状況整理、致しましょう。
レオにあった日、早々にお風呂に入ると「疲れた」からと理由をつけて、夕飯もそこそこにベッドへともぐりこみました。
あ、レオってレミジオさんのことです。
どうも「私」に敬称付きで呼ばれるのに違和感が拭えないそうで、色々押し問答の挙句、私が呼びやすいあだ名を勝手につけていいとのことで「レオ」になりました。
最初と最後の文字を取っただけです。
安直と笑ってくださって結構ですとも。
ちなみに私も「ゆあ」と呼んでもらうことになりました。苗字呼びも敬称もノーセンキューです。
やっぱり考え事をするなら、お布団の中ですよね。
邪魔が入らない1人の空間って、大事だと思うんです。
いえ、家族とか兄と過ごす時間も至福の時なのではあるんですけどね!
と、話が飛びました。
お布団の中でゴロゴロしながら、今日、レオに聞いた話をもう一度改めて思い出します。
この世界が前世で流行った乙女ゲームの世界かそれに酷似した世界である事。
兄やその友人たちが攻略対象で、来年の春にはゲームがスタートするかもしれない事。
私が兄ルートの障害、いわゆる悪役である事。
改めて考えても荒唐無稽な話に感じますが、前世の記憶持ちという存在がいる以上、「無い」とは言い切れないのが辛いところです。
(でも、よく考えたら、兄のトラウマとやらが存在しない以上、兄が攻略される事はないんじゃないでしょうか?)
まぁ、男女のことですから偶々その方と恋に落ちる可能性もゼロではないわけですが、ゲームと違って兄も私も由緒正しい一般家庭の子供です。
バッドエンドになりようがないですよね。
せいぜい、兄に彼女ができてチョット寂しいなぁ〜ぐらいな気が………。
(あれ?別に私に不利益なくないですか?コレ)
気づいてしまった現実に、私は思わずガバリと起き上がりました。
そもそも、同じ敷地内にあるとはいえ、兄は高等部、私は中等部。
そうそう学園内で会うこともありません。
会おうと思ったら、わざわざ高等部に押しかけるか、兄と示し合わせてどこかで落ち合うかなのですが、ゲームの中とは違い、兄の恋路(笑)を邪魔するためにワザワザ「私」が高等部まで行くわけもなく。
そして、兄以外の攻略対象者に関しては、兄の友人という間柄、顔は知ってますし、何度かお話もした事はありますが、その程度の薄い関係です。
友達の友達はみんな友達?
そんな訳ないでしょう!巻き込まれ体質の結愛の警戒心を甘く見ちゃあ、いけません。
恋のアレコレ?
勝手に楽しんでください。ワザワザ馬に蹴られに行くわけがありません。
幸い、話を聞いた限りでは、人死にが出るようなゲームでもないようですし、ね。
恋愛を楽しむのは若者の特権でしょう。
リア充爆発しろ。
「…………なんだ。考えるまでもない、ですねぇ」
後、心配すべきはいわゆるゲームの強制力ってやつですかね。
うん。
なんか、そんな話も読んだことあります。
「本当はそんなことしたくないのに、体が何かに操られるように勝手に動いちゃう!?」
ってやつですよね。
まぁ、それに関しても、あまり心配はしてないんですよね。
だって、そんなものがあるなら、そもそもトラウマのフラグが潰される事は無いでしょうし、今頃『夏八木家』に引き取られてるはずです。
じゃ無いと、ゲームのそもそもが狂っちゃいますからね。
でも、現状は、仲良く母の実家で暮らして、兄妹間の関係も良好。
けして、兄の周りの女性の排除に動いたり、少しでも姿が見えないと不安になって挙動不審、なんて事もありません。
一緒に出かけたりはしますが、兄妹ですもん。みんなしてますよね?
手繋いで歩いたりも………ありますよね?
私、まだ12歳ですし!子供ですし!
若干ブラコンの気があるのは否定しませんが、病的と言われるほどでは無いはず、です。
……………ナイですよね?
比較対象がイマイチ近くになかったので、常識の範囲がよくわかりません。なんかだんだん不安になってきましたよ?
でも、人様に迷惑はかけてないはずだし。
兄も迷惑そうでは無いですし……。
なんだかグルグルしてきたら、扉がノックされました。
「ゆあ、起きてる?」
「………はい。大丈夫です」
兄の声に、慌ててベッドの上で体を起こします。
いつの間にかゴロゴロ転がりまくっていたため乱れていたパジャマや髪を直していると、ガチャリと兄が入ってきました。
「ホットミルク、持ってきたんだ。一緒に飲もう」
はちみつを落としてほんのり甘くしたホットミルク。眠る前に飲むとよく眠れる、私の好物です。
早めに部屋に引きこもったので心配かけてしまったのでしょうね。
少し心配そうな瞳で、それでも何も聞かないで安心させるように微笑みかけてくれる兄に胸がキューッとなって、グルグルしてたのがどこかに飛んで行ってしまいました。
ブラコン、上等。
人様に迷惑かけてない以上、文句言われるいわれもありませんしね!
チラリと頭の隅を誰かの呆れたような顔がかすめましたが無視です。ムシ!
衝動のまま駆け寄って抱きつけば、両手に持ったカップが当たらないように慌てて掲げながらも受け止めてくれました。
「ゆあ?どうしたの?今日は甘えん坊なんだね」
グリグリと額を胸に押しつけるようにすれば、笑いながら近くの棚の上にカップを置いた兄が抱きしめてくれました。
「いいんです。ゆあはまだ子供なので、お兄ちゃんに甘えても大丈夫なんです」
我ながら謎の主張をすると、クスクス笑いながら背中をあやす様にトントンと叩かれました。
「別に幾つになっても甘えてくれていいんだけどね。ゆあは僕の妹なんだから」
優しい声にメロメロです。
もう!大好きです!!
(………確かにこれは、兄に変な女が近づいたら速やかに排除するかもしれません)
そうして、一緒にミルクを飲みながら心の中でコッソリ考えていた私は、やっぱり『悪役』なのかもしれません。
うん。ホットミルクおいし。
読んでくださり、ありがとうございました。
あれ?
ゆあちゃんのブラコンが加速していってる?
………まぁ、仲良しなのは良いことですよね。