、フラウア達が来る前にダージリンは落としたプリントを強引に拾い集めると、そのまま走り去ってしまい、シレットはダージリンの背中を見る事しか出来なかった。
「あ、ダージリン……君」
「ありゃ? シレット大丈夫?」
「う、うん」
フラウアが心配して声を掛けるが、事は既に収まっていたので、シレットは改めてフラウア達と合流し、昇降口へ向かった。
「ねぇシレット、さっきの男子生徒、ダージリン王子だよね」
昇降口で靴を履き替えているとテレーズが不意にさっきぶつかった生徒について話だした。
「う、うん。そうだよ。あんなに急いでどうしたんだろう……」
「何? 気になるの? もしかして王子様と脈ありだったりして」
口元を少し歪ませ、怪しい眼差しを向けるテレーズに、シレットは少し引き気味になる。
「え!? シレット、王子様と知り合いなの!?」
すると、脈ありという単語に反応したフラウアが急に胸を高まらせ、周囲の者に聞こえる様に叫んだ。
周りの目を気にしてシレットは引き気味な顔から動揺。慌て始めた。
「ちょっ! そんなんじゃないわよ! 先生のお願いで数学を教えただけだって」
「ねえねえ! 王子様といつ仲良しになったの!?」
「い、いつって……」
瞳をお星さまの様に煌かせながら、シレットに詰め寄るフラウア。
「何それ? 私も気になるんだけど――!!」
テレーズも便乗する様に食いつくが、それ以上にフラウアはダージリン王子との中が気になるようで、飛び跳ねている。
「ねえねえ~シレット~!! 教えてよ~!!」
「そ、そんなことより! 商店街に行くんでしょ!」
しつこく問いただす二人にシレットは怒鳴った。
怒られた二人はそれぞれの反応を見せ、テレーズはしかめっ面を上げながら両手で耳を塞ぎ、フラウアは怒鳴った事に驚いたのか、茫然自失に立ち尽くした。
「もう! 早く行くよ」
先に靴へ履き替えたシレットは鞄を抱えて昇降口を出た。
「そんなに怒んなくたっていいじゃん」
テレーズはぶつくさと呟き、フラウアは少ししょんぼりとしながら靴を履き替え、シレットの後を追った。