変質者(?)に声をかけられました。
「貴女は今、幸せですか?!」
校門を出た所で、突然そう呼びかけられたら、貴女ならどうしますか?
しかも、この暖かい春の陽気の中黒いロングコートに黒い帽子を目深にかぶり、マスクにサングラスをかけた人物に………。
私?
一歩、外に出ていた足を速やかに校門の中に戻しましたとも。
我が校は、良家の子女が通う私立校です。
鉄壁のセキュリティが自慢の1つです。
つまり、敷地内にいればひとまず安心、な、筈なんです。
知らずに向けた冷たい視線に何を感じたのか、暫定変態さんがアワアワと焦った様に手を振り回しました。
「アァ、違います。変質者じゃないんです。私、高等科の生徒!ただ、ちょっと顔バレしなくない事情がですね!」
叫ぶ様に弁明する声は、確かに若い女性のものでした。
けど、「顔バレしたくない」なんていう人を信用するいわれも、会話をする義務も無いですよね?
だいたい、「高等科の生徒」って自己主張されてるだけで証明するものは現状何も無いわけですし。
ジリジリと後ろへ下がる私の様子に、焦った様ににじり寄ってくる暫定変質者さん。
「あぁ、完璧に信じてくれてない〜〜。ただ、現状を確認したいだけなのに〜〜。あ〜〜、でも、ビジュアルがトゥルーエンドそのまんまだよ〜〜」
ブツブツとつぶやく言葉に、何やら引っかかりました。
トゥルーエンド?
思わず足を止めると、目の前の不審者を観察します。
よく見れば、私よりも大分小柄で華奢な体型ですね。
コートも帽子もぶかぶかでサイズあってませんし。
と、その背後に呆れた顔のよく知る人物が現れたのを見つけ、私は肩の力を抜きました。
「…………何してるんですか?四季原さん」
「倉敷君!」
「お兄ちゃん、お知り合いですか?」
そもそも、珍しく人通りの少ない裏門を使ったのは兄と待ち合わせをしていたからなんです。ので、兄がここに居るのに不思議はないのですが。
呆れ顔の兄に、首を傾げます。
変質者さんに知り合いがいるなんて、兄の顔の広さにビックリです。
と、固まっていた変質者さんが焦ったように動き出しました。
「ナンノコトデスカ?シキバルチガウ。ワタシベツジン」
ぎくしゃくとした動きで逃げ出そうとしてますが、アッサリと兄に捕まりました。
「そんな特徴的な声と不振な動き、四季原さんしかいないでしょ?」
……確かに、すっごい可愛いアニメ声だったんですよね。
私が問答無用でダッシュしなかったのもそのせいですし。
そうして、被っていた帽子とサングラスを兄がサッと取り上げると、大きな目を涙で潤ませたすっごい可愛い子が出てきました。
(あ、この顔、知ってるかも)
柔らかそうな茶色のボブカットも、溢れそうに大きな瞳とチョコンと小ぶりな鼻。そして桜色の唇。
脳裏に浮かんだのは友人に押し付けられたゲームのパッケージ。
その中心で男の子に囲まれてニッコリと笑って居る女の子を3次元に持ってきたら、きっとこうなるんだろうなぁって、そのまんまの顔でした。
(暫定ヒロインさんだ〜〜)
まぁ、当の彼女は笑顔なんてどこにあるのってくらいに顔色悪くして涙目なんですけどね。
「あわわ〜〜!ち、違うんです。コレには深いわけがありまして〜〜。別に大切な妹さんに危害を加えようなんて露ほども思ってませんカラァ〜〜!!」
そしてワタワタと両手を振り回して何か弁明した後、ピョンっとその場で飛び上がると見事な土下座を………って、土下座?なんで?!
「ごめんなさい!ごめんなさい!!私なんかが大切な妹様に近づいて申し訳ありません。だから殺さないで〜〜監禁もいやぁ〜〜」
そうして額をグリグリと地面に擦り付けながら懇願する少女の姿に、なんだかどこかで既視感を覚えつつも、そっと隣に立つ兄を伺いました。
おお。
兄が途方にくれた顔でため息ついてますよ?
あのパーフェクトな兄を困惑させるとは、やりますね、暫定ヒロインさん!
「殺さないし、監禁もしないから。とりあえず立って。こんな所、人に見られたら僕達兄妹の人格を疑われるから」
内心ヒロインさんにサムズアップをしていると、兄がヒロインさんの腕の下に手を入れて抱き上げていました。
なんか、ベソベソと泣きながらデローンと兄に持ち上げられている姿が、すごく可愛いんですけど。
『怒ってない?』『イジメない?』と上目遣いで訴えている表情が、年上には見えません。
コレはまさしく「ビクビクちゃん」!
内心萌えながらも、そっと門を出て2人の元に歩み寄りました。
そして、ようやく自力で立った彼女の顔をハンカチでそっと拭いてみます。
何しろ涙やら泥やらでゲテゲテでしたからね。
興奮しすぎてチョット虚脱状態なのか、ぼうっとされるがままのヒロインさん。
今世では、なんでかお世話されることの方が多かったので、世話焼き魂が疼きますね。
「兄のお知り合いだったんですね?警戒してしまってすみません」
とりあえず、兄の言うとおり「ビクビクちゃん」なようですから、極力刺激しないようにゆっくりとした言葉で柔らかく微笑んでみました。
攻撃する気ありませんよ〜〜。
私は無害ですよ〜〜。
だから仲良くしてください!
と、止まったはずの涙が再びボトボトと零れ出しました。
「え?え?なんで泣くんですか?どこか痛い所あるんですか?大丈夫ですか?」
「うえぇぇぇん!悪役令嬢が優しいヨゥ〜〜。良かったぁ〜〜〜」
慌てる私に抱きついて大泣きする彼女が落ち着くまで、それからゆうに20分はかかるのでした。
うん。今日の予定は諦めましょう。
読んでくださり、ありがとうございました。
はい。
ヒロインポンコツ系でした(笑
まぁ、「ビクビクちゃん」な辺りで皆さん予感はしていたと思いますが。
この回が書きたいが為にゲーム編に進んだと言っても過言では無いです。
つまり、書きたいところの60パーセントくらいはもう終わっちゃったんですが……。
まぁ、次回で後の40パーセント頑張ります。
逆ハー?攻略?ザマァ?
「ビクビクちゃん」に出来るわけがありません。
だってバッドエンド怖いし。まぁ、他にも理由はあるんですが……。
久しぶりに設定作りが楽しいキャラでした。
そのうち「ヒロイン視点」やります♪