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見つけた奇跡〜レミジオ(敦史)視点

深夜、というには早い時間。


その電話に気づけた事を、俺はその後の人生の中で何度も何度も反芻する事になる。

良かったのか、悪かったのか。

どちらにしても後悔する事になるのだから、きっとそれで良かったんだと、今なら思える。


たとえ、その電話の後に、嫌な予感に追い立てられる様に走った先で、紅に染まったあいつを見つけてしまったのだとしても。


「沙絢、嘘だ!目を開けろよ!!!」

抱き上げた体に力はなくダラリと流れた。

いつも、表情豊かに自分を見つめた瞳は、もう2度と開くことはなく、固く閉じられていて。


通報した救急車が到着して、隊員が自分を引き離すまで、俺は徐々に温もりを失っていく体を抱きしめることしかできなかった。








「うわっ、マジかよ」

思わず漏れた声は幸いにも誰にも拾われることは無く。

適当な事を言って早々にレストルームに逃げた俺は、その場に崩れ落ちた。


幼いながらに整った容貌に「アドルフォ=インヴェルド」。

その2つに触発された様に蘇ってきた前世の記憶に俺の混乱はピークに達したんだと思う。

そのまま、意識を無くして気づけば次の日、だった。


もっとも、遠方より訪ねてきたのはこちらだからにして、そのまま逃亡とはいかず、熱が下がり体調が戻るまでお世話になった時点で、俺の腹は座った。

どうにも、この現状から逃げるすべはないらしい。

だったら生き延びるためにこの場で精一杯足掻くだけだ。


記憶が戻ったのは7つの頃で。

前世の記憶約40年分の前には幼児の意識なんてあえなく消えてしまったのだろう。

それでも、記憶がなくなったわけでは無くて、『レミジオ』として愛されていた時間は確実に『俺』に影響を与えていた。





『四季彩の花を君に』

それは、前世で大ヒットを遂げた乙女ゲームで、ノベライズやアニメ化、果ては映画化までされていた。


ゲームにさほど興味のない俺の耳にも入ってくるほど社会現象を巻き起こしたそれの内容を、噂以上に詳しく知っていたのは、隣に住む幼馴染の所為だった。

決して、俺の趣味ではない事をここに宣言させてもらう。


『お互いに何かあったら後はよろしく』という、現代の若者ならよく冗談でかわしている契約を実行する羽目になるとは、その時の俺はつゆほども思っていなかった。


まぁ、それは、お互い様だったのだろう。

初七日がすみ、ひと段落した空気の中、おばさんの許可を取って入り込み、立ち上げたパソコンの中はまさにカオスだった。


「本人には分かっているからいいの!」と常々主張していたデーター管理の甘さは、整理する羽目になった俺に悲鳴を上げさせるには充分だった。

いっそ、ハードごと破壊してやりたいと何度も思ったけれど、家族写真などのデーターも一括管理してやがったせいでそれもままならない。


まさか、実の娘を失って打ちひしがれている家族から、思い出の欠けらまで取り上げるわけにもいかなかったのだ。


「せめてファイルに名前くらいつけててくれよ……」

仕事が終わった深夜に黙々とデーター処理をしていく作業は、あいつを失った喪失感を埋めてくれるにはある意味最適で、そして、辛い作業だった。


パソコンの中身は、何よりも持ち主の人格を反映しているんだ、と、俺はこの時思い知った。

そして、いらないデーターは処理して常日頃から管理しておく癖がついたのもこの時からだ。


何しろ、俺が死んでもまずい情報を消してくれる存在はもういないのだから。



………話が飛んだ。



そう、なんで俺が柄にもなく乙女ゲームの中身を知っていたかといえば、このデーター処理中に発掘してしまったからに他ならない。


どっちかというとシューティング系が好きだったはずのあいつの意外な面の発見に、思わず何かあるのかと好奇心を刺激され一通り見てしまった。

全攻略対象者分、コンプリートされたスチルは話題になるのがわかるほど綺麗だった、というのもある。


で、「アドルフォ=インヴェルド」。

幼いながらに将来の美貌の片鱗を垣間見せた幼児は、そのゲームの攻略対象者、だった。


何を言ってるんだ?って?

俺も、人ごとなら、そうやって気楽に笑い飛ばしていただろう。

だけど、ゲームの記憶だけでなく、合わせて40年分の1人の男の人生のダイジェストを(むしろそっちがメインだな)思い出して仕舞えば、シャレにならなかった。


それでも、「ゲームの中に生まれ変わる」なんてトチ狂った現象を速やかに認めたわけでは流石にない。

幼いながらも自分のできる精一杯で記憶との擦り合わせをし、結論付けたのだ。


俺、回想のみにチラッと出てくるトラウマの元凶となる死にキャラだったよ………。

あはは〜〜。いったいどうしろと。



なんて、悩んだのは一瞬だった。



『家族は大切に』

前世から刻み込まれた価値観は消える事なく、今の家族を失望させないためにも、俺は頑張った。


幸い、世界観は前世(まえ)とさほど変わりはなかったし、成績も悪くはなかったので、学術面は楽々クリア。


上流階級ゆえのマナーのアレコレも、持ち前の要領で案外楽に覚えることができた。

系統だって考えられる大人の思考回路って、子供からみたらある意味チートだよな。

「なんのために」それをしなければならならないのか、分かっているだけでも熱の入りようが違う。


もちろん、自分の死亡フラグはキッチリ折らせてもらった。せっかく生まれ変わったのに死にたくない。

わかっている暗い未来を回避しない謂れはないしな。


そうして、少し余裕が出てくれば、思い出すのは非業の死をとげた幼馴染の存在で。


自分がこうして次の生を得ているのなら、もしかすれば、あいつも、と、希望を持つのは当然の流れだった。


だけど、世界は広い。


俺がこの国に生まれた以上、あいつだってこの世界のどこに居るのか、見当もつかない。

ゆえに、探しようもない。


たとえ前世の記憶を持って生まれてきたとしても、普通は言いふらしたりなんかしないしな。

現に俺も秘密にしてるし。

こんなこと言ったって、信じてもらえるわけもないから。


まぁ、縁があるならどこかですれ違うだろう。

そして、一目でもあったなら、きっと分かるはずだと、俺はなんの根拠もなくそう思っていた。




そして………。




金の髪に琥珀の瞳。

日本人にしては薄い肌の色とそのせいか余計に鮮やかに色づいた唇。

まるでビスクドールのように整った容姿は、黙っていればまるで本物の人形のように少し冷たく見えた。


前世(まえ)とは似ても似つかない姿で、あいつはそこに座っていた。

だけど。

心臓がドクンと1つ、大きく跳ねて、俺にそれを教えてくれた。


らしくもなく衝動的に抱きしめたのは、色を失った冷たい身体を思い出してしまったからだ。

スッポリと胸の中に収まった体は、昔の記憶の中よりもより小さく感じた。

でも、温かく柔らかな肌は確かに生きている人間のもので。


アドに引き離されるまで、我を忘れて何度も前世の名前を呼んでしまったのは立派な黒歴史だ。


不審な顔をするアドと莉央にどうにか取り繕い、コッソリと連絡先を渡した。

そして、2人きりで会ってみれば、中身は驚く程昔のあいつのままだった。


無防備な笑顔も、考え事をするときに耳をいじる癖も、呆れたような顔も。


そして、ココがゲームの世界だということを伝えれば、あっけにとられた後、なんだか納得していた。


まぁ、『莉央』も『結愛』もゲームの中とはだいぶキャラが違うし、悪いことにはならないだろう。

どうも、結愛は生まれた時から当たり前のように前世の記憶があったらしく、色々とやらかしたようだ。


まぁ、俺だって死にたくないがために色々としたし、そのせいでアドのやつの性格もだいぶ変わってしまったし、な。

命は大事だよな。うん。








そうして、結愛と2人だけの対話を終えた夜、スッキリした気持ちで俺はベッドに転がっていた。


俺もあいつも、容姿以外も随分色々と変わってた。


前世(まえ)はぼっち気味だったヤツが、今ではたくさんの友達に囲まれ笑っているように。

俺が、色々と隠し事をすることを覚えてしまったように。


「…………ごめんな、結愛。まだ、言えない事いろいろあるんだけど、悪いようにはしないから、さ」

口角がクッと上に上がるのを感じる。

きっと、俺はひどく悪どい、楽しそうな顔をしている事だろう。



さぁ、可愛いあの子をどうやって捕まえようか。





読んでくださり、ありがとうございました。





前世での敦史君は、クラスのリーダー格をはる明るく裏表のない性格でした。

女の子好きで、ちょっと考えなしな所もあるけれどらそういう面も周りに好意的に受け入れられるというお徳キャラ。

その分周り(沙絢)が苦労したりしてました。


沙絢の第一発見者で、そのせいで軽いトラウマ持ち。

自分の身内を大切にしますが、その分その行動が自分の目から見えなくなると落ち着かない。

おかげでひっそり情報収集が趣味です。

あれ?現世病んでる?


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