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訛った悪友

 午前の授業が終わり、昼休みが始まる。

 三人の男子生徒がお弁当や袋に包まれたパンを持って廊下を歩いていた。

 三人の内、やや細身で童顔な男子が愚痴を零し、それを背丈が低く、尖った目付きの男子が慰めていた。


「はぁ、もう僕生きていく気がしない」

「そう落ち込むなや」

「こっちに引っ越して来てから僕ついてないよ…ホームシックにもなりそうだし」

「たかがテストの点数悪かっただけやないか」

「いいな~アクバルは。点数悪かったのに前向きで」


 気弱な男子はスティーブ。訛った喋り方をするのはアクバル。


「俺は、気合と根性で乗り越えとるからな‼」

「つまりノープランじゃねーか‼」


 三人の中で、一番に背が高く恰幅の良いブランドンがツッコミを入れた。


「アクバル、お前ヤバいんじゃねえのか? 次のテスト落ちたら…」

「心配あらへん。俺は、次こそ本気でやったるわ‼」

「それ、駄目人間の台詞だぞ」


 ガッツポーズで答えるアクバルだが、その無謀さに呆れて言葉に出ないブランドンだった。

 三人が仲良く会話しながら向かった先は四階にとある一室だった。


「き、今日も誘うの?」

「あったりまえや!」


 ドアの前に立ち、わざとらしくアクバルは叫んだ。


「ダージリン~お昼食おうや~」


 しかし返事はなく、代わりに沈黙が続いた。


「完全に無視されてんぞ」

「やめようアクバル。無理に誘う必要はないよ」


 ブランドンが突っ込む。

 スティーブも今日は止めようと提案するがアクバルは諦める事なく、ドアノブに手を掛けた。

「入るで」


 中へ入ると、ダージリンは彼らに背中を向けて課題をやっていた。


「ダージリンく~ん? 無視はアカンやろ~」


 アクバルが邪魔をする様に反対側に回り込むが、ダージリンは睨む様に顔を上げた。


「……勝手に入って来ないで」

「俺はちゃんと『入るで』って言ったで」

「……何の用?」

「飯食おうで」

「……三人で食べてなよ」


 お誘いを遠回しに断ったダージリンはペンを筆箱にしまい、教材から入れ替える様にお弁当を取り出した。

 ひとり、包みを開けて昼食を食べようとするが、アクバルが強引にお弁当を取った。


「んな冷たい事を言わなくたってええやん」

「……返して」

「ほな、一緒に食べるって誓えや」


 お弁当を取り返そうとダージリンは腕を伸ばすが、アクバルはわざと遠ざける。三回くらい同じ事を繰り返した辺りでダージリンは眉を寄せた。


「……いい加減にして?」

「一緒に食うって誓えや?」


 二人の意地がぶつかり合う。左右の腕を交互に繰り出しお弁当を取り返そうとするが、アクバルがそうはさせぬとちょこまかと動き回る。

 ブランドンとスティーブは、その奇妙なやり取りを呆れつつも見守っていた。


「子供かお前らは」

「うんうん」


 呆れるブランドンにスティーブが二回頷く。

 取り合いの中、ダージリンは息を切らしながらアクバルを睨んだ。


「……いい加減にしてよ」

「いい加減にするんはお前やダージリン」

「……何で」

「どうせいつも通り結局一緒に食うんやから、それとも、まだ取り合いするんか?」


(駄目だ。キリがない)


 諦めたのはダージリン。深い溜息をしながらもアクバルの誘いを受け入れた。


「……わかった。行くよ」

「ほな。行こっか」


 漸く、アクバルはお弁当をダージリンに返した。


「……ちょっと、投げないでよ」


 ブツブツと呟きながら、ダージリンは三人と一緒に部屋を出た。

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