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風の訪問

 午後の授業が全て終了し、帰り支度を始めたり、部活動へ向かう生徒が溢れ返る。


「……ダメだ」


 そんな中、ダージリンは課題である数学に悪戦苦闘していた。

 紙を掴みながら睨み続けるも、閃く事はなく、周りをグチャグチャにし、遂に不貞寝してしまった。


「……スダップ先生、来るって行ってたのに……これじゃあ帰れない」


 ブツブツ文句を呟いていると、ドアからコンコンという音が響いた。


(先生かな?)


 背筋を伸ばし、身構えるダージリンだったが、入ってきたのはスダップではない。

 目の前に現れたのは、自分と同じ学生服を着ている。

 長いこげ茶色の髪は風の様に優しく、紫色の瞳は引き込まれそうなくらいに輝いている。

 ブレザーとスカートに包まれる引き締まった体から繋がる細い足。

 思わず目を逸らしてしまう美しさに、ダージリンは顔を熱くしてしまい、身体も微動だにしないくらい固まった。


「えっと……ダージリン君だよね?」

「……う、うん」

「私、一応同じクラスのシレットって言うんだ」

 少女は眩しい笑顔で自己紹介をする。

 名前はシレット・キャンディ。どうやらダージリンの同級生らしい。

「……えっと、それで、僕に何の用ですか……?」


 伏し目になりながらも、ダージリンはシレットから経緯を聞いた。



 それは遡る所、三十分前の事。


「失礼します」


 シレットは、集めた書類を片手に職員室へやって来ると、机に向かいながら眼鏡に手を当てて溜息を付くスダップがいた。


「先生、どうしたんですか?」


 困り果てたスダップを見て、シレットは気遣う様に声を掛けた。


「ああ! シレットさんではありませんか。丁度良かったです。この後お時間ありますか?」


 曇った表情から一変して明るくなるスダップだが、今度はシレットが困惑した。


「え? まあ、特にないですけど……」

「実は私、これから教え子に数学を教えに行くのですが……」

「はい」

「急用が出来てダブルブッキングしてしまったんです。そこでシレットさんに一つお願い事を……」


 という成り行きで、シレットがスダップの代わりに数学を教えに来たのだ。


「あの、ごめんね。いきなり」

「…………い、いや、だ、大丈夫、です、うん」


 ――先生、余計な事しないでよ…………

 眉をひそめながら、思わず心の声が漏れた。


「え?」

「あ、何でもないです」

「じゃあ、数学教えるね。隣、座っていい?」

「え? あ、はい。どうぞ」


 椅子を引き、ダージリンの隣に座るシレット。


(ヤバい。緊張してきた)


 シレットが鞄から筆箱を取る中、ダージリンは手を膝に乗せたまま固まっていた。

 胸の鼓動は強まり、額からは汗が流れてくる。


「それで、どこがわからない……の?」


 ペンを机に置き、振り向くとダージリンの様子がおかしい事に気付く。

 耳や頬が火の様になっており、このまま燃え上がるんじゃないかと思う程だ。


「だ、大丈夫??」

「だ、だい、じょうぶ。うん」

「お、お水飲む?」

「い、いや、問題ないです」


 水筒を取り出すシレットに、ダージリンは掌を見せながら大丈夫だという事を伝えるが、どう見ても問題だと思ったシレットは、冷や汗を掻きつつも、ダージリンを助けたいという気持ちが強まった。


「し、深呼吸すれば?」


 水筒を机に置きつつ直感で閃いた方法をダージリンは実践した。

 シレットの言う通りに目を瞑りながら息を吸い、はぁーと深く吐いた。

 心なしか、顔が少し和らぎ、真っ赤だった頬も消えている。

 落ち着きを取り戻したダージリンは、シレットの目を見ながら口を開いた。


「……ご、ごめん。お、女の子、と、は、話すの、慣れて、ないんだ」

「そ、そうなんだ。だよね。よくいるよね。わかる」

「ご、ごめん。余計な気を使わせちゃって」

「ううん。別に気にしてないから大丈夫だよ。さあ、早くわかんない所やろ」

「う、うん」


 シレットは口元を隠しながら微笑んだ。少しだけ可愛く見えたが、引いてる様にも見えたので、ダージリンは恥ずかしく感じたのであった。

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