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焼き散る撫子

 両軍が入り乱れる戦場となったが、王国側の敗色は濃厚であった。

 倒れていく戦士達。

 侵略を止めない暗黒の大軍。

 遂には赤備えの男が城門の前まで迫り、その門を突破しようとしていた。


「待ちなさい! ここから先は一歩も行かせないわ」


 赤備えの男が足を止めた。

 門の前には華麗な髪と顔をした女が鎧を纏っていた。

 手には大剣。

 その後ろには同じく鎧を着た女達が弓を引いている。

 城門から覗く小窓にもいた。


 先頭の女が大剣を両手に高く跳び上がると、矢の雨が放たれた。

 上へ跳ぶか、このまま矢の雨を凌ぐか。

 そう頭を過らせながら、女は一気に大剣を下ろした。

 そして、赤備えの男は動いた。


「な、何ぃ!?」


 しかし、それは女の考えを覆すものだった。

 男は何と矢の雨へ突っ込んだのである。

 いくら甲冑を纏っているとはいえ、無数の矢を食らえばひとたまりもない。

 だから男は、矢が当たる直前に姿勢を崩し滑りながら進んで行き、弓を引く女達の脚を切り裂いた。


 小窓にいる女達はその強さに戸惑いを見せるが、それでも弓を引いて次の発射に備える。

 だが男はその隙を逃さず、散らばった矢をすぐに集め、ばら撒く様に小窓へ投げつける。

 小窓の女達は逆に矢を食らわされてしまった。

 門を阻む者がいなくなった所で、赤備えの男は早速開けようと手を伸ばす。


「行かせない!」


 怒鳴り声と共に来る殺気。

 何かを察したのか、男はしゃがんだ。

 すると、衝撃を発しながら門に鉄塊が食い込んだ。

 鉄塊を確認すると見た事のある大剣。

 振り向くと、先程の女が歯を食いしばって睨んでいた。


 門に向けて大剣を投げる事、それは自らの城を開城させる行為に等しいが、こんな大きい大剣が突き刺さったにも関わらず、門は穴や亀裂の一つも入っていない。

 なるほど。

 これならば、躊躇なく投げられるものだ。

 赤備えの男は、コクッと顎を落としながら手を伸ばした。

 大剣の柄を掴み、それを強引に抜くと今度は女の方へと投げた。


 しかし、大剣は先程と比べて勢いがなく、二、三回、宙を舞うと女の丁度足元へ滑る様に止まった。

 足元に滑り込んで来た大剣を見てから、女は赤備えの男に視線を移す。

 槍先をこちらに向けている。

 刃が陽の光で真っ直ぐに輝く。

 それが、女の怒りに油を注いだ。


「望むところだあぁ!」


 大剣を拾い、両手でしっかりと握った。

 華奢な体かもしれないが足腰は固く、腕の筋肉含めて男に負けないくらいの固さを持っている。

 雄叫びと共に、女は走り出した。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 豪快に、大剣を降り下ろす。

 空間に伝わる振動。

 女は動揺した。

 渾身の一撃があっさりと止められてしまった。

 男が槍を地に刺し、その厚い手で刃を受け止めたからである。


 しかも両手を合わせる白刃取りなんかじゃない。

 片手ずつ挟む様にしている。

 本来ならば、親指がそのまま切り落とされる様な止め方をしているのだ。

 このまま剣を引いて、その親指を落としたい。

 だから力を込めたが、剣は微動だにしない。


 前代未聞だ。

 こんな奴がこの世にいるとは。


「ぐ、ぐ、ぐううううううう!!」


 闘志が滾る女に、男は静かに呟いた。


 ――空は思う以上に広いぞ。


 その瞬間、女は軽くなり、青空の中にいた。

 右頬から伝わる痛みなど、どうでも良かった。

 白い雲はいつにも増して美しく、まるで羽ばたく白鳥みたい。

 でも、無念だ。


 女は涙を落とした。


「つ、強い――!!」


 青空から落ちて来るまで、男は見送った。

 刃こぼれした大剣を捨て、得物である槍を抜く。

 男は振り返ると、門から少し離れた所で駆け出し、その門に強烈な蹴りを食らわした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤備えの何某が王国側だと思ってたら、まさかの暗黒の軍勢側だったでござる。拙者責任を取ってハラキリするでござる。 いや、シンプルに勘違いしてました。申し訳ございません。それはそうとして、た…
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