兄が何だか楽しそうです。
宿題をしようと机に向かった所、電子辞書を学校に置いてきてしまったことに気づいて少し焦ってます。
皆様コンバンワ、ゆあです。
って事で兄に借りようと兄の部屋へと向かったのですが、珍しい光景に遭遇しました。
我が兄は、皆様もご存知の通りチートキャラでして、学校のお勉強は先生の話を聞くだけでノートを取ることはありません。
何でも、集中して聞くことで頭の中にしっかり書き込まれ、忘れる事は無いそうです。
何ですか、その便利能力。
私に分けてください。
妹の私は、単語覚えるのも基本10回書き取り、ですよ?
不公平です!
話しがそれました。
その兄が、教科書片手に何やらノートに書き込んでるんです。
そっと覗き込めば、どうやら授業のまとめの様です。
ほら、珍しいでしょ?
「お兄ちゃん、珍しいですね?お勉強ですか?」
思わず首を傾げれば、兄がクスリと笑いました。
「僕のじゃないよ。今日、クラスに転入生が来てね。世話を任されたから、今日までの授業の纏めをあげようかと思って」
柔らかな微笑みに、さらに珍しいものを見た気になりました。
兄が、今日、初めて会ったばかりの人の為に手ずからノート作り、ですか?
情がないわけではありませんが、基本めんどくさがりで要領のいい兄なら、クラスのゲボ………友達の中で真面目にノートをとってる子に頼んでコピーを手に入れそうなモノなのですが。
「それにしても、こんな時期に転入、ですか?」
始業式があって4日目。随分と半端なタイミングです。まぁ、そもそも、兄のクラスという事は高3ですよね。その時点で不思議な感じですが……。
「あぁ、本当は始業のタイミングで来るはずだったんだけど、どうも当日校門の前で倒れて、そのまま寝込んじゃってたらしくって。不運だよね」
カバンの中から電子辞書を取り出してくれつつ、兄が教えてくれました。
口角が楽しげに上がってますよ?
ノートの事といい、何だかお気に入りですか?
何だかもやっとするものを感じつつ、さらに質問してみます。
「随分気にかけてるんですね?どんな方なんですか?」
なんだか、語尾がきつく響いてしまいました。
………どうしたんでしょう?
と、兄が、珍しいものを見たという様に目をパチパチッとさせてから、クルンっと私の方に体ごと向き直りました。
「どんな………ビクビクちゃんに似てる、かなぁ?」
「…………ビクビクちゃんって、絵本のウサギさんのことですか?」
でも、なんだかもやっとしていた気持ちが、兄の予想外の発言で吹き飛んでしまいました。
「そう、それ。懐かしいだろ?」
笑顔で頷いてる兄のいう「ビクビクちゃん」とは、子供の時に私のお気に入りだった「ウサギのビクビクちゃん」という絵本の主人公のことです。
木の葉の落ちる音にも怯えるほど臆病なウサギの女の子で、いつでもビクビクしてるので「ビクビクちゃん」。そのまんまですね。
ただ、ビクビクちゃんは確かに泣き虫で臆病な女の子ですが、大好きな友達の病気を治す為に「ふしぎの森」に薬草を取りに行く勇気を持っているのです。
怯えてすくむ足を泣きながら前に動かし、友達のために頑張る「ビクビクちゃん」のお話が子供の頃に大好きで、何度も兄にねだって読んでもらったものです。
その「ビクビクちゃん」に似た子、ですか?
「なんだか涙目でプルプル震えてるし、ちょっとしたことにびっくりしては机の下や物陰に隠れようとするし……見てて面白くって」
クスクス笑ってますが、言ってるセリフは実は結構酷いですよ?
大丈夫ですか?
「1人で平気なので構わないでください!って捨て台詞吐いた直後に階段落ちしかけたり、ね。なんだか突拍子がなくて、目が離せないんだよ」
楽しげな兄の目が語っていました。
「面白そうなおもちゃ発見」
あれは、夏樹さんをからかっている時と同じ目です。
………まだ見ぬ誰かさん、ファイトです!
最近、平和でしたしね。
退屈してたんでしょうね〜。
兄の興味を引いてしまった転入生の未来を思って、私は心の中でそっとエールを送ることにしたのでした。
読んで下さり、ありがとうございました。
兄のお気に入り(おもちゃ?)のビクビクちゃん。
お察しの通りです。
ゆあちゃん、ヤキモチ焼いてる場合ではない………かも?ですよ〜(笑